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2017年12月15日号 2面・解説

政府、「新たな経済対策」などを決定

 消費税増税、生活保護
削減などが前提

  政府は、十二月八日、「新たな経済政策」を閣議決定した。さらに、自民党と公明党の税制調査会は、二〇一八年度の税制改正方針で一致した。
 これらは、アベノミクスによる「デフレ脱却」、とりわけ「人づくり革命」による生産性向上を目標とするものである。
 これらの施策をめぐっては、支配層はマスコミを使って幼児教育の一部無償化、低所得者への高等教育無償化などばかりにスポットをあて、注目と政策への支持をあおっている。
 だが、子細に見ると、わずかな「エサ」と引き替えに、国民負担はいちだんと増し、国民生活を改善できるはずもないのが実態である。

増税案次々と
 まず、自公与党の税調が合意した一八年度税制改正では、所得税改革が「目玉」となっている。
 給与所得控除を見直し、子供や要介護者がいない年収八百五十万円以上の勤労者に増税する。現在、給与所得者に占める割合は四%程度である。これは、消費税増税の際の軽減税率の財源の一部となる。一方、二千四百万円以上の高所得者を除き、基礎控除(現行は納税者一律で三十八万円)を引き上げる。
 これにより、年収一千万円では年四・五万円、二千万円では六・五万円の増税になる。
 所得税改革のほかには、加熱式たばこにかかるたばこ税を段階的に引き上げる。
 「市町村が実施する森林整備等に必要な財源」として、森林環境税と森林環境譲与税が創設される。年額千円だが、個人住民税の均等割分と併せて徴収されるため、住民税がかかる限り、所得に関係なく徴収される。

 国際観光旅客税も新設される。日本を出国する際に一人あたり千円の負担をさせるもので、訪日外国人の増加をもくろむ政府の「成長戦略」とも矛盾する政策である。

生活保護はまたも改悪
 五年に一度の制度見直し期にあたる、生活保護制度の改悪も続く。
 厚労省の社会保障審議会生活保護基準部会では、食費、光熱費など日常生活費のための生活扶助費と、一人親世帯に加算される母子加算を大きく減らす案が提示されている。
 とくに、都市部の受給者に対する減額が想定されている。たとえば、子供二人の四十歳代夫婦の場合、支給額は月額二万五千円も減らされる。高齢単身者も、月七千円前後減る。部会内でさえ、削減を懸念する声が出たほどで、このまま強行されるかどうかは分からないが、貧困層をさらに追い込む無慈悲な政策である。
 自治体窓口では、生活保護の申請さえ難しくなっている現状があるが、生活保護世帯への「管理」もいちだんと強化される。
 医療機関に通う生活保護受給者に福祉事務所の指導員が同行することで、医療費抑制を図るというものだ。このような制度は、受給者を医療機関から排除することにつながる。
 このほか、医療機関への診療報酬では薬価部分が引き下げられ、診療報酬全体も一%程度下げられる。その分の負担は患者にしわ寄せされる。
 懸案の介護報酬は微増にとどまり、過酷な環境にある介護労働者の待遇改善は放置されている。
 年金制度では、所得の多い年金受給者には、支給額を減らす。

警戒すべき「アリの一穴」
 「新しい経済対策」や税制改正案については、所得の多い層に増税し、低所得者を優遇したように見えるし、マスコミもそう宣伝している。だが、給与所得控除の引き下げや年金減額が「アリの一穴」となり、今後、基準年収が引き下げられたり、年金支給額減額の基準が下げられる可能性が高い。ただでさえ、年金支給額はマクロ経済スライド制によって抑えられる方向にある。
 また、支配層は「高所得会社員への増税が続けば頭脳流出につながるリスクもある」(日経新聞)と警戒を隠していない。当面は「格差是正」を行うかのような姿勢を見せたとしても、安倍政権にその方向が貫けるはずもない。
 実際、今回の措置にしても、高額所得者であっても、子供がいれば増税にならないという「抜け穴」が用意されている。三〜五歳児の保育無償化でも所得制限がつかない。
 たばこ税には、毎年のように引き上げられているだけでなく、旧国鉄の債務返済のための「たばこ特別税」もある。喫煙者だけに過分な負担を強いるもので、まさに「取りやすいところから取る」という悪税の典型である。
 何より、「幼児教育の一部無償化」など「評判のよい」措置でさえ、一九年十月に予定される消費税増税(八%→一〇%)と法人実効税率の引き下げが前提となっていることである。この増税により、食料品などに対する軽減税率が導入されたとしても、国民には約四・五兆円もの増税となる。

大企業はさらに減税
 一方、大企業にはさらなる恩恵が施される。
 すでに法人税は、一五年の三二・一一%から、一六年に二九・七四%をに引き下げられたばかりである。それをさらに、一八年度に二九・七四%に下げ、今後も下げる計画である。
 これに加え、賃金を増やした企業や、国内でIoT(モノのインターネット)に関する設備投資を行った企業への法人減税も行われる。
 「賃上げ」などの美名に隠れてはいるが、「賃上げ」も設備投資も企業体力の強い大企業ほど行いやすく、結果、大企業ほど減税されることになる。しかも、基準となるのは基本給に相当する所定内給与ではなく、賞与や残業代を含むものである。極端にいえば、社員に過酷な残業を強いた企業が減税されるということになる。
 これらで、大企業の実質的な法人実効税率は二五%程度となり、研究開発費減税などを加えればさらに下がる。
 消費税増税も、輸出大企業にとっては還付金の増額により、減税額が膨らむことになる。
 他方、中小企業向けには、わずかに事業承継税制の拡充や固定資産税の減税、法人税減税の維持程度である。
 これは中小企業が求めてきたことではある。しかし、中小企業への法人税減免は当然のことであり、評価に価するようなものではない。そもそも、中小企業の大部分は赤字で法人税を払っていないため、これが減税になっても恩恵はほとんどない。しかも、減税は時限措置で将来は分からない。経産省の調べでさえ、後継者に悩む中小企業は百二十七万社もある。事業承継税制が拡充されたとしても、「デフレ脱却」が見通せず、将来展望がない環境下で、どれだけ中小企業の事業を継続しようという後継者があらわれるか、保証の限りではない。
 このように、大企業優遇税制を強化し、逆進性が強く、低所得者ほど負担が多い消費税を引き上げた上で、わずかな幼児教育無償化や基礎控除引き上げなどを行ったところで、低所得者層の実質所得を増やすことも、「格差是正」にもならない。
 また、対米従属の下で中国に対抗するための軍備拡張も進められる(紙面の関係で別の機会に取り上げる)。

欺まん振りまく公明党
 このように、与党の税制改正は「格差是正」「中小対策」などをうたってはいるが、実際には、格差是正にも中小企業の育成にもつながるものではない。安倍政権の宣伝は欺まんで、政権浮揚のための術策である。
 この欺まんを最先頭で宣伝しているのが、公明党である。
 公明党は、自民党の給与所得控除の引き下げ基準「八百万円以上」を五十万円引き上げたことを、「引き上げは妥当だ」(山口代表)と、「成果」のように打ち出している。
 だが、安倍官邸が公明党の主張を受け入れたのは、憲法改悪に向けた協力を取り付けたいとの思惑からである。現在の国会の力関係では、公明党の協力なしに改憲発議はできないからである。
 国民生活はいちだんと追い込まれる。マスコミや公明党の振りまく欺まんに乗せられず、きたる一八春闘での大幅賃上げを闘い取り、国民犠牲の安倍政権を倒すため、労働者・労働組合の奮闘が求められている。       (O)


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