2009年4月5日号 2面・社説 

英ロンドンでの第2回
金融サミットを評する

 米国発の金融・経済危機が進行する中、米欧日と中国、インドなど新興国二十カ国・地域(G20)による「金融サミット」が四月一日から英ロンドンで開かれ、首脳宣言を採択して閉幕した。
 昨年十一月、米国で開かれた第一回目の金融サミットでは、金融機関救済、財政出動など「あらゆる追加的措置をとる」という首脳宣言を採択した。五十項目近くの行動計画を確認したが、米欧が対立した金融市場への「規制・監督の強化」などは先送りされた。
 それから四カ月、各国政府はなりふり構わぬ対策を行ってきた。しかし、金融危機は世界の実体経済を深刻な危機に陥れ、回復のきざしは見えない。とくに米欧日など先進諸国経済は軒並みマイナス成長で、高成長を誇ってきた中国など新興国の成長率も大幅に鈍化している。これを基礎に、各国間の亀裂が深まりを見せている。
 一九二九年に始まった大恐慌時の三三年、今回と同様にロンドンで会議が行われたが、決裂し、数年を経て第二次世界大戦に突入した。昨年の第一回会議以降、危機がいっそう深まった下で開かれた今会議、各国支配層にとっては決裂を避けて「協調」を演出せざるを得ない反面
容易な妥協もできないところであった。
 こうした中で開かれた今回の金融サミットで首脳宣言として何が合意されたか。また今回の金融サミットを通じて、危機の克服は見えてくるのか。各国での評価や具体的な対応策はこれからで、留保をつけなければならないが、一定の評価は可能であろう。

サミットでの「合意」とその実態
 首脳宣言の内容は、以下のようなものである。(1)二〇一〇年末の世界の成長率を二%にするために「あらゆる必要な行動」をとる、来年末まで総額五兆ドル(約五百兆円)の追加財政を支出する。(2)金融監督・規制についてG20が加わる「金融安定化理事会」を創設する。ヘッジファンドへの規制・監督、タックスヘイブン(租税回避地)地域の特定と制裁措置など。(3)途上国支援への国際通貨基金(IMF)融資を三倍の七千五百億ドル(七十五兆円)に拡充。IMFでの新興国の発言権拡大。(4)一〇年末まで新たな貿易障壁を設けないーーなどである。
 オバマ米大統領は「生産的な会合であり、世界経済の回復に向けた転換点となる」と成果を強調した。議長を勤めたブラウン英首相も、各国の「協調」を強調した。
 だが実態は、各国間、とくに米欧間の激しい矛盾があらわとなった。
 各国の財政出動については、国内総生産(GDP)二%規模を主張する米国に対して、財政赤字の拡大を恐れる欧州連合(EU)、とくにフランスとドイツが強く反発し応じなかった。結局、参加国の総額五兆ドルの財政出動で妥協した。
 また、「いま決めなければ向こう五年は決められない」(メルケル独首相)などと、ドイツやフランスは金融規制を強く求めた。米国はヘッジファンドの登録制やデリバティブの監査強化では一定譲歩したものの、国際的な資本移動など本格的な規制強化には応じなかった。世界から投機資金を集めて荒稼ぎしてきた米国からすれば、金融規制に消極的である。

保護主義の台頭は避けがたい
 前回サミットで「一年間は保護主義的な措置はとらない」と確認された。だが深刻な景気悪化で各国が保護貿易措置に走っている。世界貿易機関(WTO)のまとめによれば、各国の貿易保護措置は、この二カ月で四倍に増加した。
 オバマ米政権は、真っ先に、景気対策法案に米国製品の購入を義務付ける「バイ・アメリカン条項」を盛り込み、自動車産業の「ビッグ3」への大規模な支援に踏み込んだ。フランスやイタリアも自国内の自動車産業への支援を打ち出し、ロシアや中国も同様である。「反保護貿易」の公約は、その直後から形骸化している。
 今回の金融サミットでも、「一〇年末まで新たな貿易障壁を設けない」と宣言したが、これが実行されると信じる者はいない。建前は「保護主義反対」でも、各国政府は自国の国益が優先される。そうしなければ政権を維持できないからである。
 今回の金融サミットで確認された項目は、いずれも昨年十一月と同様、各国、とくに米欧の妥協の産物である。表面的には「協調」を装いつつ、年内に第三回金融サミットを開催することを確認したものの、今後もさまざまな利害対立は抑えられまい。また、金融機関の損失額さえ確定できないこんにちの状況では、確認された宣言だけで経済危機から脱却できる保証はない。

さらに進むドルの衰退
 今回の金融サミットを通じて、延命を重ねてきた戦後の米国主導のドル体制が、終えんを迎えていることがいちだんと明らかになっている。
 各国は、危機をしのぐために当面はドルを必要ともしている。だが、末期になったドル体制からどう脱却するかが、米国以外の各国にとっては本質的な課題である。だからこそ、オバマ大統領はサミットに先立ち、わざわざ「ドルは今後も世界の基軸通貨であり続ける」と言明し、諸国、とくに欧州や中国をけん制したのである。
 EUは今回の金融危機で大きな打撃を受けたが、導入後十年をへた共通通貨ユーロは存在感を増し、この危機に際しても導入国が増えている。
 欧州以外でも、湾岸協力会議(GCC)は一〇年までの共通通貨導入をめざしている。南米の南部共同市場(メルコスル)、イランや中央アジア諸国、さらにアフリカ諸国にも共通通貨をめざす動きがある。ドル体制を支えている中国でも、国内にはさまざまな意見があらわれているようである。
 ドル体制を脱却しようとする各国の動き、これを押しとどめようとする米国の策動、これら双方の動きが強まっている。

自主性のない日本政府
 こうした世界の流れに背を向け、末期のドル体制をあくまで支え続けようとしているのが、わが国売国政権である。
 戦後一貫してドルに依存し、とりわけ近年の「回復」過程で外需、米国市場への依存を深めてきた日本経済は、今回の経済危機で先進国中もっとも深刻な打撃を受けた。対米依存・ドル依存の経済・産業構造を転換をしなければ、わが国に前途がないことを示している。
 ところが、麻生首相は早々と「基軸通貨ドルを守る」と宣言したのをはじめ、サミット前には財政出動に消極的なドイツを名指しで批判、米国の「ちょうちん持ち」を務めるという、異常な対米従属ぶりをあらわにさせた。
 また日本国内でも、崩れつつあるドル体制を支えるための思想宣伝が行われている。行天・元大蔵省財務官などの見解がそれで、結局のところ「ドル以外にない」ので「それを支えるべき」という売国的な諸見解である。これと一体になって、マスコミは欧州の共通通貨・ユーロの「弱さ」をことさらに強調する報道を続けている。
 だが、ドル体制の末期という事実は雄弁である。わが国保守層の中からも、ドルと米国への不信は噴出している。いわんやドル依存の下では、労働者や中小商工業者の生活と営業を打開することはできない。
 対米従属政治を打破し、大きく内需に依拠する経済、アジア近隣諸国との連携でドルに揺さぶられないアジア共生の進路に転換することが急務である。

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