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2018年2月15日号 3面・解説

世界的株価急落
 「緩やかな回復」の誤り証明

 リスク拡大、日本にも波及

  米国ニューヨーク市場のダウ工業株三十種平均が二月二日、二〇〇八年十二月以来の六百六十六ドル急落を記録した。これを契機に、世界的な株価の下落と乱高下が続いている。この事態は、リーマン・ショック後、先進諸国を中心に進めてきた金融緩和政策のツケである。「緩やかな回復」という政策当局者の宣伝は事実によって打ち破られ、世界経済の不安定性はさらに増し、いちだんと深刻な局面に入った。


 米国での株価下落は、直ちに全世界に波及した。
 日本ではその後の一週間で八%以上、中国でも九%以上も株価が下落した。これは、米英よりも大きな下落率である。韓国やインドネシアなどアジア諸国も同様で、ドイツでも日本と同程度に下落した。
 全世界の株式時価総額は、九日までの一週間で約五兆ドル(約五百四十兆円)も減った。ほぼ日本の国内総生産(GDP)に等しい「価値」が吹き飛んだことになる


危機対応策のツケ
 株価下落の直接の理由は、一月の米国雇用統計が予想を超えて「好調」だったことにより、投資家の間にインフレへの懸念が広がり、長期金利が四年ぶりの水準(一時二・八五%)に上昇した(国債価格は下落)ことである。トランプ政権が大規模な軍備増強とインフラ投資、大型減税を打ち出したことで、いちだんと財政が悪化するという予想、さらに連邦準備理事会(FRB)による金融緩和の「出口」も、長期金利を押し上げる方向に働いた。
 これらにより、投機マネーが株式から離れたわけである。
 だが、問題はより長期的なものである。
 リーマン・ショック後、米国をはじめとする先進諸国は危機に対処するため、財政出動と併せ、空前の金融緩和政策を行った。これにより、FRBの資産規模は約五倍の四・五兆ドルにまで急増した。欧州中央銀行(ECB)、日銀、イングランド銀行なども大規模な緩和策を採った。
 この政策により世界には投資マネーがあふれ、株式などの資産価格は上昇した。米国ではこれに加えて、昨年末以来、大減税への期待も加わり、株価が急上昇していた。国債価格も中央銀行の買い取りで上昇(金利は低下)、「債券バブル」といえる状況となった。昨年夏、グリーンスパン元FRB議長が「バブルは株ではなく債券にある」と述べたことには、根拠がある。世界の債券の一七年末の時価総額は百六十九兆ドル(一京八千四百兆円)、リーマン・ショック前から四割も膨らんだ。
 新興諸国にも膨大な資金が流れ込んだ。新興諸国は、膨大なドル建て債券の起債などによって、成長率を押し上げた。多国籍大企業や世界の富裕層はさらに豊かになったが、大多数の人民は貧困化し、格差は極端に開いた。
 各国支配層は、リーマン・ショックに至る住宅バブルを引き起こしたのと同じ手法、つまり、金融緩和で新たな資産バブルをつくり出すことで危機を乗り切ろうとしたのである。

切り抜け策の限界路程
 こんにち、こうした危機切り抜け策は、中央銀行の資産規模急拡大で限界に達した。実体経済は低成長を脱することができず、つり上がった資産価格の急落による「バブル崩壊」も懸念されるようになった。日本を除く中央銀行は、金利引き上げと膨らんだ資産規模の圧縮(買い取った国債などの売却)に転じざるを得なくなった。FRBは、昨年十月から資産規模の縮小を始めている。
 世界経済について、国際通貨基金(IMF)は「緩やかな回復」を、投資家は「適温経済」などと言ってきた。今回の急落を経ても、米金融当局者は「健全な調整」(カプラン・ダラス連銀総裁)などと強気である。市場の鎮静化を狙った政治的発言であるとしても、逆に、「利上げが続く」と投資家に受け取られ、株価下落に拍車をかける事態となっている。株式市場の激変をはじめとするリスクの拡大は、遠からず実体経済に波及し、さらなる成長押し下げ要因となろう。
 「緩やかな回復」「適温経済」は事実によって打ち破られた。意図的にバブルをつくり出すことによる、世界の支配層の危機切り抜け策は、完全に行き詰まった。

