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2018年9月25日号 2面・解説

安倍政権、北方領土問題で
従来の立場放棄か

 「安保最優先」では解決できぬ

  安倍首相とプーチン・ロシア大統領は九月十日、ウラジオストクで会談、北方領土での共同経済活動などで一致した。大統領は翌日、「前提条件を設けずに二〇一八年末までに日ロ平和条約を締結する」と提案した。事実上の「領土棚上げ」要求だが、安倍首相は抗議せず、民族的課題で裏切りを演じた。日米関係を打開してこそ、北方領土問題の解決が可能となる。


米国の役割が決定的
 北方領土問題は、直接には日ロ間の問題だが、実態は「米国の意向次第」である。この点こそ肝心で、対米従属のわが国政府、与野党はもちろん、共産党でさえ暴露しないことである。
 米国はヤルタ協定で、ソ連の対日参戦ほしさに千島列島の割譲に同意した。だが、米ソ冷戦が本格化するや態度を変える。結局、サンフランシスコ講和条約(サ条約)で「千島列島の放棄」は、「諸島」の範囲などの島名、さらに帰属先が明記されないというあいまいなものとなった。
 当時の米政府の文書(一九四九年九月・十月草案)には、「(北方領土の)日本による保持が望ましいという政治的、経済的及び戦略的理由が存在する。(中略)もしソ連がそう(日本に返還)しなければ、われわれは日本人の間で好意を得、ソ連は不評を買うであろう」とある(原貴美恵「サンフランシスコ平和条約の盲点」)。
 冷戦下の米国には、日本を自陣営にとどめておく必要性があった。領土問題を意図的に未解決のまま残すことで、日ソ間に「火種」を残す狙いである。同様の手口は、尖閣諸島や竹島、南シナ海問題などでも使われた。米国は、日本とアジア・周辺国を分断し、それを口実にアジアに関与し続けることを狙った。
 他方、サ条約と同日に結ばれた日米安保条約で、日本の対米従属が固まった。
 日ソ共同宣言となった首脳会談において、日本側は、ソ連の「二島返還」案を受諾し、平和条約を締結するつもりだった。領土問題としては妥協だが、対ソ関係の強化で対米関係を相対化させたいという、わが国支配層内の一定の「自主的傾向」が含まれていた。
 だが、米国は「ソ連に譲歩して択捉・国後を諦めるなら、沖縄に対する日本の潜在的主権は保障できない」(ダレス国務長官)とどう喝した。米軍施政下の沖縄を持ち出して日ソの和解を阻止したのである。
 当時の鳩山一郎首相らは、国後・択捉も、沖縄も諦めず、米ソに返還を要求する断固たる態度をとるべきであった。
 以降、日本政府はソ連に「北方領土」返還を要求し始める。ソ連への反感が醸成され、前線基地としての日本の役割が強化された。
 わが国は米国の戦略に縛られ、基本的に自主外交はなかった。沖縄は七二年に「返還」されたが、それすら欺まんに満ちていた。
 対米従属の歴代政権、自民党とその亜流は、民族的課題が「解決」するかのような欺まんを演じ、幻想をあおって広範な人びとをひきつけ、政権維持を図ってきた。野党、労働組合を含む「左」派はこうした問題に正しい態度を取れなかった。その結果、政権・与党の欺まんを許してきた。

安倍政権の裏切りに批判を
 わが国歴代政権は、米国の了解なしに領土交渉さえできぬ売国政府である。安倍政権も同様である。
 安倍政権は領土問題を「解決」するかのような幻想を振りまき、プーチン大統領と二十二回にも及ぶ会談を行っている。習近平・中国国家主席との会談が七回であることと比べると、その数は異常なほどだ。
 安倍政権は「領土問題の解決」を口実に対ロ関係を重視してきたが、狙いはそれだけではない。米国の衰退を横目に見ながら、中国の大国化に対抗して「中ロ同盟」を阻止、分断する意図を持っているのである。併せて、ロシアの資源や市場を確保しようとしている。ロシアも、クリミア問題などを理由とする米欧からの制裁による経済危機打開のため、日本の資金と技術を必要としている。
 仮に「平和条約先行」となれば、「四島の帰属問題を解決して平和条約を締結する」という従来の政府方針の変更となる。必然的に「四島返還」はほぼ不可能となり、歯舞・色丹の「二島先行返還」さえ危うい。

安保を「上位」に置く限界
 そもそも、ロシアにとって千島列島は、外国軍艦艇によるオホーツク海への出入りをふさぐ地政学上の要衝である。逆に米国にとっては、ロシアを脅かす拠点にしたい場所である。
 米ロ関係は厳しさを増してる。ウクライナ問題を口実とする米欧からの制裁に加え、英国などは「暗殺事件」を理由に制裁を強化した。米連邦準備理事会(FRB)の「金融正常化」で、ロシアは資金流出の危機にある。一方、ロシアは米国に屈しない姿勢を維持し、中国と合同演習を行い、シリア内戦でも米国へのけん制を強化している。
 このような環境下、プーチン大統領は二〇一六年、日ロ平和条約の前提として、北方領土で「いかなる軍事活動も行わない」ことを要求した。北方領土を日米安保の「適用外」としない限り、返還できないとの意思を示したのである。
 安倍政権はすぐさま「返還された島は日米安保の範囲に入り、米軍が活動することがある」(谷内・国家安全保障局長)と答えた。
 プーチン大統領の今回の提案は、日本のこうした姿勢に対する「回答」とも受け取れる。
 われわれは、日米安保を理由に領土返還を渋るロシアの主張を、そのまま認めることはできない。それでも、米国への配慮を最優先する日本政府、安倍政権の姿勢は、厳しく糾弾されなければならない。「売国」と言わず、何と言おうか。
 自民党総裁に再選された安倍首相だが、基盤はますます危うい。安倍政権が何らかの対ロ譲歩を行おうとしても、内外の批判はいちだんと強まることは必定である。さらに、国民生活のますますの悪化と地方の疲弊が、政権批判となって吹き出すだろう。その「走り」は、総裁選での石破氏の「善戦」ともなった。
 窮地の安倍政権との闘いを強化し、追い詰めなければならない。   (O)


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