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2018年2月15日号 2面・解説

朝鮮敵視強める安倍外交

 対中けん制も狙った包囲網づくり

  平昌冬季五輪を機に、南北朝鮮による対話の機運が高まっている。米国による朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視と包囲が強まるなか、平和と統一を求める南北政府・人民の努力を支持することが重要である。だが、安倍政権は米国の先兵役としてこの動きを妨害する恥知らずな態度を取っている。ここには、台頭する中国をけん制する狙いも含まれている。アジアと共生する国の進路を実現する上で、安倍政権との闘いを強化しなければならない。


 一月の金正恩・朝鮮労働党委員長による「新年の辞」以降、それに続く南北高位級会談の開催と冬季五輪への朝鮮選手団の参加など、南北対話が急速に進展した。
 安倍政権とその意を受けたわが国マスコミは、この快挙を貶(おとし)める恥知らずな態度に終始している


韓国が内政干渉に反発
 安倍首相は二月九日、韓国を訪問して文在寅大統領と会談した。両首脳は朝鮮への「圧力を最大限まで高めていく」方針で合意したとされる。
 安倍首相は、「核・ミサイル」を口実とした朝鮮包囲の米日韓同盟が揺らぐことを恐れる米国の意を受ける形で、文大統領に「クギを刺す」ことを狙ったのである。安倍首相は「対話のための対話には意味がない」と、トランプ米政権と同じ表現で文大統領に迫った。
 五月に地方選挙を控え、政権基盤が盤石ではない文政権は、ひとまずこれに応じた。他方、「米韓合同軍事演習の早期開催」を求めた安倍首相の要求は、「韓国の主権の問題で内政に関する問題」「安倍首相がこの問題を直接取り上げるのは困る」としてはねつけた。韓国が、安倍政権による内政干渉をはねつけたのは当然である。
 そもそも、自国の「指導部打倒」のための「斬首作戦」まで含む合同演習に対し、朝鮮が反発するのは当然である。朝鮮は従来から、毎年の軍事的緊張を強いる同演習の中止を求めてきた。朝鮮による弾道ミサイル発射も、自国の眼前で強行される軍事演習をけん制する狙いが大きかった。
 文大統領はこのことを知っているからこそ、五輪成功のためにも、ひとまず演習の「五輪後」への延期を米国に求めたのである。
 文大統領の安倍首相に対するき然とした態度は、韓国の野党議員も支持している。「何様のつもりでそのような内政干渉をするのか」と、安倍首相を批判する声が上がっている。韓国国内の世論のおおかたも同様である。
 韓国との間には、従軍慰安婦問題をめぐる懸案も残った。朴前政権時代の「日韓合意」は日本政府の謝罪も十分な補償もない「最終決着」であり、韓国国民の大多数が受け入れなかったのは当然である。
 ここでも、安倍政権は「合意」の見直しを拒否し、韓国人民の心情を逆なでしている。
 安陪首相は韓国に「クギを刺す」どころか、さらに信頼を失う結果となった。

平和と統一は南北共通
 朝鮮が韓国での五輪開催を機に「外交攻勢」をかけるのは当然のことである。金委員長の妹である金与正氏を派遣したのは、その本気度を示す意図もあろう。金与正氏は、芳名録に「統一繁栄の未来が早く訪れることを期待します」と記したという。
 文政権は朝鮮側の意思を知っているからこそ、朝鮮の求めに応じる形で、金委員長との首脳会談を行う用意があると表明したのである。
 首脳会談の開催には「適切な条件が整備され、一定の成果が保証されなければならない」という文大統領の言葉は、五輪を機に、その整備を主体的に進めようという、韓国政府の主体的意思を込めたものとも理解できる。
 米トランプ政権が朝鮮への包囲網を強化していることによって、朝鮮半島情勢は極度に緊張している。
 万が一にも武力衝突が起これば、最大の被害を受けるのは、朝鮮を除けば韓国である。文政権が同一民族が争うことになる戦争を避けようとするのは当然である。これは、悲願である南北統一を実現するためでもある。
 この感情は、朝鮮はもちろん、韓国でも、保守勢力でもかなりの部分を含めて共有しており、二〇〇〇年の南北共同声明以降、とくに確固たるものとなっている。文大統領は、それを代弁しているにすぎない。
 わが国政府は、南北朝鮮の対話を支持すべきである。

