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2017年7月25日号 2面

欺まん的な「働き方改革」を
打ち破ろう


安倍政権の延命助ける
連合中央の裏切り許すな


日野 政夫

  神津・連合会長は七月十三日、安倍首相と会談し、安倍政権が今秋の臨時国会で成立をもくろむ「高度プロフェショナル制度」(高プロ制)を含む「労働基準法改悪案」を事実上容認する態度を示した。
 連合中央指導部は、支持率低下や東京都議選での歴史的大敗で窮地にある安倍政権と断固として闘うべき時期に、「敵に塩を送る」という犯罪的な行動に出たのである。
 この裏切りは、全国の現場労働者の怒りと不満を呼び起こし、連合はもはや「労働者の代表ではない」という声が高まっているのは当然である。傘下単産や地方連合も怒り、あるいは呆然として「虚無感」さえ訴える幹部もいるという。神津指導部が政労使での「合意」をめざした会議は、延期に追い込まれた。連合中央指導部の権威は地に落ちた。
 安倍政権が当面成立をめざすのは「労働基準法改悪案」と「働き方改革関連法案」である。
 「働き方改革」をめぐり、安倍政権は「柔軟で多様な働き方」「同一労働同一賃金制度」の導入、最低賃金の引き上げなどを打ち出し、長時間労働の是正や非正規労働者の待遇改善といった、労働者の切実な要求を取り上げるかのような幻想を振りまいている。
 だが、この改革は「労働生産性を高め」、多国籍大企業が国際競争で打ち勝つための労働者・労働組合運動への攻撃である。賃金差別の解消や長時間労働の是正はできず、労働者の生活はいっそう悪化する。集団的な労使関係の破壊をも企むものである。
 労働運動は岐路に立たされている。
 目前の「働き方改革」を打ち破るために闘わなければならない。法制化への反対はもとより、現に存在する長時間労働、低賃金と賃金差別、非正規労働者の過酷な労働環境、リストラ攻撃などに対する切実な要求を取り上げ、職場・産別、全国で闘いを粘り強く組織しよう。
 この闘いのなかで労働者の団結を打ち固め、自己の階級的な利益のために闘うとともに、安倍政権の悪政に苦しむ農民、中小零細商工業者、学生など広範な国民の切実な要求を支持して、その実現のために闘おう。
 こうしてこそ、労働組合は国民諸階層の中で信頼を得ることができる。
 世界は大激動の只中にある。支配層も従来通りにはやっていけない情勢で、敵は襲い掛かってくる。労働運動も迫りくる破局、大きな闘争に備えて闘うときである。労働運動は革命的な政治と結びつき、戦略的に闘ってこそ活路を切り開くことができる。

