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2018年9月5日号 2面・解説

対米貢献の大軍拡進む

防衛費は実質10兆円規模に

  防衛省は八月三十一日、二〇一九年度予算の概算要求を決めた。第二次安倍政権発足以来、六年連続の増額で史上最高額となった。これは、多額の後年度負担によって国家財政をいちだんと圧迫するだけでなく、米国のアジア戦略に追随することで、わが国の平和と繁栄の道を閉ざすものである。


 概算要求額は、米軍再編費を含めて五兆五千億円以上に及び、史上最高額となっている。

高額武器購入で拡大
 安倍政権は第二次政権の成立以降、米国から高額の武器を次々と購入している。
 最新鋭のステルス戦闘機F35A、新型輸送機オスプレイ、無人偵察機グローバルホーク、イージス艦や新型潜水艦、水陸両用車、弾道弾迎撃ミサイル、さらにイージス・アショア(地上配備型ミサイル迎撃システム)などである。日本版海兵隊(水陸機動団)も設置した。
 これらの経費はローン、いわゆる分割払いで支払われており、初年度分の支払い以外は「後年度負担」と呼ばれている。
 概算要求では、自衛隊員の人件費や食費(人件・糧食費)として二兆一千九百八億円(全体の約四割)、新規の防衛装備品の購入費(一般物件費または活動経費)一兆三百七十億円(約二割)が計上される。それに、後年度負担からの支払い(返済、物件費または歳出化経費)も加わる。一九年度の返済額は二兆六百四十七億円、年間予算額の約四割を占める規模になっている。
 たとえば、イージス・アショア二基の契約額は計二千三百五十二億円だが、初年度の一九年度に支払われる予定額は五十七億円で、残りは以降四年での分割返済となっている。ただし、支払額が契約額内で収まる保証はないのだが。

後年度負担のカラクリ
 もともと、政府予算は、会計年度ごとの「単年度主義」が原則である(憲法八六条)。だが、高価な護衛艦や航空機については、後年度負担として分割払いが認められてきた。分割払いは、財政法によって「五年まで」の特例が認められている。
 これは、一九八〇年代までは、財政上の原則とされてきた「防衛費の国内総生産(GDP)一%枠」を形式的に維持するためにも利用された。
 八〇年代初頭、「浮沈空母」などと粋がって日米同盟を強化した中曽根政権は後年度負担を増加させ、八二年に初めて二兆円を突破した。さらに八六年には「一%枠」を撤廃し、総額明治方式に変えた(実際に「一%」を超えたのは八七〜八九年度だけ)。
 だが、武器の高価格化と円安による輸入品価格の上昇、さらにわが国財政の深刻化で、「五年」の分割年数ではとても支払いきれなくなってきた。安倍政権はこれに対処しようと、二〇一五年、防衛費に限定した「特別措置法(防衛調達長期契約法)」を制定した。これによって、分割払い期間は最大十年までとなった。
 また、一五年十月には防衛装備品の開発・取得・輸出を一元的に担う機関として防衛装備庁を設置、武器の開発・購入・管理・輸出などの一元化を図った。
 後年度負担の残高は、一九年度に初めて五兆円を超えることが確実になるまで膨らんでいる。前年度本予算から四千億円近くもの増加である。事実上、防衛費は現行の五兆円の約二倍、十兆円規模に膨らんでいることになる。

米国の中国包囲網の一環
 こうした急速な防衛費拡大は、米国のアジア戦略に追随してのものである。
 米国は世界支配を維持するため、政治・経済・安全保障のすべての面で、中国に対する対抗と包囲を強化している。
 中国はすでに購買力平価ベースのGDPで米国を追い越し、名目GDPでも二〇二〇年代に米国を抜くと予想されている。中国は、「建国百周年」にあたる四九年までに米国を上回る国となることをめざし、そのために、「一帯一路」戦略と国内製造業強化策である「中国製造二〇二五」を推進している。
 米国は「知的財産権」などを口実に、中国に対して、鉄鋼・アルミニウムを手始めに数次の制裁関税を実施、「中国製造二〇二五」の中止を要求までしている。安全保障面でも、南シナ海問題を持ち出してアジア諸国に中国への対抗をけしかけている。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の「核・ミサイル」への対処も、トランプがこれをめぐって中国への不満を公言している通り、「対中国」が本質である。
 米議会上院は六月、七千百六十億ドルもの国防権限法(NDAA)案を可決し、トランプ政権の軍備増強を支持している。これには、共和、民主両党の八割以上の議員が賛成した。中国への対抗は、トランプ政権に「特殊」なものではなく、米帝国主義の「総意」と言ってよい。
 また、米国は、自国軍需産業の育成・保護のためにも、日本に米国製武器の大量購入を迫っている。これは、トランプ大統領が繰り返し言明している通りである。
 六月の日米首脳会談後の記者会見で、トランプ大統領は、安倍首相が軍用機(農産物などを含めて)など「数十億ドルの米国製品を購入すると約束した」と暴露している。

対米追随の大軍拡
 これに応える形で、安倍政権は、さらなる軍拡を策動している。
 防衛費増大は、わが国多国籍大企業の意を受けたものでもある。米ドル体制に浸り、世界中に権益を有するわが国多国籍大企業・支配層は、日米同盟の中で「アジアの大国」として登場することを願っている。
 三菱重工を筆頭とする軍需産業にとっては、直接の利益拡大でもある。武器輸出三原則の撤廃も同様である。
 〇二年度以降、減少傾向にあった防衛費が、安倍政権下で増加に転じたことはその証左である。一五年に成立した、集団的自衛権のための安全保障関連法制は、米軍防護や海外派兵拡大の必要性から、わが国のさらなる軍備拡大を不可避のものとさせている。
 こんにち、わが国の防衛費は世界第九位である(スウェーデンのストックホルム国際平和研究所)。対米従属下にあるとはいえ、わが国はすでに軍事大国となっている。
 自民党はさらに、北大西洋条約機構(NATO)加盟国の目標並みの「GDP比二%」への防衛費増額を求めている。
 今後の軍備増強は、一九年度からの中期防衛力整備計画で決まるが、その方針である「防衛計画の大綱」はすでに討議が始まっている。
 具体的内容は、オスプレイの継続配備などに加え、サイバーや宇宙空間という新しい領域への対応である。
 後年度負担に加え、これらが財政に大きくのしかかる。
 対米追随の軍備拡大には際限がなく、その負担は次の世代にもツケ回しされるのである。

亡国の道に導く安倍政権
 安倍政権の策動は、こうした米戦略の先兵として、「対中国」の矢面に立とうというものである。
 アジアと共生すべきわが国の進路を誤らせ、孤立と戦争の道に導きかねない危険なものである。
 対米追随下の軍事大国化を進める安倍政権を打ち倒し、独立・自主でアジアと共生する政権をめざさなければならない。
 アジアの平和を守るための大衆行動が重要である。その中心勢力は、労働運動である。沖縄県民の闘いは、そのための広範な戦線の重要な一翼となり得る。
 当面しての沖縄県知事選挙への支援にとどまらず、オスプレイ配備への反対など、全国各地で闘いを繰り広げよう。    (O)


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