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2018年2月25日号 2面・解説

米国発の急変で日本の
財政もクローズアップ

 焦る財界、自民党内の分岐も

  二月初旬、米国の株価急落をきっかけとする世界経済の新たな変動は、膨れあがり、今後も増大することが確実な米政府の累積赤字に対する、投資家の懸念をきっかけとしたものである。日本も他人事ではないどころか、財政危機は先進国中もっとも深刻で、「米国発」の「津波」が襲いかかる可能性がある。財界・支配層は財政問題への危機感を膨らませており、これは政治、とくに自民党総裁選挙に反映せざるを得ない。


 米国の財政危機を最大の要因とする株式市場の激変は、世界、日本の株式市場を揺さぶった。円・ドルなど為替相場も変化している。株価急落は米国における長期金利の上昇を直接のきっかけにしたものだが、この背景は、米政府の累積財政赤字の増大である(3面参照)。今後、トランプ政権による大減税とインフラ投資や軍事費増加によって、米国の財政赤字はさらに悪化することが確実である。
 また、米連邦準備理事会(FRB)は、リーマン・ショック後の金融緩和政策の「出口」をめざし、政策金利の暫時引き上げと、緩和政策で購入した膨大な国債や不動産担保証券の売却を始めている。これが、国債市場の需給関係を変動させている。
 もう一つ、見かけ上、米雇用統計が改善している。
 これらはいずれも、十年物国債の利回りに代表される長期金利を押し上げる要因となる


日本での金利上昇の危険性
 こんにち、FRBだけでなく、欧州中央銀行(ECB)やイングランド銀行、中国人民銀行も金融引き締めに動きつつある。リーマン・ショック後、一斉に緩和に動いた諸国中央銀行の金融政策は分化し、長期金利の先行きは不透明になっている。
 従来、先進諸国、とくに日本の長期金利は、米国のそれに連動して上下動する傾向があった。黒田日銀が「異次元の金融緩和」を始めて以降、多額の国債買取によって連動が崩れることが多くなった。だが、基軸通貨国である米国の金融市場の巨大さ、わが国の対米従属性を鑑みれば、中長期的に連動が「回復」してもおかしくない。
 そもそも、一二年の成立した安倍政権が「三本の矢」を採用したのには、公共事業を中心とする経済対策への支出を、金融緩和でファイナンスする意図が大きかった。さらに日銀は、一六年には十年物国債の利回りをゼロに誘導するマイナス金利政策を導入し、現在も続けている。
 国債市場を介してではあれ、日銀は緩和政策で多額の国債を購入し続けることで、長期金利を意図的に引き下げているのである(国債価格の上昇は利回り低下と同義)。
 この政策は、今年中にも、「日銀が市場から買い取れる国債がなくなる」といわれるほどに、限界に達している。
 一方、すでにわが国政府の累積債務は、国内総生産(GDP)の約二五〇%にも達している。本来、ソブリン(国家債務)危機に陥ったギリシャのように、長期金利がいつ急上昇してもおかしくない状況である。
 近い将来、何かのきっかけで、日銀が抑え込んでいる、長期金利が上昇することは大いにあり得る。仮に、十年物国債の金利が一%上昇するごとに、政府予算における国債費支出は三・六兆円も増える。二〇一八年度予算案における国債費は二三・三兆円なので、長期金利の一%上昇で、国債費負担は一五%も増える計算である。
 わが国の財政破綻と、それによる「悪い円安」と物価高騰、金融危機と大量の企業倒産、大失業という破局が近づいている。

