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2018年3月25日号 3面・解説

フェイスブック問題とは?

 「第2のロシアゲート」の可能性

  世界最大手のSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス、交流サイト)、米フェイスブックから、五千万人以上のユーザー情報が不正利用されていたことが発覚した。この問題は、巨大IT(情報技術)のデータ管理をめぐる国際的競争・争奪の問題というにとどまらず、米トランプ政権を揺さぶる「第二のロシアゲート問題」となる可能性をはらんでいる。


この問題は、英国のデータ分析会社「ケンブリッジ・アナリティカ」が、データをフェイスブックの規約に反する形で取得し、さらに利用したというものである。
 そもそも、フェイスブックなどのSNSは調査目的のデータアクセスを認めている。ほとんどのユーザーは意識さえしていないが、ユーザーの属性や行動、さらに友人の情報までもが周辺企業に渡り、画面に表示される広告などに反映しされる。
 たとえば「新車でドライブした」という友人のページに「いいね」を押した人は「自ら自動車を購入する可能性が高い」と判断され、自動車の広告が表示される、などである


トランプ政権に打撃与える
 今回のケースでは、フェイスブックと契約したコーガン・ケンブリッジ大学教授が、「調査目的」で取得した二十七万人(その友人を含めて五千万人)データをケンブリッジ社に不正に横流ししたとされる。
 つまり、今回の問題は、いわゆる「ハッキング」のような不正アクセスによる情報漏えいではない。
 ケンブリッジ社はコンサルタント企業で、二〇一六年の英国国民投票では「離脱派」に、米大統領選挙ではトランプ陣営で活動、ともに下馬評を覆す結果となったことで、業界で「名を上げた」企業である。
 そもそも、同社の設立には、トランプ氏の側近だったバノン元首席戦略官が関与していた。ケンブリッジ社のデータ入手先については、かねてから疑問を抱く声があったが、今回、元社員が不正入手を告白したことで明らかになった形だ。
 ケンブリッジ社は当初、「不正とは知らずに購入した」と説明していた。
 そもそも、コーガン教授がケンブリッジ社にデータを渡したことは「プライバシー侵害」である。ケンブリッジ社は、不正に得た個人情報に基づいて選挙戦略を実施したことは疑いない。英「離脱派」やトランプ陣営が、その相手に応じた形でアピールする政策を変えることで、投票行動に影響を与えた可能性もある。
 さらに、コーガン教授は旧ソ連の出身(現在は米国籍)で、フェイスブック上で、米国人ユーザーの心理的傾向を研究を行うことについて、ロシア政府から補助金を得ていた。
 ただでさえ、米国の「ロシアゲート問題」、英国での「元スパイ暗殺未遂事件」などで、米英はロシアとの関係に神経質になっているさなかである。
 米英当局は、コーガン教授によるデータ横流しに、ロシア政府の関与を疑っているのである。今回の事態を、新たな「ロシアゲート問題」と指摘する向きもある。
 こうなると、米英にとっては政治問題であり、安全保障上の問題である。すでに、英国情報委員会と選挙管理委員会、米マサチューセッツ州検事らが調査を開始したという。
 米英だけではない。ドイツでも、国内への影響を議会に報告するよう各党が要求している。欧州議会のタヤーニ議長も、独自の調査を行う方針を表明した。
 もちろん、トランプ政権には新たな打撃である。
 ただでさえ、トランプ政権は史上最低ラインの支持率にあえいでいる。そこにこの問題が発覚したことで、政権の正統性に対する疑問符はいちだんと大きなものとなった。
 トランプ政権は、中国などをターゲットとした通商政策に加え、政権浮揚のためにいちだんの巻き替えし策に打って出ざるを得ない。これは、世界に新たな波乱の種となる。