米国の危機は深まる
 今回、急変の引き金の一つになった米国の財政赤字拡大懸念は、ますます拡大する。すでにGDP比で一〇〇%を超えている米国の累積財政赤字(約二十兆ドル)は、さらに増大し、単年度赤字も一兆ドルに近づく。
 米議会予算局(CBO)の試算によると、大型減税を実施するだけで、財政赤字は十年後には一・八兆ドルも増える。さらに、インフラ投資の一・五兆ドル(十年間、国庫負担分はこの二割以下にするというが…)と、一九年度で七千億ドル(約七十五兆四千三百億円、前年比約七%増)以上もの軍事費(シリア内戦への介入軍費などを含む)が加わる。軍事費は、約二万五千人の兵員増員、原子力潜水艦二隻を含む十隻の新造、小型化など核兵器開発といった、中国、ロシアを意識した内容が含まれる。
 米政府は、従来以上に国債を大量増発することで、これらの資金を調達することを迫られる。
 昨年はFRBが三回利上げしたが、金利は上昇しなかった。インフレ傾向が低迷していたこととだけでなく、日銀など他の主要中央銀行による大規模な債券買い入れが続いていたことが影響していた。だが、日銀を除けば、ECB、さらに中国を含む主要国の中央銀行は政策金利を引き締める動きを強めており、中銀が債券を買い入れる余地は小さくなっている。
 長期金利の上昇は避けがたい。国債発行額の上限とつなぎ予算案をめぐる議会の動向も、リスクを大きくさせる。
 これらは、株式市場にとってマイナス材料というだけでなく、企業業績にとっても金利負担の増大となって足を引っ張る。住宅ローン金利も上昇し、米国の消費行動に負の影響を与える。
 今回の市場混乱をもたらした要因は、「経済再建」を進めるトランプ政権の政策によって、さらに拡大することになる。

世界、日本にも大津波が
 さらに、FRBの資産規模縮小(出口)などの金融政策の推移、米金利や為替相場の動向によっては、膨大なドル建て債務を抱える新興諸国の返済負担が増大し、資金流出による危機に直結しかねない。国際金融協会(IIF)によると、新興国二十一カ国の債務残高は、〇五年の十二兆ドル(約一千三百兆円)から、約六十兆ドルと五倍に急増、対GDP比でも一四六%から二一七%に増えている。
 とくに、中国やトルコ、韓国、ポーランドなどで拡大している。
 新興国の一部、とくに外貨決済手段の乏しい非資源途上国や、ギリシャなどの過重債務国は資金流出に直面し、一九九〇年代末のアジア通貨危機や、二〇一一年前後の欧州「ソブリン(国家債務)危機」と似た危機に陥る可能性がある。
 具体的には、企業倒産と大失業、物価上昇と債務不履行(デフォルト)である。これを切り抜けるための大増税、公務員削減、社会保障制度改悪などは、人民の生活をさらに困窮させ、階級闘争を激化させる。
 日本に対する影響は、米国市場からの波及による株価下落や長期金利の上昇、円高などの為替変動、企業収益の下押しなどとしてあらわれる。まさに「大津波」で、わが国経済はますます、「デフレ脱却」どころではない。
 経済的なことだけではない。
 「米国第一」を掲げるトランプ政権は、これまでの通商や武器購入といった対日要求に加え、米国債の追加購入など財政上の負担も要求してくる可能性が高い。
 これまでも、一九九〇年代の日米構造協議による六百四十兆円規模の公共事業など、わが国政府は、米国の要求を受け入れてきた。この結果、日本の政府累積債務はGDPの約二五〇%に達し、先進国中最悪である。
 低金利の現在でさえ、国債費は国家予算の約二四%を占め、安倍政権が削減対象としている社会保障費を上回る勢いである。長期金利が一%上昇するだけで、政府予算での国債費負担は三・六兆円も膨らむ(二〇二〇年度予測)。日本の国家財政は、「米国発」の津波も相まって、破綻が近づいている。
 わが国国民経済、国民生活はますます米国に収奪され、貧困化することになる。国の独立がなければ、危機の切迫に対処できないことは、ますます明白である。       (O)  


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