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2017年6月15日号 2面・解説

骨太の方針と
「未来投資戦略」閣議決定

250万人の職を奪う攻撃

  安倍政権は六月九日、来年度予算の編成指針である「骨太の方針」と、「成長戦略」である「未来投資戦略」を閣議決定した。それぞれ、政権成立以来五回目のものである。アベノミクスによって国民の貧困化が進み、限界を示すなか、課題である「経済再生」を何とか実現しようとする、窮余の一策である。内容は「生産性向上」などだが、財源の裏付けはない。しかも、これらの政策が実行されれば、国民生活はいちだんと厳しさを増すことになる。


   「未来投資戦略」では、日本経済の現状を「先進国に共通する『長期停滞』」とし、(1)供給面では長期にわたる生産性の伸び悩み、(2)需要面では新たな需要創出の欠如を課題としている。
 その上で、「成長と好循環を拡大するため、人材への投資を通じた生産性の向上を図る」(安倍首相)などとする。要するに、生産性の向上を優先課題とし、それによって経済成長を実現し、さらに労働者への配分を増やして需要不足を解決しようという政策である。
 掲げられた内容は、幼児教育・保育の早期無償化、待機児童解消など、国民が切実に抱える課題のほか、人工知能(AI)やロボット、IoT(モノのインターネット)、ビッグデータ、小型無人機(ドローン)による荷物配送、自動運転技術などといった革新技術の活用が盛り込まれた。

政権維持へ「窮余の一策」
 安倍政権は二〇一二年末の誕生直後から、異次元の金融緩和、機動的財政政策(当面は財政出動)、成長戦略という「三本の矢」を掲げてきた。この結果、安倍政権は、現状を「企業は史上最高水準の経常利益」などと、あたかも日本経済の「好調」を実現したかのように描いている。確かに、大企業は円安による海外収益の拡大や株高などで「わが世の春」をおう歌している。「実質無借金」の上場企業は初めて二千社を超えた。全上場企業に占める割合は、安倍政権発足時の五二%から約八ポイントも上昇している。
 一方、直近の二〇一七年一〜三月期の国内総生産(GDP)は、実質成長率はわずかに前期比〇・三%増にすぎない。これだけを見ても、「経済再生」にはほど遠い。
 しかも、政府の度重なる「賃上げ」呼号にもかかわらず、労働者の実質賃金は下がり続けている。年金などの社会保障制度はさらに改悪され、負担は増加、給付は削減された。消費支出は実質一年八カ月連続で前年同月を下回っている(家計調査)。
 労働者をはじめとする勤労国民は貧困化し、ごく一握りの大企業、投資家との格差はますます開いた。アベノミクス下の約四年半、大多数の国民の実感は「デフレ脱却」どころではない。企業の儲(もう)けが増えれば、それが労働者の賃金に波及するという「好循環」、トリクルダウン論の破綻は明らかである。
 株高などを支えた日銀による国債購入は限界に達しつつあり、度重なる財政出動で国家財政はいちだんと危機的になった。
 安倍政権は「地方創生」「アベノミクスの第二ステージ」などと言い、アベノミクスの破綻から国民の目をそらし、「期待」をつなぎとめようとしてきた。もともと、金融緩和や財政出動は「当面の措置」で、成長戦略の可否こそが安倍政権の経済政策の帰すうを握っていた。だが、なかでも「岩盤規制にドリルで穴を空ける」などと意気込んだ成長戦略は、保守層を含む国民各層の抵抗で思うに任せず、国家戦略特区をめぐっては「加計学園問題」も浮上した。
 さらに、日本企業にとって最大の市場・投資先である米国では、「米国第一」を掲げたトランプ政権が誕生した。
 トランプ政権は、わが国の自動車や農産物をやり玉にあげ、市場開放を迫っている。対日要求は、「日米経済対話」の場を中心に激化するだろう。
 安倍政権には、国際競争に勝ち抜きたい財界の「尻たたき」に応え、国民の支持をつなぎとめるための新たな施策が必要となっていた。それが「未来投資戦略」である。内外環境の悪化でアベノミクスの前提が崩壊しつつあるなか、いわば政権維持のための「窮余の一策」である。

