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2017年11月15日号 1面〜2面

安倍政権・日米会談 
米国の先兵、アジアの平和に敵対
 通商でも譲歩し国民に犠牲を転嫁


インド太平洋戦略を破綻させよう

  トランプ米大統領は、日本、韓国、中国、ベトナム、フィリピンの五カ国をめぐるアジア歴訪を行った。
 歴訪の戦略的狙いは、朝鮮問題や通商要求を材料にしながら、大国化する中国へのけん制をさらに強化することであった。
 ただ、当面しては、米国内の深刻な危機を切り抜けることである。トランプ政権にとって、経済、通商問題で成果を得ることは切実であった。
 こんにち、世界は歴史的変動期にある。台頭著しい中国では、共産党大会で「社会主義現在化大国」を掲げた。トランプ大統領のアジア歴訪は、アジアをめぐる米中両国の対峙(たいじ)が本格的局面を迎えたことを示した。
 歴訪の第一番目に行われた日米首脳会談は、中国に対抗して、オーストラリアやインドなどを巻き込む「自由で開かれたインド太平洋戦略」推進で合意した。朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の「核・ミサイル」放棄を迫るために「最大限の圧力」をかけることや、日米間の貿易・投資の協議継続を確認し、安倍政権は数々の「手土産」を渡した。
 安倍政権は衰退する米国をますます支え、アジアで先兵として働くことを約束した。朝鮮半島をはじめ、アジアの緊張は高まり、戦争の縁に立たされる。わが国はますます米国・金融資本に収奪されることになる。
 トランプ政権の策動が破綻することは不可避である。世界で唯一といってよいほどに追随する安倍政権は、わが国をますますアジアで孤立する亡国の道に導くことになる。
 アジアの平和のため、インド太平洋戦略と闘い、米軍をアジアから一掃しなければならない。安倍政権との闘いを強化し、わが国の独立・自主をめざさなければならない。

米国の抱える歴史的危機
 リーマン・ショック以後の危機がますます深まるなか、危機の「震源地」となった米国は、衰退を早めている。
 米帝国主義は第二次世界大戦直後の最盛期から次第に衰退し、国内産業は競争力を失った。一九七〇年代からさまざまな延命策が行われたが、一九九〇年代以降は、比較優位にある金融を活用してのIT(情報技術)バブル、住宅バブルなどを意図的につくり出し、他国と自国人民からの収奪を強めた。
 この方策は、二〇〇八年のリーマン・ショックによって破綻した。だが、米政府は連邦準備理事会(FRB)に史上空前の量的金融緩和を行わせ、株価つり上げをはじめ新たなバブルをつくり出すことで危機切り抜けを図った。危機を準備したと同じ手法を、より大規模に行うものであった。
 さらにオバマ前政権は、国内産業の活性化による「輸出倍増」、安全保障では中国へのけん制を強化してアジア市場への収奪を強化する「アジア・リバランス戦略」で乗り切ろうとした。
 だが、国内産業は再生せず、格差などの国内矛盾はさらに激化した。労働者の実質賃金は一向に上がらず、食料切符(生活保護)で食いつなぐ国民は四千二百万人にも達する。銃乱射事件や人種問題などの社会的分断は、深まっている。
 このような内戦にもつながりかねない深刻な社会状況下、トランプ政権は「米国第一」を掲げ、「ラストベルト地帯」を中心に、零落した白人労働者の不満をひきつけて政権に就いた。


トランプ政権の巻き返し策
 トランプ政権の中長期的課題は、金融を中心に自国経済を再生することと、軍事力による世界支配を再建・強化することである。米帝国主義は、歴史のすう勢に逆らい、衰退を巻き返そうとあがいている。
 トランプ政権は短期には、政権を維持して来年の中間選挙に勝利するため、自らを押し上げた支持層への「配慮」を忘れるわけにはいかない。
 だが、政権の「目玉政策」であったオバマケア(医療制度改革)廃止がとん挫し、税制改革が来年に先延ばしされる可能性が高まるなか、インフラ投資による景気対策の実行も危うい。しかも、元選対責任者が告発されるなど、「ロシアゲート」問題が政権を揺さぶっている。
 トランプ政権への支持率は三七%に低迷、当選一年を迎える時期の支持率としては、過去七十年の政権で最低であるトランプ政権が「実績」をアピールして支持を打ち固めるには、他国に犠牲を押し付けなければならないのである。
 トランプ政権は経済再生を優先しつつも、これと結びつけて、安全保障面での対応も強化している。
 まずは、米国の制裁に屈せず、自国の安全を守るために「核・ミサイル」を離さない朝鮮への対処である。朝鮮への圧迫強化は、朝鮮が米国に対する核抑止力を保有することを阻止するという直接の狙いだけでなく、隣国である中国を揺さぶり、日本などに武器を購入させる口実でもある。
 より本質的には、大国として登場している中国に対する対応である。
 中国共産党は十月中旬、第十九回大会を行い、建国百周年となる四九年までに総合的な国力や国際的な影響力を高めた「社会主義現代化大国」を実現すること、その前段階として、三五年までの発展戦略を決定した。この構想は、事実上、国際政治・経済・軍事において米国にとって代わる意思を公然と表明したものといえる。
 中国が主導するアジアインフラ投資銀行(AIIB)や「一帯一路」は、この構想を実現するためのものである。
 米中は経済を中心に深い依存関係にある。それでも米帝国主義は、中国を抑え込むため、南シナ海での「航行の自由作戦」のような、実際に軍隊を動員するものだけでなく、金融や通商、技術開発やサイバー空間を含む「広義の戦争」を仕掛けている。
 一方、総選挙で政権維持にひとまず成功した安倍政権は、「日米同盟が強固なものであると世界に発信していきたい」などと意気込んでいた。財界にとっては、「米国第一」のトランプ政権には、懸念すべき面も多い。安倍政権はこれに応え、経済や安全保障などで対米関係を「安定」させることが必要であった。
 トランプ大統領によるアジア歴訪は、以上のような背景の下で行われた。

