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2018年4月5日号 2面・解説

中朝首脳会談で関係改善合意

 アジア情勢の流動化強まる

   朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の金正恩・労働党委員長が三月二十五日から非公式に訪中し、習近平国家主席らと会談した。南北・米朝首脳会談の開催合意でアジア情勢が流動化し始めるなか、中国と朝鮮の関係改善で、米日による敵視政策は破綻の色をいちだんと濃くしている。日朝の即時・無条件での国交正常化を求め、闘いを強化すべきときである。


 今年に入ってから、朝鮮半島情勢は大きく変化している。金委員長の「新年の辞」、さらに韓国・平昌冬季五輪を契機として、南北対話の雰囲気が一気に醸成され、四月末に南北首脳会談、五月には米朝首脳会談の開催が決まった。
 この変化を生み出した最大の要因は、文在寅・韓国大統領と金委員長の意思と戦略であり、平和と統一を願う南北人民の闘いである。
 トランプ政権はこうした流れに押され、また、中間選挙を控えた「実績づくり」を狙って米朝会談を了承したわけだが、それだけではない。米帝国主義は世界支配を維持するため、衰退した自国経済を金融を中心に再建することと、核兵器を中心とする軍事力の強化を進めようとしている。その標的は、台頭が著しい中国である。米中間の対抗関係は、軍事・政治・経済、さらにサイバー空間を含めた、全面的で激しいものとなりつつある。なかでもトランプ政権は、中国にさまざまな通商要求を突きつけて譲歩を迫ることで、自国経済再建の足がかりにしようとしている。
 こうした必要性から、米国は、中国への対応を優先せざるを得なくなったのである


改善印象づけた中朝会談
 中国の新華社によると、中朝首脳会談では、中朝関係を「両国の歴代指導者が築き上げた貴重な財産」と高く評価し、年初以来の朝鮮半島情勢の変化を歓迎した。
 核問題では、金委員長は「金日成主席と金正日総書記の遺訓に基づき朝鮮半島の非核化実現に尽力する」と述べた。「米韓がわれわれの努力に善意で応えて平和安定の雰囲気をつくり出し、段階的で歩調を合わせた措置をとるなら非核化の問題は解決できる」とも述べたという。
 朝鮮の段階的非核化を進めるプロセスにおいては、かつての朝鮮の核をめぐる六者協議でも確認された、「行動対行動」という原則が確認された。
 習近平主席は、両国指導部の交流推進、戦略面の意思疎通を行う、平和的発展を積極的に促進する、中朝友好の民意の基礎を固める――の四点を提案し、金委員長はこれに賛同した。
 両首脳は中朝の国家間関係だけでなく、両党間の関係回復でも、事実上、合意した。朝鮮側の報道によると、習近平主席は、朝鮮訪問にも同意したという。
 今会談に臨んだ中国の狙いは、どのようなものか。
 まず、朝鮮半島情勢に対する影響力の確保である。
 中国は朝鮮戦争の当事者国の一つで、二〇〇三年に始まった六者会合でも議長国であった(米国がイラク占領に手を取られていたという事情もあった)。中国は現在も、朝鮮の最大の貿易相手国である。
 中国にとって、朝鮮は対米カードの一つであった。一七年春に行われた米中首脳会談では、トランプ政権は通商要求の緩和と引き換えに、朝鮮制裁への同調を迫ったと報じられていもいる。
 だが、韓国の仲介で米朝首脳会談の道筋がついたことで、中国の主導権が低下する懸念が生まれた。通商法三〇一条(スーパー三〇一条)などでトランプ政権が中国に「貿易戦争」を仕掛けるなか、「朝鮮カード」を取り戻すことを狙ったのである。また、隣国・朝鮮をひきつけ、「緩衝国家」として維持しておく地政学上の必要性もあったろう。
 中国の習近平政権は、二〇四九年の「建国百年」までに米国と肩を並べる「社会主義現代化強国」を建設するという国家目標の下、安定的な国際関係、なかでも対米関係を安定させることを望んでいる。この狙いからの、対朝鮮政策である。
 一方の朝鮮は、首脳会談が決まっても敵視と包囲を緩めないトランプ米政権に対し、中国との関係改善で足場を固める狙いがあった。それによって、自国の安全と体制保障を得る目的である。あわよくば、中国から経済支援の約束を取り付ける意図もあったろう。
 両国首脳が確認したという「伝統的友情」という言葉は、歴史上使われてきた「血盟」に比べれば弱い表現であるし、その「血盟」も実際には大いに矛盾含みであった。
 それにしても、中朝関係が悪化していた時期からすれば、両国関係は大きく変化した。従来から、中国は、米国の「圧力の最大化」という対朝鮮政策と一線を画してきたが、この方向はさらに強まろう。
 米国による朝鮮包囲網は、南北融和に続き、大きな打撃を受けることになった。

