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2017年9月15日号 1面〜2面・社説

米国こそ朝鮮半島危機の元凶

国連制裁に反対し、
履行中止を求める

  国連安全保障理事会は九月十一日、米国が主導する朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)に対する新たな制裁決議を全会一致で採択した。
 制裁決議は、八月の石炭などの全面禁輸に続くもので、格段に厳しい。これが実行されれば、朝鮮の生存権はこれま以上に脅かされることになる。しかも、トランプ大統領は「小さな一歩」などと、より過酷な制裁、圧迫強化をちらつかせている。
 安倍政権は決議を「高く評価」し、突出した追随ぶりを示している。日米合同軍事演習の強化や、米国の軍事的役割分担の強化を約束するなど、先兵役そのものである。
 朝鮮が「極悪非道な挑発行為」と非難したのは当然である。
 朝鮮の第六回目の核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)発射を口実とする新たな制裁決議と軍事圧力によって、朝鮮半島をめぐる緊張はいちだんと高まっている。
 「米国第一」を掲げたトランプ政権は、衰退を巻き返そうと策動を強めている。この悪あがきは、世界を「地獄の道連れ」にしかねない。
 朝鮮に対する包囲・圧迫はこの一環である。核兵器の使用をちらつかせた米国の朝鮮への圧迫は、核戦争の危険性さえはらんでいる。
 米帝国主義と、これに追随する安倍政権こそ、朝鮮半島の危機を激化させている元凶である。
 平和を望むのならば、朝鮮圧殺の国連決議に反対し、履行中止を求めなければならない。米国は敵視政策をやめ、直ちに対話のテーブルに着くべきである。安倍政権の朝鮮敵視政策を止めさせ、即時・無条件の日朝国交正常化に踏み切らなければならない。

不当で過酷な制裁決議
 今回の安保理決議は、八月の石炭や鉄鉱石などの全面禁輸に続くもので、九回目の朝鮮への制裁決議である。だが、その厳しさは、従来の決議の比ではない。
 決議は、朝鮮を「最も強い表現で非難」した。
 さらに、朝鮮への天然ガソリン(NGL)の供給を禁止するとともに、原油や石油精製品の輸出量に上限を設定、朝鮮への石油精製品輸出を五割以上削り、原油と合わせて約三割減らす。朝鮮からの繊維製品の輸出も禁止され、すでに実施されている制裁措置と合わせ、朝鮮の輸出の九割が制裁対象となる。国連加盟国に、相手の「同意」を条件としつつ朝鮮の貨物船を公海上で検査する権利を認める。朝鮮からの出稼ぎ労働者への新たな就労許可も禁止され、朝鮮との合弁事業も禁止される。これら制裁措置の、加盟国の履行状況に対する監視も強化され、加盟国には報告が義務づけられる。
 これにより、朝鮮の外貨獲得とエネルギー獲得手段は大きく制約される。朝鮮の存立は脅かされ、人民生活がさらに困難さを増すことは必至である。
 朝鮮は核不拡散(NPT)条約から脱退しており、国際法上、核開発を制約される理由はない。弾道ミサイルの開発も、多くの国が行っていることである。
 米国が主導した制裁決議は、不当きわまりないものである。
 わが党は決議に反対し、その履行中止を求める。
 朝鮮は、「極悪非道な挑発行為」と厳しく批判した。過酷で不当な制裁決議に反発するのは当然で、それ以外の態度はあり得ない。朝鮮は圧迫に屈せず、闘いを堅持するであろう。

