2017年6月25日号 3面・解説
FRBが「資産圧縮」打ち出す
世界に新たな破局の芽 |
米連邦準備理事会(FRB)は六月十四日、連邦公開市場委員会(FOMC)を開き、〇・二五ポイントの金利引き上げを決めた。併せて、リーマン・ショック後に膨らんだ資産規模の圧縮に踏み出すことを明らかにした。イエレン議長は米国経済の「好調さ」を理由としているが、実情はほど遠い。さらに、資産圧縮は世界、とくに新興国経済に甚大な影響を与える可能性がある。国際通貨基金(IMF)も、新たな危機に対して準備を始めた。FRBの金融政策は、世界経済の新たな破局の芽である。
今回の利上げは今年二回目である。FOMC声明では、利上げの根拠として「労働市場の力強さ」と「経済活動の緩やかな拡大」をあげた。
一方で、雇用増が「緩やか」であること、一〜三月期の経済成長が減速傾向であることを認め、金融政策の基調は「緩和的」であるとする。
統計を見れば、非農業部門雇用者数は一、二月は二十万人を超えたが、三月は八万人に届かず、四月は再度二十万人を超えた。一〜三月期の経済成長率は一・二%で、昨年第4四半期の二・一%から減速している。
イエレン議長は、雇用者増が平均すれば「好調」であること、景気も四月以降は「回復している」とし、これらを根拠としているわけである。
経済上向きは根拠が乏しい
だが、四月以降も「上向き」と逆行する経済指標が少なくない。
設備投資の指標である「コア資本財出荷額」は▲〇・一%(四月)であり、国内総生産(GDP)の七割を占める個人消費が反映する小売業売上も〇・四%増(四月)にとどまる。自動車販売台数に至っては、五月まで五カ月連続で前年同月を下回っている。自動車版サブプライムローン(低所得者向けローン)による「消費あおり」が破綻したのである。
消費者物価指数(食品・エネルギー除く)も目標の二%には届かず、伸び率は四カ月連続で縮小している。イエレン議長は「統計のノイズ」としているが、国内需要が弱いことの証明である。
労働事情も似たようなものである。確かに雇用者数は増加傾向だが、一方で月に百五十万人もの労働者がレイオフ(一時解雇)されており、これは二〇一〇年の水準と変わらない。また、実質賃金はほとんど伸びていない。なかでも、第二次産業労働者の賃金の伸びが停滞している。労働者のふところは豊かになっておらず、需要が伸びないのは当然である。
ではなぜ、今年二回目の金利引き上げに踏み切ったのか。
トランプ政権は予算教書で、大型減税と財政出動を打ち出した。だが、「ロシアゲート」問題などで政権基盤はいまだ確立できず、共和党内には財政出動への反対論は根強い。財源としてあてにしていたオバマケア(医療保険制度)改革案も最終合意に至っていない。
米経済の先行きは、こうした政治面からも不透明さを増している。FRBとすれば、「明るい材料」が少しでもあるうちに利上げを進め、経済が悪化した際に利下げできるよう、金融政策の「自由度」を確保しておきたかったのである。
また、イエレン議長の任期は一八年二月までである。任期中に金融政策の「正常化」に踏み出しておきたいと思うのは、彼女としては当然である。
資産圧縮は容易ではない
FOMCは利上げとともに、量的金融緩和で膨らんだ資産規模(バランスシート)の圧縮に、年内にも着手することを表明した。
FRBの資産規模は、リーマン・ショック前の約九千億ドルから、こんにちは四兆五千億ドルにまで膨らんでいる。うち、米財務省債が二兆四千億ドル、不動産担保証券(MBS)が一兆七千億ドルなどとなっている。
資産圧縮は、米国債を月六十億ドル、MBSを月四十億ドル、再投資しない形で進める。この規模は徐々に拡大させ、一年後には国債を月三百億ドル、MBSは二百億ドル縮小する。これにより、二年間で九千億ドル程度の保有債券を売却する計画である。圧縮開始時期は、早ければ九月が想定されている。
