2009年1月1日号 1面〜5面 

2009年の年頭に当たり
独立・自主への政治
変革の実現を訴える

日本労働党中央委員会政治局常務委員
山本正治同志の講演

 新年に際し、昨年十二月十一日、党中央委員会主催によって東京で開催された「日本労働党演説会」における、山本正治同志の講演要旨を掲載する。なお本稿は、同日の講演の内容を、新年号向けに加筆・訂正したものである。(「労働新聞」編集部)。


 お忙しい中をお集まりいただき、誠にありがとうございます。
 たぶん皆さん方は今進んでいる情勢、米国を頂点とする戦後の世界資本主義が破局を迎えたというこの危機がどういう推移を見せるだろうか、私たち労働者にとってどのような生き方、闘いを迫るのか、この点に関心があってお集りいただいたと思います。この問題について、一時間半をメドに皆さんといっしょに考えてみたいと思います。
 さて、まず、よくこの危機は「百年に一度」と言われるので、そこから考えてみたい。百年前ごろ、例えば一九一〇年には、日本は朝鮮を併合した。いろんなことがございましたが、多くの方がだいたい二九年の世界大恐慌と比較する。どうもこの危機が二九年の恐慌に似ているか、あるいはそれ以上かとこんにちの情勢を見ていると思います。各国は保護主義に走り、勢力圏を形成し、グローバル世界は分断される。さらに帝国主義世界戦争に至る、こうした歴史ですね。
 その結末は皆さんご承知の通りでございます。日本やドイツの帝国主義は敗北し、米国や英国などの帝国主義国が勝利した。そして、米帝国主義中心の経済や政治の戦後世界体制ができあがる。
 しかし、一方、この戦争を通じて、アジアでは朝鮮や中国が独立、解放を勝ち取り、さらに進んで社会主義に入っていく。東欧各国もそうでした。世界中の帝国主義に植民地支配され抑圧されてきた各民族も、次々と政治的独立を勝ち取った。
 ですから二九年恐慌に始まる歴史は、帝国主義戦争への歴史でもありますが、世界中で帝国主義に抑圧されてきた国々が解放闘争で独立を闘い取り、さらに進んで社会主義に進んでいく歴史でもありました。社会主義はソ連一国から、地球上の三分の一の勢力となるまでに成長するという激変を見た。そうした歴史であった。このことを議論を進める前提として、確認しておきたい。

 そこで今日お話ししたいことはーー、
 一つは、こんにちの情勢の特徴は、一時的な金融や経済の危機、米国の危機というにとどまらず、戦後のドルを中心とする世界資本主義システムが末期を迎え、米帝国主義支配の末期というような歴史的な危機であるということです。したがって、帝国主義と闘う全世界の抑圧された人民、勢力、国々は、大いに前進できる「好機」でもあるととらえることがまず重要だと思います。その世界の姿が今後どうなるか、その具体的行方はまだ定かでないにしても、前途は、先進国、帝国主義本国での労働者、労働運動にかかっています。
 第二には、中でもわが国では、戦後の対米従属の体制、国家を打ち破り「独立・自主、アジアの共生」の国の進路を実現する政治変革、政治革命が現実の課題となる、大きな可能性ある情勢が来たという問題です。
 三点目に、労働者階級がこの政権をめぐる闘争、政治革命の中で指導性を発揮すること、そのためにいま必要と考えられる認識問題を若干ふれたい。
 この三点です。

