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2017年8月5日号 2面・解説

安倍政権が内閣改造

国民の批判から逃げられぬ

  安倍政権は八月三日、内閣改造を行った。生活苦を背景として国民の政権批判が高まり、内閣支持率は急落した。内閣改造は、「問題閣僚」の一掃を含めて目先を変え、支持率回復をはじめとする政権浮揚を狙ったものである。だが、政権浮揚どころか、安倍政権を取り巻く内外環境は悪化の一途で、その先行きはますます容易ではない。


 内閣改造は常に、政権浮揚を狙ったものである。今回の、第三次安倍政権による三回目の内閣改造も同様だが、安倍政権の支持率が急落し、政権浮揚策が強いられたことである。

強いられた改造
 安倍政権は政権発足以降、「強い日本を取り戻す」と掲げ、経済再生、日米同盟強化などを進めてきた。第一の課題は、「異次元金融緩和」、機動的財政政策、成長戦略という「三本の矢」を中心とする「デフレ脱却」であった。
 約四年半にわたるアベノミクスの結果、多国籍大企業や投資家は円安・株高でボロ儲(もう)けした。だが、日本経済は「デフレ脱却」さえままならない。地方経済はいちだんと疲弊した。労働者階級をはじめとする国民諸階級の生活と営業は極度に悪化し、格差が開いた。
 こうした生活苦への不満を底流として、特定秘密保護法や集団的自衛権の行使に伴う安全保障法制、沖縄県名護市辺野古への基地建設強行、中国へのけん制強化、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への敵視と包囲などの日米同盟強化の外交・安全保障政策への不安・不満も相まって、政権支持率はときに下落した。
 安倍政権はそのたびに、「一億総活躍」「地方創生」「アベノミクス再起動」などと言い、目先を変えることで支持率を維持しようとしてきた。北方領土問題などの民族的課題で「前進」するかのような幻想をあおることも忘れなかった。
 こうした欺まん的政策と併せ、アベノミクスで利益を得る社会層がわずかだが一定程度いたことが、他の政権に比べて比較的長期にわたって、高い支持率を維持した背景である。
 だが、国民の幻想はますます剥げ落ちた。国際情勢も、経済、政治の両面で厳しさを増し、「トランプ津波」がわが国を襲い始めた。安倍政権の前提は、総崩れとなった。
 森友学園や加計問題、与党議員の相次ぐ失言やスキャンダルは、支持率下落の契機ではあるが、本質ではない。
 内閣改造は、こうした政権の苦境から強いられた、欺まん政策の一つである。

慎重な人事狙ったが…
 今回の改造では、麻生副総理・財務相、菅官房長官らの主要閣僚は続投、河野外相、小野田防衛相、野田総務相、林文科相など、十九人の閣僚のうち経験者を十三人も配置した。他方、初入閣は昨年の改造より二人少ない六人にとどまった。公明党からの石井国交相は留任した。
 小野寺氏の起用は防衛省内の安定を、河野氏の起用は中国・韓国との関係改善のためとされる。経産相に世耕氏、厚生労働・働き方改革担当相に加藤氏、経済再生・人づくり革命担当相に茂木氏など、成長戦略や「働き改革」を担当する部署には、「腹心」を配置することも忘れていない。
 自民党三役には、二階幹事長が留任、竹下総務会長、岸田政調会長、塩谷選挙対策委員長という体制となった。
 一方、南スーダン派遣部隊の日報問題をめぐってすでに辞任した稲田防衛相に加え、「共謀罪」審議でまともな答弁ができなかった金田法相、加計学園や森友学園問題を処理できなかった松野文科相、「土人発言」を擁護し、「振興策と基地問題はリンクしている」と発言して沖縄県民の怒りを買った鶴保沖縄・北方担当相、テレビ局の「停波」に言及して内外の批判を受けた高市総務相らは交代させられた。「お友達」と言われる塩崎厚労相らも閣外に去った。
 内閣改造と党執行部人事は、「問題閣僚」を排除して「無難」な人物を起用しただけではない。自派閥(細田派)の閣僚を五から三に減らし、岸田派への配慮を強め、来年秋の自民党総裁選挙への出馬をめざしているとされる野田総務相を起用するなどで「挙党態勢」を演出している。安倍首相は「初心に戻り、一致結束して前進していきたい」などと、「低姿勢」も装っている。
 マスコミの反応は、「堅実な布陣」(読売新聞)などと評価しつつ、「国民の不信感を払拭(ふっしょく)するという安易な期待は禁物」(同)と言わざるを得ない。それほどに、国民の安倍政権への不満は根強い。

