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2018年3月25日号 2面・解説

トランプ政権、中国制裁と
鉄鋼など輸入制限を発表

 不当な対日要求をはねのけよ

   トランプ米政権は三月二十二日、「知的財産権の侵害」を口実に、中国製品に高関税を課す制裁措置を決定。続く二十三日には、鉄鋼やアルミニウムの輸入制限に踏み込んだ。中国をはじめ諸国は強く反発、対抗措置の準備が始まった。米中間を中心とする「貿易戦争」は新たな、深刻な局面を迎えた。楽観論を振りまいたあげく、制裁対象となった安倍政権はいちだんと行き詰まった。米国からの不当な圧力をはねのけ、売国外交を清算しなければならない。


貿易戦争の「開始宣言」
 トランプ大統領が署名した大統領令は、「通商法三〇一条(スーパー三〇一条)」を根拠としたもので、米通商代表部(USTR)が十五日以内に制裁品目を発表し、その後、三十日以内に最終確定する。情報通信機器や機械など約一千三百品目を対象に二五%の関税を課すものと想定され、対象総額は五百億〜六百億ドル(約五・二兆〜六・三兆円)に及ぶ。これは、中国の対米貿易黒字の約六分の一〜七分の一に相当する巨額なものである。
 トランプ大統領は、中国に対米貿易黒字を一千億ドル削減することも求め、中国企業の対米投資を制限することも指示した。制裁関税発動までの二カ月弱の間に、中国から譲歩を勝ち取ることをもくろんでいる。
 鉄鋼とアルミニウムに対する追加関税は、鉄鋼に二五%、アルミニウムに一〇%の追加関税を課すものである。欧州連合(EU)、カナダ、ブラジル、メキシコ、オーストラリア、アルゼンチン、韓国の七カ国・地域は適用を五月一日まで猶予される一方、日本、中国には二十三日から即時適用される。制裁対象は、米国の鉄鋼輸入量の四分の一以上にもなる。口実は「安全保障」で、通商拡大法二三二条を根拠にしている。猶予された国・地域も、今後の交渉次第で除外されない可能性もある。
 トランプ政権の短期的な狙いは、北米自由貿易協定(NAFTA)や米韓自由貿易協定(FTA)再交渉が「成果」をあげられないなか、秋に近づく中間選挙に向けた演出である。
 中長期的には、世界第二位の経済大国となった中国を抑え込み、譲歩を引き出すための術策でもある。
 スーパー三〇一条は、一九八〇年代の日米貿易摩擦時、日本に市場開放を迫る材料として繰り返し使われた。ただ、世界貿易機関(WTO)に抵触する可能性が高いため、歴代米政権は九五年のWTO発足後は発動していなかった。今回、中国に対して制裁が発動されれば、米国はこの「ルビコン川」を渡ることになる。
 まさに「米国第一」を掲げたトランプ政権が、世界、なかでも中国に対して「貿易戦争」を仕掛け始めたものにほかならない


