ホーム労働新聞最新号党の主張(社説など)/党の姿サイトマップ

2017年6月15日号 3面・解説

混迷するイタリア政局

 ソブリン危機再燃の可能性

 イタリアで六月六日、「五つ星運動」と「同盟」による連立政権が信任された。三月の総選挙から三カ月の「政治空白」を経ての発足である。だが、イタリアの累積債務は巨額で、両党の政策は大きく異なり、政権運営は予断を許さない。欧州連合(EU)で第四位、ユーロ圏で三位の経済力を持ち、主要七カ国(G7)参加国でもあるイタリアの政局不安は、南欧やユーロ圏のみならず、世界に波及する可能性がある


  「五つ星」と同盟は、支持基盤や基本政策でも大きく異なる。「五つ星」は南部の貧困層を基盤とし、同盟は北部の富裕層が基礎だ。「五つ星」は社会保障政策の充実や解雇規制の厳格化などを求めるが、同盟は南部の貧困層への所得再分配政策に異論を唱え、企業への法人税減税を力説してきた。不法移民の排除も強く求めている。両党が一致しているのは、EUに財政ルールの「見直し」を求めることぐらいである。
 コンテ新首相は新政権を「ポピュリズム政権」と自認、所信表明演説で「急進的な変革」を表明した。具体的には、失業者への最低所得保障や大幅減税などを歳出拡大によって実現するとしている。移民政策については、受入数の「見直し」を掲げた。首相はフィレンツェ大学教授兼弁護士で、政治経験はない。

二転三転の組閣作業
 今回の組閣に至る過程は混迷し、イタリアの政治不安を印象づけた。
 三月の総選挙では、民主党(PD)を中心とする旧政権勢力が二百以上も議席を減らして大敗、政党別では「五つ星」が百三十三議席で第一党、同盟が七十三議席で第二党である。
 背景には、リーマン・ショック後のソブリン(国家債務)危機を契機とした景気低迷と、PDが進めた緊縮財政政策に対する国民の不満がある。
 選挙後、「五つ星」と同盟による組閣交渉が始まった。首班を指名する権限を持つマッタレッラ大統領は五月、コンテ氏を首相に指名して組閣を指示した。
 だが、サボナ元産業相の経済相就任を大統領が拒否、再選挙の可能性が急浮上した。サボナ氏は「ユーロ離脱」までは唱えていないものの、離脱のための計画策定を主張する「欧州懐疑派」である。
 対するマッタレッラ大統領は「ユーロ支持」の元中道右派の政治家で、憲法裁判所(最高裁)判事でもあった典型的エリートである。大統領からすれば、受け入れがたい人事であることは容易に想像できる。
 大統領は一時、選挙管理内閣による再選挙の方針を示した。「五つ星」は、大統領を弾劾する可能性に言及して揺さぶった。世論調査によれば、再選挙を行えば、「五つ星」と同盟がさらに議席を増やす可能性が高かった。
 結局、両党が経済・財務相にトリア・ローマ大学教授を推薦したことで総選挙は回避され、再度、コンテ首班による組閣が進んだ。トリア氏は、ユーロの「後戻り」の可能性に言及している点で両党の意向に沿っているが、ユーロからの「無条件離脱」を否定している点で、大統領やユーロ加盟国に妥協した人事となっている。他方、サボナ氏は欧州担当相となった。
 新政権は当面のユーロからの離脱を否定しつつ、財政政策などで「柔軟さ」を求める方針をとっている。 

欧州中心国からの圧力
 だが、ドイツなどがイタリア新政権の要求に応じる気配はない。欧州中心国にとって、イタリア新政権が財政規律を乱すことは断じて受け入れられないことである。イタリアの債務危機は、ギリシャの比でないほどに、共通通貨ユーロを揺るがせるからである。
 実際、欧州中央銀行(ECB)は五月、ドイツ国債が「大量に満期を迎えた」ことを理由に、イタリア国債の買い入れ額を減らすと発表した。直後、イタリアの十年物国債利回りは三%近くに上昇、金融・財政不安が再燃しかかった。
 「五つ星」は、「組閣に影響を与える圧力」とECBを批判した。
 むろん、圧力一辺倒ではない。メルケル・ドイツ首相は、ユーロ圏内の「南北格差」を埋める投資予算、危機対応のための欧州版国際通貨基金(IMF)の創設、国境警備強化という改革案を示すなど、EUの結束維持に懸命である。
 ギリシャ危機の際、債務条件の「見直し」を求めたツィプラス政権に対し、欧州諸国は厳しい圧力をかけて屈服させた。コンテ政権がどこまで譲歩を引き出せるか、予断を許さない。 

「破局の芽」になるか
 ユーロ圏でGDP三位のイタリアが危機に陥れば、南欧、ユーロ圏に大きな混乱を引き起こす。世界経済にとっても「破局の芽」となり得る。
 イタリアの政府累積債務は対国内総生産(GDP)比で約一三一%で、危機に陥ったギリシャ(約一八一%)よりは小さいが、金額ベースではギリシャの十倍、二・四兆ユーロ(約三百十一兆円)に達する。ユーロ圏が危機に備えて設置した「ユーロ圏救済基金」の残高は、イタリアの危機には対処不能である。
 ただでさえ、イタリアでは金融機関の不良債権問題が完全には解決していない。国債利回りの上昇(価格低下)は、金融不安を高めかねない。
 さらに欧州諸国は、いわゆる「ポピュリズム勢力」の伸長が、自国の政局に影響を与え、政権が不安定化することも恐れている。
 最近、スペインでも、ラホイ首相が退陣に追い込まれた。
 欧州の経済危機が世界に及ぼす影響だけでなく、政治動向の変化もまた、「明日の日本」を占うものとして注目できる。  (O)


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2018