改革を求める財界
 多国籍大企業が主導するわが国財界は、とくに一九九〇年代から、政治に財政再建を求めてきた。多国籍大企業にとって、政府支出は一種の「経費」だからである。激化する国際的大競争に勝ち残るためには、これを削減することで、身軽で強力な「小さな政府」を実現する「改革」に迫られた。
 九〇年代末の橋本政権による「六大改革」、二〇〇〇年代の小泉政権による「聖域なき構造改革」は、この要求に応えるためのものであった。とくに小泉政権下では、奥田・トヨタ自動車会長が直々に加わって政策提言を行う「経済財政諮問会議」が司令塔となり、社会保障制度改悪や郵政民営化などを強行した。
 だが、改革政治は国民生活を悪化させ、労働者・国民の不満は高まった。手直しが迫られたのである。
 〇六年に登場した第一次安倍政権は、小泉政権時の「改革なくして成長なし」に代わって、「成長なくして改革なし」と言わざるを得なくなった。一二年以降の安倍政権は、途中のリーマン・ショックや東日本大震災による国民生活のいちだんの悪化もあり、基本的に「成長なくして…」の方向性を維持している。
 アベノミクスの「三本の矢」は、これを実行するための手段であった。「デフレ脱却」のための大規模な金融緩和と財政出動を行い、その間に「成長戦略」で経済成長を実現することで次第に財政再建を進め、「強い日本」を実現することが、当初のもくろみであった。
 「三本の矢」の一つである「機動的財政政策」は、「当初は財政出動、いずれ財政再建」だったのである。実際、安陪首相のブレーンである竹中平蔵・慶応大教授らは、そう説明していた。
 だが、アベノミクス開始以降五年以上を経、史上空前の金融緩和と度重なる財政出動にもかかわらず、日本経済は「デフレ脱却」には遠い。リーマン・ショック後の危機はさらに深まり、外需依存のわが国経済は浮上できない。国民の生活と営業は悪化の一途である。金融緩和も限界に達し、財政危機はますます悪化した。
 経済財政諮問委員会によれば、基礎的財政収支(プレイマリーバランス、PB)黒字化年度を二七年に先送りしている。だが、依然として甘い成長率の見通しが前提であり、安倍政権自身も信じていないものである。

焦りを深める財界
 わが国多国籍大企業は、アベノミクスによる円安や資産価格の上昇で空前の利益を上げている。それでも、財政危機の深刻化へ危機感を強めている。
 経団連は昨年十月の総選挙後、安倍政権に「デフレ脱却と経済再生を確実に実現」することと併せ、「構造改革、社会保障制度改革や財政健全化などの痛みを伴う改革」を不可欠なものとして要請した。具体的には、政府歳出の「目安」達成、社会保障制度改悪、一九年秋の消費税再増税、法人実効税率の引き下げなどである。
 経済同友会は今年一月、より率直に、PB黒字化年度を延期した安倍政権に注文を付け、「消費税を二、三%上げただけで財政再建ができるはずがない」「(政府目標の二七年まで)日本の財政は耐えられるだろうか。どれだけ債務が貯まっていくか、金利が上がった時に金融市場がそれを許してくれるのかも含めて、もう少し精緻に議論するべきだ」(小林代表幹事)と述べている。
 財界人自身が、本稿ですでに述べた通りの危機感を表明しているのである。
 財界の危機は、二月からの「米国発」の変動によって、さらに切迫したものとなっていることは疑いない。財界からの政治・政党への要求は、今後さらに強まることになる。 

総裁選めぐり流動化
 こうした財界の危機感は、政治に鋭く反映している。
 仮に、旧民主党のような二大政党制的な状況であれば、その党が「財政再建」を掲げて自民党に対抗したかもしれない。だが、旧民進党諸派が結集するには遠いし、勢力も小さい。
 この状況ではなおさら、財界の要求は自民党内に反映する。
 岸田政調会長は、党内の「財政再建に関する特命委員会」を主導、財政再建をめぐる議論を始めている。岸田は衆議院予算委員会でも、関連の質問で安倍首相を問いただしている。さらに、石破元幹事長や野田総務相も財政をめぐり、安倍政権のPB黒字化目標に懐疑的な発言を行っている。
 財政問題が、「ポスト安倍」の主要課題・争点の一つに浮上していることは間違いない。
 これと併せ、安倍政権の政策による国民生活の悪化や、トランプ米政権からの激化する通商要求、対アジア外交や憲法改悪問題も影響を与え、与党内の矛盾は深まり、「安倍一強」体制は揺さぶられている。
 敵の「内輪もめ」は、労働者階級にとっては一般的に有利である。
 国民大多数の生活難からくる不満や怒りに依拠して国民的戦線を形成し、主導権を握って闘わなければならない。先進的労働者は、戦略的闘いに備えなければならない。    (K)


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