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2018年10月5日号 2面・解説

日米TAG交渉で合意、
国民経済をさらに危機に

 売国・安倍政権に怒りの声を

  日米首脳会談が九月二十六日、ニューヨークで行われ、共同声明が発表された。安倍首相は、トランプ米大統領の要求に屈し、「日米物品貿易協定」(TAG)交渉を開始することで合意した。わが国国民生活・国民経済をさらに犠牲にする裏切りを許してはならない。国民運動で反撃することが求められている。


 米国はリーマン・ショック後の急速な衰退から脱却し、台頭する中国を抑え込んで世界支配を維持しようとしている。
 対日通商要求はこの狙いから、日本を屈服させて「対中国」の道具として利用し、収奪しようというもので、政治・経済・安全保障にわたる全面的なものである。 
 安倍政権によるTAG交渉開始への合意は、わが国の命運、国民経済と国民生活をまるごと米国に差し出す売国的裏切りである。
 歴史のすう勢に反する合意に反対し、一大国民運動で打ち破らなければならない。

事実上の日米FTA
 TAGは、事実上、日米自由貿易協定(FTA)である。
 安倍首相は、「包括的なFTAとは全く異なる」などと述べているが、デタラメである。トランプ大統領は「FTA交渉開始で合意した」と明言しており、すべての海外マスコミも「日米がFTA交渉で合意」(AP通信)などと報じている。
 共同声明にも、TAG交渉後に「他の貿易・投資の事項についても交渉を行う」と明記されている。順序はどうあれ、保険などのサービスやISDS(投資家・国家訴訟)条項などについても議論されるのである。
 安倍政権はこれまで、日米両国間のFTAには応じないと述べてきた。環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)も、「二国間協議を避ける」という名目で推進されてきたものである。
 TAGなどという「新」用語を引っ張り出し、国民を欺く安倍政権を許してはならない。

「キーエリアは自動車」
 米国がもっとも重視したのが、対日貿易赤字の約七割を占める自動車・同部品である。ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表は「日米交渉のキーエリアは自動車」と、明け透けだった。
 米国の自動車輸入関税が現行の二・五%から二五%に引き上げられれば、日本企業の負担は二兆円も増えると試算されている。安倍政権は財界の強い意向を受け、自動車への追加関税を阻止することを最大の眼目とした。
 共同声明には「TAG交渉中は自動車などの関税引き上げ措置は発動しない」旨が記された。だが、逆に言えば、米側は交渉の推移次第で一方的に関税引き上げに踏み切る言質を得たともいえる。
 また共同声明に、米国の立場として、「交渉結果が米国の自動車産業の製造及び雇用の増加をめざすものである」と明記されたことも重大である。
 米側は、日本市場での米国車輸入拡大、日系メーカーの米国現地生産拡大、日本からの対米輸出削減のいずれか、あるいは複数を要求することは確実である。
 米国とメキシコが合意した、新・北米自由貿易協定(NAFTA)には、自動車の数量規制が含まれている。米国が日本に対して、同様の対応を求めてくる可能性が高い。これは、わが国自動車メーカーの経営戦略を根底から揺さぶるものである。

財界にも不満拡大は不可避
 現在、日本から米国への自動車輸出は約百七十四万台(国内生産の約一八%)、自動車部品を含む輸出額は五兆五千億円を超える。自動車産業の雇用は、製造分野だけで約八十万人、関連を含めれば五百五十万人(全就業者の約九%)に達する。米国での現地生産拡大などとなれば、中小企業を含む業界は存亡の危機に陥り、そこで働く労働者の労働条件は引き下げられ、雇用が失われることになる。
 しかもこれが、世界経済全体の低成長と、電気自動車(EV)やロボット化など、異業種からの参入を含む急速な技術革新と競争激化のただ中で進行するのである。
 今後米国は、追加関税という「切り札」を武器に、他分野を含めた広範囲な譲歩を日本に迫ってくるだろう。米商務省は自動車輸入が自国の安全保障上の「脅威」となっているかどうかの調査を進めている。来年二月にも予定される報告の結果も、日米協議の先行きに影響を与えよう。
 豊田・トヨタ自動車社長は「追加関税措置が発動されない状況になったことを歓迎する」などと述べたが、内心は穏やかではないだろう。米国市場とドルに依存したわが国財界、その主流さえ、従属的日米関係に対する不満を募らせずにはおかない事態である。
 自動車など民間産別を主軸とする連合労働運動も、「日米基軸」を認めたままでは成り立たないという客観情勢に迫られる。わが国労度運動の進化が問われている。