平和には米軍の一掃が必要
 中朝会談に対し、韓国は「朝鮮半島問題の解決の助けになる」と歓迎した。
 さらに、朝鮮がロシアと首脳会談をする可能性も取り沙汰されている。
 トランプ大統領は米朝会談を「楽しみにしている」としつつ、「最大限の制裁と圧力は必ず維持しなければならない」と強調した。ティラーソン国務長官が更迭されてポンペオ長官に、さらに安全保障担当の大統領補佐官にボルトン元国連大使と、いずれも「対朝強硬派」とされる人物に代わった。これを背景に、一部には、米朝会談の「失敗」を理由として、米国が軍事行動を行うという観測があった。中朝会談が成功した結果、米国は朝鮮への先制軍事攻撃を行いにくくなった。朝鮮への攻撃は、台頭著しい中国を相手とせざるを得なくなるからである。中朝がこの「行動対行動」の原則に立つ限り、朝鮮の一方的核放棄を求めることさえ容易ではない。
 他方、朝鮮の言う「非核化」は、一六年七月の朝鮮政府の声明にもあるように、韓国に核兵器を持ち込まないとの確約や戦略兵器の展開中止、在韓米軍の撤収を含むものであろう。そうでなければ、自国を守るための核兵器を放棄できるはずもない。だが、米国がこの要求をのめば、アジアでの影響力は失墜する。
 米朝首脳会が行われても、「非核化」のプロセスどころか、その定義でさえ、合意は容易ではない。仮に何らかの合意ができたとしても、すんなりと履行されることもないだろう。
 米国は、一九九四年の「核合意」を、朝鮮の国際法に沿った形で実施した人工衛星発射を口実に反故(ほご)にした。二〇〇五年の六者協議共同声明で「非核化」が約束された時にも、朝鮮への金融制裁(マカオの銀行口座凍結)を行った。朝鮮との関係以外でも、国交を回復したキューバに対して制裁を強化、イランとの「核合意」も反故にされつつある。
 こうした米国の暴挙は枚挙に暇がなく、今後も繰り返すであろう。
 安全保障を中心とするアジア情勢は、朝鮮半島をめぐる一連の動きを経て、流動化を強め始めた。米帝国主義をアジアから一掃してこそ、朝鮮半島、北東アジアの平和を実現できる。

動揺極める安倍政権
 安倍政権は中朝会談の開催に慌てふためき、「中国側からもしっかりと説明を受けたい」と述べた。安倍首相は「日本がリーダーシップをとってきた結果、朝鮮から話し合いを求めてきている状況」などと言うが、事前に情報を得ていなかったことを自己暴露しており、対米追随の朝鮮敵視政策の行き詰まりは明らかである。
 北東アジア情勢が激動するなか、日本のいちだんの国際的孤立は鮮明である。安倍政権は「さまざまな接触を図っている」と、対朝鮮交渉を進めていることを伺わせ、敵視政策の「一部修正」を試みているようだが、米国の従属下にとどまる限り、あらかじめ「限界付き」である。
 河野外相は「核実験の兆候」などと、懲(こ)りもせず世論をあおろうとしているが、中国から「足を引っ張ることのないように望む」とクギを刺されるありさまだ。
 拉致問題など敵視政策による政権浮揚策も通用しなくなり、与党内からさえ、「日本だけが置いていかれているのではないか」(三浦参議院議員・公明党)との懸念が示されるほどである。総裁選を待たず、自民党内も騒がしくなろう。
 朝鮮敵視政策の見直しや国交正常化を求める声だけでなく、わが国の核武装を要求する意見が高まる可能性がある。
 日朝の即時・無条件の国交正常化、そのための確かな保証であるわが国の独立、アジアの共生のための国民運動は、ますます喫緊の課題となった。 (O)


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