2009年6月5日号 2面・社説 

「底打ち」うたう多国籍大企業

労働者・中小零細企業の
犠牲で「身軽」に

 二〇〇九年一〜三月期の国内総生産(GDP)は、実質で前期(昨年十〜十二月)比四・〇%減、年率一五・二%の大幅減と、二期連続の落ち込みとなった。世界的な金融危機が実体経済に波及し、輸出が大幅に減ったことに加え、設備投資や個人消費も大きく落ちた。まさに「先進国中最悪」の景気後退である。
 政府はもちろん、財界やマスコミなどは、ことさらに「危機」を叫ぶことで、賃上げと待遇改善を求める労働者の意思をくじこうとしている。連合中央の一部幹部は、今春闘でこの攻撃と闘わず追随し、労働者を裏切った。
 景気後退の影響は、各社会層に平等にはあらわれない。大企業、とくに多国籍大企業は大リストラと政府のさまざまな支援策を受けることで、早くも「景気の下げ止まり」を実感しているという。反面、労働者や中小零細企業の状況はますます深刻である。
 労働者・労働組合は敵の宣伝に惑わされず、認識を整とんし、闘いを前進させなければならない。

不況口実にリストラ仕掛けた大企業
 トヨタの〇九年三月期の連結決算は四千三百六十九億円の最終赤字と、五十九年ぶりの赤字となった。日立製作所は製造業最大の七千七百八十三億円の最終赤字等々、電機、自動車を中心に、多国籍大企業は軒並み「大赤字」を宣伝している。
 昨年夏以降、多国籍大企業は「赤字」を口実に、派遣労働者や期間労働者の首切りを行った。また、工場の稼働を数日にわたって止め、残業をなくすなどで生産調整を行って、劇的な在庫減らしに成功した。工場閉鎖などで「過剰」設備も廃棄し、「早期退職募集」などで正社員の首切りや配転、新卒者への「内定取り消し」などの大リストラを進めた。ベア凍結やボーナスカットなどで賃下げもいちだんと進めた。
 経営陣は、「雇用を優先して損失を出すことが、私に期待されていることではない」(中鉢・ソニー社長=当時)などと言い放ち、労働者への犠牲を開き直っている。
 だまされてはならない。「創業以来の赤字決算」といった発表も、その中には「構造改善費」と称するリストラ費用や、旧式設備の廃棄や有価証券などの減損分が多く含まれる。「赤字」は、来期以降の「V字回復」を演出するためにつくられたものである。
 多国籍大企業は、「危機こそ改善のチャンス」(張・トヨタ会長)、「ぜい肉をそぎ落として筋肉質へと企業の体質を改善する」「よい赤字」(三村・新日本製鐵会長)と、「赤字」を逆手にとって財務体質をいっそう改善させ、国際競争で優位に立とうとしている。

犠牲は労働者と中小零細企業に
 一方、労働者や中小零細企業の生活と経営はますます苦しい。
 昨年十月以降、少なくとも二十一万人以上の非正規労働者が解雇され、街頭に放り出された。もちろん、この厚生労働省の調査は「氷山の一角」にすぎず、これに倍する人数を試算しているものもある。
 四月の完全失業率は前月より〇・二ポイント悪化し、五年五カ月ぶりに五%台に乗った。完全失業者数は三百四十六万人と、前年同月比で七十一万人も増えている。今年中に新たに失業する労働者は二百万人を超え、計五百万人に達するという試算もある。
 新卒者への「内定取り消し」が二千人を超えるほか、就職したにもかかわらず、企業から「自宅待機」や「入社日の延期」を命じられたケースが千人を超えた。
 自殺者は年間三万人を超え続け、昨年からは二十〜三十歳代の若年層が「失業」や「生活苦」を理由に自殺するケースが急増している。
 大企業の圧迫と大銀行からの貸し渋り、貸しはがしによって、中小企業の経営は瀬戸際に追い込まれ、倒産が急増している。昨年十月から四月までの七カ月間で、倒産件数で前年同月比二ケタ以上増加したのは五カ月、同じく負債総額でも五カ月に達した(東京商工リサーチ)。
 「格差」などと表現するには生ぬるい、むごたらしい現実である。

