2009年2月15日号 2面・社説 

09春闘スタート

経済危機口実とする「労使協調」論
打ち破り、闘おう

 二〇〇九春闘は、いよいよ要求提出、交渉段階を迎える。連合は十日、「闘争開始宣言中央総決起集会」を開き、三月十六日の第一のヤマ場、回答引き出しに向けて本格的な闘いのスタートを切った。賃金カーブ(定期昇給)を維持し、「物価上昇に見合うベア(四千円〜四千五百円の賃上げ、定昇がないところは九千円)を獲得するとともに、中小企業労働者、非正規労働者等あらゆる労働条件格差の是正と底上げ」「労働時間の短縮とワークルールの確立」が主な要求である。
 今春闘は、米国発の金融危機が全世界に広がり、本格的恐慌へと発展している歴史的な危機の下で闘われる。この大津波によって、米国市場依存、ドル依存のわが国経済は先進資本主義国のなかでもとりわけ深刻な打撃を受けている。
 多国籍企業を中心とする経営側は、危機を口実に、「構造改善」という名の大リストラに打って出、派遣労働者、期間労働者に対する首切りからはじまって、一時帰休、工場閉鎖、正社員の人員削減にも切り込んできている。
 労働者は数カ年にわたって賃金を抑制、低下させられ、格差が拡大する中、昨年来の物価高ですずめの涙ほどの「賃金改善」は吹っ飛んで目減りし、一時金もカット、残業代も減り、一時帰休による減収などで収入は大幅に減り、雇用の危機も迫っている。
 〇九春闘は、わが国労働者階級にとってまさに生活がかかった闘いであり、連合をはじめとする労働組合はいかに闘うのか、深刻に問われている。闘争の前進を願って、いくつかの問題点を取り上げてわれわれの考えを述べたい。


 要求の提出、交渉を前に、トヨタや日立など多国籍大企業の三月期赤字決算とリストラ策の発表が相次ぎ、失業率の四・四%への急騰も報道される中、単組レベルでの交渉の厳しさが伝えられている。経営側が収益悪化を口実に、「雇用か、賃金か」と迫り、賃上げ要求を拒否しようとすることが明らかだからである。
 職場討論を通じ、大幅賃上げに向けて労働者の認識を統一し、団結を固めていくためには、こうした経営側の思想攻撃を打ち破らねばならない。
 経営側が「未曾有(みぞう)の危機だから」とか「企業が赤字だから」と言って賃上げを拒否するのは、収益悪化を招いた経営側の責任を棚上げにし、そのツケを何の責任もない労働者に払わせようとするものである。
 たとえば、自動車、電機などの製造業大企業を例にとれば、金融バブルで膨れ上がったアメリカの過剰消費を当て込んで、次々と設備投資し、製品を売りまくり、六期連続最高益を上げてきた。ところが、米国のバブルが破裂し、金融危機に見舞われ、急激な需要減に直面するや、一挙に在庫が積み上がり、その解消のため、急激な減産を迫られた。こうして赤字決算に転落したわけで、その責任は、あげて経営側にある。
 そればかりではない。史上最大と喧伝(けんでん)されている最終赤字の中には、「構造改革」という名のリストラ費用が計上されている。たとえば、パナソニックの場合、三千八百億円の赤字額のうち三千四百五十億円が工場閉鎖などのリストラ費用で、一挙に業績を改善する狙いがある。
 振り返ってみれば、経営側が六期連続で史上最高益を更新していた時期でさえ、株主への配当も役員報酬も何倍にも伸び、内部留保はたんまりとためこみながら、他方で労働者の賃金は切り下げられ、安上がりの派遣労働者、期間労働者に置き換えられてきた。そして、危機に直面するや、労働者に耐え難い犠牲を押し付けて生き残りを図る。
 世界で一万六千人の労働者の首を切ることを決めたソニーの中鉢社長は、「雇用を優先して損失を出すことが、私に期待されていることではない。経営の立場からは株主の期待にこたえよということだ」と広言してはばからないのだ。
 これが資本家と労働者の関係の実際である。「労使は一体」とか「労使協調で労働者の利益を守る」と言うのは、現実に合わない。「雇用か賃金か」と迫りながら、賃金カットを行い、すでに非正規労働者、正社員労働者の雇用にも手をつけているではないか。
 経営側に対する幻想を捨て、「賃金も雇用も」の要求を実現するには、労働者の団結した力以外ないことを共通の認識に、ストライキで闘う体制づくりに全力をあげるべきである。
 民間大企業には、わずかな賃金要求の原資はいくらでもある。例えば、資本金十億円以上の大企業は二〇〇二年以降二〇〇七年まで五年連続で最高益を更新した。大企業(資本金十億円以上の一部上場企業)の内部留保は総計で二百兆円超という数字が試算されている。
 大幅賃上げ実現には、個別企業内の労働組合の団結だけでは足りない。企業の枠を越え、産別の枠を越え、地域を越え、組織労働者全体の団結した闘いを実現できるかどうかにかかっている。
 フランスの労働者は、一月二十九日、世界的な経済危機で失業者が増大する中、政府や企業に対し、雇用の維持と賃上げを要求して全土でゼネストを打ち、二百五十万人のデモで「経済危機の代償をわれわれに払わせるな」と訴えた。
 日本でもまだ兆しだが、京品ホテルの闘いに対する権力の弾圧に抗して、産別、地域を越えた労働者の連帯が広がった。
 先進的労働者と労働組合は、こうした経験に学び、組織労働者全体の団結した闘いに発展するよう、全力をあげなければならない。