「働き方改革」の狙い
 安倍政権は政権発足以降、「強い日本を取り戻す」ことを掲げ、経済再生、日米の絆の回復(日米同盟強化)など、安倍流の内外政策を進めてきた。
 経済政策では、アベノミクスを打ち出して、黒田・日銀総裁の「異次元金融緩和」政策を中心に、機動的な財政政策、成長戦略という「三本の矢」を放ち、脱デフレ・経済成長を達成することを約束した。
 輸出大企業や金融資産家はアベノミクスの円安・株高でボロ儲(もう)けした。だが、日本経済は経済成長どころか、財界から見ても満足できる現状ではない。最近の「未来投資戦略」では、日本経済の現状について「長期停滞」に陥っていると指摘されている。
 地方経済はいちだんと疲弊し、少子高齢化の進行も急テンポで進んだ。
 労働者階級、農民・中小企業経営者、商工自営業者など、諸階級の生活と営業は悪化し、広範な労働者国民諸階層は困難に陥っている。
 労働者の実質賃金は、起伏があるが低下傾向である。先進資本主義国で、賃金が一貫して下がっているのは日本だけで、賃金格差は是正されていない。資本金十億円以上の大企業で年収二百万円以下の労働者が一一六・九万人(二〇一二年)から一四〇・六万人(一五年)へと、一・二倍に急増した。その背景は、大企業での非正規労働者の急増である。
 長時間労働は改善されていると一部では言われているが、製造業一般常用労働者(三十人以上)は年間二千二百十五時間というすさまじい長時間・過密労働を強いられている(労働力調査)。過労死がまん延するわけである。
 アベノミクスの破たんは、すでに明らかとなった。安倍政権は窮地を逃れるために、「新三本の矢」を唱え、一六年六月には「ニッポン一億総活躍プラン」を閣議決定した。同プランは「最大のチャレンジは働き方改革」と指摘、雇用・労働法制大改悪が、アベノミクスの新たな成長戦略の柱に据えられたのである。
 安倍首相は「働き方改革実現会議」の第一回目会合(一六年九月二十七日)で、「働き方改革は、第三の矢、構造改革の柱」「働き方改革こそが労働生産性を改善するための最良の手段」と、あからさまに述べている。
 安倍首相が特に強調しているのは、「長時間労働の是正」と「同一労働同一賃金による非正規労働者の処遇改善」である。電通労働者の過労死自殺が社会問題となったこともあり、長時間労働の是正に取り組むという。しかし、本当であろうか?
 安倍政権は一七年三月に、経団連・連合の「時間外労働の上限規制」の合意を受け、政労使会議で「罰則付きの時間外労働の上限規制」導入を正式決定した。安倍首相は、この決定を「労働基準法七十年の歴史の中で特筆すべき大改革」と自賛している。
 この決定では、特に忙しい時期は特例として、単月で百時間という「過労死ライン」を超える残業時間を容認している。連合中央の態度は、安倍政権を仲介にした、財界への譲歩にほかならない。
 さらに、神津・連合会長は、安倍首相との会談で、これまで反対してきた「高プロ制」導入を含む労基法改悪をめぐり、「年間百四日以上の休日」などのわずかな「修正」を要請することで、安倍政権に歩み寄った。
 連合はこれまで「高プロ制」を「残業代ゼロ」法案と批判してきたが、突然の変心である。この制度は、労基法が規定する「一日八時間、月四十時間」という残業時間規制に風穴を空け、労働者を無制限に働かせることにつながる許しがたいものである。当面は年収一千三十七万円の労働者が対象だが、経団連は当初から、年収四百万以上の労働者に適応するべきと公言している。労働者は、これまで以上に企業の言いなりに、低賃金で働かさせられることになる。
 安倍政権は労働時間の是正と並んで「非正規労働者の待遇改善問題」を強調し、その政策手段として「同一労働同一賃金」の導入を掲げている。
 非正規労働者からすれば、歓迎すべきことであろう。しかし、その正体は、労働者全体の賃金を引き下げることを狙った悪質な攻撃である。
 第一に、財界司令部である経団連の考え方が色濃く反映されていることである。榊原・経団連会長は「多くの日本企業では、その人の仕事の内容や責任の程度のみならず、期待、役割、転勤を含む将来的な人材活用などさまざまな要素を勘案して、賃金を決めている。これは日本企業の競争力の源泉の一つである。同一の職務内容であれば同一の賃金を支払うという単純なものとするのではなく、わが国の雇用慣行を踏まえた議論が必要である」(一六年二月二十四日)と発言している。
 彼の主張は、同一企業での同一職務でも賃金(基本給)の決め方で「期待、役割、人材活用」を勘案して違いを容認するというものである。日本的な労働慣行に合わせた仕事・役割給という賃金体系の改悪が進むことになる。
 第二に、「ニッポン総活躍プラン」では随所に「自由で多様な働き方の選択肢を広げる」と強調され、その具体策として「限定正社員」など「多様な正社員制度の導入」が提起されている。現実に限定正社員制度は進行しているが、その賃金は正社員の六割〜八割程度である。こうした限定正社員を増やして労働者全体の賃金水準を低くするのが、企業の狙いである。
 同一労働同一賃金の名の下に、正社員の賃金を非正規労働者並みの水準に引き下げていくことが、労働現場では現実に進んでいるのである。

