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2017年6月5日号 2面・解説

米、自動車関税引き上げを検討

 日本経済の「本丸」に重大危機

 トランプ米政権は五月二十三日、自動車の輸入関税を引き上げる検討に入った。「米国第一」を掲げ、中国をはじめ世界に「貿易戦争」を仕掛ける策動は、ますますなり振り構わぬものとなっている。鉄鋼・アルミニウムに続き、わが国への「トランプ津波」の襲来がいよいよ本格化する。国民経済・地域経済、そして国民生活を守る闘いが急務となっている


 トランプ政権が輸入関税の引き上げの理由としているのが、「安全保障」である。外国産品に一方的関税を課すことは、世界貿易機関(WTO)で禁じられている。ただ、「安全保障」が理由であれば、例外扱いとなる。トランプ政権は、これを口実にしたのである。
 適用を予定するのは、「通商拡大法二三二条」で、商務省が二百七十日以内に関税適用の是非を大統領に報告する。予想では、現在二・五%の乗用車関税に、二五%の追加関税が課される見通しである。
 トランプ政権はこれまでも自国経済再建のため、当面は秋の中間選挙を意識して、さまざまな保護主義的政策を行ってきた。
 知的財産権を口実とした中国に対する制裁措置(現在は棚上げ)、鉄鋼・アルミニウムなどでの日本・欧州連合(EU)などへの追加関税、中国の通信大手への排除命令、企業買収への介入など、枚挙に暇がない。
 日本に対しても、鉄鋼・アルミの追加関税のほか、軍需品購入拡大を求め、さらに新通商枠組み(FFR)の設置が決まった。

米国の産業再建策
 今回の自動車に対する輸入関税の検討は、こうした「米国第一主義」がいよいよ本格化し、各国、とくに日本経済の「本丸」に踏み込もうとしていることを意味している。
 トランプ政権の狙いは、短期的には、膨れあがった貿易赤字の削減である。
 米国の新車年間販売台数は約一千七百万台だが、この約四割が、日本などからの輸入品である。さらに、自動車は、米国の全輸入額の約一五%を占める。すでに関税を課した鉄鋼製品は、全輸入額の一%程度にしかすぎないため、自動車関税の影響はケタ違いである。
 米国の貿易赤字・経常赤字は世界一で、経常収支の対国内総生産(GDP)比も▲四・五八%(二〇一七年)と、主要国中最悪である。国家財政も赤字である。この「双子の赤字」をファイナンスするため、米国は世界中から資金をかき集めなければならない。この構造は一九七〇年代に始まり、八〇年代のレーガン政権、九〇年代のルービン財務長官によるドル高政策で本格化した。いわゆる「ドル環流システム」である。
 米巨大金融資本は、世界中からかき集められたドルで、二〇〇〇年前後の「IT(情報技術)バブル」、その後は住宅バブルと、次々にバブルをあおり、経済を延命させてきた。
 だが、この構造は〇八年のリーマン・ショックとそれ以降の危機によって、持続不可能となった。米国は、膨大な国債不均衡に耐えられなくなった。
 オバマ前政権は〇九年、「輸出倍増計画」を掲げ、国内製造業の活性化策に乗り出したが、これも成功しなかった。
 こうしたなか、米国内では一握りの資本家と大多数の人民との間の「格差」がますます開いた。鉄鋼や自動車などの工業地帯は、ラストベルト(さびた工業地帯)と呼ばれるほどに衰退した。国民の不満は著しく高まり、「ウォール街占拠運動」のような大衆行動だけでなく、麻薬や銃犯罪などによる社会不安も深刻なものとなった。
 トランプ政権は、こうした内戦にもつながりかねない状況から自国経済を再建し、貿易赤字を削減する必要性に迫られたのである。 

