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2018年7月25日号 2面・解説

NATO首脳会談で米欧矛盾が露呈

戦略的狙いはドイツのけん制

 北大西洋条約機構(NATO)首脳会議が七月十一日〜十二日、ベルギーのブリュッセルで開かれた。トランプ米大統領は、この会議への参加と併せて英国を訪問し、さらにフィンランドではプーチン・ロシア大統領と会談した。これらを通じて、米国はさらに孤立、国際政治上の影響力を低下させた。なかでも欧州諸国との矛盾は、マスコミが「米欧冷戦」と言うほどである。米帝国主義と闘う勢力には、ますます有利である。NATO首脳会議を中心に述べる。


 NATO首脳会議では、共同宣言が採択された。内容は、NATOの集団的自衛権を「最重要の責務」とし、ロシアに対抗する「即応体制の強化」などがうたわれた。
 共同宣言は、予定より前倒しで発表された。会議で露呈した米欧対立にフタをし、「結束」をアピールする意図からである。
 わが国マスコミでさえ、「米欧冷戦」と言わざるを得ないほどの事態である。

米国が混乱を巻き起こした
 この米欧対立は、トランプ米政権が引き起こしたものである。
 今回の会議に先立つ三月以降、トランプ政権は世界に対して「貿易戦争」を本格的に仕掛けている。
 「米国第一」を掲げるトランプ政権の狙いは、中長期的には、金融を中心とする経済再生と、軍事力増強によって世界支配を維持することである。短期的には、十一月に迫った中間選挙で勝利し、大統領再選の道を整備することである。このため、「ラストベルト地帯」と言われるほどに衰退した国内製造業を守る手立てもとらざるを得ない。
 しかもトランプ政権は、国内の危機の責任を他国に押し付けて乗り切ろうとしている。その主要な対象は、強大化し、国内総生産(GDP)で米国を追い越すことも近づいている中国である。併せて、対米貿易黒字が多い日本や欧州諸国も追加関税などの制裁対象となっている。
 米国にとって欧州は同盟国ではあるが、同時に、競争相手でもある。米国はこれまでも、英国を使って欧州の団結をかく乱するなどしてきた。だが、冷戦時代は、矛盾は「対ソ」のなかで覆い隠された。二〇〇三年のイラク戦争では、ドイツ、フランスなどがこれに反対したことで、ラムズフェルド国防長官が「古い欧州」となじるほどに矛盾が激化した。
 世界の主要矛盾は、依然として「米国を中心とする帝国主義と、その他の国々との間の矛盾」である。こんにち、米国がもっとも対抗の対象としているのは、中国である。だが、この局面では、イラク戦争以来、米欧矛盾が拡大している。イラク戦争当時とは違いもある。その最大の要因は、リーマン・ショック後、世界、なかでも米国を取り巻く危機がいちだんと深まり、衰退も早まったことである。それだけに、米欧矛盾は抜き差しならないものとなりつつある。

ドイツけん制が狙い
 こんにち、米国の対EU貿易赤字は、一千五百億ドル(約十七兆円)に達する。
 トランプ政権はすでに六月、EUに鉄鋼・アルミニウムの輸入制限を発動している。EUがこれに、報復関税などの対抗措置を打ち出した。米国はさらに、欧州自動車の輸入制限を検討している。トランプ大統領はインタビューで、貿易赤字を理由に「EUは敵だ」とまで公言している。
 米国がなかでも標的としているのは、最大の経済大国でもあるドイツ(対米貿易黒字は約六百四十億ドル)である。
 トランプ政権はこれまでも、ドイツを標的に、自動車分野などでの批判を繰り返してきた。ドイツを標的としているのは、貿易問題があるからだけではない。
 ドイツは、世界的な技術開発競争でもトップ集団を走り、米国などと激しい競争を演じている。メルケル首相の中国訪問は十回を超えるなど、中国との連携も強めている。
 米国は、大国ドイツをけん制し、さらに、中国やロシアとの連携を妨げようとしているのである。
 欧州も、米国が地球温暖化防止のための枠組み「パリ協定」、さらに欧州も加わるイラン「核合意」から一方的に離脱し、駐イスラエル大使館のエルサレム移転を強行したことも、ドイツを中心とする欧州諸国の反発を招いている。
 ドイツは「古き信頼の柱が崩れつつある」(マース外相)と、トランプ政権に懸念を表明してきた。

