2009年2月5日号 2面・社説 

歴史的危機下のオバマ新政権成立

ドル世界からの脱却、対米追随打破と
アジア共生が求められている

 一月二十日、米国で、第四十四代大統領にバラク・オバマ氏が就任した。
 オバマ氏の支持率は就任直前で、八〇%超という異常な高さである。
 アフガン、イラクで侵略戦争を始め、その泥沼の中で米国の衰退を速めさせた前任者ブッシュの評判があまりに悪いためもあろう。また、米国史上初の、アフリカ系アメリカ人の大統領ということもあろう。
 しかし、オバマ人気が急騰したこの時期は、まさに米国の経済と政治の危機が劇的に深まった時期に重なり合う。この一、二カ月で数百万人もの労働者が職場を追われ、失業者となり、家を失った。ここには、単純な「期待の高まり」というよりも、米国と米国民が直面する危機の深刻さ、この苦境を脱したいという悲痛な叫び、これらの米国の異常な情勢が反映している。
 だから、米国人の熱狂にはそれなりの根拠がある。だが、わが国の財界、政府や各議会政党のオバマ新大統領へのあきれるほどの期待感は、それがどこの国の上に足を置いての発言か、疑わしくなるほどである。
 政府は、即座に「日米同盟のいっそうの強化」を誓い、「米国発の不況が日本の主要産業を直撃しており、そこをしっかり対応してもらうのがいちばん大事」(自民党・細田幹事長)と表明した。
 一方、野党の民主党も、「大いに手腕を発揮していただきたい」とオバマを祝福、「米国の『変わる』意思に対して、日本もできるだけ協力したい」(鳩山幹事長)と語って、急ぎ訪米団を送ることまで決定した。
 共産党も、オバマ誕生を「米国社会の民主的活力の発揮につながることを期待している」(志位委員長の談話)と、べた褒めである。
 しかし、米国オバマ新大統領が直面する諸課題は、そのまま、米国の深刻な危機そのものである。それを打開し、就任演説で述べた「米国の再生」を果たせるかどうか、彼が選挙戦でスローガンとした「チェンジ」(変革)が実現できるか。それは米国民の熱狂、わが国支配層らの「期待」とはまったく別の問題である。

オバマ政権の協調外交はどうなるか
 例えば、外交政策では、イラクからの早期撤退を表明したオバマ政権だが、一方でアフガニスタンへの三万人に上る米軍増派を明らかにしている。就任演説では引き続き「対テロ戦争」で敵を打ち負かすと宣言した。
 すでにアフガニスタン駐留の米軍は、隣国パキスタンへの違法な越境爆撃を繰り返しているが、オバマ新大統領がそれを承認・指示していたことも明らかとなっている。また、イスラエルによる無法なガザ侵攻、パレスチナ人虐殺には見て見ぬふりを決め込み、就任演説はこのことに一言も触れなかった。
 しかも、イラクからの撤退も、すでにその時期について、政権内部から先送り論が飛び出しており、その実行は保証の限りではない。
 国土と民衆の命を、侵略戦争の毒牙で蹂躙(じゅうりん)してきた米国への、中東人民の怒りは深い。「テロとの戦争」を掲げ続けるオバマ政権にとって、名誉ある撤退など、容易でないことである。
 地球温暖化、核軍縮、あるいは国際協調主義などオバマの発言は、前任者ブッシュとあえて対置させることで、期待をあおっている。しかし肝心なことは、オバマが何を発言したかではない。実際に何を実行するかである。それこそがこの政権の将来を決し、歴史的評価を下すこととなろう。

深刻な経済危機への対処こそ難題
 しかも、オバマにとっては、経済の回復こそが、なにより緊急かつ最大の難題である。
 金融危機は実体経済に波及し、急速な景気冷え込み、経済成長率はマイナスとなり、数カ年は続こうといわれている。オバマ就任当日にも、ニューヨーク株式市場の株価は急落。公的資金での支援を受けたバンク・オブ・アメリカや、業績悪化が伝えられるシティーグループなど、大銀行は破たんの淵にあり、金融不安は収まらない。自動車のビッグ・スリーも、公的資金の注入でかろうじて経営を維持している。このような中、昨一年で二百五十八万人、戦後最大の雇用が失われ、今年はさらに失業率が上昇している。
 戦後かつてない経済危機、恐慌に直面し、オバマは就任以前から、一九二九年恐慌時のルーズベルトによる「ニューディール政策」を手本に、大規模な財政投入による景気刺激策を行うことを明らかにしてきた。環境、新エネルギー、情報インフラなど、新産業創出が狙われているが、当面の期待は、大規模な公共事業での仕事と雇用の創出にある。
 オバマ側近の経済スタッフは、八千億ドル超の財政投入で、三%程度の成長率押し上げ効果があると試算する。しかし、それは今現在も急速に冷え込み続けている米景気を、いくらかでも盛り返す、いわば「滑り止め」効果が期待できるだけで、決して三%成長が実現できるということではない。
 議会での法案可決以前に、すでに追加支出の必要性すら言われ始めた。