トランプ政権に追随、譲歩
 日米首脳会談を受け、御用マスコミは「相互の信頼はいちだんと深まった」(読売)などと、手放しで礼賛している。トランプ大統領は、安倍首相との会談を「これほど緊密なリーダーの関係はこれまでなかった」とまで述べた。
 だが、トランプ大統領が真っ先に安倍首相と会談し、「評価」してみせたのは、米国の国内事情から「成果」を急ぐ必要があったこと、さらに「対中国」でアジア諸国をとりまとめる上で、日本の協力が欠かせないという切羽詰まった事情からである。
 両首脳は、「インド太平洋戦略」で合意した。これは、日米豪印の通商・投資・安全保障協力を強めようというもので、具体的には、共同軍事訓練の強化や戦略対話などの枠組み創設、経済面では民間資金を使ったインフラ投資などを念頭に置いている。日米首脳会談では、(1)基本的価値の普及、(2)経済的繁栄を追求、(3)平和と安定の確保を三本柱とする方針も確認した。
 政府は「特定の国を対象にした戦略ではない」などとしているが、これは、明らかに中国の大国化を意識し、これに対抗する陣形づくりを進めようというものである。中国が掲げる広域経済圏構想「一帯一路」(陸と海のシルクロード)に対抗するものである
 朝鮮問題では、トランプ大統領は朝鮮に対して、武力攻撃を含む「あらゆる選択肢」を再度表明、安倍首相はこれを全面的に支持した。さらにトランプ大統領は、朝鮮を「テロ支援国家」(二〇〇八年解除)に再指定することを示唆(しさ)した。韓国国会での演説では、「力による平和」を公然と表明し、朝鮮を「地獄」「カルト国家」などと侮蔑(ぶべつ)さえした。
 安倍首相はこれと歩調を合わせ、米国が実施を決めた資産凍結対象の拡大という独自制裁案を打ち出した。海上自衛隊は、西太平洋で初めて、米海軍の空母三隻との共同訓練を強行した。さらに、インドを加えた三国で、日本海で共同訓練を行っている。
 また、安倍首相は、自衛隊の役割拡大や地上配備型の迎撃システム「イージス・アショア」の導入などを改めて説明した。
 米国からの通商要求も止まず、安倍政権は数々の譲歩を行った。
 安倍政権が期待する、環太平洋経済連携協定(TPP)への米国の「復帰」は「TPPは正しい考え方ではない」と、あえなく拒否されただけではない。トランプ大統領は「日本に対する貿易赤字を減らさねばならない」と断言、日本の市場開放にこだわった。今回は、米国産冷凍牛肉の輸入急増に伴うセーフガード(緊急輸入制限)への不満、さらに米側は、ライトハイザー米通商代表部(USTR)代表日米自由貿易協定(FTA)を求めた。
 安倍政権は、セーフガード問題では「継続協議」、日米FTAは経済対話の場へと先送りするのが精一杯であった。安倍政権は、米国の要求をいつまでかわし切れるだろうか。
 安倍政権は、自動車分野では「エコカー減税」を米国車にも適用することや、衝突実験などの安全性について米国基準を受け入れることを表明した。これらは、米国が離脱したTPPの合意内容である。
 「日米戦略エネルギーパートナーシップ(JUSEP)」による、日米間のエネルギー協力強化でも合意した。米国産の液化天然ガス(LNG)のアジア向け輸出拡大の役割を買って出、インフラ整備の受注でも協力しようというものである。
 日本への武器売り込みは、安全保障問題であると同時に、通商要求でもある。トランプ大統領は、「安倍首相はさまざまな防衛装備を米国からこれから購入することになるだろう」などと述べた。
 安倍首相は、インド太平洋戦略によって「日米で公正で実効性ある経済秩序をつくり上げる」なとと粋がる。だが、米国が望んでいるのは自国経済の再生であり、そのために他国に市場開放などで犠牲を強いることである。安倍首相のトランプ大統領との「個人的な関係」を力説するが、そのようなもので「米国第一」の通商政策から逃れられるはずもない。今回の首脳会談で実際に進んだことも、米国の要求に対する日本側の譲歩ばかりであった。米国にとって、日本は要求を押し付ける対象である。
 米国の要求が「この程度」ですんだのは、「対中国」で日本を取り込むことを優先したこと、さらに、米国が北米自由貿易協定(NAFTA)と米韓FTAの見直しを優先しているからにすぎない。
 安倍政権はまさに、「世界で唯一」といってよいほどにトランプ政権に忠誠を誓い、わが国国民経済・国民生活を売り渡す約束を行ったのである。