米国を頂点とする帝国主義は末期となった
全世界の反米反帝国主義の勢力が大前進する好機

 四五年に戦争が終わって、米帝国主義を頂点とする世界がつくられた。もちろん、これと対抗して三分の一の勢力が社会主義陣営であった。しかし、経済では、米国を頂点とした資本主義が世界をリードしていた。ですから、戦後世界は資本主義と社会主義との両陣営の対立世界となりましたが、全体として、資本主義の陣営が大きな力を持ったのは間違いありません。その頂点にあったのが米国でした。
 しかし、社会主義は九〇年前後に大幅に後退した。われわれは社会主義が、計画経済が誤りだったとは思っておりません。社会主義の指導者たちが、あるいはその党が誤ったと思っていますが、それにしても大幅に後退した。世界は、経済で見るとほぼ資本主義一色になった。
 だが、それからわずか二十年弱。こんにち、世界資本主義が破局的な危機に陥り、米帝国主義は決定的に力をなくし、支配が末期を迎えている、そんな世界情勢です。
 とくにイラク戦争での敗退をわれわれは「冷戦後米国の最大の敗北」と見ましたが、その後も世界政治での指導力、支配力の衰退は顕著で、皆さんご存じの通りでございます。米国を頂点とする帝国主義に対して、これと闘う全世界の国々、人民が大きく前進し、追い詰めています。
 世界は変わったのですね。ごく最近、私がその大きな変化を感じたのは、米軍を駐留させるための地位協定を、イラクのマリキ政権が米国と結んだ問題です。このマリキ政権というのはご存じのように、米軍がつくったいわゆる「傀儡(かいらい)政権」です。ところが、この地位協定の中に、イラクに駐留する米軍は他国に出撃してはならない、という条項が盛り込まれています。これを見て、わが国のある財界人がテレビで「イラクのマリキ政権でさえ、自国にいる米軍が他国に出撃することを禁じている。一体、わが国はどうなっているんだ」と嘆いておりました。
 オバマは、アフガニスタン侵略戦争は強化するといっているが、そう言わざるを得ないほど侵略者は追い詰められているということですね。かつてのソ連軍敗退の轍(てつ)を踏む可能性が大きいと言われ出しています。
 その他、イランは、地域の大国として力を強め、ロシアなどとも連携を強めている。パレスチナでも、中南米でも、反米反帝国主義勢力は意気軒高です。
 もう一つ、朝鮮です。五〇年の朝鮮戦争以来、南に米軍は居座って、絶えず北側、朝鮮民主主義人民共和国を核軍事挑発し、抑圧してきた。しかし、いまや米国ブッシュは追い詰められて「テロ支援国家」指定を解除せざるを得なかった。長く帝国主義と闘ってきた朝鮮民族ですが、歴史の大きな転換がお隣の朝鮮半島では進んでいるわけです。国際情勢、少なくとも朝鮮半島情勢で主導性を発揮している。一方「六者協議」で、日本は孤立を深めました。
 抑圧されているが大国でもある二面性を持った国、中国やロシアといった国と帝国主義、大国との関係も大きく変化しています。ロシアの動きに触れておきますが、ロシアは、目前は原油価格の下落で大変さもあるようですが、何といっても石油やガスなどの資源大国で、それに旧ソ連以来の戦略核兵器も持っています。このロシアを米国は、MD(ミサイル防衛)配備などで何とか抑え込もうとしてきました。しかし、オバマ当選直後には、親米の国ポーランドの喉(のど)元ともいえるロシアの飛び地カリーニングラードにミサイル配備計画発表で対抗した。十二月一日には、ロシア海軍は反米国家ベネズエラと、米国の内海ともいえるカリブ海で合同軍事演習を行った。その前のグルジア戦争でもそうですが、ブッシュは見ている以外にうつ手はなかったですね。
 このように世界は、米国を頂点とする帝国主義体制は末期、米国が支配する世界は終わりつつあります。

米国の限界はドルだけでなく超軍事力も

 米国は、第二次世界大戦中の四四年、まだドイツも日本も降伏する前に、英国・ポンドに代わって米国・ドルが世界の基軸通貨となるブレトンウッズ協定を結んで、戦後世界を経済的に支配してきました。
 米国の、もう一つの力の源泉は、何といっても核を頂点とする超軍事力でした。米国は太平洋戦争末期、戦闘では決着がついていたにもかかわらず広島と長崎に原爆を投下した。力をつけつつあった社会主義ソ連への牽制であり、英国などの帝国主義列強へのデモンストレーションのために何十万という人びとを虐殺して、試験し、威力を全世界に見せつけたんです。
 これが米帝国主義の戦後支配形成の歴史です。その米国はまだ核を持っています。しかし、ロシアのように核兵器を持っている国だけではなく、核兵器を持っていない比較的力の弱い国、抑圧されてきた国も、これを恐れなくなっています。朝鮮は核武装を行って、敢然と帝国主義と闘い前進した。
 そういう状況に変わってきています。

