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2017年5月25日号 2面・解説

安倍政権、軍事大国化に突き進む

米戦略へのさらなる奉仕

 安倍政権は、対米従属下の軍事大国化策動を急ピッチで進めている。敵基地攻撃能力の獲得、護衛艦の航空母艦への改装など枚挙に暇がない。憲法九条の改悪も急いでいる。これは、中国を抑え込んで世界支配を維持しようとする米国、トランプ政権に追随したものであると同時に、わが国多国籍大企業の海外権益を守るためのものである。アジアの平和とわが国の進路の転換をめざした闘いが急がれている。


 安倍政権は、成立以降、防衛費を「聖域」化して毎年増額させ、急ピッチの軍備拡大を進めている。
 主なものを列挙する。

軍備増強策の数々
・敵基地攻撃能力

 朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の「核・ミサイル」を口実に、与党内での議論が進行、既成事実化が進んでいる。
 今年度予算では、射程九百キロを有する長巡航ミサイル「スタンドオフ・ミサイル」の導入に向けた費用も計上されている。地対地ミサイルは事実上、敵基地攻撃能力を持つことと同義である。
 政府は「相手よりも長い射程のミサイルを持つことによって、わが国に近寄って攻撃しようとする艦艇や上陸しようとする部隊を抑止する」などと言い訳しているが、相手国を攻撃できるものであり、「専守防衛」の建前さえ逸脱するものである。
 敵基地攻撃には相手国内の軍事基地などの「目標」をピンポイントで把握する必要がある。これは米軍の情報に依存せざるを得ないため、この能力自身が、米軍の「下請け」化を進めるものということができる。アーミテージ元米国務副長官が「日本が敵基地攻撃能力を保有するのに賛成」と明言するゆえんである。

・ミサイル迎撃システム
 地上配備型のミサイル迎撃システム(イージス・アショア)を二〇二三年度に導入することを閣議決定、山口県と秋田県に配備する計画である。一基一千億円近くの費用がかかるこのシステムは、中国や朝鮮への対抗というだけでなく、自国製軍需品の輸出拡大に血道をあげるトランプ米政権の意向をくんだものでもある。
 これに対しては、安倍首相の「お膝元」である山口県の村岡知事でさえ、「国に配備の必要性を確かめる」と言うほどである。

・南西諸島への自衛隊配備
 島しょ部への攻撃の対処能力を高めるとして、中国を念頭に、南西諸島でのいちだんの自衛隊増強を打ち出した。弾道ミサイルの配備強化、本土からの輸送能力の増強によって「戦い続けるための能力」を向上させるという。
 この一環として、三月に陸上自衛隊相浦駐屯地(長崎県佐世保市)に専門部隊「水陸機動団」を新設した。二千百人態勢(将来は三千人規模を予定)で、垂直離着陸輸送機オスプレイを運用することで、離島への「上陸・奪還」を担当する、事実上の「日本版海兵隊」である。
 また、今年度末までに鹿児島県の奄美大島(奄美市)、さらに沖縄県の宮古島(宮古島市)にミサイル部隊などを配備、沖縄県石垣島(石垣市)には基地を新設する計画である。

・航空母艦の保有
 海上自衛隊のヘリ搭載型護衛艦「いずも」と「かが」を、ステルス戦闘機F35Bを搭載できる空母に改装するための調査・研究を行った。改装は一九年度に予定されている。従来、政府は「空母は攻撃型兵器で憲法に違反する可能性がある」という理由で保有してこなかったが、この解釈を変更するもの。
 また、この改装は、在日米軍に配備されているF35に、同艦の甲板を「貸す」ためともいわれている。日米のさらなる一体化を示すものともいえそうだ。
 中国は二〇三〇年までに、原子力稼働を含めて四基の空母を保有する計画である。これを口実に、日本政府はいずれ、本格的な空母建造に踏み込む可能性が高い。

・無人機の導入
 米軍が運用している無人偵察機グローバルホークの導入を進めている。
 ただ、米国製無人機は一機あたり二百億円を超える高価格であるという理由で、より安価なものをめざして、イスラエルとの共同研究を進める計画である。他方、トランプ米政権は無人機の輸出拡大も明言しており、わが国支配層は対応に苦慮することになろう。
 いずれにしても、「専守防衛」をかなぐり捨てるものである。

