2009年3月5日号 2面・社説 

21世紀臨調が「緊急アピール」

「政治の危機」に
「マニフェスト選挙」あおる

 新しい日本をつくる国民会議(二十一世紀臨調、共同代表=佐々木毅・学習院大学教授ら)が二月二十七日、「現下の政治情勢に対する緊急アピール」(以下「アピール」)を発表した。
 二十一世紀臨調は、前身の民間政治臨調を引き継ぎ、二〇〇三年の総選挙に際して「政権公約(マニフェスト)選挙」をあおるなど、財界の安定した政治支配のための保守二大政党制実現を喧伝(けんでん)してきた。また、昨年には地方の改革派首長を軸とした「せんたく」を結成、道州制、規制緩和など構造改革推進を主張してきた。現在の役員は、共同代表に茂木・キッコーマン社長や北川元三重県知事など、顧問会議議長には御手洗・日本経団連会長を担ぐ、財界の別働隊である。
 「日本政治は危機にある」という書き出しで始まる「アピール」は、現状のままでの麻生政権の存続は「国民の利益と両立しえないし、危険でさえある」とさえ述べる。
 この打開のために「今年の春」までの解散・総選挙の実施を求め、与野党に「明確なマニフェスト」策定と「入念な準備作業に入る」ことを要求。加えて、マニフェストに基づく政権樹立、政党の「自己統治」を求めている。また、佐々木共同代表が直前に「日経新聞」(二月二十五日付)に投稿した論文では、政策は政権公約を基礎に「少数精鋭の人材を起点にスピード感をもって実行」されるべきだとされている。
 つまり、マニフェストで政党を拘束して党内の異論を排除し、首相や財界など「民間委員」を含めた経済財政諮問会議による、トップダウンの政策断行を求めているのである。
 さらに「アピール」が、現在の政治情勢を「政党政治そのもの」の危機と規定していることに注目しなければならない。ここに貫徹しているのは、現下のわが国政治に対する支配層、とりわけ多国籍大企業が主導する財界の焦りと危機感である。
 財界は一九八〇年代後半以降、市場開放や規制緩和が迫られ、旧来の自民党の「利益配分型」政治が困難となった下で、新たな議会支配を確立しようと模索してきた。それは、基本政策で財界、多国籍大企業の容認する範囲で差のない二つの政党間での政権交代劇をつくり出し、政治支配を安定させるという、保守二大政党制の実現である。民主党は、そのための一方の装置であった。
 一昨年夏の参議院選挙の結果は、民主党の躍進という意味で二大政党制に向けた「前進」であった。だが、「ねじれ国会」で政策の実現がままならないことは、財界にとって高くつくものとなったし、これを打開しようとした「大連立」策動も失敗し、小沢民主党は財界のための「二大政党制の一方の装置」としての馬脚をあらわした。財界が追求してきた保守二大政党制は、二十年近い年月を経て「まだ五合目」(小林元経済同友会代表幹事)なのである。
 そしてこんにち、「百年に一度」とされる金融危機と世界的恐慌がわが国を襲い、米国は政治・軍事面でも衰退が著しい。世界は明確に再編期に入った。わが国支配層、多国籍大企業は生き残りをかけ、国内での「財政再建」と、海外派兵拡大などの政治軍事大国化、アジアでの権益確保を急いでいる。しかし政策実現はままならない上、国会の欺まんが暴露されて国民の政治・政党不信が高まる現状は、財界にとっては政治支配の危機にほかならない。
 ここに、財界はいっそうの政治介入を決意し、解散・総選挙による「出直し」を求めているのである。
 こう見てくれば、小泉元首相による麻生批判や武部元幹事長の「麻生退陣」発言、それに先立つ渡辺元行革担当相の離党などといった与党内の矛盾が、単なる「選挙目当て」のものではなく、誰の意を受けたものであるかも推察できよう。
 労働者をはじめとする大多数の国民にとっては、対米追随で大企業による相次ぐ首切りを容認するなどの悪政を繰り返す自公与党はもちろん、内外の基本政策で違いのない民主党にも期待は持てない。
 いままた保守二大政党制の完成を急ぐ、財界の画策を打ち破らなければならない。議会政治の欺まんが暴露されることは、直接民主主義によって要求を実現する以外にないことを示している。欺まんに満ちた議会ではなく、労働者の断固たる闘いと広範な各層との連携にこそ、政治変革の展望がある。
 先進的労働者は近づく総選挙に期待するのではなく、議会制民主主義の枠内での闘いに労働者階級を押し込めようとする策動を断固打ち破って前進しなくてはならない

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