今後の世界は、先進国の革命党と労働運動の成長にかかる

 戦後の六十数年の歴史、世界情勢は、いま大きく変わっている。こういう状況に移り変わってきた世界が、さらにこれからどうなるだろうかということが、今日の本論でございます。
 社会主義陣営がなくなり冷戦が終わって以後の世界は、米国を頂点とする帝国主義と、これに反抗する世界中の何十億という民衆、国々が闘ってきた世界でしたが、米国は衰退し、反米反帝国主義の勢力が大きく前進した。これが世界のすう勢だと思います。
 しかし、肝心の帝国主義と闘う勢力の中心、最後的に帝国主義を打ち倒す力と条件をもつ、文字通りの意味で決定的勢力である帝国主義本国の労働者階級、労働運動が問題です。帝国主義と十分に闘えないどころか、むしろ各国で労働運動の主流は帝国主義を支える支柱となっています。米国では民主党の重要な支持勢力で、帝国主義政策を支えている。西欧では社民主義政党の基盤で、英労働党は与党、ドイツ社民党は保守党との連立与党といった具合で、各国独占資本と共存し、その政権を支えています。
 日本でも、中心をなすナショナルセンター、連合は労使協調の組合主義、政治的には「日米基軸」路線で帝国主義と闘うどころでない。「福祉社会」を目標とする西欧的な社会民主主義の影響下にあります。これに反対するいわゆる「左派」も、共産党などの日和見主義の影響下にあり帝国主義との闘いを回避していますね。最近は連合と同じように「福祉社会」を目標にするまでに堕落し、客観的には支配層を助ける役割を果たしている。
 先進国の労働者階級、労働運動が日和見主義の影響下に留まって、これが命運尽きようとする帝国主義を支えています。この日和見主義を打ち破らない限り、帝国主義との闘いで今一つ決定的な変化はつくりだせないのであります。大いに奮闘しなくては、この歴史的好機を生かせないですね。
 今後の世界は、本質上は、帝国主義が危機をしのぐのか、先進国の革命党と労働運動が成長し帝国主義を打ち破るか、この競争です。
 そういう意味で、この労働運動の革命的な発展の問題について、その条件となる危機の見通しなど、次に考えてみたい。

世界情勢の新しい局面、その特徴と展望

 まず、少しだけ特徴的な現象に触れてみたい。
 九月十五日にリーマン・ブラザーズという米国の大証券会社がつぶれた。前後して五大証券会社(投資銀行)が全部姿を消した。金融危機は西欧にも、世界中に広がって、米欧の銀行は大方、政府の資金が入れられている。いわば「国有化」というか、そういう状況です。
 危機は急速に実体経済に波及しています。米国を象徴した「ビッグ3」、GM(ゼネラルモーターズ)をはじめとする自動車会社が、政府から何兆円という資金をもらわなければ倒産する。先進国だけでなく、中国やインドを含めて、世界同時不況となっています。
 失業者は、米国ではすでにこの一年に二百万人以上、ヨーロッパでは一日一万人が失業しているという。日本でも派遣労働者などを中心に急激に状況は悪化していますね。
 こんな状況です。

「対策」は危機の爆発を先延ばしできても、
より深い矛盾を生み出す

 こうした事態に、帝国主義者も、それ以外の国も含めて世界各国の支配層はいずれも対処に追われています。異例の「G20」ということで「金融サミット」が開かれ、「協調」が叫ばれ、「(金融での)あらゆる追加的措置」「内需刺激の財政政策」「資金調達支援」「規制」等々が合意された。では、金融危機、経済危機は一服するのか?

 各国政府は、財政による内需拡大策を進めています。中国は五十七兆円、オバマは七千億ドル以上とかで空前の規模です。これだけ財政をつぎ込めば、いくらかは需要を喚起する効果もあって、危機の先延ばしには役立つかもしれません。ですから日本でも期待する向きもあります。〇九年秋には何とか回復する、などという見通しはそうしたことでしょう。
 しかし、何年もやれるはずはありません、どの国も財政赤字が大変ですから。とくに日本は、大変です。危機に備えてということで、小泉をはじめ歴代政府は「財政再建」を内政の基本課題にしてきましたが、間に合わなかったですね。ですからこの問題でとりわけ麻生政権は右往左往です。中国でさえ、いまは大きな財政黒字(それに外貨準備)を持っています。問題は不況の長さで、一年、二年なら何とかなるかもしれませんが、長期の不況になると大変でしょう。
 結局、各国で国債の大量発行となって、あとでインフレとか、増税とかが避けられない事態となる可能性が大きいのではないでしょうか。もっともその前に失業者が暴動を起こすかもしれないので、そんなことは言っていられないのでしょうが。

