2009年6月15日号 2面・社説 

朝鮮への安保理制裁に反対する

東北アジア緊張の元凶は
米帝国主義である

 国連安全保障理事会は六月十二日、朝鮮民主主義人民共和国に対する制裁決議を採択した。決議は「最も強い表現で」核実験を非難し、朝鮮のあらゆる武器輸出の禁止、朝鮮への援助や融資の禁止といった、異常に厳しい制裁措置を含む。加盟国への「要請」という形で、朝鮮船舶への貨物検査も盛り込まれた。
 朝鮮が「封鎖を試みれば戦争行為とみなす」と反発している通り、核実験を口実にこれほどの制裁を受けた国はない。決議は朝鮮の独立と国家主権に対する蹂躙(じゅうりん)で、断じて許せないものである。
 この不当な国連決議と、米国、そして追随する麻生政権の朝鮮敵視策動は、東北アジア情勢を著しく緊張させている。
 米国は、すでに解除した朝鮮の「テロ支援国」再指定の検討に入り、麻生政権は貨物検査のための新法整備に乗り出した。さらに、自民党の国防関係合同会議は「敵基地攻撃能力の保持」を打ち出し、「核武装論」も再燃している。
 野党もこれに追随、衆参両院は「朝鮮への制裁強化」などの決議を全会一致で採択した。民主党は「わが国独自の追加的な措置」を主張、共産党にいたっては、オバマ米大統領による「核のない世界」演説を「画期的」と美化する一方で、朝鮮の核実験をそれへの「乱暴な挑戦」と決めつけている。
 平和を願う人びと、とくに労働者・労働組合は「真の敵」を見失うことなく、闘いを前進させなければならない。

二重基準で不当な国連決議
 今回の決議は、朝鮮が五月二十五日に行った、二度目の核実験を口実にしている。
 だが、制裁決議を行った安保理常任理事国、米国、英国、ロシア、フランス、中国の五大国はいずれも核保有国で、さんざん核実験を行ってきた。その回数は、米国千三十回を筆頭に総計二千回以上に及ぶ。五大国は、核不拡散条約(NPT)や包括的核実験禁止条約(CTBT)で自分たち以外の核保有を禁じ、核独占体制をつくることで、国際政治で大国として振る舞ってきた。
 中でも米国は、最初に核兵器を開発し、広島・長崎で実戦に使用して数十万の人びとを虐殺、戦後はそれを世界支配のために使って中小国・人民をどう喝し、いまなお最大規模で核弾頭を保有している。
 被爆国であるわが国国民にとって、核廃絶は切実な願いである。だからこそ、この米帝国主義と闘うことが不可欠なのである。
 朝鮮は、五〇年代の朝鮮戦争以来、常に米国の核によるどう喝と包囲を受け続けてきた。民族は南北に分断され、とくに冷戦崩壊後は経済建設も困難さを増した。その中で、独立と民族の尊厳を守るために核兵器を握ったのであり、その行為は完全に正当なものである。