深まる内外の危機
 安倍政権による政権浮揚策は成功するだろうか。
 世界は大激動のただ中にあり、安倍政権にとっての国際環境は悪化の一途である。
 世界経済の成長率は低下し、国際競争はますます厳しい。二十カ国・地域(G20)などによる国際協調は機能不全をきたし、諸国間の対立は激化している。
 「米国第一」を掲げたトランプ政権による巻き返し策は本格化しつつあり、日本に対しても、牛肉セーフガード問題など通商要求が強まっている。今後、自動車などにも拡大、激しくなることは不可避的である。日本経済は、根底から揺さぶられる。
 日米同盟強化の外交政策も、米中関係の狭間でいちだんと厳しい。アジアで米国の先兵役を担う安倍政権の時代錯誤の道は、アジアでの戦争の危機と国際的孤立を招かざるを得ない。
 世界の、そしてわが国支配層も従来通りにはやっていけない情勢で、敵は襲い掛かってくる。

悪政の加速・強化
 安倍政権が今後、実行しようとしているのは、多国籍大企業のための生産性向上と技術革新で七百万人もの失業を生み出すという「未来投資戦略」の実行、そのための「ただ働き残業」などを含む「働き方改革」、中国へのけん制を強める日米同盟強化の外交・安全保障政策、さらに、安倍首相の「宿願」である憲法改悪に踏み出すことを狙っている。
 財界も「経済最優先の政権運営を期待したい」(経団連)などとし、「未来投資戦略」などの実行「強化」や、規制改革などの構造改革、社会保障制度改革や財政健全化、環太平洋経済連携協定(TPP)の「早期発効」などを要求している。
 これは、従来の悪政の転換ではなく、むしろその加速化・強化である。
 安倍政権の支持率を押し下げている国民の不満と怒り、行動は、いちだんと高まらざるを得ない。「異論聞く度量」(読売新聞)程度のことで、支持率が浮上するはずもないのである。
 来年秋の自民党総裁選、来年末までに行わなければならない解散・総選挙、さらに安倍首相の宿願である憲法改悪発議の時期を鑑みながら、安倍政権は、財界の要求と国民の批判との間で、右往左往せざるを得ない。
 今回の内閣改造によって一時的な支持率上昇は可能だろう。今後の補正予算や来年度予算などで、いくらか支持をつなぎ止めようともするだろう。「自主」を掲げた欺まん的な外交政策も強めるだろう。
 だが、すでに述べたように、内外環境の危機は深まり、政権の課題も難題だらけである。
 敵が困っていることは、闘う側にとって有利である。
 労働者・労働組合は職場・地域での闘いを強化することを基礎に、農民、中小自営業者など国民諸階層の要求と闘いを支持し、その先頭で闘わなければならない。
 国民生活打開とアジアの平和のための確かな保証は、独立・自主の国の進路である。国民的戦線をつくり、安倍政権を打ち倒して、独立の政権をめざさなければならない。
 とくに、与党の一角として政権を支える公明党への批判を強めなければならない。都議選をめぐっては自民党と「離れ」、自公両党間にはすきま風が吹いている。公明党の連立政権からの離脱要求を強化しよう。
 また、一時は「ただ働き残業」を含む労働基準法改悪を容認するなど、安倍政権の社会的支柱に成り下がった連合・神津執行部を徹底的に批判・暴露しなければならない。連合内での闘う勢力の結集を進める好機である。
 歴史的激動期である。労働者・労働組合は腹を据えて、闘いの準備を強めなければならない。  (O)


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