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2017年6月15日号 2面・解説

米朝首脳会談が開かれる

米帝国主義との闘いは新たな段階に

 トランプ米大統領と朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の金正恩委員長は六月十二日、シンガポールで初の首脳会談を行った。会談後に発表された共同声明では、「新たな米朝関係の構築」などがうたわれた。会談後の諸国、あるいは知識人などの反応はこれからである。本来、今回のような歴史的事態は、世界資本主義の危機や米国の衰退といった国際情勢の全体像の中でしか検討し得ない。以下の論考は、こうした制約を前提にしたものである。


 発表された共同声明では、史上初の首脳会談を「両国間の数十年に及ぶ緊張と敵対を乗り越えて新たな未来を開く画期的な出来事」と認識するとし、「トランプ大統領は朝鮮に安全保障を約束し、金委員長は朝鮮半島の完全な非核化への揺るぎない、固い決意を再確認した」とうたった。
 さらに、以下の合意事項が明記された。(1)新たな米朝関係の構築に向けて取り組む、(2)朝鮮半島での恒久的で安定的な平和体制の構築、(3)朝鮮は「板門店宣言」を再確認し、朝鮮半島の完全な非核化に向け取り組む、(4)朝鮮戦争による戦争捕虜・行方不明者の回復に取り組む。

米国こそ危機の根源
 今回の米朝会談、さらに朝鮮半島問題を理解するには、歴史を理解することがきわめて重要である。
 旧日本帝国主義の敗北後、朝鮮半島は南部が米国、北部はソ連が占領した。米軍は南部だけで選挙を強行、李承晩・傀儡(かいらい)政権は抵抗する人民を虐殺し、大韓民国の設立を宣言した。朝鮮の成立はその約一カ月後である。
 この後の朝鮮戦争は、米軍が国連軍の名の下に介入し、「核の使用」を検討までした。中国は義勇軍を送って朝鮮を支援した。戦争は一九五三年以来こんにちまで「休戦状態」のままで、終わっていない。
 以降、米国は朝鮮を正統な国家として認めず、軍事、政治、経済すべての面で包囲し続けている。朝鮮が一貫して求め続けた「平和条約」は無視された。
 米国による朝鮮敵視政策は、朝鮮が核開発に成功する以前からのもので、「核・ミサイル」は口実にすぎないのである。
 九四年の米朝「核合意」は、米国が約束した制裁解除を行わず、合意を反故(ほご)にした。
 ブッシュ政権は二〇〇二年、朝鮮をイラク、イランとともに「悪の枢軸」とののしり、核を含む先制攻撃による転覆を公言した。
 朝鮮が「核・ミサイル」開発を進めたのは、国の安全と民族の尊厳を守るための当然の措置である。
 六者協議の合意による核施設の「無能力化」も、オバマ政権が「戦略的忍耐」として対話に応じず、さらに人工衛星発射に対する制裁強化でとん挫した。
 一七年に登場したトランプ政権は、「すべての選択肢がテーブルの上にある」と、武力攻撃をちらつかせて朝鮮をどう喝した。さらに、国連を動員し、隣国・中国も引き込んで制裁を強化した。
 朝鮮半島の緊張の原因は、過去もこんにちも、あげて米帝国主義にある。

米朝首脳会談の背景
 歴史的な首脳会談は、米国の歴史的衰退を背景としている。
 リーマン・ショック後の危機はますます深い。米国内の階級対立は激化している。しかも、世界は「米国の時代」ではなくなった。
 「米国第一」を掲げたトランプ政権の戦略課題は、金融を中心とした自国経済の再建と軍事力増強によって巻き返し、覇権国の地位を維持することである。
 その最大の標的は、台頭する中国である。トランプ政権は通商問題で各国に理不尽な要求を突きつけているが、これも、中国が「主敵」である。南シナ海や台湾問題などでも、中国へのけん制を強化している。
 トランプ政権は従来の政権以上に、朝鮮半島問題を、隣国・中国をけん制する手段として活用している。トランプ大統領は昨年、通商問題で自国に有利な合意を得るため、習近平国家主席に朝鮮対応で「協力」を要めたことを認めている。
 さらに、今秋の中間選挙に向けて「実績」をアピールする狙いもあった。諸国との通商交渉の「成果」がままならないなか、この切実さは増していた。
 以上のような事情を抱えた米国にとって、朝鮮に武力攻撃を行うだけの力と余裕はない。
 一方、朝鮮が米国本土に届く核・ミサイル技術を開発したこと、韓国の文在寅政権と統一を願う人民の闘いが、トランプ大統領を交渉の席に引きずり出した。
 米朝会談前日、文・韓国大統領は「朝鮮半島の問題は、私たちが主人公」と述べた。周辺大国に翻弄(ほんろう)され続け、朝鮮戦争と民族分断、敵対の歴史を強いられた朝鮮民族の苦難の歴史を思えば、当然のことである。
 それでも、米国、とくに中国からの制裁は、朝鮮経済に打撃を与えているであろう。金正恩政権が「社会主義経済建設」に専心すると決定したのは、切実さのあらわれと理解できる。
 米朝双方とも、息継ぎを必要としていた。初の会談は、こうした事情の下で行われた。