 金融危機対策では、いま、各国の中央銀行や政府が、どんどん資金を銀行に出しています。まさに「最後の貸し手」です。これで乗り切れないと金融システム、すなわち資本主義経済が崩壊するということで、なりふり構わぬ救済策です。しかし、不良資産は底なしで、どこまで広がるか見当がつかない、だからどこで落ち着くかはもっと分からないですね。
 しかし問題は、仮に落ち着いたとして、どういった事態がもたらされるかです。
 中央銀行や政府が、民間銀行の持っている不良資産を買い取るということは、要するに不良資産が中央銀行に移ったというだけです。だから、中央銀行の資産内容は極度に悪化する、あるいはバランスシートが膨張する。その信用は傷つき、市中銀行であれば倒産ですね。中央銀行だからお札は刷ればよいので倒産はしませんが、信認は低下します。政府が安全資産としての国債を中央銀行の資本として注入することでしょうが、大量の国債発行はこれまた問題です。一方、市中には通貨が垂れ流されて、インフレの危険が高まります。
 最後は、この不良資産を処理しなければいけない。世界の実体経済が回復し、新たな(剰余)価値が生産されて、労働者は搾り取られてということですが、企業が利益を上げれば、その上にある金融世界の不良債権ははじめて処理できる。しかし、その見通しはとても難しい、いまはそれどころでない状況です。結局、行き着く先は政府が処理する、財政でやる以外にない可能性がある。だから問題は、国家財政の問題に転化する。

 もうひとつ、FRB(連邦準備理事会)、米国はドルを世界中に散布している。各国は、外貨不足となりドルを欲しがっているから、通貨のスワップ(交換)ということで、ドルと各国通貨とを交換しています。相当な金額です。FRBがいわば世界の中央銀行のような役割を果たしているわけです。
 ドル暴落の危険が著しく高まってもいますが、目前、各国はドルを必要ともしているということです。しかし、ドルに頼っている限り、一層大きな危機を繰り返すことになります。また、暴落がなくても、ドルの大量垂れ流しで世界的なバブル、インフレの危険を促進しています。

 こうした具合で、さしあたっての危機対策は、将来のより深刻な危険を含みながら、とりあえず今の程度の「安定」というか、危機の状況が保たれている。ですから、目前をしのいでも、しのげてもいませんが、より深刻な矛盾を引き起こすということです。

本質的には不均等発展、国際不均衡問題

 もう少し長期的にというか、本質的にというか、この危機はどうなるか。
 この危機をより本質的に規定しているのは、五〇年代半ばからの米国経済の相対的な衰退、つまり資本主義諸国間の経済発展の不均等性です。米国の競争力がなくなったという、この問題なんです。七一年に米国は貿易赤字、経常赤字に転落する。売るモノが少なく、買うばかりの国になり、それから四十年近く経ったわけでありますけれども、貿易赤字を垂れ流しながら世界中からモノを買って豊かな生活を続けてきた。特に二〇〇〇年前後からその赤字は巨大化し、一年間で八千億ドル、約百兆円分ほど働かずに世界中から買って豊かな生活を送ってきた。過剰消費です。
 しかしそれは、当然、それだけ輸出国側は輸出ができたということです。日本やドイツ、最近では中国とか。これらの国々にすると米国がそれだけ輸入してくれるおかげで輸出ができる。これらの国々の輸出企業には、過剰消費の米国が必要だった。貿易黒字は貯まって、その投資先を必要としましたが。
 こうした不均衡がいつまでも続くはずがありません。
 しかし、米国は続けることができた。自国通貨ドルが基軸通貨で支払いに困らなかったからです。基軸通貨国特権といわれるものです。米国は対外支払いのゼニが足りなくなるとFRBがドルをどんどん刷れば、それで支払いができる。他の国では、それができず、経常収支をバランスさせなくてはならないわけです。
 もちろん、「刷る」だけではすぐに、「ドルは単なる紙切れだ」ということになりますから、できるだけ世界中に回ったドルが米国に戻ってくるという仕組みをつくる必要があった。ドル還流システムということです。ちょうど良いことにというか、日本やとくに最近の中国など貿易黒字国には米国から受け取ったドルが貯まって、投資先を求めていた。金融工学などといって、ご承知の金融バクチのさまざまな手法で高利回りをうたって、これら世界中の黒字国からドルを環流させた。
 しかし、住宅バブルの崩壊で、二〇〇七年のサブプライムローン問題以降それが行き詰まった。ドル還流システムも元には戻れない。

 根本において、米国の競争力がないわけで、この不均衡、「米国の過剰消費の体質」は続かない。経常赤字を垂れ流すのは続かない。反対側、日本や中国の、その対米輸出依存型の経済の限界です。そういう世界的な調整が始まって激痛が走っているわけです。