六者協議は朝鮮にとって譲歩
 東北アジアの緊張をもたらしているのは誰か。経過を振り返れば明らかである。
 二〇〇三年に始まった六者協議は、ブッシュ米政権がイラク占領に手を取られる中、中国を議長国とし、朝鮮、米国、日本、韓国、ロシアの六者で構成された。この多国間協議は、本来、朝鮮の主権に属する安全保障問題を国際会議で縛るという内政干渉の装置である。本質上、朝鮮に核を放棄させるための会合で、米国にとっては朝鮮の体制を転覆するための機関でもあった。
 ブッシュ政権は朝鮮を「悪の枢軸」と呼んで攻撃をちらつかせており、冷戦時代とは違い、中国・ロシアは六者協議の推進側であった。朝鮮にとってこの協議に参加すること自身が、国を守るための苦渋の選択、譲歩であった。
 〇五年九月の六者協議は、「体制保障」と引き替えに朝鮮が核を放棄すること、二つの「同時解決」(「行動対行動」の原則)で合意した(九・一九合意)。ここで合意されたのは「朝鮮半島の非核化」であり、朝鮮の核放棄だけでなく、在韓米軍も「検証可能な」形で非核化を実現するというものであった。
 在韓米軍の非核化を含んでいたからこそ、朝鮮は独立のための武器を手放すというギリギリの譲歩を行った。日米は協議の中でも孤立し、米国も合意せざるを得なかった。
 だが、米国は直後からこの合意を踏みにじり、朝鮮に金融制裁を科し、一気に朝鮮を追いつめようとたくらんだ。日本でも拉致問題や在日朝鮮人への不当弾圧などで敵視があおられ、安倍政権が誕生した。〇六年十月の、朝鮮による第一回目の核実験は、こうした包囲網に警告を与え、同時に、屈しないとの意志を明確にさせるものであった。
 一般に予想されたのと違って、これは「東北アジアを不安定化」させはしなかった。朝鮮が核兵器を握ったことは、米国の現実的な対応を引き出すことになった。朝鮮は、六者協議の中で主導性を確保した。
 以降、曲折を経ながらではあるが、「行動対行動」という形で、一種の「緊張緩和」ともいうべき情勢が進んだ。米国の金融制裁によって凍結されていたマカオの銀行口座にあった資金が返還された。朝鮮は寧辺の核施設を封印、さらに爆破処理した。昨年十月、米国は、朝鮮への「テロ支援国」指定を解除した。
 こうした中で朝鮮は、核計画の申告書を提出した。朝鮮にとってこの過程は、解除されて当然の措置が実施されることと引き替えの譲歩でもあったが、朝鮮半島の非核化、安定を望んでいた証拠でもある。

朝鮮敵視を強めるオバマ政権
 朝鮮の体制転覆という狙いを捨てない米国は、朝鮮の譲歩を「好機」とばかり、またも策動を強めた。
 米日韓は朝鮮に対し、「検証」を要求し、新たに核物質の「サンプル(試料)採取」を要求した。これは六者協議の合意にないもので、「在韓米軍の核検証」がない限り、朝鮮が応じられるはずもない。この結果、昨年十二月に行われた六者協議は、合意できないまま終了した。
 当時、マスコミ報道でも、デサッター米国務次官補(当時)は「より高い基準が必要」と、朝鮮により高いハードルを課して追いつめることを公言した。大統領選挙を争っていた二人の候補も、いずれも「テロ支援国」指定解除に批判的であった。共和党のマケイン候補はもちろん、オバマも「厳格な検証」がなければ、エネルギー支援の停止や「テロ支援国」指定の復活、新たな制裁も行うべきだと述べた。この時期は政権移行期だが、退陣間際のブッシュとその閣僚らが、オバマやそのスタッフと何らの相談なく、こうした態度に踏み切るはずはない。
 朝鮮は「国際協調」を唱えていたオバマ新政権の政策に注目したのであろうか、公然たる批判を避けた。〇九年元旦の党機関紙など三紙共同社説は「朝鮮半島の非核化実現」「米国との対話」と記していた。
 しかし、一月二十日に正式発足したオバマ政権の閣僚やブレーンたちは、「朝鮮がまず核を放棄すれば関係正常化」(クリントン国務長官)、「六者協議は失敗」(ペリー元国防長官)などと繰り返した。「朝鮮半島の非核化」「在韓米軍の非核検証」という「九・一九合意」は、それまで以上に無視され、「朝鮮の核放棄」へとすり替えられた。
 二月、産油国で中東に大きな影響力をもつイランは、自力で人工衛星を打ち上げた。この核やミサイル開発も、米国にとって深刻な問題となった。イランと朝鮮が「ミサイル開発で関係強化」などという敵視キャンペーンも強まった。
 同月、朝鮮が人工衛星打ち上げを予告したが、米国などは「迎撃」を騒ぎ、中国も大合唱に加わった。三月に入ると、史上最大規模の米韓合同軍事演習が韓国全域で、朝鮮の中止要請を無視して強行された。
 オバマ政権は、強硬な対朝鮮政策に踏み込んだのである。六者協議の合意にさえ反する米国の態度が、こんにちの緊張をつくり出した。


