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2017年6月5日号 1面

加計学園問題
糾明と国家戦略特区の廃止を

「お手盛り」規制緩和と
官僚統制の結末

 加計学園問題の発覚を契機に、安倍政権に対する国民の憤激がいちだんと高まっている。
 安倍首相の友人が理事長である同学園がかねてから要請していた「獣医学部設置」を、国家戦略特区にかこつけて認可し、さらに補助金九十六億円と三十七億円の土地が提供されたことが明らかになっている。問題をめぐり、前文科省事務次官が、首相官邸からの複数の「圧力」を認めている。
 だが、安倍政権は責任をあくまで否定、御用マスコミを動員して前事務次官への人格攻撃まで行って、問題鎮静化を策動している。

国家戦略特区の本質暴露
 加計問題をめぐっては、「政治の私物化」とする批判が盛んである。だが、問題はそれだけではない。
 加計学園の獣医学部は、国家戦略特区によって可能となった。
 国家戦略特区は、二〇一四年以来、政府の産業競争力会議の主導の下で決定されているもので、地域を限定して規制緩和などの措置を取る。従来の特区は、地方が申請して国が許可する形を取っていたが、国家戦略特区は「総理が主導の特区」(竹中平蔵・同会議委員、慶大教授)である。「岩盤規制の打破」を掲げた安倍政権にとって、内外の多国籍大企業の意向に沿って日本の経済・社会を改造するための道具である。
 これまでに行われた規制緩和でも、政府委員を務める「政商」らが、自らに有利な緩和措置を実行させ、ボロ儲(もう)けしてきた。
 たとえば、宮内会長が一九九〇年代末から規制改革関連の会議に参加し続けるオリックスは、PFI(公共施設への民間活用)の促進が決まった九九年以降、全国のPFI事業の一割近くに入札参加、神奈川県の「海洋総合文化ゾーン体験学習施設等特定事業」などを落札している。
 国家戦略特区で「農業の改革拠点」とされた新潟県では、産業競争力会議の委員である新浪・ローソン会長(当時)の下、コメ生産・加工に参画している。
 規制改革政策の「お手盛り」が、国家戦略特区によっていちだんと強化され、「総理が主導」するものとなった。加計学園問題は、この必然的産物である。
 加計疑惑の徹底糾明と併せ、国家戦略特区制度自身の廃止を要求しなければならない。


官僚統制の強まり
 もう一つは、森友学園問題で話題になった、官僚による政権意思の「忖度」(そんたく)である。
 安倍政権は一四年、内閣人事局を「国家公務員の人事管理に関する戦略的中枢機能」として設置した。
 これにより政権は、官僚を自らの省庁(いわゆる「省益」)よりも、首相官邸の意向に忠実に動かすことが可能になった。以前からあった「忖度」のようなことが、さらにおおっぴらになったのは必定である。
 内閣人事局の構想は、〇七年の第一次安倍政権下で設置された「懇談会」にさかのぼるが、旧民主党政権下でも温存されてきた。

多国籍大企業の要求が基礎
 国家戦略特区や官僚への統制強化は、グローバル化したわが国多国籍大企業が望む「小さな政府」、効率的で強靭(きょうじん)な国家機構づくりのためのものである。
 わが国大企業は一九八〇年代後半以降、国家行政機構の大改革を求め続けてきた。
 激化する国際的大競争のなか、大企業の利益を守るためには、歴代自民党政権下、「政官財」のゆ着で温存され、「制度疲労」を起こしていた国家機構を改革することが迫られたのである。自国の国家的強靭さ、高い国家的能力なしには、国際市場での企業活動も保障されないからである。
 小沢・自由党党首は、自民党時代からこれを持論とし、「普通の国」をめざしてきた。
 この試みは九〇年代には「六大改革」を叫んだ橋本政権が、二〇〇〇年代には「聖域なき構造改革」を掲げた小泉政権が果たそうとして不十分に終わった。
 バブル崩壊後、わが国大企業は多国籍化を進め、巨大金融機関を頂点とするものに再編された。財界も日本経団連の下に統合され、「奥田ビジョン」などの形で政治要求を強めたが、この意思を実行するには、当時の自民党政権には限界があった。
 これを引き継いだ旧民主党政権は「事業仕分け」などを進めたが、これまた破綻した。
 他方、リーマン・ショック後の危機はいちだんと深まり、世界的成長率の鈍化、米中を中心とする力関係の変化という、より深刻な局面に入った。
 危機を背景に、「米国第一」を掲げたトランプ米政権が登場、世界に負担を押しつけようとしている。世界的競争は、保護主義の高まり、「貿易戦争」などという形で顕在化、ますます激化している。
 わが国多国籍大企業、支配層の危機感はいちだんと深く、首相官邸を中心とするトップダウンでの改革政治、さらに、対米従属下での日米同盟強化を求めている。
 この期待を担っているのが、「強い日本」を掲げた安倍政権である。
 だから、安保法制制定や共謀罪制定策動、沖縄での新基地建設強行、二〇年までの憲法改悪、森友学園や加計学園問題などの策動は、安倍首相個人の資質や政権の「暴走」などではなく、米国と多国籍大企業の利益に忠実であるがゆえである。
 規制改革など安倍政権の政策は、保守層を含む広範な国民を犠牲にする。米トランプ政権からのさまざまな要求は、それをさらに加速させよう。農民、中小商工業者、医師、さらには大企業の一部を含めて、生活と営業は危機にさらされる。
 こうした安倍政権の性格、さらに弱さを見抜き、国民大多数のための政権を対置した闘いが求められている。 (O)


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