朝鮮の闘争は新たな局面に
 トランプ大統領は会見で、非核化を「最大限に早く実行することで合意した」と述べ、金委員長との追加会談、さらにポンペオ国務長官らによる交渉を進めるとした。
 トランプ大統領は米韓軍事演習を中止する意向も示し、「将来、在韓米軍を縮小したり撤収させたりする可能性がある」とも述べた。朝鮮も、核実験場の廃棄に続き、(トランプ大統領によれば)核ミサイルエンジン実験場の破壊に着手するという。
 だが、声明では、非核化の範囲やその方法はあいまいなままである。米国が求めるのは、朝鮮の「完全かつ検証可能で不可逆的な核廃棄(CVID)」であり、大陸間弾道ミサイル(ICBM)も同様に廃棄を求める。一方の朝鮮にとっては、在韓米軍の撤退、最低でも戦略兵器の撤去・削減は譲れない。そうして初めて自国の核放棄が問題となるという立場には道理がある。声明には、朝鮮に対する制裁措置、朝鮮戦争の休戦協定を平和協定に替えることへの言及もなかった。
 そもそも、米朝間で何らかの合意が行われて「核放棄」のプロセスが動き出したとしても、非核化には十年前後の期間が必要とされている。
 その間、国際情勢はますます激動するであろう。すでに述べたように、米国の「主敵」は中国で、米朝関係はこの方面からも揺さぶられ続ける。米国が敵視政策をやめない限り、朝鮮半島の平和は実現できない。
 今回の米朝会談で「朝鮮半島情勢が一路、平和に向かう」などという楽観論に与することはできない。米帝国主義が「平和愛好勢力」になったなどというのは幻想である。
 米朝会談後、イラン政府は「トランプ大統領は朝鮮の指導者が帰国する前に合意を葬り去るかもしれない」というコメントを発表した。トランプ政権がイラン「核合意」から離脱し、経済制裁を再開すると表明したことを考えれば、当然のコメントである。トランプ政権は、オバマ政権が関係を改善したキューバに対しても圧迫を強化している。遡れば、米国の要求に屈して兵器開発を取りやめたリビアやイラクは、政権を転覆させられた。
 その米国が、朝鮮に「安全保障を約束」したからといって、信用できるはずもない。そもそも、自国の安全保障を他国に頼っては独立国ではあり得ない。一方的核放棄では、自国の独立と安全は保障されないことを、朝鮮は十分に知っているであろう。
 朝鮮が自国の安全のために頼るべきは、米帝国主義の「約束」などではなく、南北朝鮮の労働者階級・人民の闘いであり、全世界の労働者階級と被抑圧民族である。
 朝鮮が、米帝国主義の敵視と包囲を打ち破って自国の独立と尊厳を守る闘いは、新たな局面の下で本格化する。

対米従属外交は破綻の縁
 安倍政権は、朝鮮の核を「国難」とまで呼号し、敵視をあおってきた。今や敵視政策に自縄自縛となり、南北首脳会談以降のアジア情勢の激変に完全に立ち後れ、米国にさえ「はしごを外され」て孤立した。拉致問題の解決を、米国など他国に乞い願う体たらくぶりである。米国からの通商要求も厳しい。
 安倍政権の対米従属外交は、完全に行き詰まった。安倍首相は日朝会談を策動するなどあがき続けるだろう。だが、安倍政権は、米国の許す範囲内でしか対日朝鮮外交を行えない。これでは、わが国はアジアで信頼を得ることはできない。
 国の進路をめぐり、労働者階級が主導権を握らなければならない。安倍政権の限界を暴露し、「即時・無条件の日朝国交正常化」の旗を高々と掲げ、国民運動を前進させなければならない。わが国の独立・自主を闘い取るために奮闘しなければならない。  (K)


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