自国産業の競争力確保
 自動車産業は、その国の経済に及ぼす影響が非常に大きい。自動車を製造するには、鉄鋼、ゴム、ガラスなどの原材料メーカー、エンジンや型枠、シートなどの部品メーカー、さらに広告業や自動車ローンを担う金融業など、非常に裾野が広い。逆に言えば、自動車産業で世界市場に存在感を示せれば、その経済効果は大きなものがあるということである。
 諸国が、自国メーカーに少しでも有利な環境をつくろうとして、政治の力をもつぎ込んで競争を行うのは当然のことである。さらに新興国も、経済発展のために自国メーカーを育成しようとする。
 さらにこんにち、自動車産業をめぐっては、電気自動車(EV)や自動運転技術などをめぐるし烈な開発競争のただ中にある。これらの開発の可否が、自動車業界の勢力図を塗り替える可能性がある。他業種からの参入も進んでいる。
 もう一つ、すでに実施した鉄鋼・アルミへの追加関税との関連性である。米自動車メーカーは、自動車用鉄鋼製品やアルミを輸入している。これらが高関税で値上がりすれば、自動車自身の価格も上昇し、競争力は低下する。この悪影響から米自動車産業を守るには、自動車輸入にも追加関税を課さざるを得ないのである。
 トランプ政権はこうした中で、米国産業を保護し、競争力を確保しようとしているのである。 

日本への影響は甚大
 こうしたなか、トランプ政権による輸入関税引き上げ措置は、わが国経済に重大な影響を与える。
 日本の自動車関連就業人口は、全体の八・三%、五百三十四万人にも及ぶ。うち、製造部門は部品や車体部門を入れて、八十一万四千人である。全製造業出荷額に占める自動車の割合は、一七・五%にも達する(一四年)。
 すでに、わが国自動車産業は、一九八〇年前後の自動車摩擦以降、米国での現地生産を強化し、現地生産台数は年間三百八十五万台に達する。
 それでも、日本からの対米輸出は、依然として百五十〜百七十万台もある。これは、日本国内での全生産台数の一八%以上を占めている。関連部品を含めれば輸出額は五百六十億ドルと、対米輸出の四割にも達する。
 米国市場は、日本の自動車メーカーにとって最大の市場である。一八年三月期の世界販売台数に占める比率(単体ベース)はトヨタ自動車が二六%、ホンダは三二%、日産自動車が二八%を占める。
 対米輸出が滞れば、対米輸出向けの生産設備の稼働率が落ち、そこで働く労働者には配転、労働時間短縮、首切りといった犠牲が押し付けられることが必至となる。課税された諸国が報復関税をかければ、世界貿易が停滞・縮小し、世界経済全体に巨大なリスクとなって遅いかかる。この「津波」にさらされるのは、自動車関連産業で働く労働者だけではない。
 これまで、自らが米国市場で稼ぐために日本農業を犠牲にしてきた財界・支配層はどうするか。
 これまでの例からしても、わが国自動車産業の経営陣は、米国現地での生産を拡大させることで、この危機をしのごうとするだろう。だがこれは、自動車産業が集積する東海地方を中心に、いちだんの産業空洞化と雇用減、地域経済のさらなる疲弊につながるものである。
 米国の不当な圧力をはねのけ、国民・地域経済と国民生活を守り、再建させなければならない。


日米「絆」は破綻
 安倍首相は「同盟国の日本に課すのは極めて理解しがたい」などと泣き言を述べている。日米同盟を「絆」などとしてきた安倍政権にとってはまたも打撃で、その「同盟強化」路線は完全に行き詰まった。
 自動車販売は、米国の物品消費の一一%を占めるため、この値上がりは景気減速に直結する。自動車製造部門の労働者は約百万人だが、販売部門ではその倍の約二百万人が働いている。追加関税は、ここの雇用問題に直結しかねない。
 安倍政権はこうした点をアピールするなどで、トランプ大統領に「適用除外」を乞い願おうというのであろう。
 六月二日に行われた主要七カ国(G7)財務相・中央銀行総裁会議では、米国が徹底的に孤立、他の六カ国は「全員一致の懸念や失望」を表明した。米国の衰退と国際的孤立は著しい。
 それでも「米国第一」は止むことはない。それほどに危機が深いからである。
 日米はすでにFFRの設置で合意している。米国は日本に自由貿易協定(FTA)を求めており、自動車関税はそのための取引材料とはなっても「除外」はあり得ない。
 北米自由貿易協定(NAFTA)の再交渉が難航し、中国も数値目標の設定などには応じないなか、対米従属の日本が「成果稼ぎ」の標的になる可能性は高い。
 米国の不当な要求をはねのける独立・自主の政権をめざす、広範な戦線形成が求められている。 (O)


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