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2018年7月25日号 1面

北海道はじめ地域経済を破壊 
中国対抗の意図持つ戦略協定

日欧EPA承認許すな

 日本と欧州連合(EU)は七月十七日、日欧経済連携協定(EPA)に署名した。
 この協定が批准されれば、国内総生産(GDP)の合計で世界経済の約三割を占め、米国のGDPを二割以上上回る、世界最大の自由貿易圏が成立することになる。

国内産業に大きな被害
 日欧EPA交渉は、二〇一三年に始まった。当初、一五年中の「大筋合意」がめざされたが、欧州は農産物、日本は自動車で相手側の関税撤廃を求めて合意できず、こんにちまで署名が先送りされてきた。背景には、わが国農民を中心とする抵抗とともに、安倍政権が貿易・投資ルールの中心軸を環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)に置いていたことがある。
 この協定によって、日本は約八二%の品目で関税を撤廃する。
 交渉で最大の懸案となったソフトチーズについては、日本が最大三万一千トンの低関税輸入枠を設け、十六年目に関税を撤廃する。これは、TPPの水準を超える水準である。化学工業製品や繊維製品などの関税も即時撤廃、皮革・履物の関税は段階的に撤廃される。牛肉もTPP同様、関税を九%まで引き下げる。パスタ、菓子などの加工品でも、TPP以上の市場開放を行う。ワインへの関税は相互に即時撤廃されるが、欧州からの輸入がほとんどであるため、欧州に有利な措置である。
 しかも、輸入関税や低関税輸入枠は、協定発効後五年目に「見直す」としており、さらなる市場開放につながる可能性さえある。TPPでさえ、見直しは「七年後」である。
 一方、EUは、日本製乗用車への関税(一〇%)を、発効後七年で撤廃する。世界的に問題になっている個人データの域外持ち出しについては、互いの進出企業が現地で得たデータを円滑に持ち出せることで合意した。
 日欧EPAによって、わが国農業、とくに酪農業は、これまで以上に、自動車を中心とする輸出大企業の生け贄(にえ)にされる。地域経済では、とくに北海道が甚大な打撃を受ける。
 政府の試算によってさえ、日欧EPAで日本農業の生産額は、最大で一千百億円も減少する。なかでも、チーズなど牛乳・乳製品の生産減少額は約二百三億円に達する。実際の打撃は、もっと大きいことが確実である。
 日欧EPAは、TPPに続き、わが国国民経済をいちだんと崩壊させるものである。

トランプ政権を意識
 トゥスクEU大統領は、署名を「保護主義に立ち向かうという明確なメッセージ」と高く評価した。わが国財界も、「反グローバル化、保護主義の傾向が強まるこんにち、日EUが自由貿易を推進していくとの力強く前向きなメッセージ」(中西・経団連会長)と手放しで評価している。
 こんにち、トランプ米政権は「米国第一」を掲げ、日本や欧州を含む世界、とくに中国に対して「貿易戦争」を仕掛けている。トランプ政権によるなり振り構わぬ政策は、「ラストベルト地帯」をはじめとする深刻な国内産業の衰退、国民生活の危機と階級矛盾の激化を背景としている。
 その標的は、日本や欧州にも向けられている。すでに実施された鉄鋼・アルミニウムだけでなく、トランプ政権による自動車の対米輸出に対する追加関税の検討は、日本と欧州の共通の懸念材料である。
 こうしたなか、両者が連携して「自由貿易の主導者」のごとく振る舞うことで米国をなだめようというのである。
 もう一つ、わが国多国籍大企業の意向を受け、貿易と投資をめぐる国際的なルールづくりにおいて、日本が一定の主導権を握る狙いがある。経団連の中西会長が、日欧EPAは「第三国を含めたグローバルなルールづくりにも寄与する」と述べている通りである。
 これらは米多国籍大企業の意図をくんだものでもあり、対米従属の枠内のものである。決して、「対米自主」などではない。安倍政権は、米国のTPPへの復帰を願い、その「露払い役」を買って出ているのである。
 これと併せて、対米従属の下で中国に対抗して「アジアの大国」として登場することを夢想する、わが国支配層の狙いがある。日欧EPAには、中国に先んじて、貿易・投資のルールづくりをめざす意図がある。データ問題での合意はその最たるもので、国外への持ち出しを制限する中国への対抗を意図したものである。
 日欧EPAは、経済協定というだけでなく、TPPと同様に、安全保障の狙いを込めたものなのである。

中国への対抗も狙いに
 その証拠は、日欧EPAと同時に、日EU戦略的パートナーシップ協定(SPA)が締結されたことにも示されている。
 ここにおいて、両者は「大量破壊兵器の拡散」など「国際社会が直面しなければならない主要な地球的規模の課題に対処するために緊密に協力する」とし、安全保障や「地球規模の課題」などでの協力拡大を約した。併せて、「民主主義、法の支配、人権及び基本的自由という共通の価値び原則」を基礎にすると明記されている。
 「共通の利益」などと書き連ねているが、これは台頭する中国、併せて核武装した朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)を事実上の「仮想敵」としてけん制・対抗することを意図したものである。とくに安倍政権は、南太平洋に多数の植民地を有するフランスとの間で、自衛隊と仏軍が物資・役務を融通し合う物品役務相互提供協定(ACSA)に署名、日仏外相会談ではエネルギーや環境問題を含めた「海洋対話」の枠組み設置にも合意した。自衛隊は、フランスの革命記念日の軍事パレードに参加までした。
 ただ、欧州は中国EU首脳会談を行って連携を確認するなど、米国の対中国政策とは一線を画している。この局面では、むしろ米欧矛盾が拡大している。米国のアジア政策の先兵となって、欧州を対中国包囲網に取り込もうと画策する安倍政権のもくろみは、成功する保証はないのである。
   *    *
 安倍政権は「不安を持つ人たちの声にしっかりと応えていく」などと言い、わずかな「予算措置」で懐柔し、秋の臨時国会で日欧EPAの承認を取り付けようとしている。従来の農産物市場開放のときと同様、これでわが国農業が守れるはずもない。
 農業は、国の独立の基礎である。自由貿易を「推進」する立場では、国民経済・国民生活を守ることはできない。EPA推進ではなく、農業をはじめ国内産業を守り、再生させる政策を急がなければならない。
 秋の臨時国会に承認案と関連法案の成立を許してはならない。承認を許さぬ国民運動が求められている。(O)


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