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2017年11月25日号 2面・解説

アベノミクスの中心=
日銀の緩和政策

黒田総裁が破綻を自己暴露

  臨時国会が開かれている。安倍首相は十一月十七日の所信表明演説で、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視とそれを口実とする軍備増強、改憲議論の加速、子育て対策、規制改革などによる「デフレ脱却」などを列挙した。こんにち、対米従属の国の進路の転換と、危機的な国民生活の抜本的打開が迫られているが、それに結び付くような論議はほとんどない。こうしたなか、黒田・日銀総裁は十三日の講演で、緩和政策の「負の側面」について認めせざるを得なかった。これは、アベノミクスの中心が破綻したことを意味する。安倍政権の内外政治を暴露し、闘う好機である。


 安倍政権は上下動はあれ、歴代政権に比して比較的高い支持率を維持してきた。
 この理由は大きく二つである。一つは、アベノミクスによる円安と資産価格の上昇で、多国籍大企業や投資家に恩恵を与えていることである。安倍政権が「株価連動内閣」と言われるゆえんである。現実には生活が苦しい大部分の国民にも、株高などで「何となく生活が良くなりそうな幻想」を少しは与えている。もう一つは、「強い日本」を掲げた外交・安全保障政策である。中国へのけん制強化、朝鮮への敵視と排外主義をあおることと併せ、広範な人びとに「独立」の欺まんを振りまいていることである。
 主要な要因はアベノミクスで、それは異次元の金融緩和、機動的財政政策(主に財政出動)、成長戦略の三つで構成されている。なかでも、円安や資産価格の上昇にもっとも大きな影響を与えたのは日銀による金融緩和政策である。安倍政権の高支持率は「日銀依存」の面が大きいのである。
 野党は、アベノミクスによる「格差」を批判するだけであるが、アベノミクスの正体はインフレ政策であり、大多数の国民から、一握りの多国籍大企業・投資家への富の移転、収奪強化政策である。従来以上に、格差が拡大し、国民が貧困化するのは必然的結果なのである。


破綻を自認した黒田講演
 その日銀の黒田総裁は、「中央銀行コミュニケーション会議」に出席した際、スイスでの講演で「低金利環境が金融機関の経営体力に及ぼす影響は累積的なもの」とし、さらに、銀行の財務悪化で「金融仲介機能が阻害され、かえって金融緩和の効果が反転する可能性がある」などと述べた。
 十月末の日銀金融政策決定会合でも、同様の発言が複数の委員から行われている。
 報道によれば、世界の投資家は、現在のマイナス金利が金融機関に与えるマイナスの影響に配慮する構えを見せたものと見ているようだが、わが国金融・経済政策の完全な行き詰まりを示す発言である。
 三メガバンクをはじめとする巨大金融機関は、二〇一二年四月に始まった量的緩和政策によって巨額の資金をタダ同然で手に入れ、投機マネーとして世界的に運用することで巨利を得た。すでに、黒田日銀による国債保有額は五百兆円を超え、うち長期国債だけで四百兆円以上に達する。これは、市場に流通する国債発行残高の四割を超えている。金融機関が保有し続けなければならない分を加味すると、来年には、日銀が買い入れるべき国債が、市場からなくなるといわれている。
 それでも、わが国経済の「デフレ脱却」には遠く、日銀が目標とする「物価目標二%程度」さえ達成できていない。国内総生産(GDP)成長率は低迷、労働者の実質賃金は上がらず、可処分所得は減っている。国民生活は「好循環」どころではない。
 焦った日銀は一六年一月、マイナス金利を導入した。民間銀行が日銀に預ける資金(当座預金)の一部から手数料を徴収することにした(通常は日銀が利息を払う)。また、同年九月以降は、短期金利をマイナス〇・一%、十年物国債の金利をゼロに誘導する「イールドカーブ・コントロール(YCC)政策」を採用した。これにより、インフレ率を加味した実質金利はさらに下がる。
 こうなると、日銀の金融政策が、金融機関、とくに経営規模の小さい地方銀行や信金・信組の収益を圧迫するようになる。マイナス金利下では、銀行は企業などへの貸し出し金利を下げざるを得ず、これが収益を低下させるからである。一定以上の国債への投資が義務づけられている、生命保険や年金基金なども同様である。
 全国地方銀行協会の佐久間会長(千葉銀行頭取)は最近、「きわめて緩和的な環境が続けば地域金融機関の基礎体力は徐々に奪われていき、地域における金融仲介機能の維持に深刻な影響が生じる」と述べている。
 金融機関は自己の経営を維持するために「貸し渋り」などを行うようになる。マイナス金利という金融緩和策が、逆に、金融引き締め的な方向に働くことになる。「貸し渋り」が広範に進めば、経営難の中小零細企業はたちどころに倒産・廃業に追い込まれ、その下で働く多数の労働者は職を失う。地域経済はいちだんと疲弊することになる。

