2009年2月25日号 2面・社説 

クリントン米国務長官が来日

衰退の米国に
忠誠誓う麻生売国政権

 クリントン米国務長官が二月十六日来日し、麻生首相、中曽根外相、浜田防衛相らと会談した。
 一月末に発足したオバマ新政権の閣僚による初の日本訪問は、インドネシア、韓国、中国など一連のアジア歴訪の一環である。また、欧州(バイデン副大統領)、中東(ミッチェル特使)、南アジア(ホルブルック特別代表=アフガニスタン・パキスタン担当)という、新政権によって同時並行的に実施された歴訪の一つである。
 だから、わが国マスコミが日本だけが特別扱いされたかのように報じるのは、かれらが米国への奴隷根性にどっぷり浸かっていることを示すものではあれ、ことの一面でしかない。
 肝心なことは、今回の日米閣僚の会談において、「対テロ」対策や在日米軍再編など、日米間で数々の危険な「合意」がなされたことである。
 対米従属政治を打ち破り、独立・自主の国の進路を実現することは、労働者階級をはじめとするわが民族にとって、ますます喫緊(きっきん)の課題となっている。

米国の衰退が明確となる中での会談
 今回の日米会談は、米国発の金融危機が世界恐慌へと発展し、政治面でも米国の衰退が著しく進む中で開かれた。
 この震源地である米国では、住宅価格の下落と金融機関の損失に際限はなく、解決のメドはいっこうに立っていない。「米国の象徴」でもあった自動車産業の「ビッグ3」が破たんの縁に追い詰められるなど、実体経済の危機も深刻で、産業競争力の衰退も著しい。無慈悲な大量解雇で失業率は上昇、住宅差し押さえはあとを絶たず、米国民は塗炭(とたん)の苦しみに突き落とされている。いまや、第二次大戦後の米ドル体制自身が大きく揺らぎ、末期を迎えている。
 政治・軍事面でも、米国の影響力は大きく低下している。アフガンでは旧政権勢力であるタリバンに軍事的に追いつめられ、ロシアなどの大国をはじめ、イランや朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)など中小国も米国を恐れなくなっている。欧州諸国は、深刻な危機の中でも、新しい秩序づくりを公然と叫んでいる。
 最近の例をあげれば、北大西洋条約機構(NATO)国防相会議においてさえ、米国の求めるアフガンへの増派に応じる国はわずかであった。中央アジアの小国、キルギスは、米軍基地の撤退を決議してオバマ政権に冷水をあびせている。
 世界の多極化は急速に進展し、歴史的変動期に入った。

「スマートパワー」は弱さの証明
 オバマ新政権は、このような米帝国主義の歴史的な危機の中ですべり出した。外交・安全保障面での影響力維持は、米国経済の立て直しとともに、オバマ政権の抱える重要課題である。クリントン国務長官は「スマートパワー」を掲げて「外交を通じて米国の指導力を回復する」(上院外交委員会公聴会での発言)と述べ、「単独行動主義」を掲げたブッシュ前政権との違いを強調してみせている。
 これは、もはや単独では世界を制することができなくなった、米帝国主義の凋落(ちょうらく)ぶりを示すものである。
 だが、かれらが「覇権国」としての地位を自ら手放すことはない。クリントンはアジアを「米国の将来の一部」とまで述べ、中国を含むこの地域・市場をこれまで以上に「重視」すると表明している。その中で、日米同盟を「アジア政策のコーナーストーン(礎石)」と位置づけているのである。
 これは、米国がわが国にいっそうの負担を押しつけることでアジア・中東地域に関与し、衰退からの挽回を図り、覇権を維持しようとしていることを意味する。一連の外交の中で、クリントンが日本を最初の訪問地とし、日米首脳会談の前倒しまで決めるなど、支持率低迷にあえぐ麻生政権に数々の「サービス」を行った狙いはこれである。

麻生政権による売国的約束の数々
 一連の会談で「合意」された内容は、わが国をいっそうの対米従属の道に引きずり込むものである。
 オバマ政権が派遣軍の増派を決めたアフガン問題では、中曽根外相が「アフガン支援」を約束、併せて、隣国・パキスタンへの「支援会議」を日本で開催することを提案した。旧政府勢力のタリバンを鎮圧するため、パキスタンへの無法な越境攻撃を繰り返す米国にとってはこの上ない応援である。米国の世界支配にとっては、核保有国であるパキスタンの「安定」はぜひとも必要なことである。
 在日米軍再編では、在沖米海兵隊の一部グアム移転についての「協定」に署名、わが国が移転費用負担や融資などとして、総額の約六割に当たる六十一億ドル(約五千五百億円)あまりを提供することが決まった。沖縄県宜野湾市の米軍普天間基地の名護市への移転作業も加速させられる。「協定」となったのは、二〇〇六年五月の「在日米軍再編に関する最終報告」を条約級のものに「格上げ」させることで、日本政府による断行を担保しようとしたものである。
 また、アフリカ・ソマリア沖の「海賊対策」での協力でも合意。浜田防衛相は、新法を制定して外国籍船も護衛対象とすることを表明するなど、海外での武力行使、事実上の集団的自衛権の行使容認へと公然と踏み込んだ。国連平和維持活動(PKO)への日本の積極的な参加にも同意した。朝鮮問題でも、六者協議における「協力」で合意し、朝鮮に対する敵視をあおった。
 麻生政権は、衰退する米国を全世界的規模で支えるという意思を表明したのである。「百年に一度」とされる危機に際し、「ドル体制を支える」と公言してはばからないことと併せ、きわめて売国的な対米屈服と言わねばならない。
 これはもちろん、対米従属の下での国際的発言権の強化をもくろむわが国支配層、とりわけ、米国市場とドルに大きく依存するトヨタ自動車など、多国籍大企業の意思に沿ったものでもある。

独立・自主の国の進路が求められる
 米国は、クリントン訪日による「合意」を二月下旬のオバマ・麻生による日米首脳会談で再確認させ、わが国に速やかな実行を迫ろうとしている。
 だが、日米両政府の思惑をよそに、今回の「合意」がすんなりと進む保証はない。
 在日米軍再編に対しては、沖縄県民や山口県岩国市民、神奈川県横須賀市民をはじめとする粘り強い闘いが続いているし、全国の労働組合にもこれと呼応して闘うエネルギーがある。
 すでに、第二次大戦後の対米従属のツケは、先進国の中でもっとも深刻な経済の後退としてわが国を襲っている。世界同時不況の中、企業は倒産し、労働者は日々街頭に放り出され、生活苦は深まっている。これも背景にして、保守層内部にさえ、対米従属政治への不満と不安が高まっている。
 独立・自主の国の進路への転換が求められている。日米安保条約を破棄して米軍を一掃し、「アジアの共生」へと国の進路を切り換えてこそ、わが国の新たな発展が可能となるのである。
 だが議会内野党、とくに民主党には期待できない。小沢代表は、クリントンとの会談で「私は日米同盟が何よりも大事だと最初から唱えてきた一人」と明言、米国に忠誠を誓うなど、対米追随で自民党となんら変わらないことを自己暴露した。労働者・労働組合は、このような民主党に幻想を持つことはできない。
 労働組合を先頭とする広範な国民運動こそが、対米従属政治を打ち破り、独立・自主の国の進路を切り開くことができる。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2009