恐慌の真の原因と米国の危機
 それでも、いくらかでも需要がつくり出されれば、製造業は息継ぎができる。米国への輸出もできる。そこに米国と世界の資本家どもがオバマ政権に期待する根拠がある。
 しかし、その危機打開のための資金は米国債、米政府の借金である。その結果はどうなるのか。
 そもそも今回の米国発の金融危機、さらに世界経済恐慌は、全世界の金持ちども、投資家の手にドル資金があり余り、利を求めて住宅、金融商品をはじめとする、さまざまな投機へと走り、バブルを生み出し、それがドルの本国、米国から破裂したことによって引き起こされたものである。
 サブプライムローンからクレジット、金融商品と、全世界の金融資産は二百兆ドル以上といわれ、全世界の国内総生産(GDP)の数年分をまるまる投入しても間に合わない。先進諸国と中国に積み上がった金融資産はGDPの三五〇%を超えている。これが収縮し、銀行の不良資産を拡大させ、貸し渋りで実体経済を冷え込ませて膨大な倒産と失業を全世界につくり出しているのである。
 その過剰資本、ドルは、戦後の世界資本主義の不均等発展の下、米国が没落し、借金まみれになる中で、いわば資金繰りの必要性から、基軸通貨国の特権を使って、ドルを印刷し、支払い、投資などで垂れ流して生み出されたものである。
 当然にも、戦後のドル基軸体制そのものへの不信が高まり、米国・ドルによる世界経済支配が危機を迎えているのである。欧州では「ドルが基軸通貨などといえる時代ではない」「第二のブレトンウッズ体制を構築しなければならない」という声が公然と上がっている。
 オバマ新政権の新ニューディール政策とは、この上さらに米国債を増発し、結果、ドルを増刷、垂れ流して、景気刺激を行おうとすることである。米国政府の財政赤字はさらに拡大するし、ドルを発行する中央銀行(FRB)の資産内容も悪化する。ドル価値はいよいよ低下し、究極、「紙切れ」となりかねない。
 だれかが「王様は裸だ!」と言えば、王様、ドルの寓話は崩壊しかねないのである。

対米追随、ドル世界からの脱却とアジアの共生を
 このような中にもかかわらず、わが国大企業、財界主流の多国籍大企業は相変わらず対米追随で、危機脱出を願っている。
 財界のボス、御手洗日本経団連会長は、年頭、「景気の立て直しには世界の連携も大事だが、けん引するのはやはり米国だ」とし、「オバマ次期大統領がダイナミックな政策を打ち出すことを期待している」と述べた。しかも、「ドルは弱くなっているが、これに代わる通貨はない。……現実的な選択肢としてドル体制の継続が良い」とまで言った。あくまでドルと米国に追随する姿勢で、米国市場とドル資産に依存し、はまり込んだ多国籍大企業の利害を反映している。
 しかしこれは、この国で働き、生活する国民大多数にとっては日に日に減価し、いよいよ不安定さを増すドルと心中する、きわめて亡国的な選択となる。いまでも、ドル安・円高、為替差損と輸出条件悪化で、わが国産業は膨大な痛手をこうむっている。それを口実に非正規労働者はじめ多くの労働者が街頭に投げ出されている。この上、まだドル基軸体制を支えようというのか。
 危機の真の脱出のためには、あるいは国民大多数にとって必要な打開策とは、これではない。
 求められているのは、オバマのニューディールへ、ただただ期待することではなく、独立・自主の国の進路を実現し、まず、内需に多く依存する経済構造に転換すること。つまり、国民を豊かにし、需要を拡大すること。そして、近隣諸国、アジアとの経済的な共生関係を構築すること。アジア諸国とともに、ドル依存でない経済、貿易関係を構築すること。そのためにわが国が役割を果たすことである。
 元西独首相シュミット氏は、年頭の商業新聞のインタビューで、「ドイツはEUの中に根付いているが、日本は近隣諸国から孤立している。隣人との友好な関係を打ち立てようとする努力が不足していたと思う」と語っている。
 心ある経済人と保守政治家にも言わねばならないが、今、この指摘を、深刻に噛みしめてみるべき時であろう。


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