九千億ドルとは、どの程度のものか。FRBの資産規模の五分の一、全世界のドル(ワールドダラー)の約十分の一にも達する。日本や中国が買ってきた米財務省債(それぞれ約一兆ドル)とも大差ない巨額のもので、GDPに換算すれば世界第十六位のインドネシアに匹敵する。
「徐々に」とはいえ、これだけの規模の資産を市場で売却することになる。米国だけでなく、世界の実体経済の成長率が鈍化するなか、誰が購入するのか。市場が、結局は実体経済の動向に規定されるものである以上、FRBが資産売却を開始・継続することは順調にはいかないだろう。市場で売ろうと思っても、買い手がなければ価格は下落し、FRBの損失が膨らんで、ドル不安を引き起こすことになるからである。
諸国間の矛盾を激化させる
また、順調に圧縮(売却)できたとしても、これは米国債やMBSに投資マネーが集まるということになる。こんにち、利ざやを求めて世界中を飛び回っている資金が、米国に環流することになる。この資金環流が大規模に進めば、新興国からの大規模な「資金流出」となる。
資金流出は、新興国での「貸し渋り」増加と企業倒産、失業増、さらに社会不安の拡大となり、反政府運動の高揚も必至となる。一九九七年、タイからの資金流出をきっかけに、マレーシア、インドネシア、韓国などアジア規模で危機が発生(アジア通貨危機)、国際通貨基金(IMF)は「支援」の見返りに増税などの厳しい条件を押し付けた。これを背景に、各国で反政府運動が激化し、インドネシアではスハルト政権が打倒された。韓国では、人民の支持で当選した金大中政権が、労働者の反対を抑え込んで危機を乗り切った。
すでに新興諸国は、リーマン・ショック後、米国の量的緩和政策で資金が流入、通貨高による輸出不振などで米国への不満を高めてきた。ブラジルなどは、「通貨戦争」と米国を厳しく批判した。緩和政策は世界的な穀物価格高騰にもつながり、食料を輸入に依存する中東・北アフリカ人民は「アラブの春」といわれる反政府行動に立ち上がった。
米国が資産圧縮に踏み出せば、同様の事態が起きる可能性がある。IMFはこれを見越し、アジア通貨危機当時の対応とは異なり、厳しい条件なしでドル資金を融通する仕組みをつくる方針を打ち出している。帝国主義者は、自らの措置が破局を招き寄せはしないかと、戦々恐々としているのである。
だが、IMFの支援で十分な程度の危機でおさまる保証はない。
FRBの金融政策は、世界資本主義の破局の芽を育て、各国内の階級矛盾を激化させるだけでなく、米国に対する国際的不満をいちだんと高め、諸国間対立を激化させることになろう。
日本も収奪される
先進国・日本にも重大な影響がある。
利上げ、さらに資産圧縮は、一般的には「ドル高・円安」要因である。資産圧縮によって、二年で最大十六円程度の円安が進むという試算もある。
だが、「米国第一」を掲げるトランプ政権が、自国が撒いた種だからといって、貿易赤字をさらに拡大させることになる「ドル高・円安」を容認し続けることはあり得ない。
夏以降に第二回目が予定される「新経済対話」等の場で、自動車や農産物を中心とする市場開放要求、「貿易不均衡是正」の対日要求がますます激化しよう。
さらに、何らかの政治的取引により、日本の官民資金が、資産圧縮で売りに出された米国債などを購入する目的で動員される可能性がある。
これに類することは、歴史的に「ドル売り介入」などの形で、何度も行われてきた。好例は、一九八五年の「プラザ合意」である。会議後、協調介入によって急速な「円高・ドル安」が進行し、地方の地場産業を中心に、日本経済は甚大な被害を受けた。一方、大企業は円高を武器に海外展開を強め、多国籍企業化を進めた。
国民の血と汗の結晶が、米国を助けるために使われ、ますます収奪されるのである。
日米関係はいちだんとぎくしゃくし、保守層内部にも、米国、日米関係への不満が高まろう。労働者階級が確固たる展望を持ち、「国の独立」を掲げた広い戦線をつくり、その先頭で闘い、政権に向けて前進する好機である。 (O)
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