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2018年3月15日号 3面・解説

イタリア総選挙、ドイツ大連立

 政治リスクはさらに大きく

  欧州政局をめぐり、相次いで注目される動きがあった。三月四日に上下両院選挙(総選挙)が行われたイタリアでは、過半数を制する勢力がなく、政権づくりは混迷している。同日、ドイツでは大連立政権で正式合意が行われたが、欧州支配層の「安心」は一日ももたなかった。リーマン・ショック、さらにソブリン(国家債務)危機、難民問題などを経て、欧州の政治リスクがいちだんと拡大している。


伊、緊縮策への不満が背景
 イタリア総選挙では、与党・民主党を中心とする「中道左派連合」が破れ、「反緊縮」や欧州連合(EU)への懐疑論を唱える「五つ星運動」が第一党となった。
 議席数の確定はまだだが、下院(代議院、定数六百三十)では、「五つ星」が約二百四十議席と議席を倍増させ、議席数の約三分の一以上を占めた。第二党は、「反移民」を掲げる「同盟」(旧北部同盟)で約百二十(約六倍化)、ベルルスコーニ元首相の率いる「フォルツァ」と組んでの「中道右派連合」としては第一勢力(約三七%)で、計約二百二十議席となった。中道左派は約百十議席(三分の一に減)にとどまった。
 上院(元老院、定数三百十五)の結果も、ほぼこれと同様のものとなった
 中道左派、「五つ星」、中道右派とも、両院の過半数を獲得できなかったが、「五つ星」と「同盟」という広義の「欧州懐疑派」の得票が過半数となった


改革政治への不満が噴出
 民主党のレンツィ前政権は、ソブリン危機で誕生したモンティ政権(二〇一一年十一月〜一三年四月)による緊縮財政策を引き継ぎ、増税や公営企業の民営化、解雇を容易にする労働法制改悪といった改革政治を進めた。労働組合や民主党内の旧共産党系議員は、反発しはしたが、押し切られた。
 レンツィ首相は改革政治をさらに進めようと、一六年、上院の権限を縮小する憲法改正案を国民投票に委ねた。だが、これは積リに積もった国民の不満が噴き出して否決され、首相は辞任に追い込まれた。
 後継にジェンティローニ首相が登場したが求心力はなく、離党者が続出した。しかも、世界経済全体の成長率低迷を背景に、イタリアも低成長が続き、失業率が約一一%に上昇、青年層は三割に職がない状態である。
 この不満をすくい取ったのが、「反緊縮」を唱えた「五つ星」であった。「五つ星」は、貧困層の多い南部を中心に支持を広げた。貧困層の多いシチリア島では、「五つ星」の得票率が五〇%に達した。一方、中東・アフリカ北部などから押し寄せる移民に責任を転嫁した「同盟」も、北部の中間層の支持をかすめ取った。
 欧州連合(EU)本部の官僚などは、選挙結果、とくに「同盟」の躍進を「まったくの予想外」と、衝撃を受けたという。

連立交渉の難航は必至
 イタリアでは、上下両院合同会議で選出される大統領が、首相の任命権を有している。通常であれば、現職のマッタレッラ大統領が、いずれかの党首を首相に任じて組閣を命じ、連立工作が行われる。「五つ星」か「同盟」に首相の任が下る可能性が高い。
 だが、対EU、移民、社会保障制度を中心に、政党間の政策の差は大きい。どの政党の組み合わせでも、上下両院の過半数を確保するのは容易ではない。「五つ星」は「ポピュリズム(大衆迎合主義)政党」とのレッテルを張られており、連立政権を組む環境は良くない。第一党の「五つ星」を除外しようとすれば、他の政党すべてが大連立を組む以外には多数を占められない。他方、第二党の「同盟」はその極右的言動から内外に警戒感が強く、これも容易ではない。
 連立工作は先が見えない状態で、どの連立になっても、与党となった政党は多少なりとも支持者を裏切らざるを得ず、不満を高めざるを得ないことになる。
 今後のイタリア政局は不安定さを増す。少数与党、あるいは再選挙によるいちだんの「政治空白」、さらに、モンティ元首相(経済学者、米ゴールドマン・サックス顧問)のように、政党人ではない金融資本家の代理人が直接に内閣を組織して危機乗り切りを図る事態も予想される。
 主要七カ国(G7)構成国であり、ドイツ、フランスとともに欧州統合の軸となることをめざしてきた民主党、さらに「フォルツァ」が後退したことは、欧州情勢全体に影響を与える。政治の不安定さは、経済にも響かざるを得ない。