袋小路の金融・経済政策
 追加の金融緩和政策を採ることはますます難しくなる。かといって、黒田日銀は金融機関のために緩和政策をやめることもできない。
 現在の政治環境の下で緩和政策をやめれば、「デフレ脱却」はさらに難しくなる。金融資産価格が下がる可能性も高い。金融緩和政策は事実上の「財政ファイナンス」でもあり、やめれば長期金利が上昇して国家財政の危機も深まる。安倍政権への支持はたちどころに失墜するだけでなく、わが国経済が破局に至る可能性さえある。もっとも、緩和政策は破局の「先延ばし」にすぎず、いずれ破綻は避けられないのだが。
 国際環境の面からも、日銀の緩和政策は継続せざるを得ない。米連邦準備理事会(FRB)はすでに緩和からの「出口」に踏みだし、欧州中央銀行(ECB)もタイミングを計っている。英イングランド銀行も十年ぶりの利上げを行った。これらは、「バブル防止」など各国・地域の内情からのものだが、日銀が緩和政策を続けていること、すなわち世界的には投資資金が増え続けていることが前提で可能になっている面がある。
 結局、黒田総裁は会見でも、企業の「省人化投資」による生産性向上に「期待」せざるを得ず、それさえあれば「目先は物価が上がらなくても問題ない」とまでほのめかした。
 安倍首相は「もはやデフレではない状況をつくり出せた」などと粋がるが、日銀、安倍政権は「袋小路」に入ったがごとくで、「デフレ脱却」のための展望はない。一九年に、消費税率再増税を行える条件もない。

「2つの矢」にも活路なし
 安倍政権は政権維持のため、破綻した金融緩和を継続せざるを得ない。肝心の黒田総裁自身が、いわば「自信喪失」状態で展望がないにもかかわらず、安倍首相は「黒田・日銀総裁の手腕を信頼している」と繰り返さざるを得ないのである。
 では、金融緩和以外の残る「二つの矢」に活路はあるのか。
 安倍政権は、一八年度予算案と、それに先立つ一七補正予算を準備している。
 安倍首相は国会答弁で「財政再建の旗は降ろさない。基礎的財政収支(PB)黒字化目標自体は堅持する」としているが、結局、財政出動を繰り返す以外にないのである。
 具体策では、総選挙公約でもあった、約二兆円の教育無償化政策が俎上(そじょう)に上がっている。
 また、「農林水産業の強化」も打ち出しているが、これは環太平洋経済連携協定(TPP)や日欧経済連携協定(EPA)が前提である。
 このほか、東京五輪を前にして、各種公共事業なども行われるだろう。
 いずれにしても、日銀による国債買取が前提である。その緩和策が限界にきており、しかもGDPの二倍以上の累積債務を抱える国家財政の危機はいちだんと深い。財政出動も、自ずと制約されざるを得ない。
 成長戦略はどうか。
 安倍政権は「未来投資戦略」を策定、実施しようとしている。今国会でも「これまでにない大胆な政策を講じていく」と言い、企業による人材・設備投資の活性化策を行うとしている。要するに、企業の生産性向上策である。
 だが、これらには即効性はない上、大リストラにつながることが必至である。すでに金融業界では、三菱UFJの一万人削減を手始めに、大規模な首切りの嵐が吹き始めている。
 アベノミクスの破綻は明らかで、財政危機を中心に危機は切迫している。
 労働者は闘いを準備すべきときである。 (K)


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