国際協調は早晩限界に
 金融サミットで各国首脳は、協調して対処しようと。これを共産党は「投機の規制」「国際協調」が始まった、と大変高い評価をしています。オバマ大統領になったから協調はもっと進むという見解も多い。どうでしょうか。

 まず、「規制」ですが、米国がドルを垂れ流し働かずに暮らしている間に、米国経済は金融業中心に大きく姿を変えた。国内総生産(GDP)のうち製造業の割合はわずか一割で、金融業などが三割を稼いでいる。この金融の仕事は一銭も富、新たな付加価値を生み出しません。米国だけではありません、西欧の国々の多くもそうです。西欧各国の銀行もドルに投資して一時ボロ儲けしたからこそ、この危機で米国金融機関と同じように破たんした。だから、いくらか「行き過ぎ」は是正されるでしょう。しかし、この金融を縛り上げてしまったら米国は稼ぎを失い、世界中の金持ち、資本家も同じことです。ですから、これを根本的に抑えることは不可能でしょう。
 世界がサミットで規制の方向に世界が向かったなどと言う共産党などの見解は資本主義、帝国主義への幻想を振りまいているだけです。

 とりあえずは「協調」ですが、各国で経済危機が進むわけで、先は大変だと思います。四月の第二回金融サミットすらどうなるか。
 よく、「外交は内政の延長」と言われますように、国内政治の限界が、外交での協調政策の限界を条件づけます。経済が厳しくなって、労働者や国民は食えなくなると騒ぐわけですから、国内の政治状況は不安定になる。各国支配層がなんとかして国内の政治状況を安定させようとするのは当然です。どうしても外国との競争で自国の産業、市場、あるいは自国の資金を守ろうとするでしょう。そうしないと政権が保たない。
 ですから、協調はまだしばらく続くかもしれませんけれども、どこかでこれは崩れざるを得ないと思うんです。
 〇八年十一月の金融サミットでも、米国を頂点とする大国、帝国主義国に対して、中国やロシアやあるいはブラジルなど帝国主義から抑圧された国々、発展途上の国々が存在感を示し、大国中心のやり方に反発した。そこで確認されたWTO(世界貿易機関)の問題でも、中国・インドと米欧とが対立し、年内開催の話はすぐにとん挫した。帝国主義とそこから搾り取られている国の対立構造は根本的です。ロシアの大統領が言っておりましたけれども「どの国でも自分の国の利益を守るのは当然だ」と。
 もう一つ、大国間も。フランスのサルコジ大統領は「もうドルは基軸通貨ではない。二十世紀につくった制度を、そのまま二十一世紀に持ち込むことはできない」と、ドルと米国の支配に挑戦を隠さなかった。しかし、サミットではそうした議論にはならなかった、できなかった。それほど危機が深いということでしょう。しかし、ドイツやフランスなどは、歴史的に米国中心の戦後世界に対抗して、経済的政治的結束を系統的に強め、共通通貨ユーロを育ててきた経過もあります。それを捨ててまで、米国、ドルと協調するとは考えにくいわけです。

 崩れてその先どうなるかは、まだ具体的には分からない。しかし、グローバル世界が中断する、そうした方向を否定できないところになっていると思います。サミットでも各国首脳から、二九年恐慌の時に協調が崩れブロック化等々が進んだ歴史を繰り返さない、ということが強調されていましたね。
 各国での階級間の矛盾、階級間の闘争は激化せざるを得ず、それを基礎に、各国間の対立は大国同士でも、帝国主義大国と抑圧された国々、中小国との間でも激化せざるを得ないと思います。どの程度か、あるいはどんなテンポかということは、もう少し正確さを期したいと思いますが、いずれにしてもこれらの矛盾が激化する、対立が激化する。
 したがってこれから先の世界は、安定に向かうのではなくて、緊張が激化、高まっていく、そういう世界に向かうことだけは間違いないと思います。