ブルジョア民主主義の実態
 選挙活動へのインターネットの利用は米国でも日本でも認められている。今回は、ネットによる選挙戦術の基礎となったデータが「不正に得た」ものであることが問題視されているわけである。
 それにしても、今回改めて明らかになったのは、選挙を請け負うコンサルタント企業が、有権者のありとあらゆるデータを(不正にであれ合法的にであれ)集め、人工知能(AI)などで分析し、相手に応じた広告表示などで投票行動を操作している事実である。
 AIなどの技術革新の進展とともに、こうした手口はさらに精緻化される方向である。こうして形成されたものが「民意」といえるのかどうか。
 ケンブリッジ社のニックスCEO(最高経営責任者)は、英国マスコミの「おとり取材」に対して、「賄賂などで政敵を陥れる戦術」を得意げに語ったという。かれが言い、自慢していることこそ「ブルジョア民主主義の正体」である。
 むろん、ケンブリッジ社のようなコンサルタント企業を雇うには、膨大な資金が必要である。ブルジョア民主主義は要は「カネ次第」で、財界の意を受けた政党にますます有利なものなのである。

ITめぐる国際競争の激化
 問題となったフェイスブックは、ケンブリッジ社の規約違反が問題であるとして、当初は自らの責任を否定した。フェイスブックは横流しを知った二〇一五年にデータの消去を求めたとするが、データは最近まで残っていた(だから米大統領選挙に利用できた)。コーガン教授やケンブリッジ社などのアカウントが停止されたのは、この問題がマスコミ報じられると分かってからだ。十億人のユーザーを抱える世界最大手の企業としては、データ管理上のずさんさを批判されるのは当然である。
 批判にさらされたフェイスブックは、外部企業に提供する個人情報の範囲を狭めることを約束したが、それでも、氏名、顔写真、生年月日、所属組織、メールアドレスといった中核的な情報は提供され続ける。元社員や一部の企業がこれを批判し、「フェイスブックからの退会」を呼びかけている。
 だが、こうしたITサービスとまったく無縁に生活することは、先進諸国人民ならずとも、もはや容易ではない。
 フェイスブックだけでなく、グーグルやアマゾンなどの米巨大IT企業は、膨大な個人情報を集積、利用することで利益をあげている。今回の事態を機に、巨大IT企業への規制強化、さらにその地位をめぐる国際競争がいちだんと激化している。
 ネット上での米巨大企業による事実上の独占体制(ニューモノポリー)に対し、欧州連合(EU)は厳しい態度で対抗している。
 一六年四月に制定された「一般データ保護規則」(GDPR)がそれで、域内での個人データの処理に関するルールを定めた規則である。EU域内で活動する企業は、個人情報を一定期間を超えて保持し続けることは禁じられ、域外への個人情報の移転もできないなどの内容となっている。
 これによれば、個人情報保護法制のない米国はもちろん、EUの基準からすれば「適切な個人情報保護制度を有していると認められていない」日本に対しても、情報の移転はできない。EU域内で活動する外国企業は標準契約条項の締結など、新たな要件を満たさなければならない。
 またEUは、巨大IT企業への課税を強化する「デジタル税」の導入も検討している。
 中国も、一七年六月に「インターネット安全法」を施行、個人情報の国内保存と、自国外に持ち出す際の当局による審査を義務づける姿勢をとっている。
 今回の事件を機に、規制はさらに厳しくなろう。
 こうした規制は、本来、独立国であれば当然のことである。個人情報は「プライバシーの保護」という観点からだけでなく、安全保障上からも重要な問題だからである。
 何より、ITや技術革新をめぐる国際競争がますます激しくなっていることが背景にある。この点で、阿里巴巴集団(アリババ)、騰訊(テンセント)、百度(バイドゥ)などの中国の巨大IT企業は、米国企業を急速に追い上げている。
 だが、巨大IT企業の技術や集積するデータは、こんにち、米帝国主義の世界支配のための重要な道具の一つである。米国は、一定以上の規制強化を断じて受け入れないだろう。
 日本の現状はまったく「無防備」で、米巨大企業にいいように情報を取られ、収奪されるのみである。EUや中国の態度に対しても、受け身の対応しかできていない。
 この問題でも、わが国の対米従属はきわまっている。せめてEU並みの個人情報保護方針を実施し、米巨大企業を規制すべきである。       (K)


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