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2018年10月25日号 2面・解説

共産党5中総の内外情勢

 米国暴露なく、「安保破棄」も消滅

  共産党は十月十三、十四日、第五回中央委員会総会(五中総)を開いた。五中総では、来年夏の参議院選において野党間の「相互推薦」をめざす方針などを掲げた。憲法改悪反対や消費税再増税反対なども盛り込んだ。五中総の、内外情勢評価に関する部分に限って批判する。


  今回に限ったことではないが、共産党五中総への幹部会報告、さらに結語にも、激動する国際情勢についての分析がまったくといってよいほどない。

激動・激変の国際情勢
 こんにち、世界資本主義は末期症状を呈している。
 世界経済の成長鈍化は鮮明である。わずかな成長でさえ、リーマン・ショック後、各国が膨大な財政支出と金融緩和を行った結果にほかならない。しかも、それは二十カ国・地域(G20)会合という「国際協調」の仕組みに支えられていた。
 だが、先進国・新興国で多少の違いはあれ、危機対応策のツケとして官民の債務が空前の規模に達し、先進諸国の中央銀行は金融緩和からの「出口」にあえいでいる。緩和政策の結果としての資産バブルも、破裂寸前である。世界には、新たな金融危機が迫っている。
 危機を背景に、全世界の労働者・人民の生活はいちだんと悪化、格差も極度に開いた。人民は不満を高め、各国内では階級矛盾が激化している。
 これは政治に反映し、全世界で暴動、内戦が頻発、議会制度がある国でも政権交代が相次ぎ、従来の政党以外のいわゆる「ポピュリズム勢力」が台頭している。
 国家間関係も厳しさを増した。
 とくにトランプ米政権の誕生は、米国の危機と階級矛盾の深さを示している。トランプ政権は「米国第一」を掲げて衰退を巻き返し、他国、とくに台頭する中国を抑え込むことで世界支配を維持しようとしている。その攻勢は政治・経済・安全保障にわたる全面的なものとして激化している。ペンス副大統領は、米国は中国に「新たな対外姿勢を取る」と、「宣戦布告」ともいうべき演説を行った。ルトワック米戦略国際問題研究所(CSIS)シニアアドバイザーは、対中攻勢は「(中国の)体制変革まで続く」と、露骨に述べている。
 アジア情勢は、米中の武力衝突の可能性さえ含んで推移している。
 激動する国際情勢は、外的環境としてわが国を大きく規定している。支配層、財界、安倍政権も、この激流の中で生き残ろうとあがいている。
 労働者・国民にこんにちの世界の現状とすう勢について提示することなしに、政党は自国のカジ取りを行えるはずがない。共産党(に限らないが)は、こうした政党としての当然の責任を放棄しているのである。

安倍政権の性格暴露なし
 共産党は二〇一六年十一月の第二十七回大会で、安倍政権について「対米従属」と「財界中心」という「二つの異常」を特徴として指摘した。
 この指摘は、衰退する米国の世界戦略への暴露も、米国に追随しつつ「アジアの大国」としての登場を願うわが国財界、支配層の暴露もないという、きわめて不十分なものであった。
 こんにち、わが国経済は先進国中で最低レベルの低成長を続け、「デフレ脱却」どころではない。日銀の金融緩和は止めるに止められず、「世界最悪」レベルの膨大な政府累積債務を解決するメドもない。アベノミクスの結果、ごく一部の資産家、多国籍大企業は大いに潤ったが、国民大多数はさらに貧困化し、地方の疲弊は深刻化している。
 財界は、わが国経済の低迷など累積する難題と、技術革新で中国などにも立ち後れた現状にも焦りを深め、政治への要求を強めている。
 安倍政権が行おうとしているのは、多国籍大企業の覇権的利益追求のための政治である。
 安倍政権は米国のアジア戦略の先兵役として、「対中国」で前面に立ち、防衛費増額や集団的自衛権のための安保法制制定、沖縄県名護市辺野古への新基地建設などを強行している。新たな防衛計画大綱の策定や、憲法第九条の改悪も策動している。これは対米従属であると同時に、世界中に権益を有するようになった、わが国多国籍大企業の要求でもある。
 だが、衰退する米国は、日本に事実上の自由貿易協定(FTA)を要求、わが国製造業の「本丸」ともいうべき自動車産業もターゲットになった。農産物のさらなる市場開放で、わが国農業はトドメを刺されようとしている。
 米超党派グループが、中国に対抗した事実上の「日米合同軍」などを提言するなど、安全保障面の要求もエスカレートしている。
 日米間の矛盾は極度に高まり、わが国支配層、保守層でさえ、これまでの対米関係に耐えられなくなった。国民各層、地方にも安倍政権への不満と批判がうっ積している。
 わが国の政治変革をめざす勢力にとっては、幅広い戦線をつくって闘い、安倍政権を打ち倒す好機である。
 今回の五中総では、米国による、中国抑え込みのための世界戦略についての言及がないだけでなく、それに追随する安倍政権への根本的批判も、財界のための政治についての批判もいちだんと弱まったといえる。