・宇宙・サイバー分野
 他国に比して出遅れているとされる宇宙・サイバー、電子戦対応では、「多次元横断(クロスドメイン)防衛構想」の名の下、三分野の各専門部隊を統括する司令部を新設し、統合運用する方向である。サイバー戦の人員も約四割増強するが、他国にサイバー攻撃を仕掛けることが法的に可能かどうかについては検討するとしている。
 これを側面支援するため、安倍首相は一月にバルト三国のエストニアを訪問し、サイバー防衛での情報を共有する「日バルト協力対話」を立ち上げることで合意した。また、フランスとは外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)において、宇宙分野での協力を確認している。

・海外派兵の拡充
 ソマリア沖の「海賊対策」を口実に、東アフリカのジブチに設置している自衛隊拠点の機能として、「邦人保護」と「人道支援」を追加する方向で検討が進んでいる。これは、安倍政権が米国に追随して進める「自由で開かれたインド太平洋戦略」の拠点、事実上の「海外基地」として、同地を強化するためのものである。現在、一年単位の借地契約である拠点を、複数年契約に変更する案も浮上している。
 これと関連して、海上自衛隊はインド洋や南シナ海沿岸国に対する「戦略的寄港」を進めており、中東・オマーン海軍との共同訓練なども実施されている。

 さらに、憲法第九条の改悪が日程に上り、朝鮮の「核」などを口実核武装のための世論形成も進んでいることに警戒しなければならない。
 まさに、従来になかった急速な軍備増強である。

「大綱」も改定予定
 安倍政権は、こうした軍備拡大を、従来の陸海空各自衛隊の要求に基づく「積み上げ方式」から、国家安全保障会議(NSC)が主導するトップダウン方式へと変更し、より「効率的」に強化しようとしている。これは、一九年度以降の「中期防衛力整備計画」(中期防)から導入する。
 さらに、「中期防」の前提となる「防衛計画大綱」も見直す。
 一三年に閣議決定された現行の「防衛計画大綱」(一八年までが射程期間)では、朝鮮、中国、ロシアを名指ししている。なかでも中国について「地域・国際社会の安全保障上も懸念される」などとし、けん制を強化した。これは、当時のオバマ米政権の「アジア・リバランス戦略」に追随し、アジアにおいて対中国の先兵役を務めることを意図したものである。
 一九年以降の「大綱」については年内の改定に向け、政府・自民党内で検討が本格化している。上記のような軍備拡大策は、次期「大綱」を先取りしたものである。安倍首相は「従来の防衛大綱の延長線ではない」と明言している。
 実際、敵基地攻撃能力やイージス・アショアは「大綱」にさえない新規装備で、国会でもほとんど議論のないまま既成事実化が進んでいる。

米戦略に奉仕するもの
 こうした策動は、台頭する中国を抑え込んで世界支配を維持しようとする、米帝国主義、トランプ政権に追随したものである。
 米国はトランプ政権下で大軍拡を進めてはいるが、国家財政の制約は大きい。安倍政権はこれを補完しつつ、米国産武器の輸入拡大で二重三重に米国に奉仕しようとしている。
 これは、わが国の孤立の道であり、財政危機をさらに深刻化させる。
 これは同時に、世界中に権益を有する、わが国多国籍大企業の利益を守るためでもある。「強い日本」を掲げる安倍政権は、米国の衰退を横目に見ながら、独自の狙いもはらみながら軍事力増強にまい進しているのである。
 これは、安倍政権がわが国の「独立」をめざしているかのように、広範な国民に映る。だが、安倍政権、わが国支配層の主流は、しょせんは対米従属の枠を一歩も超えることができない。かれらが見せる「独立」のポーズは欺まんにすぎない。
 労働者階級は、安倍政権の態度の欺まん性を暴露して闘わなければならない。対米従属で中国に対抗した軍事大国化ではなく、独立・自主でアジアと共生する国の進路を歩むべきである。       (K)


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