 米国発の歴史的な経済危機の下で、生存条件が脅かされ、苦難に直面しているのは、労働者だけではない。農民や自営業者、中小企業もまた、営業が脅かされ、倒産の憂き目に会い、急速に零落して、危機打開の道を求めている。
 今回の危機は、米国市場とドル体制に依存、従属し、国内を犠牲にし、アジアを食い物としてきた、多国籍企業の利益中心の経済構造の矛盾と行き詰りをはっきりさせた。わが国の労働者階級と中小企業などを含む国民各層の苦難の根源は、これを進めた政治、戦後の対米従属政治にある。したがってこの根本的転換なしにわが国の真の活路はない。
 しかし麻生首相や御手洗経団連会長は、「ドル基軸体制を支える」とか、「オバマの景気対策に期待」などと、決定的になった米・ドル支配体制末期の現実の中でも、時代錯誤の選択を続けている。彼らに国の政治を任せることはもはやできない。
 われわれは、労働者階級が主導して、対米従属政治を転換し、アジア諸国との連携の中で、ドルに依存しない通貨・貿易体制を形成し、域内での共生と結びつけて内需中心へ経済構造を構築することを訴える。
 この点で連合は、「公正や連帯を重んじる価値観」への転換、「労働を中心とした福祉型社会」の実現を主張し、今春闘を「輸出主導型経済から内需中心の経済構造への転換」を提唱し、大幅賃上げでそれを実現する、と主張している。
 希望やお題目は結構だとしても、それがこんにちの危機の真の根源と、その打開の方向を正しく指摘したものというには、あまりに不十分である。何よりこれでは広範な国民各層を結集することが不可能である。
 労働者階級は、この危機の中で国民各層の苦難の根源である対米従属政治の根本的な転換。独立・自主、アジアの共生へと国の進路を転換する、その旗を高く掲げてこそ、広範な社会勢力の結集が可能となり、政治変革で主導的な役割を演じることができるのである。
 先進的活動家の皆さんが、目前の春闘を闘いながら、苦難に直面している国民諸階層の闘いに連帯し、危機打開の道として対米従属政治の転換の方向を鮮明に提起することは、きわめて重要である。
 独立・自主、アジアの共生という政治変革の大構想と結びつけて闘ってこそ労働運動が劣勢を急速に克服し、飛躍的な前進が可能となろう。


 日本経団連は、経営労働政策委員会報告でこんにちの経済危機を石油ショック、バブル崩壊後の長期不況に続く第三の危機ととらえ、「労使一丸で難局を乗り越え」ることを強く訴えている。
 しかし、財界が期待しているように事態が進むとは限らない。こんにちの危機はまさに深刻で、労働者の犠牲が大きく、それは彼らに闘いを余儀なくさせるからである。財界の呼びかけに応えるような労組指導部は、労働者にいずれは見放されることになろう。
 過去二度の危機を財界は、労働運動内部の「労使協調」派と結んでうまく切り抜けたが、労働者階級は多大の犠牲を払い、苦い経験を味わされた。ここでは展開できないが、この歴史的な経験から真剣に学ぶことは重要である。
 闘う労働運動再建のチャンスでもある。労組活動家や意識分子のなかにも、打開の方向を求める機運が出てきている。
 そのために、全国の労組活動家、意識分子、政治勢力には、打開の方向について討論するなど共同の努力が求められている。
 〇九春闘でその第一歩を踏み出すことを強く訴えたい。


Copyright(C) Japan Labor Party 1996-2009