2009年3月25日号 2面・社説 

民主党・小沢代表の
「第七艦隊発言」の
意味するもの

 民主党・小沢代表が、公設秘書が政治資金規正法違反容疑で逮捕されたことで、窮地に立たされている。
 小沢氏は、「国策捜査」と検察批判を行ったかと思えば、「総選挙への影響を見て進退を考える」などと、代表としての去就を考慮するかの発言もし、動揺も見せている。
 この段階では、三月二十四日に東京地検がどのような対応を取るが焦点となっているが、どうやら小沢氏は、秘書が起訴されても新たな重罪が発覚しないかぎり党代表の地位に居座る構えのようだ。
 しかも、民主党内では小沢氏の判断を容認するとの空気が支配的だという。総選挙での「勝利」のみで結束するこの党内部の自浄作用など、期待すべくもないものである。
 いずれにしても、自民党幹事長、旧田中派「七奉行」時代以来の、金権体質は変わらず、汚職と利権政治の中心人物であったことを、有権者はあらためて知ることとなった。
 しかし、より問題なのは、直前になされた小沢氏の対米関係に関する発言である。「在日米軍は第七艦隊で十分」なるものが注目を集めたことで、それは今回事件との関連でさまざまな評価や憶測を呼んでいる。
 この発言に対して、自公与党は朝鮮の人工衛星発射問題とからめ、「日米安保の信頼を揺るがす」とか「米軍がいなければ自衛隊の軍備増強が必要」などと騒ぎ、外交政策の基軸で矛盾をはらむ民主党内部と、連立を思考する社民党などの分断、離間を図ろうと意図して画策した。
 一方、民主党内、あるいは社民党などの一部の中では、この小沢見解を、対米自立、独自傾向として評価する意見もあり、一部には、米軍基地撤去に積極的方針などと支持する声すらあがり始めた。
 これらの混乱は、米国発の未曾有(みぞう)の危機の下、末期となったドル体制と「心中」するのか否か、わが国の進路が鋭く問われる情勢下では見過ごせないもので、小沢氏の見解の実質的意味、その問題点を明らかにしておく必要がある。

米第7艦隊は必要不可欠との認識
 問題となっている小沢氏の発言とは、日米安保体制、在日米軍の再編問題で「今の時代、前線に部隊を置いておく意味が米国にもない。軍事戦略的に言うと第七艦隊がいるから、それで米国の極東におけるプレゼンスは十分」「あとは日本が極東での役割を担っていくことで話がつく」(二月二十四日、奈良県香芝市で)と述べたものである。
 小沢氏の論点は大きくは二つである。それはーー、
 一つは、米国のアジア支配(プレゼンス)のための軍事力としては、最低限米海軍第七艦隊が必要であるということ。二つ目は、それで不足する力は、日本が、極東全域で果たす、ということである。しかもその役割については、「日本もグローバルな戦略を米国と話し合い、役割を分担し、責任を今まで以上に果たしていく」(大阪で)と述べている。
 これをどのように解釈すれば対米自立の傾向などと読み取ることができるだろうか。小沢発言は、米国のアジア戦略を熟知した上で、あえてその手先となろうという意図を表明したものにほかならない。
 例えば第一に、「第七艦隊で十分」といったその米国海軍第七艦隊とは、米国のアジア支配の軍事戦略上の要である。
 かつて、中国革命にあっては、大陸を追われ台湾へと逃げ込んだ国民党一味を軍事力で擁護し、中国の分断、干渉の橋頭堡(きょうとうほ)をつくった。それを担ったのが、台湾海峡に派遣された米第七艦隊であったことを忘れてはならない。
 さらに九〇年代、台湾当局が独立路線を強め、引き起こした「台湾海峡危機」の折にも第七艦隊は急派され、中国をけん制した。米国は「台湾関係法」という対中内政干渉のための国内法を引き続きもっており、最新鋭の戦闘機はじめ数々の軍事援助を台湾に送り続けている。
 最近でも、米中両国は経済連携を深めているが、南沙諸島海域などで軍事緊張も高めており、米国はこのようなアジア、極東の緊張こそ、日本とこの地域での米軍駐留の根拠として最大限利用している。こうして凶暴な軍事力を背景に、アジアにおける経済的利権、外交的支配力を維持しようということこそ米戦略にほかならないのである。
 この意味において、米第七艦隊とは小沢氏が言う通り、東アジアにおける米政治・軍事戦略にとって「必要・不可欠」な存在である。小沢氏はこれを、わが国に駐留させ続け、米国のアジア戦略を支え続けようというのである。
 しかももう一つ触れておかねばならないのは、第七艦隊以外の在日米軍の撤去については、「政権をとって、米国に聞いてみないと分からない」(二十七日、横浜)と、早々に前言を撤回していることである。