独は「ポスト・メルケル」
 ドイツでは、社会民主党(SPD)の党員投票の結果、キリスト教民主・社会同盟(CDU・CSU)との大連立が承認された。昨年の総選挙後、五カ月の「政治空白」を経て、第四次メルケル政権が発足した。
 問題は、CDUもSPDも党勢を後退させたなかでの連立であることである。前一三年の総選挙では、両党の得票率は計六七%を超えていた。だが昨年の総選挙では、これは約五三%にまで低下している。
 二大政党とも、党勢を後退させるなかでの連立なのである。
 すでに、CDU内では「ポスト・メルケル」をめぐる争いが表面化している。移民政策をめぐり、AfDの主張に接近する動きもあり、メルケル政権は揺さぶられよう。
 大連立の代償として、副首相兼財務相と外相の座を得たSPDも、この地位を利用して、政権内で「独自性」をアピールしようとするだろう。大連立に反対した、青年層を中心とする党内の約三分の一の勢力の要求も考慮しなければならないからである。労働運動を議会制の枠内に抑え込む役割を果たしていたSPDの影響力低下は、ドイツ支配層にとっては「頭痛の種」でもある。
 また、「反移民」を唱える極右「ドイツのための選択肢(AfD)」が野党第一党(議席占有率は約一三%)となった。AfDは昨秋の総選挙で不満の受け皿となり、最近の一部世論調査では、SPDの支持率を上回るほどになっている。
 第四次メルケル政権もまた、盤石ではない。 

政治リスクの様相広がる
 リーマン・ショック以降の危機はますます深い。情勢発展の主要な要因は、依然として経済であるが、地域や国によっては、要因は政治などの上部構造に移っている。
 グローバル化にともなう格差拡大に不満を募らせていた全世界人民は、危機の中でいちだんと収奪され、貧困化させられた。かれらは既存の政党・政治への不満を募らせ、デモやストライキとして、あるいは議会制度の内部で抵抗の意思を示している。
 それを端的にあらわしたのが、一六年の英国国民投票での「EU離脱」であり、年末の米国でのトランプ政権誕生であった。トランプ政権は「米国第一」を掲げ、零落したラストベルト地帯の労働者の要求をかなえるかのように装って、政権にありついた。
 今回のイタリア総選挙は、こうした流れが広がっていることを示したし、欧州の中心国であるドイツも例外ではないことが示された。
 各国支配層は、ますます政権維持に汲々(きゅうきゅう)とせざるを得ない。マスコミなどは「ポピュリズム」と一括するが、その背景には人民の不満の高まりがあり、その受け皿になろうとし、あるいは不満を利用しようとする、新たな諸政治勢力が台頭している。
 結果、欧州諸国は自国の安定に精一杯である。他方、トランプ米政権は輸入鉄鋼への保護関税など、世界に「貿易戦争」を仕掛けている。安倍政権は、中国や朝鮮民主主義人民共和国への敵視をあおることで、国民の不満をそらそうとしている。
 手法に多少の違いはあれ、これらは同じ、危機という基礎の上で起きていることである。
 世界の支配層は、議会制民主主義によって労働者・人民を欺まんすることが「最善」(かつてレーニンは『国家と革命』で『民主的共和制は、資本主義の最良の政治的外皮』と言った)のものかどうか、ますますジレンマを深めざるを得ない。一足飛びに、かつてのファシズムのような形での政治支配をもくろむとは考えづらい。だが、それも少し考慮されていることは、欧州各国での極右勢力の前進にあらわれているといえないだろうか。
 政治リスクが、ブルジョア民主主義の枠内にとどまれば、曲折はあれ、多国籍大企業を中心とする支配層による政治支配は維持されよう。欧州諸国のみならず、先進諸国で労働者階級が政治的に前進できれば、別の様相となる。世界の情勢の推移は、この競い合いにかかっている。(K)


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