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2017年7月15日号 1面

日欧EPA「大枠合意」糾弾

農業・酪農には致命的打撃に
 競争力強化もくろむ財界に奉仕
 「米国のTPP再合流」も狙う

  安倍首相は七月六日、欧州連合(EU)との経済連携協定(EPA)交渉が正式に大枠合意したと発表した。日本は環太平洋経済連携協定(TPP)並みか、あるいはチーズなどではTPPを超える水準の市場開放を受け入れた。酪農などわが国農業に致命傷を与えかねない内容で、許しがたい暴挙だ。
 安倍政権が影響試算などの情報開示も拒み強引に合意へと持ち込んだ背景は、政権への支持率低下から国民の目をそらす姑息(こそく)な思惑だけではない。
 リーマン・ショック以降の危機がさらに深刻化するなか、市場と資源をめぐる争奪が激化している。わが国多国籍大企業は、世界の総生産(GDP)の約三割を占める日欧の経済圏を実現することで、国際競争に勝ち抜こうとしている。安倍政権は、これに忠実に応えている。
 さらに、日欧EPA大枠合意をテコにTPPを早期に発足させ、米国のTPP復帰をお膳立てする属国的な使命感がある。
 わが国の農業や農村にとどまらず食料安保など国全体に多大な打撃を与え国の根幹を揺るがす日欧EPAやTPP策動を打ち破る国民的運動が急がれる。

TPP以上の打撃にも
 日欧EPA交渉で最後まで対立していたのはチーズや自動車の関税だという。日本は欧州産チーズの低関税枠を一定量設定し十五年で撤廃、一方でEUは日本産自動車への関税を七年かけて撤廃することで合意した。また日本は豚肉、それにパスタなどの小麦製品について十年で関税を撤廃、EUはテレビなど工業製品にかかるほとんどの関税を撤廃する。
 チーズでの譲歩は酪農家の経営を直撃する。
 TPPではハード系チーズの関税撤廃が合意された。大手乳業メーカーは五十万トンの国産チーズ向け生乳が行き場を失うと懸念し、北海道生乳が都府県に押し寄せて、飲用乳価も下がり、全国的に深刻な影響が懸念された。
 EUとの交渉では、さらにソフト系チーズで輸入枠を受け入れた。枠数量は二万トン(初年度)から三万一千トン(十六年目)と拡大し、乳価下落の負の連鎖によって酪農生産に大きな打撃が生じる可能性はさらに強まった。
 そうでなくても国内の酪農家の数は二〇〇七年の二万五千戸から現在は一万七千戸と三割以上減少している。海外の乳製品との競争やエサ価格の高騰などが原因だが、それに拍車がかかることは避けがたい。
 豚肉についても、低価格の豚肉関税が最大十分の一となる一律五十円に引き下げられるTPP合意がEUに適用されると、日本への冷凍豚肉の最大の輸出国であるデンマーク や近年イベリコ豚ブランドで急増しているスペインからの輸入が低価格で大幅に増加して影響がTPP以上に深刻になる可能性もある。
 米国養豚業界にとっては日本に認めさせたと喜んでいたTPP合意内容を先にEUに適用されるため、日米経済対話でさらなる開放圧力を高るのは必至だ。
 このように国内産業に大きな犠牲を強いる経済連携協定を、影響試算も公表せず、国会での議論もなく合意した。豚肉については「TPP並み」というが、条件の違う国や地域との取引なので、事情は異なる。勝手きわまりない。
 チーズに至っては、生乳改革を盛り込んだ畜産経営安定法(畜安法)改悪案が先の国会で成立、「政権運営に影響はない」とにらんだのかもしれない。生産者軽視も甚だしい。
 酪農家にとっては生乳改革と市場改革がダブルパンチとなり、致命傷となりかねない。酪農地域への壊滅的打撃や国産牛乳が飲めなくなる状況もあり得る。

米財界主流の意に沿う
 日欧EPA交渉は二〇一三年四月に開始された。当初は一五年中の「大筋合意」をめざしていたが、農産物や自動車の関税などで隔たりが埋まらず、目標年限を一年先送りしても、合意に達していなかった。
 今回の交渉の「大枠合意」は、TPPなどこれまでの通商交渉で各国と合意に至った「大筋合意」より完成度の低い内容だ。法的精査など技術的な作業が残っているだけの「ほぼ一〇〇%合意した状態」である「大筋」とは違い、「大枠」では一、二分野が決着しなくても、互いに関心が強く重要な関税分野などの決着で合意を打ち出すアピール性の強いものだ。実際、日本が固執するISDS(投資家対国家紛争処理)などは難航している。
 それでも今回、二十カ国・地域(G20)首脳会議の議長を務めるドイツが首脳会議前の「合意」にこだわった。「米国第一」の米国や英国のEU離脱決定を受け、「自由貿易を推進する」という姿勢をアピールする狙いがあった。
 それ以上に合意を欲していたのが安倍首相だ。日欧EPAの大枠合意について安倍首相は「保護主義的な動きのなか、自由貿易を高く掲げるとの、強い政治的意志を示すことができた」と胸を張った。
 これは保護主義的傾向を強める米トランプ政権に比して一定の「独自性」ではあるが、対米従属の枠内のものにすぎない。安倍政権の狙いは、日欧EPAをダシに米国をTPPに復帰させることだ。わが国財界に奉仕し、日本を対米従属下の「アジアの大国」として登場させる狙いもある。
 TPPは、米国が台頭する中国を抑えて自国に有利な経済ルールを構築するための仕掛けで、アジア・リバランス戦略の一翼だ。日本もこれに協力し続けた。
 だが、自動車や鉄鋼などの米国労働者はTPPを憎悪し、トランプ政権を誕生させた。トランプ大統領はTPPから離脱し、大金融資本など米財界主流は手痛い反撃を食らった。しかし米財界がTPPをあきらめたわけではなく、大統領の翻意を画策し続けている。
 安倍政権はそうした米財界の意もくんで動いている。日欧EPA大枠合意直後の十二日から、神奈川県箱根町でTPP首席交渉官会合を開き、米国以外の交渉参加十一カ国で「TPP 」を早期に発効させようと音頭を取った。会合では、米国が復帰しやすい形となるよう、バイオ医薬品のデータ保護期間などの議論を導いている。
 米日でアジアでの経済ルール構築を主導し、台頭する中国を抑え込む、そのためには日本の農業・酪農などの犠牲はいとわない……これが安倍政権の本音だ。「独自」どころか、属国根性そのものだ。
 日欧EPAやTPPは国の未来をうらなう重要課題だ。国民的な声を高め、安倍売国政権を打ち倒すことが求められている。(I)


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