決議は米国の弱さのあらわれ
 米国は、中国、ロシアを決議に巻き込んで「全会一致」を演出しようと、苦心惨憺(さんたん)した。結果、米国の当初案にあった、「原油の全面禁輸」「金正恩委員長の資産凍結」「出稼ぎ労働者の強制送還」は取り下げられ、妥協が図られた。
 中ロを巻き込み、拒否権発動を防いだことを「米国の最大の外交的勝利」とする見解もある。
 米中間には、南シナ海問題や通商問題、「人権」問題などがある。米ロ間も、ウクライナ問題やロシアゲート問題などの対立を抱えたままである。
 中ロは、対米関係のこれ以上の悪化を避けるために妥協したのだろうが、この「一歩の譲歩」で済むだろうか。今後、国益に関わる大きな譲歩を迫られることにならないか。
 米国は、中ロとの合意を優先せざるを得なかったことに、不満を募らせている。トランプ大統領は追加制裁決議について「とても小さな一歩」などと、さらなる制裁措置を示唆(しさ)している。米国は、朝鮮と取引関係のある中ロの企業や個人への制裁をさらに拡大することを検討し、実行し始めた。
 中国もロシアも、このような自国に悪影響を与える制裁の拡大を認められるだろうか。
 米国は、朝鮮が制裁に耐え続けるほど、中ロへの不満を募らせることになるだろう。米国と中ロの妥協は、「つかの間のもの」とならざるを得ない。
 中ロとの間だけではない。トランプ政権の内外政策は、経済・政治・軍事すべての面で、諸外国との摩擦を激化させずにはおかない。
 韓国やフィリピンは新政権が「対米自立」の方向を打ち出し、ドイツは「欧州人は自身の運命を自身の手で切り開いていかなければならない」(メルケル首相)と明言した。中小国だけでなく、帝国主義国の一部さえ、「対米自立」の動きを強めている。
 米国の圧力で決議に賛成し、あるいは「大使召還」などで朝鮮との外交関係縮小を打ち出した諸国の態度も、時と共に変化せざるを得ない。
 また、核実験からわずか一週間での決議採択は、米国の強硬姿勢だけでなく、焦りと弱さのあらわれでもある。
 朝鮮のICBM技術は発展し、米本土が射程に入るのは「一年以内」とする予測さえある。米国政界に「朝鮮の核保有を認めるべき」という意見が浮上しているのは、このためである。トランプ政権としては、一刻も早く決議を採択し、朝鮮を追い込む必要があった。
 それでも、米国の思惑通りに進むことはない。制裁を強化したところで、朝鮮と国交のない米国にできることは限られ、要は「中国頼み」である。トランプ政権は、自国の経済再生がままならず、さらにハリケーン被害という「内患」も抱えている。
 制裁決議は、米国の深刻な危機感のあらわれである。

米国こそ危機の元凶である
 米帝国主義と安倍政権などの追随者は、朝鮮が「アジアを不安定化させている」などと非難し、制裁を正当化している。「盗人猛々しい」とはこのことである。
 朝鮮戦争は一九五三年以来「休戦状態」にすぎない。米国は朝鮮を正当な国家として認めず、核兵器を含む武装と数万の米軍を配置して包囲・圧迫し、体制転覆を策動してきた。ブッシュ政権は、朝鮮への先制核攻撃の可能性に言及しさえした。
 オバマ前政権は、「アジア・リバランス戦略」で、大国化する中国へのけん制を強化した。朝鮮に対しては「戦略的忍耐」を掲げ、朝鮮が「核・ミサイル」を放棄しない限り交渉しないという態度を採った。
 米国にとって、朝鮮半島に危機をつくり出すことは、アジアに米軍のプレゼンスを維持し、中国をけん制する上で不可欠なことである。
 朝鮮半島の南側の韓国では、米韓同盟の下で軍事独裁政権が朝鮮と対峙(たいじ)した。だが、一九九〇年代末に誕生した金大中政権、盧武鉉政権は南北首脳会談などの成果を残した。曲折を経て、今春には「南北対話」を掲げる文在寅政権が誕生し、米韓同盟の枠内ではあるが、民族統一に向けた努力が続いている。
 わが国歴代政権は、日米安保条約の下で、国土を米軍の出撃拠点とした。「金丸訪朝団」や日朝平壌宣言など、日朝関係を打開する動きもあったが、米国によってつぶされた。こんにち、安倍政権は、朝鮮敵視で突出した役割を果たしている。
 対する朝鮮は、国の存立を守るため、米国との交渉で「平和協定」を締結して戦争状態を終わらせることを求めてきた。国力を傾けての「核・ミサイル」の開発は、米国による敵視政策を打ち破って対話に応じさせるために、迫られたものであった。
 朝鮮半島危機の元凶が、米帝国主義とその追随者にあることは明らかである。

朝鮮への圧迫強めるトランプ政権
 トランプ米政権は誕生早々から、朝鮮を「重大な脅威」などと決めつけた。「すべての選択肢がテーブルの上にある」などと、朝鮮に対する武力攻撃のオプションをちらつかせつつ、包囲と圧力を飛躍的に強化している。
 三月、金正恩委員長など指導部の殺害を目的とする「斬首作戦」を含む米韓合同軍事演習を強行、終末高高度防衛ミサイル(THAAD)を在韓米軍に配備した。
 四月の米中首脳会談では、トランプ大統領は、同日のシリアへの空爆を使って中国をけん制し、朝鮮制裁へのいちだんの「協力」を求めた。
 トランプ政権は、文・韓国政権の「対話提案」に「不快感」を表明して圧力をかけた。他国に対しても、「朝鮮との断交」を求めている。
 八月には、朝鮮のICBM発射を口実に、国連安保理で、朝鮮の石炭、鉄、鉛、海産物などの輸出を禁止する制裁決議を行った。トランプ大統領は「炎と怒りに直面する」という表現で朝鮮をどう喝し、八月末からは米韓合同演習も再開した。
 さらに、今回の過酷な追加制裁決議である。
 北東アジアで核戦争の危機が高まっている。この危機は、米国が朝鮮への敵視政策をやめさえすれば、たちどころに去る。
 米帝国主義と闘わなければ、アジアの平和は実現できない。