多国籍大企業救済する麻生政権
 国民大多数の苦難をよそに、麻生政権は四次にわたる本予算・補正予算で、多国籍大企業と大銀行に大盤振る舞いを行っている。
 政府は、日立やパイオニア、エルピーダメモリなどには、直接の資本注入を行う。日産自動車や日本航空などには、低利融資が行われる。日銀も、大企業のコマーシャルペーパー(CP)を直接買い取るなど、異例の資金支援に乗り出している。企業の責任で払うべき人件費さえも、「雇用調整助成金」という名で血税から提供している。
 先日成立した〇九年度補正予算では、ハイブリッド車など「環境対応車」を購入する際の助成金支給や省エネ型家電を対象としたエコポイント制度なども創設された。たとえば、トヨタの高級車レクサスでは購入の際の免税額が七十四万円にもなる。研究開発費への減税措置も、いちだんと手厚く整備されている。
 これらはすべて、日本経団連が政府に要望した「経済危機からの脱却に向けた緊急提言」(三月九日)に忠実に応えるものである。
 こうして、多国籍大企業は総計二百兆円といわれる「内部留保」には一切手をつけず、株主への配当も維持(上場企業の半数以上)したまま、必要なものーー資本、資金、賃金、技術開発費、そして需要すらも国家に肩代わりさせているのだ。
 まさに「至れり尽くせり」で、断じて許せないことである。


早くも「底打ち」の多国籍大企業
 こうして、労働者や中小零細企業の苦境をよそに、多国籍大企業は早くも「下げ止まりを実感」(御手洗・日本経団連会長)している。
 トヨタはハイブリッド車プリウスの販売数が目標を上回り、受注台数が十一万台に達し、残業を再開するなど増産に転じた。日産自動車は五月の国内販売が前年同月比で三割増となり、さらに電気自動車開発支援として、米国政府から一千億円超の低利融資を受ける。新日鐵も十カ月ぶりに減産を緩和する。東芝は半導体生産の増産にカジを切った。その他、パナソニックは五月からプラズマテレビの増産を始めたし、シャープは太陽電池を、三洋電機はリチウムイオン電池の増産を打ち出した。
 増産した製品が首尾良く売れるかどうか、そう簡単ではないだろうが、それにしても矢継ぎ早の動きである。東証一部上場企業全体の今年度下期(十〜三月)の業績は、黒字に転換する見込みだという。
 一方、労働者や中小零細企業の深刻な状況には改善の気配さえない。麻生首相が「消費税増税」を明言している通り、大企業に大盤振る舞いしたツケは、いずれ国民に押しつけられる。


労働者は認識整とんし闘いを
 多国籍大企業、大銀行は「危機」の最中でもペテンを弄(ろう)し、犠牲を労働者や中小零細企業に押しつけ、国際競争に勝ち抜こうとしている。政府はそれを支えている。この事実は、わが国が歴然たる階級社会であることを示してもいる。政府は多国籍大企業や資本家どもの手先、代理人なのだ。
 労働者・労働組合は、支配層の流す「不況」宣伝や、経営側の「労使一丸となって難局打開」といった「誘い水」に惑わされてはならない。「危機」は自然現象で「仕方のない」ものではない。「危機」の責任を取るべきは、マネーゲームに明け暮れて危機の震源地となった米国、それに依存してきたわが国多国籍大企業と売国政府であり、労働者・国民ではない。
 労働者・労働組合は、支配層の洗脳攻撃に屈せず、要求を掲げて断固として闘おう。さらに、独立・自主、労働者と国民大多数のための政権を樹立するために闘おう。

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