会談で露呈した米欧矛盾
 NATO加盟国の防衛費負担増額を要求したのは、オバマ前政権である。オバマ前政権は、加盟国が国防費を対GDP比二%を達成するよう求めた。
 トランプ政権は欧州に配備する米軍兵力を増強する一方で、その撤退・縮小をちらつかせて増額要求をさらに強めている。
 今回、トランプ政権は、国防費を対GDP比四%に高めるよう要求した。従来から目標としている「二%」の目標さえ、目標を達成しているのは、欧州ではポーランド、エストニア、英国、ギリシャの四カ国だけである(一五年)。達成されていないなかでのさらなる要求に、欧州諸国は反発した。
 ストルテンベルグNATO事務総長(ノルウェー出身)は「十年以内に過半数の国が二%に達する」と釈明したが、トランプ大統領は「(二%分を)今すぐ払え」と強要した。
 さらに本来、安全保障問題を討議するNATO会議だが、トランプ政権は、ドイツに対しては経済問題を持ち込んで非難した。
 ドイツはバルト海の海底にパイプラインを建設し、ロシア産の天然ガスを輸入する計画(ノルドストリーム2)を進めている。トランプ大統領は、「ロシアに対する防衛をするのに、ドイツはロシアに巨額の資金を支払っている」と非難し、ドイツを「ロシアの捕虜」と批判、制裁さえ示唆した。
 これは、トランプ政権が自国資源産業の意を受け、欧州への天然ガスの輸出拡大を意図しているからでもある。また、ドイツの計画に懸念を示しているポーランドなどとの「内部分裂」をあおることで、欧州分断を狙っているのである。

ロシアとの会談も余波
 さらにトランプ大統領は、欧州連合(EU)離脱を抱えるメイ英首相に対して、離脱が「穏健」なものとなった場合は「米英の貿易協定の機会をつぶす」と発言、さらに「EUを訴えるべき」とそそのかしたことも明らかになっている。ここまで言われたEU諸国が、不満をさらに高めるのは当然である。
 トランプ大統領の訪英に対し、連日、十万人が抗議行動を展開しただけではない。英有力シンクタンクが「このままでは英国は米国に属国扱いを受けることになる」と嘆くほどに、「特別の同盟国」であるはずの米英関係でさえ揺らいでいる。英「フィナンシャル・タイムズ」は「NATOは史上最も成功している軍事同盟」「米国の大統領がそれを弱めるのは愚行」と悲鳴を上げている。
 この後の米ロ首脳会談で、トランプ大統領は、プーチン・ロシア大統領との会談を通じて「ロシアとの共謀疑惑」を否定することを狙った。だが、米国の捜査当局さえ認めている、ロシアの選挙介入まで否定した。これも、欧州諸国の不信を増すことになった。
 こうして、米欧矛盾の激化が露呈したのである。
 第二次世界大戦後に米国主導の下でつくられ、「西側」として旧ソ連に対抗し、冷戦崩壊後も「反テロ」などを口実に存続した経済・安保の枠組みは、「米国第一」を前に大きく揺らいでいる。

米国内からも批判高まる
 トランプ大統領の一連の外交に対して、米国内でも批判が高まっている。共和党内からさえ、「米国の歴代大統領として近年では最低の点数しか与えられない」(マケイン上院議員)との批判がある。
 トランプ大統領による政権浮揚策が、成功する保証はない。
 米国の孤立はますます深い。世界の労働者階級が、中小国と連帯し、ときには米国以外の帝国主義の一部とさえ連携して、米帝国主義との闘いを前進させる条件は拡大している。
 米欧間の矛盾拡大は、わが国にとっても「他人事」ではない。日本も、米国からの武器大量購入を中心とする防衛費増額要求が避けられない。通商問題でも、自動車の輸入関税などに加え、日米自由貿易協定(FTA)によるさらなる市場開放要求が待っている。
 安倍政権による外交のカジ取りは、いちだんと難しくなった。ドイツのメルケル首相は「ドイツは今、自らの政策を決められる」と、トランプ大統領の「捕虜」非難に応じなかった。わが国政権に、こうした態度が可能とは思えない。
 独立・自主の政権をめざし、闘いを前進させなければならない。  (K)


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