展望ーー社会主義の経済的条件は満ち、
労働運動の成長にかかっている

 問題の根本は、「過剰生産」の問題です。資本主義の経済は、世界中で五十億も六十億もの食えない人がいるにもかかわらず「過剰生産」という、おかしな経済です。モノをつくっても売れない、したがってカネを持った連中は、カネがカネを生む金融の世界というか投機の世界というか、ここに向かう。カネ余りといわれる現象です。
 この問題を根本から解決しないとこんにちの事態は解決しないという意味で、資本主義の経済、下部構造はますます成り立たなくなっている。ますます社会主義の経済的条件は満ちている。
 にもかかわらず、社会というのは経済だけでは成り立っていないわけで、経済が基礎ですけれども上部構造としての階級闘争、労働運動や政治闘争、イデオロギーの問題など、それ固有の領域の問題がある。とくに、国家、権力をめぐる問題があるわけです。経済が厳しくなれば自動的に上部構造が変わる、すぐ倒れるわけじゃないんです。
 労働運動が、あるいはそれを基礎に統一戦線の勢力が政治を変える、権力奪取の闘いがなければ、自然には変わらないということです。しかし、肝心の労働運動が各種の日和見見主義の影響下で、ブルジョアジーの国家を守る側についている。この問題こそ決定的です。
 これほどの緊張した事態の中で、世界の労働運動が、日本の労働運動が自国の運命、労働者階級の将来について真剣に考えて、備えなければならないと思います。

対応を迫られる日本 労働者階級はどう闘うか

 毎日、派遣など非正規労働者が街頭に放り出されている。大量の労働者が住む家を失う状況です。
 ですからまず第一に、私たち労働党は、この現実の労働者と苦難をともにし、ともに闘って打開する、その闘いを支持していきたい。そうした仕事を全力でやりたいと思います。これはわが同志たちに対する呼びかけでもございます。
 労働運動、とりわけ多数派である「連合」傘下の労働組合が労使協調の幻想を捨てて、正規、非正規の枠を超え、すべての労働者の雇用と生活維持のため断固として闘うことを呼びかけます。連合の指導者の皆さんに申し上げたい、胸が痛まないのか、と。痛まないはずはないと思うんです。そして胸が痛んでも対応しないとすれば、対処しないとすれば、そういう労働運動の指導者たちは早晩、今日明日とは申しませんが、どこかでは労働者から見放されるに違いないだろう、そういう事態が進むと思います。ここは、私は確信してよいと思います。

対米従属政治の総決算が迫られている

 注目すべき問題は、わが国では、こんにちの危機が、他の国、とりわけ西欧の先進国と違って、非常に鋭い形であらわれるということです。これはわが方の有利さであり、力が弱いときには敵の弱さを突いて前進する必要があります。
 米国のわが国に対する支配の関係、これほどの独占資本主義の国でありながら従属国に甘んじている問題は、敵の首にかけられた首かせであり、足かせだということです。
 日本の戦後史、これは日米安保体制下で、沖縄を異民族支配の下に差し出すなど民族的尊厳すら捨てて、国民大多数を犠牲に、米国に従ってほんのひとにぎりの企業家たちだけが繁栄する道を歩んできた、そうした歴史です。それが行き詰まった。米国市場に輸出し、あるいは米国など世界で生産し、ドルで資産を形成する対米従属下で「繁栄」してきた多国籍大企業すらも、これまで通りにやっていけなくなって見直しを迫られている。これは対米従属の戦後史で初めてのことです。
 さらに、わが国は他の独占資本主義国と比べても、「独自の経済圏」を持たないし、資源もないなど弱さがある。ヨーロッパは、単一市場EU(欧州連合)をつくっていますし、共通通貨ユーロもあります。資源は独自にはあまりないが、資源大国ロシアか中東政策とか、戦略的対処をしているわけです。
 一方、わが国は、対米従属でがんじがらめです。巨大な成長市場であるアジアに位置し、個別企業は経済関係を強めながらも、財界が望む「東アジア経済圏」すら米国にじゃまされ、進められないわけです。むしろ、米国とともに中国や朝鮮を敵視している。アジア通貨危機の時には、「アジア通貨基金」構想を立てたが、米国に反対されつぶされた。今回、麻生はそれすら言い出さず、むしろ「ドル基軸を支える」と、みじめなほど米国べったり。
 国会では、今日か、明日か、自衛隊のインド洋での給油を延長する法案を、事実上民主党も認めて、米軍を支える法案を可決するわけです。まさに時代錯誤、これでは激変の世界でやっていけないでしょう。