農産物のさらなる自由化も
 共同声明では、農産物についても重大な譲歩が準備されている。
 「日本としては農林水産品について、過去の経済連携協定で約束した市場アクセスの譲許内容が最大限」と記され、安倍政権はこれが「成果」だと吹聴している。
 これまたデタラメである。
 「過去の経済連携協定」とは、具体的にはTPPである。
 そもそも、安倍政権がTPPで合意した農産物市場開放は、国会決議で守るとされた「重要五品目」(コメ、麦、牛肉・豚肉、乳製品、サトウキビ)さえ「聖域」ではなくすもので、わが国農業を壊滅させるほどのものである。
 たとえば牛肉では「輸入関税を十六年かけて九%まで引き下げる」などというもので、北海道、九州南部などに甚大な影響を与える。
 歴代売国農政によって犠牲にされ続けてきたわが国農業にとっては、壊滅的危機である。
 他方、TPPから離脱した米国からすれば、日本市場でオーストラリア産品などとの競争に勝つためには、日本に「TPP水準以上」の関税引き下げを求めることが必要である。ジャガイモなどの市場開放も要求されると思われる。
 食料自給は、独立国として不可欠な前提である。わが国農業、ひいては地域経済を崩壊に導く策動を許してはならない。

対米従属政治は限界に
 安倍政権は終始、自動車産業だけを守る姿勢であった。
 安倍政権は交渉前から、二〇一九年度の税制改正で自動車関係税の大幅引き下げを打ち出すなど、自動車産業への「大盤振る舞い」を隠していない。
 歴代政権と同様、一握りの多国籍大企業の利益のために、農業をはじめとする国民経済を犠牲にしてはばからぬ売国的姿勢はいよいよ顕著である。
 安倍政権は、わが国が外交・安全保障で「対中国」で矢面に立てば、米国からの要求をかわせると考えていたのかもしれない。米国からの防衛装備品の購入も急拡大させてきた。だが、米国の要求はそれらで「許される」程度のものではないことが明らかになった。むしろ米国にとっては、日本の譲歩を早期に引き出すことが、中国への締め付けのためにも重要だったのである。
 しかも、ライトハザー代表は「数カ月以内に成果を示したい」と、わが国が早期に譲歩することを求めている。安倍首相は、さらなる武器購入も約束したと報じられている。
 歴代自民党政権、及びその亜流による対米従属政治は、いよいよ限界に達した。
 労働者をはじめとする国民諸階層には、従来以上の犠牲が降りかかる。地域経済もいちだんの崩壊に直面する。
 米国からの理不尽な要求を、断固として跳ねのけなければならない。
 売国・安倍政権に対する、全国津々浦々からの反撃を組織しよう。
 「威圧に屈した方向転換」(北海道新聞)など、裏切りへの怒りの声は広がりつつある。「日本農業新聞」も、安倍政権の決断を「農業で自動車を買う」と、一九七〇年代の日米繊維交渉(「糸を売って縄を買う」=繊維の対米輸出を自主規制することで沖縄返還への影響を避けた)になぞらえた。当然の批判である。
 保守層を含む国民運動で、安倍政権によるTAG交渉を挫折させなければなければならない。
 そのためには、独立・自主でアジアと共生する国の進路を実現する政権を樹立することが、もっとも確かな道である。   (O)


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