2009年3月15日号 2面・社説 

「海賊対処法案」を閣議決定」

対米追随のソマリア沖
派兵に反対する

 浜田防衛相は三月十三日海上警備行動を発令、護衛艦二隻がソマリア沖の「海賊」対策に出航した。また、麻生政権は同日、海賊対処法案を閣議決定した。
 現行法による海上警備行動で派兵し、途中から法的根拠を海賊対処法案に切り替えようというので、わが国支配層の並々ならぬ「決意」がうかがえる。
 ソマリア沖派兵には、これまでの海外派兵と大きな違いがある。
 何より、海上警備行動による派兵という点である。海上警備は本来、日本の領海内を想定したものであるが、ソマリア沖はこれをはるかに飛び越えている。「海賊対策」を口実として、今後全世界どこでも、自衛隊を派兵する突破口なのである。
 さらに海賊対処法は、対米追随の政治軍事大国化の道へわが国をさらに引きずり込む危険なものである。
 海賊対処法案では、武器使用の制限が大きく緩和され、正当防衛と緊急避難以外でも「海賊船」への船体射撃が可能とされる。これは、海外での武力行使の拡大につながる。
 また、海上警備行動で「保護」できる対象を、日本関係船だけでなく外国船を含むすべての船に拡大する。ソマリア沖ではすでに、米国など十カ国以上の軍艦が監視活動を行っている。これらとの共同行動は、当然にも憲法が禁じる集団的自衛権の行使につながるものだ。
 独立・自主の国の進路を実現するため、海賊対処法案に反対して闘うことが求められている。

対米追随、多国籍企業のための派兵
 ソマリアへの自衛隊派兵は、徹底的に米国に追随し、その世界戦略のお先棒を担ぐものである。
 先日、日本を訪問したクリントン国務長官は、浜田防衛相との会談の中で、「緊急時の他国船保護も検討してもらいたい」と、ソマリア派兵での日本側の取り組みを求めた。今回の措置は、この要望に忠実にそったものである。
 アフリカ東海岸の「アフリカの角」に位置し、スエズ運河から紅海を経てインド洋に至る出入口(アデン湾)に位置するこの地域は、アジアと欧州を結ぶ海上輸送の要衝で、年間一万八千隻もが航行、世界の石油輸送量の三〇%以上が通過する海域である。ゆえに、米国の世界戦略にとって地政学的に重要で、「安定的」に支配したい場所なのである。
 かねてから米国は、このソマリアでイスラム原理主義勢力が影響力を拡大していることに危機感を抱いてきた。このため、一九九三年に直接の軍事介入を行った(人民の抵抗で撤退に追い込まれた)のをはじめ、二〇〇六年には、国連に働きかけて「平和維持軍」の派遣を決定させるなど、さまざまな干渉を行ってきたのである。
 また、米国はソマリア沖での海上行動に諸国を引き込むことによって、ますます低下する国際政治上での主導権を盛り返すことをもくろんでいる。
 ソマリア沖への派兵は、わが国多国籍大企業のためのものでもある。
 多国籍大企業はかねてから、海外派兵の拡大とそのための恒久法制定によって、国際的発言権を向上させることももくろんできた。先に軍艦を派遣するなど、アフリカへの関与を強めつつある中国に対抗するという意味もある。国連安全保障理事会常任理事国入りへの「実績づくり」という狙いもあろう。もちろん、わが国多国籍大企業にとっても、この海域は全世界の市場へと物資を運ぶ要衝である。
 だが、これはわが国をいっそう米国の世界戦略に縛り付け、アジアや世界の中小国・人民に敵対させるものである。ソマリア沖への自衛隊派兵に対し、断固たる反対の闘いが求められている。

ソマリア沖の「海賊」問題の背景
 政府やマスコミなどは、ソマリア沖への派兵理由を「海賊」に求めている。では、「海賊」とは誰のことか。誰にとって「脅威」なのか。
 ソマリアは、九〇年代から内戦状態にある。背景には、帝国主義の植民地支配(ソマリア北部は英国、南部はイタリア)がある。これに加えて、すでに述べたように米国などの干渉が続いてきた。
 この混乱で、沿岸漁民は魚の輸出が不可能となる一方、外国の大型船が沿岸で乱獲を行うようになった。腐敗したソマリアの政権は乱獲船を取り締まるどころか、欧米の大企業に買収されて沿岸への産業廃棄物投棄を認める協定を結んだ。漁業資源の枯渇と放射性物質を含む有害物質による環境破壊は、うち続く内戦と列強の干渉で疲弊(ひへい)したソマリア漁民の生活をいっそうの困窮に陥れた。
 このような事態に際して、漁民が無力な自国政府や国連の欺まんを見限り、生きるために武器を手にしたのは、当然のことなのである。
 ところが、米国などは漁民の決起を「国際社会への脅威」などと一方的に非難している。だが、真に責められるべきは、漁民を「海賊」行為に追い込んだ米国など帝国主義諸国のほうである。
 わが国がソマリア問題で行うべきことがあるとすれば、自衛隊を派遣することではない。大国や大企業による生活・環境破壊を止めさせることであり、漁民への生活支援なのである。

ソマリア沖派兵をあおる民主党
 だが、野党・民主党は、政府・与党とともにソマリア派兵を扇動している。
 昨年十月、民主党の長島政調副会長は「海上警備行動の発令」による派兵を持ちかけた。この提案は、米国の派兵要求への対応に苦慮していた麻生首相に、「とても有意義だと思います」と大歓迎され、実際に取り入れられた。
 また前原副代表も、自民党の中谷元防衛庁長官などとともに「若手議員の会」を結成、海賊対処法案の「素案」を共同でとりまとめ、「与党も野党もない」と、派兵の旗振り役を演じるありさまである。
 まさに、日米基軸で自民党と同じ民主党の正体をあらわしたものである。労働組合は、このような民主党への幻想を捨てなければならない。

共産党の「警察行動」論を打ち破れ
 共産党の志位委員長は「海賊」を「犯罪行為」と決めつける点で、米帝国主義やわが国支配層とまったく同じ立場に立っている。
 かれらは自衛隊派兵には「反対」だと言うが、「海賊」は「警察行動で解決すべき」「海上保安庁の技術支援、資金支援が筋だ」などと言う。志位は、米、英、フランス、ロシアなどの軍事行動を「警察行動」などと呼び、それへの海上保安庁の「支援」を主張しているのである。
 共産党は〇一年、奄美大島沖での、海上保安庁による「不審船」への攻撃・撃沈を「警察行動」として公然と支持した。また、国会での「テロ対策関連三法」採決の際、その一つである海上保安庁法「改正」案ーー「不審船」などへの直接的武力攻撃を可能にする法案ーーに賛成した。今回の態度は、これらを引き継ぐ許し難いものだ。
 共産党の主張は、結局は「警察行動」を突破口とした海外派兵や武力行使に道を開くものである。海上保安庁による「支援」であっても、米国の武力行使を助けるという意味で、実質的には集団的自衛権の行使を認めるものと言ってもよかろう。三原・自民党国際局長が「(派兵は)自民党から共産党までいいんじゃないの」と発言するのには、一定の根拠があるというものだ。
 このような立場では、強まる海外派兵策動と闘うことはできない。政権入りを願い、米国とわが国多国籍大企業にしっぽを振る共産党の態度は犯罪的で、徹底して打ち破らなければならない。
 労働者・労働組合は、広範に連携し、独立・自主の国の進路を切り開くため、ソマリア派兵と海賊対処法案に反対して闘うことが求められている。

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