「独立・自主」の政権をうち立てる政治変革が現実課題に

 こんにちの危機の中で、米国に従ってきたツケが回っています。すでにこの春から、漁民が全国で漁船を停めて闘った。戦後ずっと売国農政と闘ってきた農民の皆さんも、再びいろんな形で闘いを強めています。トラック業者は燃油代の値上げ等々で「たまらない」と言って八月に全国一斉に闘った。労働者も大変ですが、「中間層」といっていいでしょうか、こういう人びとが皆、「このままでは食っていけない」と闘い始めているわけです。
 それだけでなくて、けっこうな企業をやっている人びとも「もう米国に頼っては、商売にならない」と言って、「さて、どうしようか」となっている。さらにこうした状況が反映しているから、政治家や官僚たちも「このままで良いのだろうか」ということになる。支配層の中にも動揺というか、さまざま動きが見られるようになっていますね。対米関係、対アジア(勢力圏)をめぐって、アジア共通通貨などドルと通貨問題で、敵、支配層内部の分裂は、ますますひんぱんに公然化しています。
 敵の分裂は、彼我の力関係をわが方に大いに有利に導くわけです。

 経済危機から抜け出し、国民生活を安定させるという意味でも、独立の政権を打ち立てる政治変革、政治革命が、客観過程として避け難く問題となる、そうした情勢の到来です。
 なによりも、アジアの共生を進める政治への転換が求められます。日米安保条約を破棄し米軍を一掃し、「アジアの共生」へ国の進路を切り換えることができるならば、わが国の新たな発展の基礎を築くことになります。多国籍企業のための覇権的利益追求の政治から、シフトを国民大多数の側に移し、国民が豊かになる国民中心の経済と民主主義の政治への転換です。
 皆さんと共に、全力で、「独立・自主、アジアの共生」をめざす政権を打ち立てる壮大な統一戦線形成のために全力を尽くしたいと思います。労働組合をはじめ国民各層のリーダーや知識人、また、保守を含む各政党の政治家の皆さんと、国の運命と国民生活の危機打開について率直に話し合い、共同したいと思います。

労働運動は「独立・自主」の政治的闘争の
組織者、指導勢力となってこそ展望を開ける

 労働運動は、支配階級がこれまで通りにやっていけなくなって内外政治の見直しを余儀なくされ、分裂を深めているチャンスを生かせば、大前進が可能となるに違いありません。彼我(ひが)の力関係は、相対的な関係だからです。敵は分裂支配しようとするし、わが方は、それを克服して団結を広げるとともに、敵の分岐、どんなに小さな亀裂でも利用して、敵を分裂させ、一部を孤立させることが勝利の必須の条件となるからです。
 「独立・自主、アジアの共生」という民族全体に共通する課題を達成する政治変革、あるいは政治革命の中で積極的役割を果たし、民族の指導勢力となることができるでしょう。
 それはこれまでの経験でも明らかです。戦後のわが国労働運動は、米占領軍の介入で結成された総評が「ニワトリからアヒルに」変わったと言われた講和問題での一連の闘いでも、六〇年の日米安保反対の一大国民運動でも、その国民的闘いの組織者、推進者となる中で、その発展を闘い取ったたことは誰しも否定できない歴史の事実だと思います。
 ですから、こんにちの日米関係、対アジア関係をめぐって、この国が行き詰まったという状況は、労働運動を発展させ日本の国の政治を変えようとすると、きわめて有利な環境ということになりませんか。その有利さを生かす必要があります。いま闘おうとすれば、味方がいっぱいいるではありませんか。敵もまた分裂を深めて、支配層の中でも不満を、あるいはさまざまに批判を言う者もいっぱいいる。支配層さえ、これまで通りでやっていけなくなっているんです、これは「好機」でしょう。

 労働運動は「独立の旗」を高く掲げて、国の進路をめぐる諸勢力の闘いの中に割って入り、指導勢力として先頭に立たなくてはならない。
 その勝利は、資本主義の一掃、私的所有の廃絶を直接にもたらす革命ではありません。わが国のこの歴史段階では、この真の独立を達成するという焦眉の課題を解決する過程を通ってしか、社会の発展、社会主義に向かうことは不可能であります。
 この問題を根本から解決する、そういう歴史的闘いの中で、労働運動が指導的役割を果たすことができれば、そのつぎは非常にやりやすくなる確信しております。労働運動はこの経験を通じてその陣地を固め、連続的に社会主義に向かうこと、これこそ展望だろうと思います。