対米追随で突出する安倍政権
 安倍政権は、世界でも突出した朝鮮敵視で米国の先兵役を務め、アジアで緊張を激化させている。
 衆参両院での朝鮮への「抗議決議」採択だけではない。
 日米外務・防衛担当閣僚協議(2プラス2)では、さらなる「役割分担」で合意、「防衛大綱」の見直しを決めた。陸上配備型の迎撃ミサイルシステム「イージス・アショア」の導入を表明、地上配備型迎撃ミサイル・パトリオット(PAC3)の全国配備を進めた。日本海での日米合同軍事演習、空自と米B1戦略爆撃機との東シナ海での合同演習は、戦争挑発そのものである。
 集団的自衛権行使のための安全保障法制を基礎に、米海軍補給艦を護衛する「武器等防護」任務を初めて発動、米イージス艦への燃料補給も行った。小野寺防衛相は、朝鮮へのグアム沖へのミサイル発射について自衛隊が迎撃する可能性にも言及している。
 自民党は「敵基地攻撃」論や、弾道ミサイルの保有論まで検討している。支配層内には、日本の核武装論も浮上している。
 安倍政権は、欧州、アジアなど世界中で朝鮮への敵視をあおり、朝鮮人出稼ぎ労働者が多い中東諸国でも、制裁への協力を呼びかけている。
 全国瞬時警報システム(Jアラート)や、自治体での「避難訓練」を使った戦時体制づくりも強化している。
 対米従属の下での日本の軍事大国化と、日米のさらなる軍事的一体化である。
 これらは対米追随であると同時に、世界に権益を有する、わが国多国籍大企業の要求でもある。中国に対抗してアジアの大国として登場しようというもくろみである。
 安倍政権の強硬姿勢も、その基礎は危うい。アベノミクスへの不満を基礎とする政権への批判はますます強い。米国が日本の「頭越し」に朝鮮との対話に動くことになれば、安倍政権は「はしごを外され」、まさに「悪夢」となろう。
 対米従属の安倍政権を倒さない限り、国民の安全とアジアの平和を実現することはできない。

平和と独立のための行動を強めよう
 朝鮮は「在日米軍が目標」と明言している。米軍と戦争状態にある朝鮮が、「敵基地」を攻撃するのは当然であろう。
 これは、日本国民の頭上に、核兵器を搭載したミサイルが降り注ぐ可能性があることを意味する。ミサイルをすべて迎撃することは不可能で、国民の生命・財産の安全の問題に直結する。安倍政権は、こうした国民の危機を語らない無責任な態度に終始している。
 安倍政権による朝鮮敵視、緊張激化の策動と闘わなければならない。
 だが、野党は安倍政権に追随し、闘おうとしていない。
 民進党、前原執行部は、朝鮮敵視で安倍政権とほとんど同じである。代表選では朝鮮半島問題はまったく論争にならず、前原代表は「政府への協力」を約束するだけである。国民の安全と財産に関わる問題で、政府に明確な対抗軸を立てずして、野党といえるのか。
 共産党も、朝鮮の「核・ミサイル」が「根本」とし、制裁強化と「決議の履行」を主張する点で、米国や安倍政権と同じである。制裁を強化しつつ、朝鮮と対話することなどできるはずもないではないか。共産党の見解は反動的で、米国や安倍政権を助けるものである。
 わが国は対米追随の敵視政策をやめ、平和と米朝の直接交渉のため、すすんで汗を流すべきである。欧州諸国のなかには、すでにそうした動きがある。日本がアジアで役割を果たすべき時である。
 朝鮮への追加制裁強化に反対し、履行中止を求める。さらに、制裁の全面解除と、日朝の即時・無条件の国交正常化を実現しなければならない。
 朝鮮はすでに核兵器を保有した。わが国はこの現実を認め、米朝の直接対話を求めるべきである。「朝鮮の核」を認めることは、国民の願いである核兵器廃絶とは別のことである。核廃絶を妨げているのは、最大の保有国である米国で、これとの闘いこそ必要である。
 保守層の中にさえ、安倍政権の「火遊び」に対する懸念と不安が広がっている。広い戦線をつくり、労働者階級が主導権を握って闘うことが肝心である。
 労働運動は、戦後、全面講和を求める闘い、安保闘争、沖縄返還闘争などで、国民運動の先頭に立ってきた。政府と同じ立場で朝鮮を非難する連合中央指導部を打ち破って、米国による戦争策動に反対し、アジアの平和のための行動を強めなければならない。各種の決議、集会、デモなどの行動に立ち上がる時である。
 心ある地方議員は、「朝鮮非難」の自治体決議に反対しよう。
 知識人、ジャーナリスト、青年学生などの行動も重要である。
 平和の最大の保証は、対米従属の安倍政権を打倒し、わが国の独立、対米従属の国の進路の転換を実現することである。
 わが党は、平和と独立のための努力を支持し、その先頭で闘う。


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