2009年5月15日号 2面・社説 

オバマ政権成立から百日

米帝国主義の内外の
危機はいっそう深刻に

 オバマ米大統領が一月二十日に就任してから、四月末で百日が過ぎた。
 伝統的に、政権誕生後の「最初の百日」は「ハネムーン期間」と呼ばれ、議会やメディアも新政権の「お手並み拝見」という態度で、厳しい世論は比較的抑えられる。ブッシュ前大統領の不人気の比較と相まって、就任時八〇%以上だった熱狂的な支持率は六〇%台へと下がったが、依然として高いといえる。それは、米国と米国民がかつて直面したことのなかったほどの、政治的・経済的危機の深刻さの反映である。
 こんにちの危機の要因は、第二次大戦後覇権を握った米国が、世界の資本主義の不均等発展の過程、歴史的な経過の中で形成されてきたものである。
 国内産業競争力の衰退と空洞化、膨大な経常赤字と拡大する財政赤字、ドルを印刷できるという基軸通貨国特権による金融コングロマリットの支配と破たん、先進国間のし烈な競争、さらにBRICsなど新興国の台頭による経済と国際政治の多極化の進展、イラク、アフガニスタン侵略の泥沼化、そして世界恐慌にまで発展した危機の震源地としての深刻な景気後退。オバマ大統領がブッシュから引き継いだのは、こうした帝国主義の末路をたどる米国である。オバマはその「再生」を掲げているが、ブッシュとはやり方が違うだけである。
 だが、わが国の政府、財界も与野党の議会政党、労働運動の指導部も、こぞってオバマの「再生」に期待をかけ、幻想を振りまいてきた。「最初の百日」を機に、米帝国主義の衰退について振り返ってみる。

経済危機は「底なし」の状態
 オバマの「最初の百日」はどうだったか。
 オバマ新大統領は二月二十四日に施政方針演説を行い、「われわれは再建し、立ち直る」などと述べた。
 演説では、目前の緊急景気対策と金融安定化策を優先すること、そして将来にわたる課題としてエネルギー分野での技術革新、医療制度改革、教育改革の三つをあげた。演説の大半は国内政策に費やされた。
 こうした方針の下、二月には七千八百億ドルの景気対策法を成立させ、雇用・景気対策に着手した。
 金融安定化対策では、ようやく五月になって大手金融機関十九社の資産査定(ストレステスト)結果が公表された。十社で資本不足の恐れと査定され、公的資金枠の残り千三百億ドルだけでは不足することが明らかとなった。また資産査定の方法にも数々の問題点が指摘されており、財務内容の「改善」も一時的なごまかしと気休めに過ぎない。
 また、米自動車「ビッグ3」の経営再建では、公的資金注入だけでは乗り切れず、四月末、クライスラーが破産法を申請、伊フィアットの傘下に入ることが決まった。GMの再建問題も待ったなしで、経営破たんの瀬戸際だ。
 実体経済もいっそう悪化している。
 今年一〜三月の国内総生産(GDP)は前期比年率六・一%減で、三期連続マイナス成長となった。
 政府による主な金融機関への血税投入にもかかわらず、信用収縮は収まらず、企業倒産は一〜三月で二万件以上と前年同期比の一・五倍に急増している。また、地銀の経営破たんも今年に入って三十一行にのぼっている。
 雇用者数も十六カ月連続して減少し、失業率は八・九%に達した。米労働省は「一時的に就職をあきらめ求職活動をしていない人」など「広義の失業率」は一五・八%(四月)に達すると発表している。
 「米国再生」のかけ声とはうらはらに、米国内の各種の矛盾はいちだんと激化する方向にある。
 四月に開かれた英ロンドンでの第二回金融サミットでは、世界経済における新興国の存在感と発言力の増大が印象づけられ、ドル体制からの脱却がますます公然と語られるようになった。経済の重心の移動、米ドル体制が終えん期を迎えていることがこの期間にも浮き彫りになった。

国際協調で新たな関与政策
 対外政策では、クリントン国務長官の海外歴訪や自身の欧州歴訪などで、ブッシュ時代の単独行動主義を手直しし、「ソフトパワー」「国際協調」を演出している。
 さらに米ロ首脳会談(四月)でSTART1(第一次戦略兵器削減条約)以後の新たな条約の交渉開始を発表。さらにチェコで核廃絶をめざす政策演説を行うなど、「核廃絶」をアピールしている。この狙いは、経済危機の中で戦略兵器の維持費の負担を減らしたいことと、「核削減」を理由にイランや朝鮮などの核開発をけん制することなどである。
 だから、こうしたオバマの姿勢によって、「平和の時代」が来たとか、核兵器がなくなるなどというのは幻想である。
 オバマがその施政方針演説で「(テロなど)二十一世紀の課題に対処するため、われわれは古くからの同盟関係を強化し、新たな関係をつくり、わが国力の全ての要素を活用する」と述べている通り、米国一国ではどうにもならないので、(米国の国益にそって)各国と協調し、帝国主義に対する反抗や対抗勢力の台頭を抑え込むのだといっているに過ぎない。
 アフガニスタン・パキスタン問題ではもっと露骨である。欧州各国も軍を派遣しているアフガンへの米軍の増派だけでなく、「核」を口実にパキスタン政府にタリバン勢力掃討の圧力をかけ、四十万人近い住民を難民化させている。
 だが、帝国主義に対する中小国・人民の反抗は収まらない。アフガン・パキスタン情勢は米国にとって悪化の一途だし、イランも朝鮮もオバマの足元を見透かして対抗を強めている。イラクの親米政権ですら「協定通り米軍は都市部から撤退せよ」と迫っている。多極化する世界の中で、米国の政治力の衰えもまたいちだんと進んだ。
 以上、この百日間にも経済危機は深刻化し、米国の国際的な存在感と政治力の衰えは隠しようがなく、米国の没落という歴史的転換期をますます印象づけている。時がすぎて仮に危機が一段落したとしても、「米国の再生」は、オバマが望むような世界の覇権を握り、世界中から物を買いあさるかつての米国ではあり得ない。

対米従属政治はますます時代遅れに
 こうした歴史的な転換期に際しても、わが国麻生政権は、「ドル体制を守る」と公言するなど、あくまで米国に追随する姿勢である。政治・軍事面でも、米国の要求に沿ってソマリア沖に自衛隊を派兵、アフガン本土への派兵も検討、パキスタン「支援国会議」を主導した。在日米軍再編の「加速化」も約束した。
 まさに時代錯誤で、アジアの中での孤立、亡国の道である。
 一方で、対米従属政治の現状に対し、保守政治家や企業家からも「米国一国支配からの脱却」というような意見が出てきている。
 対米従属の政治経済を転換し、大幅な内需拡大とドルの変動に左右されないアジア規模での共生を実現する以外に、わが国が生きていく道はない。
 このように、国の生き方が根本的に問われるこの時期に、議会野党は「日米基軸」を党是とする民主党を筆頭に、社民党も共産党、そして労働組合も何一つ国の生き方を提起できていない。目前の総選挙で「政権交代」すれば国民が幸せになるかのような幻想を振りまいているが、こんにち、その「政権交代」すら怪しいものである。「核廃絶」でオバマの応援団と化した共産党の見解などは、百害あって一利なしである。
 国民的戦線を広げ、売国勢力と闘って対米従属政治を打ち破り、自主・独立の国をめざさなければならない。その中心的勢力として、労働組合の役割がとりわけ重要である。

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