連合指導部の裏切り許すな
 連合中央指導部による「高プロ制」容認は、労働基準法の空洞化と否定につながる方針転換で、裏切りである。しかも、十分な討議さえ経ずに、一握りの幹部が首相官邸と相談して行った。神津会長は、政労使交渉で連合の要求を少しでも盛り込ませるほうが「現実的」であるという趣旨の発言をしている。安倍政権が仕組んだワナにはまったのである。
 連合中央指導部は、安倍政権誕生以降、政労使会議や「官製春闘」を手始めに、その取り込み策に乗ってきた。安保法制が焦点化していた際は、逢見副会長(当時)が安倍首相と密かに会談して組合員の不信と怒りを買った。その後も、連合中央は「働き方改革実現会議」にも加わって「共同責任」を負わされた。安倍政権と示し合わせ、憲法改悪のための「議論」も始めようとしている。連合中央は、安倍政権を支える社会的支柱へと転落した。
 今回の裏切りはこれらの帰結である。連合の「制度政策要求」は、ここに極まったというべきである。労働者、組合員の闘いのエネルギーを信じることができず、国会内での与野党の力関係しか見ることができないがゆえの弱さ、限界である。
 現在、安倍政権は急速に支持率を低下させており、政権運営は危機的である。
 連合指導部は六百七十万人の組合員を信頼し、断固として闘うべきである。雇用・賃金問題で、戦後の労働運動が闘い取ってきた権利を放棄するような屈服を拒否しなければならない。また、労働者の団結と力に頼り、安倍政権打倒の旗を掲げて国民の先頭に立って闘うべきなのである。
 連合が闘いを呼びかければ、安倍政権の悪政に苦しむ広範な人びとを激励し、国民と労働者の支持を獲得できるであろう。
 連合・神津指導部はそうしないことで、労働運動の歴史に汚点を残した。
 「働き方改革」についての攻撃を容認するだけでない。安倍政権の支持率回復、総選挙をにらんだ安倍政権の民進党揺さぶりの策動に手を貸し、政権の延命を助けている。連合・神津指導部は、落ち目の民進党と適切な距離を取り、「小池新党」を支えつつ、政権党である自民党と「連携」したほうが政策実現にとって早道という判断であろう。そうすることで、連合指導部の「権威」を維持しようとしているのだろう。今回の、現場組合員や単産、地方からの批判も、神津会長の「続投」という、人事上の策略で乗り切ろうとしている。何とさもしい根性であろうか。
 先進的な労働者は、改めて連合指導部が推進する路線を点検し、闘う方針を打ち立てるべきである。政権に依存した「制度政策要求」の取り組みはやめるべきである。
 窮地に立たされている安倍政権を助けるのではなく、安倍政権を打倒すための準備を進めるときである。

労働運動の真価が問われる
 安倍政権は、労働運動の弱みに付け込んで、長時間労働の是正や同一労働同一賃金の実現など大衆の期待をあおりながら、支持基盤を広げようと必死である。
 「働き方改革」は巧妙に仕掛けられた攻撃であり、これを許せば、労働者の暮らしはさらに悪化することが明らかだ。
 組織労働者・労働組合は、未組織や非正規を問わず、すべての労働者の要求を支持してともに闘おう。先進的な労働者・労働組合は五千万労働者を視野に入れて労働運動の階級的革命的前進をめざして闘おう。連合内外で労組活動家の全国的な結集をめざそう。
 「働き方改革」があろうがなかろうが、労働者の生存条件は極めて悪化している。
 先進的な労働者・労働組合は労働者の現場に入り、彼らの切実な要求に耳を傾けて、それを取り上げて企業・資本に対して、また政府に対して闘争を組織しよう。
 (1)すべての労働者に八時間労働で生活できる賃金を保障しろ。(2)全国どこでも時給一千五百円の最低賃金を即刻実施せよ。産業別最低賃金制度を創設せよ。(3)同じ仕事には同じ賃金を。賃金差別を許さない。非正規労働者の処遇改善。正規労働者の賃金切り下げを許さない。(4)労基法が定める一日八時間、週四十時間の労働時間を原則とする。労使は労基法の時間規制を厳守せよ。(5)法人実効税率の切り下げ反対。大企業からもっと税金を取れ。消費税は将来廃止せよ、当面は最低でも五%に戻せ。勤労国民の税金、社会保障負担を引き下げろ。(6)高プロ制の導入反対、企画業務型裁量労働制に反対ーーなどの要求を掲げて闘わなければならない。
 また、労働運動は安倍政権の悪政に苦しむ農民、商工自営業者、中小企業経営者の切実な要求を支持して労農提携、労商提携など国民各層と連携して闘おう。
 労働運動は国の進路の課題でも、積極的に闘っていこう。労働運動は国の運命を奪い返すために国民の先頭で闘おう。
 偉大な闘争が迫ったとき、労働者階級は全国的ストライキで闘えるよう準備しよう。これこそが、政治を変える最も確かな保証である。


迫りくる破局に備えよう
 こんにちの世界は、歴史的な転換期である。自国の衰退と中国の台頭などに揺さぶられ、米帝国主義は「米国第一」で歴史を巻き戻そうと悪あがきをしている。世界はますます「戦争を含む乱世」の様相を深めている。
 その背景には資本主義の末期症状の深まり、リーマン・ショック以降の世界金融・経済危機の新たな深化が存在する。
 「トランプ津波」の襲来で、また世界情勢の激変のあおりを受けて、安倍政権の戦略は総崩れとなった。
 労働者階級は迫りくる破局、敵の本格的な攻撃に対し、戦略的に備えねばならない。偉大な闘争が待っているのである。
 労働運動は、独立・自主の政権樹立をめざして、安倍政権の欺まん的な内外政策を暴露し、苦しんでいる国民諸階層と政治的な統一戦線を構築して主導的に闘おう。 


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