軍事大国化の真意を公言
 次に、小沢発言にあらわれた重要な問題点は、米国との「戦略的合意」にもとづいて、わが国がアジア、極東地域で軍事的役割を積極的にになっていこうという意図を表明していることである。
 経済の破局に直面し、国際政治でも力を衰退させる米国にとって、日米同盟を「米英同盟」のようにさせ、日本をともに戦争ができる同盟国へと仕上げることは戦略的狙いである。かつてクリントン政権下で打ち出された「東アジア戦略構想」、それを引き継ぎ、ブッシュ政権下でジョセフ・ナイやアーミテージなど超党派の「戦略家」たちが打ち出した戦略などは、まさにこのことを日本に求めている。これこそ冷戦後の米国の一貫した対日政策である。
 小沢発言とは、米国の対日戦略を知りぬいた上で、これに積極的に呼応しようという意思表示である。
 それはまた、小沢氏がかねて掲げてきた「普通の国」、多国籍大企業の覇権的利益追求のための軍事大国化と海外派兵を実現できる国へと、わが国を導こうという危険な意図に貫かれたものでもある。

売国奴としての姿歴然
 一連の小沢発言を考えるとき、クリントン米国務長官の来日と小沢氏との会談の流れで見ておくことが必要である。
 ここで小沢氏は、米国務長官に「日米同盟が何よりも大事と唱え続けてきた」と語り、自らが政権についたときには、米国との戦略合意にもとづいて、対米公約はどんな困難でもやりぬく、と言う決意を語っている。さらに、対朝鮮敵視政策にとどまらず、中国の政権転覆が日米の最大のテーマだとまで語った。
 これは、まさに米国の長期的なアジア戦略にほかならない。
 しかも小沢氏は、これらの発言の前提として、自分の対米関係の発言について、「米国内で誤解があるとの忠告を米国の友人に受けた」ことまで披瀝(ひれき)しているのである。まさに対米追随の売国奴としての面目躍如というところである。
 後日、現オバマ政権に影響力の強い「戦略家」、アーミテージは「日本はオバマ政権のアジア政策を知るだけでは足りない」と述べ、「日米同盟にとって最も重要なのは、日本が何ができるかをオバマ政権に伝えることである」と語っている(三月二十二日「読売」)。これこそ、小沢氏の語りたかったことのすべてであり、米国が小沢氏に送った、エールと見るべきであろう。

西松建設事件の背景についての諸説
 この問題と関連し、西松建設事件の背景に、米国の意図、操作を指摘する向きもある。小沢氏の師匠である田中角栄、さらには金丸信などの疑獄事件の背景に米国の意図があったことは、公然たる事実で、不思議はない話ではある。しかし以上述べた小沢氏の意図、さらには米国の戦略を考えるとき、今回の事件もまたそうとは必ずしもいえまい。
 むしろ保守政権、自民党政治の闇の部分が動いたと考えるのが妥当で、保守政治の裏の裏まで知りぬいた小沢氏はそれをよく知っている。小沢氏は盟友の羽田顧問にたいして、今回の事件を「安政の大獄」にたとえて嘆いたという。それは政権をめぐる国内政治での暗闘、と彼が事態を考えている証左でもあろう。
 何より徹底的な対米追随政治家小沢氏が米国に疎(うと)まれる筋合いは少ないからである。
 小沢氏と民主党の、対米追随の危険な実態を鋭く見抜き、幻想を打ち破ることは喫緊の課題である。

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