人工衛星発射への不当な制裁
 朝鮮による四月五日の人工衛星発射は、以上の背景の下で行われた。
 もとより、宇宙開発を行う権利はすべての国がもっている。朝鮮は打ち上げに先立ち、国際的な手続きを果たしてもいた。人工衛星と弾道ミサイルの技術が不可分なことは事実だが、それはかつての米国の「アポロ計画」などと同様である。これへの制裁は、国際社会の常識からも不当なものである。
 だが、国連安保理は四月十三日、発射を非難する議長声明を全会一致で採択した上、朝鮮企業の資産凍結など、前例のない制裁を実施した。麻生政権は「破壊命令」を下すなど、敵視政策の先兵となった。
 人工衛星発射と同日、オバマ大統領は、チェコのプラハで「核のない世界」演説を行った。演説は、米国が自ら核兵器を放棄することを表明したものではない。財政難への対応策でもあるが、インドとパキスタン、さらに朝鮮の核武装によって崩壊しつつある核独占体制を再確立し、低下した国際政治上の主導権を取り戻すという狙いからである。
 演説はこれ以前から、米支配層内で周到に準備されていたものである。朝鮮からすれば、演説は朝鮮を「核のない世界」への「挑戦者」として描き出すことで圧迫を強め、武装解除を迫るものであった。
 以上のような圧迫のエスカレートにより、朝鮮は武装を強化し、これまで以上に独力で、自国を守る道を選択せざるを得なくなった。四月十四日、朝鮮は「二度と絶対に参加しない」と表明、六者協議からの「離脱」を発表した。〇三年以来の「苦渋の選択」は終わったのである。
 二十九日には国連安保理の謝罪を求め、それがない場合には核実験を行うと表明した。五月四日、朝鮮は「気にくわない国々を力で圧殺しようとした前政権と少しも変わらない」と、オバマ政権を初めて公然と批判した。
 そして二十五日、再度の核実験によって、あらためて帝国主義と闘う意志を明らかにしたのである。


朝鮮敵視と闘い東北アジアの平和を
 こんにち、朝鮮は「強盛大国」を掲げ、「核保有国」としての国際的地位確立を望んでいるようである。内部要因ももちろんあるであろうが、われわれは知る由もない。三回目の核実験を行うとの報道もある。
 述べたように、東北アジア情勢を緊張させたのは、米帝国主義とその追随者による朝鮮敵視政策である。
 朝鮮の核武装が、地域情勢を変化させたのは間違いない。だが、大国には核を持つ権利があって、中小国には生き延びる権利すらないのか。どの国も、独立を勝ち取り維持する権利がある。かつて中国も敢然と核保有国となって帝国主義の攻撃をしのぎ、こんにちがある。
 この地域の安定は、地域の国々が自ら調整する以外にない。六者協議などという内政干渉の組織ではなく、対等平等な協議が必要である。とりわけわが国は、まず歴史を真摯(しんし)に反省・清算し、朝鮮と国交正常化し、敵対関係をただすべきである。平等互恵の東アジアの諸国関係をつくり上げる以外にない。
 こんにち、米国はアフガニスタンなど中東・アジア対策で手いっぱいで、今のところ朝鮮への武力侵略は選択肢にないと報じられてる。
 だが、わずかな「偶然」からでも、緊張が激化する可能性は排除できない。「核のない世界」を掲げたオバマ政権には朝鮮の核武装は認められず、認めれば、その世界支配は決定的な打撃を受ける。この点では、核保有国として特権を享受する中国・ロシアも同じ立場である。
 隣国であるわが国にとって、まさに正念場である。真の平和を求め、国の独立を重んじるすべての人びとは、米日による朝鮮敵視政策とあらゆる制裁措置に反対しなくてはならない。朝鮮の独立のための闘いに、共感と支持を与えるべきである。
 核廃絶は、米帝国主義との闘争なしにあり得ない。朝鮮をにらんだ核兵器と在日米軍の撤退なしに、自衛のための、朝鮮のわずかな核武装に反対することはできない。
 労働者・労働組合は、危機の元凶である米帝国主義と闘い、追随する麻生政権を打ち破ろう。朝鮮との「即時・無条件」の国交正常化を実現し、アジアの共生に踏み出そう。

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