「4つの破綻」のデタラメ
 国内政治について、共産党は「安倍政治の四つの破たん」などと言う。具体的には、「民意無視の強権政治」「ウソ、隠蔽(いんぺい)、差別の政治」「戦争する国づくり」「経済、外交」の破綻だという。
 なかでも問題なのは、「戦争する国づくり」の破綻に関してである。
 共産党は、南北首脳会談など朝鮮半島の緊張緩和により「『戦争する国づくり』はその『根拠』を根底から失いつつある」という。安倍政権の朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視政策が破綻したことは事実だが、これが「戦争する国づくり」のすべてではない。
 トランプ政権が米朝首脳会談に踏み切ったのは、南北両政府・人民の闘いに押されたというだけではない。自国の衰退を前提に、中国を「主敵」とせざるを得なくなったことで、「対朝鮮」で息継ぎを必要としたという面もある。
 共産党五中総は、商業新聞でさえ指摘する、米戦略への暴露がなく、米中対立についての言及もない。安倍政権が米戦略に追随し、「対中国」で矢面に立っていることの批判もない。
 また、「民意無視の強権政治」の破綻の根拠としてあげられているのは、沖縄県知事選挙での与党推薦候補の敗北である。
 確かに、沖縄県知事選挙における翁長前知事の後継、玉城氏の勝利は安倍政権に打撃を与えた。わが党もこの点では違いはない。だが、共産党自身が指摘するように、玉城陣営は、政党色を後退させ、「翁長後継」を前面に押し出す「弔い合戦」の選挙戦術で勝利した。安倍政権の「民意無視の強権政治」の破綻の根拠を、これだけに求めるのは一面的である。
 このほか、「ウソ、隠蔽、差別の政治」の破綻とは、森友・加計問題や「働き方改革」法をめぐるデータ捏造(ねつぞう)などを指す。だが、程度の差はあれ、歴代保守政権が「ウソ、隠蔽、差別」に満ちていた。これだけでは、安倍政権への暴露にはならない。
 総じて、「四つの破たん」などとは言うものの、安倍政権が誰のための政治を行い、その結果として行き詰まったのかについての暴露はない。

「安保破棄」に言及せず
 共産党五中総の内外情勢評価は、国際情勢への言及もなく、国内情勢、安倍政権に対する評価もきわめて一面的なものである。
 今回は課題や方針については扱わないが、一つだけ指摘しておきたい。
 共産党二十七回大会では、当面する「真の争点は『海外で戦争する国』づくりを許さないことにある」として、安保法制への反対を軸に「野党共闘」を進めつつ、「日米安保条約廃棄を求める国民的多数派をつくるための独自の努力」という「二重の取り組みを行う」とされていた。
 だが五中総では、日米安保への言及は、情勢部分からも、課題・方針部分からも一切消え去った。
 訪米で「日米同盟深化」を表明した枝野代表が率いる立憲民主党との「共闘」を維持するため、事実上、安保破棄のための「独自の努力」を放棄することを宣言したに等しい。これで、「(安倍政権との)明確な対決軸」(志位委員長)を示すことなどできるはずもない。
 「野党共闘」維持のための涙ぐましい「努力」だが、それでさえ、共産党が生き残りのために望む「相互推薦の導入」が実現する保証はない。
 内外情勢は激動している。労働者階級を中心とする断固たる大衆行動を発展させることこそ、肝心なことである。    (O)


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