「国際的世論」狙う策動
 安倍政権は南北朝鮮人民の感情を知ってか知らずか、これに背を向け、水をかける態度を続けている。
 安倍政権、とくに河野外相は、諸国首脳との会談で朝鮮敵視の「国際的世論」をつくるべく策動を強めている。
 外相は今年に入ってからだけでも、フランス、オランダ、カナダ、シンガポール、ブルネイ、アラブ首長国連邦(UAE)、パキスタンなどの首脳と会談し、「朝鮮への最大限の圧力強化と国連安全保障理事会の制裁決議の完全履行」を吹聴して回った。アジアの貿易中継地であるシンガポールには、制裁の「抜け穴つぶし」まで求めている。国連安全保障理事会非常任理事国で朝鮮制裁委員会議長国であるオランダには、「緊密に連携」することを求めた。南アフリカの島国であるコモロや、デンマークの自治領であるフェロー諸島にまで朝鮮包囲への参加を求めている。
 カナダのバンクーバーで一月に開かれた、朝鮮の核・ミサイル問題に関する外相会合でも、「朝鮮の『ほほ笑み外交』に目を奪われてはならない」(河野外相)などと、米国の先兵として振舞った。
 中国の楊国務委員(外交担当)や王外相にも、「制裁決議の完全履行」を迫ったが、温度差は隠しようもなかった。
 まさに、南北対話に背を向け、朝鮮包囲の「国際的世論」づくりに狂奔しているといってよい。
 政府・自民党幹部や「産経新聞」などマスコミも「韓国が朝鮮に取り込まれている」などと五輪に難クセを付けている。
 こうした政府やマスコミの態度は、朝鮮民族の悲願を知らぬ自らの無知と、日本が朝鮮戦争などで分断に手を貸してきたという歴史に目を閉ざす、恥知らずぶりを自己暴露するものである。 

中国への対抗も意図
 安倍政権による執拗(しつよう)な朝鮮敵視と南北対話に対する悪罵(あくば)は、台頭する隣国・中国へのけん制を意図したものでもある。
 米国は歴史的に、朝鮮半島問題を、中国、あるいはソ連(ロシア)に対するけん制材料として利用してきた。いまだ休戦状態で終了していない、朝鮮戦争も同様である。こんにちのトランプ政権も、朝鮮への制裁で中国の負担を強いている。
 河野外相が今年に入ってから歴訪、会談した諸国を振り返るだけでも、それは明らかである。
 パキスタンは、中国と関係が深く、中国が掲げる国際戦略である「一帯一路」構想でもすでに大規模プロジェクトを進めている。コモロは「一帯一路」の海側終着点であるアフリカ東岸にあり、フェロー諸島や近隣諸島には中国資本の進出が盛んである。オランダやフランスも、「一帯一路」の陸側の終着地である。
 「一帯一路」構想への「条件付き協力」を打ち出している安倍政権だが、中国へのけん制、対抗は片時も忘れていないのである。

支配層内の矛盾激化必至
 米国の先兵役を演じる安倍政権だが、その米国の態度は単純ではない。
 「ワシントンポスト」によれば、ペンス副大統領は文大統領との会談で、「圧力継続」を明言しつつ、「平昌以後の南北対話」を支持し、米国が朝鮮との条件なき対話に臨む意思を示したとされる。そのまま信じることはできないが、米国の国内事情や対中関係の推移と絡んで、「条件なき対話」の可能性を排除することはできない。
 だからこそ安倍政権も、金永南・朝鮮最高人民会議常任委員長と握手、会話するという態度も取った。日中韓首脳会談の開催を急ぐなど、中国との「関係改善」を印象づけようともしている。
 わが国は日米同盟の枠内にあり、要は「米国次第」で、こうした「改善」はあらかじめ「限界付き」である。それでも、安倍政権が振りまく欺まん的態度には警戒を怠ってはならない。 安倍政権が米国の先兵として振る舞うことに対して、保守層を含む広範な国民に不安と不満が高まらざるを得ない。
 朝鮮半島での戦争はもちろんだが、中国との関係悪化は、財界でさえ恐れるところである。
 国の進路をめぐる政治闘争は、さらに激化せざるを得ない。独立・自主の国の進路を掲げた闘いは、ますます喫緊の課題となっている。       (K) 


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