戦略成功の保証はない
 今回打ち出された施策では、幼児教育・保育の無償化だけでも一兆二千億円以上が必要とされるし、待機児童対策では多くの保育所整備や人件費などが必要となる。
 数々の政策に対する財源を示すのが「骨太の方針」であるはずだが、「裏付け」はほとんど示されていない。社会保障費を抑える策の一つである薬価引き下げは、総選挙対策として自民党が強硬に反対したことで、先送りされてもいる。一九年十月の消費再増税ができる環境ではない。
 基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)の黒字化目標(二〇年度)は「堅持する」としたが、実際には、従来の「PB黒字化後に債務残高GDP比を下げる」という方針を「同時にめざす」と変更した。事実上、「PB黒字化」を放棄し、成長率の上昇で債務残高比を下げることを願う方針である。
 消費税増税を二度に渡って延期に追い込まれるなど、財政再建はすでに「建前化」していたが、いよいよ、財政再建のあてがないことを政府が自白したものである。
 財政の限界は成長戦略の手足も縛るし、成長が鈍化すれば税収が伸びず、財政問題も改善しない。技術革新の成果が税収に反映されるあてもない。日銀が金利操作を続けても限界がある。財政と成長は互いを制約し、安倍政権を追い詰めることになる。


国民に失業など苦難の道
 AIなどによる革新技術に関する、日本の現状は、米国やドイツを先頭とする欧州諸国に立ち後れている。自動運転やドローン技術は米国、IoTではドイツが先行しているとされ、中国など新興国企業の追い上げも激しい。
 日本企業が、国際的競争に勝ち残れる保証はない。
 しかも、仮にこれらの成長戦略が成功しても、経済の基幹はますます米国に従属することになる。安倍政権の施策は、ハイテク分野での種々の規格、サービスなどでは米国の主導権を認め、それを前提としたものだからである。
 ドイツで進められている「第四次産業革命」は、国内を「一つの工場」のごとく運営する構想である。日本で同様のことを進めれば、対応できない中小零細企業、労働者は排除され、倒産・廃業に追い込まれる。AIなどによる生産の自動化で、労働者の雇用はますます奪われる。
 三菱総研によれば、三〇年までに二百四十万人の雇用が失われる。内訳は、生産現場で百五十万人、販売関連で六十五万人など。代わりに、IT(情報技術)関連で約三十七万人の雇用が生まれるなどというが、転職が容易ではないことは言うまでもない。未来投資会議も、「生産性の抜本的改善を伴うことから失業問題を引き起こすおそれがある」と認めている。
 社会保険負担を毎年大幅に削減する「経済・財政再生計画」の「着実な実行」も明記されており、社会保障制度の改悪は今後も進む。「新たな社会保険方式の活用」ということで、「こども保険」の導入の方向が示唆(しさ)されているが、勤労国民に対しては事実上の増税である。
 これでは国民のふところは潤わず、厳しくなる一方である。需要が高まるはずもなく、経済成長は「限界付き」のものとならざるを得ない。「格差」はさらに開こう。
 政府や御用学者の限界は、「生産性向上」と「需要創出」を課題とはしているが、あくまで企業の「生産性向上」が優先され、前提となっている。ここに、かれらの限界がある。「生産性向上」は、過密労働や賃下げの「温床」だからである。
 大幅賃上げ、大衆減税、社会保障制度の充実などで国民のふところを豊かにし、需要を高めてこそ、国民経済は発展でき、企業も儲かる。
 だが、多国籍大企業にはその道は考えもつかない。そのような方向では、激しい国際競争に勝ち抜けないからである。
 「骨太の方針」「未来投資戦略」の破綻は不可避だが、国民生活を道連れにすることは許されない。国民生活・国民経済を発展させる方向へと、政治を変えなければならない。
 政治・政党が国民をますます貧困化させ、不満に応えないとすればどうなるか。未来投資会議は「他の先進国のような社会的摩擦」が高まり得ることを自白している。国民は直接民主主義に出口を求めざるを得なくなる。
 生活危機の打開を求めた闘いを発展させなければならない。     (K)


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