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2017年6月5日号 2面・解説

G7/亀裂は深刻、
米国の孤立深まる

対米自立を明言したドイツ

  イタリアのタオルミナで開かれていた主要国首脳会議(サミット)は五月二十七日、首脳宣言を採択して閉幕した。リーマン・ショックを機に、G7の力の低下は鮮明となり、二十カ国・地域(G20)会合に取って代わられた。そのG7は今回の会議、さらにその後のトランプ米政権による「パリ協定」からの離脱によって米欧間の矛盾が高まり、存在感はいちだんと低下した。中国、ロシアを含む新興諸国と、米国を筆頭とする帝国主義の力関係は、ますます帝国主義に不利となっている。全世界の労働者階級・人民、中小国にとって、実に有利な情勢である。


  世界経済の危機の深まりは、英国国民投票での「離脱」、米トランプ政権の誕生、さらにフランスなどでの極右勢力の台頭などとして政治に反映している。
 サミットの宣言では、世界経済の「回復は勢いを増している」などとした。だが、成長率は年々低下傾向で、財政危機、金融危機を抱えた国も多数ある。各国政治の混乱の現状を見ればリスクはむしろ拡大している。宣言にある「金融・財政政策と構造政策を総動員」で、世界経済を浮上させられるあてもない。
 なかでも、「米国第一」を掲げたトランプ政権は通商・安全保障など広範な分野で他国に犠牲を押し付けて自国の衰退を巻き返そうといる。トランプ政権の策動は、歴史の歯車を逆に回そうという冒険主義的なもので、世界のリスクを増大させている。
 今回のG7は、このような情勢下で開かれた。

通商問題などで亀裂
 会議での討議、さらに宣言は、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)への「国連安全保障理事会の制裁決議の厳格な履行」や、「イスラム国」の「最終的な壊滅」などで合意した。
 「協調」を演出できたかのようだが、実態は、従来になかったほどに、大国間の亀裂があらわになった。議長のジェンティローニ・イタリアの首相は、「大変な議論があった」と認めざるを得なかった。
 貿易問題については、「保護主義と闘う」とした。この表現は、二〇〇七年以降、毎年、盛り込まれてきたものだが、サミットに先立つ財務相・中央銀行総裁会議などでは、米国の反対で明記できなかった。
 一方、米国の求めで「不公正な貿易慣行に断固たる立場を取る」との表現が盛り込まれた。先の「保護主義と闘う」と明記したこととの、いわば妥協である。
 米国は「不公正」かどうかを自ら認定する構えだ。トランプ大統領は、ダンピング(不当廉売)や非関税障壁などをやり玉にあげて非難し、「(相手国が)三〇%の関税を課すなら、われわれも関税を三〇%にする」と放言した。
 「不公正」の矛先は、米国にとっての貿易赤字国で、日本、さらにドイツである。G7以外では中国である。
 このほか、「パリ協定」(地球温暖化対策の枠組み)について、主導する欧州などによる残留要請に、大統領選居中から「離脱」発言を繰り返していたトランプ大統領は回答しなかった。会議後の六月一日、正式に離脱を表明した。
 ウクライナやシリア問題をめぐる、ロシアへの対応でも、日米と欧州間の溝は埋まらなかった。

帝国主義の支配力低下露呈
 リーマン・ショック後、帝国主義者、世界の支配層は、財政出動と「国際協調」で破局に陥ることを押しとどめた。だが、南欧諸国を中心に財政危機は深刻化、G20での協調もままならない。諸国は、陰に陽に保護主義的政策を採っている。先進諸国、とくに米国と新興諸国間を中心に、国家間矛盾は激化した。
 諸国の支配層は、自国内の政治不安、その背景としての国民の不満の増大に対処するのに精一杯である。英国のメイ首相が「テロ対応」で会議を「早退」したのは、その典型である。米国、さらに議会選挙を控えるフランスやドイツ、イタリアなども、対外的な妥協・譲歩はますます容易ではない。
 今回のG7を通して、帝国主義国間の協調がますます困難となった。曲折はあれ、「貿易戦争」などで、各国間の矛盾は激化せざるを得ない。「国際協調の場」をG20に譲ったG7は、「自由貿易」という「共通の価値観」でさえ一致できず、存在感のさらなる低下、機能不全化は避けがたい。
 財政難、さらに国際協調が崩れつつあることで、世界の支配層は、「次の危機」に対処できるのか。これは、帝国主義の支配力の低下を意味する。とくに、米国の孤立と国際的影響力の低下はますます明白である。相対的に、中国、ロシアなどは台頭、「特殊な多極化」は鮮明である。
 全世界の労働者階級・人民にとって、帝国主義の世界支配を打ち破る上で、誠に有利な情勢である。