戦略の破綻は必至
 「インド太平洋戦略」は、言葉としては、二〇一六年に安倍首相が打ち出したものである。この構想で日米が合意したことをもって、マスコミは「日本の構想に米側が乗った」などと褒(ほ)めそやし、安倍政権の「自主性」を宣伝している。
 これは、支配層による欺まんである。インド太平洋戦略は、米国のアジア戦略を補完し、その下で、わが国の政治軍事大国化をめざすもので、徹頭徹尾、対米従属の枠内のものである。これは、わが国多国籍大企業の要求でもある。
 インド太平洋戦略の破綻は必至である。
 まず、米国内の危機は深い。早晩、トランプ政権への期待と幻想は剥げ落ち、闘争が激化するであろう。この間の地方選挙で、共和党は連戦連敗である。トランプ大統領は再選どころか、早期にレームダック(死に体)化する可能性さえある。
 「インド太平洋戦略」の誘いを向けられた諸国も、日本と同じ態度ではない。
 韓国は参加に慎重な姿勢を崩さず、康外交部長官(外相)は「米日韓同盟」という言葉さえ拒否した。米韓合同軍事演習への、自衛隊の参加も拒否している。朝鮮への対応でも、韓国・文政権は、「制裁強化」では合意したものの、一方で、八百万ドル(約八億九千万円)もの人道支援を行うことを決めている。武力行使の可能性を公言するトランプ政権や、これを支持する安倍政権とは、明らかに異なる態度である。
 一角に加わる予定のオーストリアやインドは、中国が最大の貿易相手国の一つで、対中関係を損ねることには及び腰である。東南アジア諸国連合(ASEAN)加盟国は、なおさらである。
 包囲の対象とされた中国は、すでに述べたように、米国に取って代わる意思を公然と表明している。米中首脳会談では、朝鮮に対する制裁強化の要求に応じず、軍事力行使に反対であるのは言うまでもない。その上で、対中貿易赤字に不満を表明したトランプ大統領に、米国企業との間で、生命科学や航空など十九の事業計画で計二千五百三十五億ドル(約二十九兆円)の商談をまとめ、トランプに「手土産」を渡すことも忘れなかった。
 米国とて、対中関係は慎重、かつ複雑に対処せざるを得ない。韓国国会で、朝鮮への対応に関して、「中国、ロシアは朝鮮との貿易および技術交流関係を断絶するよう促す」などと息巻いていたトランプ大統領は、中国に渡るや、習主席を「称賛」せざるを得なかった。トランプ政権にとって今回の歴訪は、短期的には経済面での「成果」を国内向けにアピールできるものとなったのだろう。

安倍政権との闘い強化を
 世界は、米中対峙(たいじ)の激化が進行する、歴史的変動期である。
 歴史を逆回転させ、米国の覇権を再確立させようとするインド太平洋戦略と、米国の先兵役を務めようとしている安倍政権との闘いを強化しなければならない。
 米国からの要求は、わが国農業や自動車産業などをさらなる危機に追い込もう。国民諸階層の反発は必至である。
 財界にも、「政府には自由貿易や経済連携の意義を粘り強く訴えてほしい」(小林・経済同友会代表幹事)と、対米不満ともとれる気運がある。
 だが、議会内野党は自民党と同じ「日米基軸」の枠内である。これでは、米日があおる朝鮮半島をめぐる緊張とも闘えず、トランプ政権からのさまざまな要求にも抵抗できない。
 「次の選挙」を待つのではなく、安倍政権と闘う大衆行動を直ちに強めよう。
 労働運動が日米基軸の国の進路を転換させる国民運動の先頭に立ち、政治的前進を図るべきときである。(O)


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