諸国の反発で米国は孤立
 トランプ政権の暴挙に対し、主要な対象国となった中国は強く反発、在米中国大使館は「強烈な不満と断固とした反対」を表明した。さらに中国商務省は、ドライフルーツやワイン、鋼管など百二十品目に一五%、豚肉やアルミなどに二五%、総額三十億ドル規模の追加関税を課すことを検討していることを明らかにした。これは鉄鋼・アルミニウムの輸入制限に対抗するもので、知的財産権問題での制裁措置に対しても、別途、対抗措置を公表する可能性がある。
 すでに、中国は自国の構造改革を急いでおり、これを織り込んで、二〇一八年の経済成長率の見通しを「六・五%前後」に据え置いている。米中摩擦が貿易縮小、ひいては経済成長のマイナスにつながれば打撃で、四九年の「建国百年」までに「社会主義現代化強国」を実現する目標も危うくなる。米国の一方的措置に屈することはできないが、対米関係の決定的悪化も避けたいところで、悩ましいところである。
 鉄鋼・アルミニウムで当面の対象とならなかったEUやブラジルも、アルゼンチンのブエノスアイレスで行われた二十カ国・地域(G20)財務相・中央銀行総裁会議で、「保護主義が貿易を支配してはならない」(ショルツ独財務相)などと、強い対米不満を表明していた。
 これに対して、ムニューシン米財務長官は「(輸入制限は)保護主義ではない。不公正な貿易慣行に対応したものだ」などと、開き直って見せた。
 「米国第一」を掲げたトランプ政権の策動は、今回の措置で「終わり」ではない。中国への制裁措置、鉄鋼などの追加関税で「成果」があがらなければ、「手を替え品を替えた」攻勢が続くことになろう。
 それだけに、今回踏み込んだ「貿易戦争」の新局面は、従来の日米貿易摩擦、リーマン・ショック後に各国が行った自国産業保護政策などと比べても、世界経済に巨大で深刻な影響を与えずにはおかない。
 まず、リーマン・ショック後の米国経済の衰退が深い。それを基礎に、米国は他国に犠牲を押しつけ、第二次世界大戦後、自らが中心となってつくりあげた通商「秩序」を、破壊しようとしている。
 第二に、主な対象国が対米従属の日本ではなく、台頭する中国であることである。中国は自国の安定のためにも簡単な譲歩はできない。米国の側も、今回の措置だけで中国の台頭を抑え込めるとは思っていない。米国の対中通商要求は、南シナ海問題などの安全保障、サイバー問題などを含んだ、広義の「戦争状態」の一部だからである。
 第三に、対象国が中国にとどまらないことである。米国は危機脱出をかけて今回の措置に打って出たわけだが、他国への犠牲転嫁で米国内の産業が再生できるはずもない。米中間貿易の七割は、米国を中心とする多国籍大企業による企業内貿易であり、制裁は、米国企業にも「返り血」となるからである。トランプ政権の策動は、米国の衰退をさらに深め、国際的孤立も深刻化させるものとなろう。

売国外交のツケあらわ
 トラン大統領は、中国への制裁を命じる署名式で、日本に言及した。トランプ大統領は「(日本は)『米国をうまく利用してきた』とほくそ笑んでいる。そうした日々は終わりだ」と、安倍首相を名指しした。
 安倍首相の腹心である世耕経済産業相は、「日本の鉄鋼・アルミ製品は米産業界の役に立っているし、代替するものがあまりない商品」なので、「(日本が)品目別に除外される可能性はかなり高い」などと述べていた。世耕経産相は「日本も対象となる形で発動される措置は極めて遺憾」などと泣き言を述べたが、まさに「赤っ恥」をかいた格好である。
 安倍政権は、トランプ大統領の就任前から駆けつけて忠誠を誓った。大統領に「いい奴で私の友人」などと持ち上げられて有頂天になり、「日米は堅い絆で結ばれている」などと誇ってきた。その「努力」は、中国へのけん制強化で矢面に立ち、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視で「国際的提灯持ち」役を演じるなど、際立っていた。
 それでも、米国は日本を制裁対象から外さなかった。
 まさに目をおおうばかりの醜態であり、売国外交のあわれな末路である。
 今後、仮に日本製鉄鋼製品などが対象から外されたとしても、日米の二国間交渉で何らかの譲歩を迫られる可能性は高い。ライトハイザーUSTR代表は、日本とのFTA締結に意欲を示しているという。今後、麻生副総理とペンス副大統領による「日米経済対話」を軸に、農産物や自動車を中心に、米国の対日要求が強まろう。対米譲歩を行えば、わが国国民経済・国民生活はますます破壊される。
 わが国財界は気が気ではないだろう。
 日本から米国への鋼材輸出は約二百万トンで、国内生産量の二%にすぎない。日本製の高品質鋼材は、価格が上昇しても需要は減らないという観測もある。それでも、中国などの安価な鉄鋼製品が米国市場を失ってアジア市場に流入すれば、鋼材市況の悪化は必至である。また、鋼材の販売不振が鉄スクラップなどの周辺商品の価格下落を引き起こせば、わが国鉄鋼メーカーへの打撃は大きなものとなる。為替変動リスクもある。
 新日鉄住金の栄副社長は「(日本の鉄鋼)業界の共通の声として、自由貿易の立場から反対だし、日本政府は米政府に対してきちんと言ってほしい」と述べている。懸念は当然である。
 アベノミクスによる国民生活の悪化を基礎に、対アジア外交の行き詰まり、森友問題での改ざんなど、安倍政権を取り巻く環境は悪化の一途である。労働運動は、国民の苦難の根源である日米関係を打開するという鮮明な政治主張を掲げ、戦略的な闘いを準備しなければならない。  (O)


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