「自立」明言したドイツ
 米欧間、とくに米国とドイツ間で、戦後かつてないほどに矛盾が露呈した。
 なかでも、貿易問題は険しい。
 トランプ大統領は欧州連合(EU)との首脳会談で「ドイツとの貿易はとても悪い」と名指しで批判、自動車の輸出圧力を強化する構えである。メルケル首相は「ドイツの対米黒字は我々の商品の高品質のあらわれ」「一つの国だけ取り出して議論するのはいかがなものか」と反論した。ガブリエル外相も、トランプ大統領によって「欧州の利益が損なわれた」と述べた。ドイツが米国の要求に屈し、輸出大国の立場を放棄できるはずもない。
 メルケル独首相は、パリ協定や移民問題をめぐる米国の態度にも不満を表明した。会議前の北大西洋条約機構(NATO)首脳会議での、トランプ大統領による「軍備拡大」要求にも不満を持っていると報じられている。
 メルケル首相はG7後、「ほかの国を頼れる時代は終わった。欧州は自らの手で運命を切り開くべきだ。欧州人として、自らの運命のために闘う必要があると知るべきだ」などと演説した。名指しは避けているが、「ほかの国」が米国を指すことは言うまでもない。
 これは、九月に予定される選挙への対策というだけではない。冷戦崩壊後の欧州の課題である、安全保障面を含めた「対米自立」を従来以上に進めること、ドイツはその中心国として歩むという国家戦略を表明したものとも理解できる。
 対米不満を強めているのは、ドイツだけではない。フランスは温暖化対策、イタリアは難民支援策でそれぞれ「とりまとめ役」を担うことになっていたが、いずれも米国にかき回された。中国はこの情勢に対応するかのように、EUとの間で、パリ協定の実行へ向けた協力で合意した。
 欧州の対米自立と、米国の孤立はますます顕著なものとなった。


米国の危機転嫁は必至
 米国内の危機は、深刻である。
 トランプ政権はロシアとの関係をめぐる疑惑(ロシアゲート)の影響で内政が停滞、公約であった財政出動と減税による経済対策も実現が怪しくなっている。来年秋に中間選挙を控えるトランプ政権が、支持率挽回のため、その活路を外交、他国への犠牲転嫁や軍事力を背景とする挑発に見い出そうとするだろう。
 今回はドイツが主な「標的」になったが、米国が農産物の市場開放や自動車の安全規制緩和などを要求してくることは避けられない。朝鮮半島情勢など安全保障問題の推移と絡んで、要求は激化する。他国に犠牲を押し付けなければ、米国自身の経済・社会が維持できないからである。

「大国面」演じる安倍政権
 唯一、米国の顔色を伺い、先兵役を演じ続けた。
 通商問題では、「保護と保護主義は違う」などと米国を擁護した。
 朝鮮問題では、「放置すれば安全保障上の脅威が伝染病のように世界に広がる」「国際的課題の最優先事項」などと、敵視政策を開陳した。中国にも、米国と共に「法の支配」を対置してけん制した。
 これらは、対米従属で「アジアの大国」として登場することを欲する、わが国多国籍大企業の要求に応じたものでもある。米国からの通商要求をかわすため、安全保障面で先兵役を演じた面もある。
 それでも、孤立を深める米国の先兵であり続けることへの不安感は隠せない。「日経新聞」の欧州総局は、「中国の影響力拡大を警戒する日本はこれまでG7偏重だったが、取り残されはしないか」と、危機感をあらわにしている。
 世界の力関係が激変するなか、対米従属はますます時代錯誤となっている。独立・自主の国の進路は喫緊の課題である。労働者階級は国民諸階層と結びつき、中小国・人民と連帯し、ときには米国以外の帝国主義とも連携して、闘いを強めなければならない。(K)


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