連合が掲げる「福祉社会」の旗印について

 関連してもう少し触れてみたいと思います。
 いま、この国の独立の課題が焦眉(しょうび)の課題となっている時に、連合指導部がこの焦眉の課題にまったく触れず、「当面する目標は福祉社会の実現だ」とこう言っている問題です。こうした見解は、連合指導部だけでなく、共産党に至るまで共通点があり、広く労働運動に影響を与えています。
 果たして、「福祉社会」という方向で、わが国が、国民全体が直面している問題を解決できるかどうか。この旗印は、客観状況に合致した旗印で、したがって国民各層に共通し、さらに支配層の内部矛盾も利用できて、広く大きく力を結集できるかどうか。大きく力を結集できなければ、政治を変えられないことは、言うまでもないと思うんです。
 驚くべきことにですね、連合のホームページを開くと、星条旗がひらめき、その横には「日の丸」が並んでいる。そして「米国は変わった」「日本も続こう」と。「独立・自主」なんてものじゃなく、いわば「引き続き米国に従っていこう」と呼びかけているんです。そして、「福祉社会をめざす」というアピールがそれにつながっているんです。
 「福祉社会」、確かにいまのような厳しい状況になると「せめて、それぐらいは」と思う気持ちも分からないではございませんが、しかし、政権を握らなければ「福祉社会」も問題になりません。政権を握るためには、何といっても、力をつくらなくてはなりません。力を広く結集できるかどうか、世論を結集できるかどうか。違ったふうに申し上げれば、客観状況、日本の状況に合致しているかどうかだと思うんです。
 「福祉社会」という場合は、どの方もヨーロッパをモデルにしております。そのヨーロッパは「天国」かどうか、例えば失業問題。
 いまの危機が始まる前、〇七年ぐらいの数字で、だいたいヨーロッパは平均して七%から八%ぐらいの失業率です。スウェーデンも六%くらい。日本は四%弱ですね。「福祉社会」の方が、「格差社会」の日本よりもずっと倍も失業率が高い。しかも、青年の失業率はEUの平均で一八%ですよ。これが「福祉社会」といわれる実態です。
 そもそも福祉社会は、グローバル社会を前提に多国籍企業とともに共存する路線ですね。英国のブレアが「第三の道」といって社民主義を手直しして、グローバル社会に合わせて「共存」した。ドイツではいまも、大連立で「共存」ですね。グローバル社会の中断が問題になるようなこの危機の中で、「共存」がどこまで可能だろうかと思います。
 「福祉社会」は、とてもいまの危機の中で、労働者が目標にして、追求するべき社会ではありません。それはむしろ、多国籍企業との共存を進める、危機に陥った敵を利する路線です。
 労働運動はこの好機を生かして、政権、政治革命を国民全体の先頭に立って実現するために、しっかりとこの国の運命に関する闘いの旗を握る必要があります。労働者階級が政権を握らなければすべては空語ですから。

労働者階級が国家に対していかなる態度をとるかの問題

 もう一つ。九月までには避け難く解散総選挙があるので、労働党以外のほぼ全勢力は「この解散総選挙を通じて政権交代」とこう言って、もっぱら選挙に集中しています。しかし、それで問題は解決するのかという問題です。
 例えば、社民党の活動家の皆さんが全国でがんばっておられますが、どんなにがんばっても今の六か七の議席がいくつか増えるだけで、政権を取れないことはもう分かっているわけです。言わずもがなだと思うんです。
 共産党もどうでしょうか。これも「民主的政権」などと言っていますが、どう逆立ちしても無理ですね。
 民主党に政権を取らせるのだという人もいます。自民党政権を打ち倒したいという気持ちは分からないでもありませんが、民主党政権になってどうなりますか。誰もが「何も変わらない」と分かっている。しかも、細川政権以後、社会党がどうなったか、真剣に総括すれば結論は出ていると思います。
 そもそも、社民党、かつての社会党は、もっと大きな時があったわけです。戦後直後には片山内閣という、社会党が中心となった政権をつくったこともございました。衆議院で百数十議席を持っていたこともあったではありませんか。とくに労働組合の皆さんは思い起こしてください。選挙のたびに、「今度こそ」「今度こそ」と、そう言って、春闘であろうが現実の闘いを全部途中で切り上げて選挙に動員されました。違うでしょうか。そしてこんにちのような状況です。今のような危機になって、指導部がなおかつ、総選挙のためにがんばれ、こう言うのであれば、活動家の皆さんは、その指導部に、戦後の社会党を中心とする選挙闘争の歴史を総括してみて下さい、こう聞いて当然じゃないでしょうか。
 選挙をやるなとは申しません。私たちは「自主・平和・民主のための広範な国民連合」の推薦する候補者など、そういう方々には各県でできるだけ力を尽くします。独立・自主、アジアとの共生、こういう政治方向で国民運動に熱心な国会議員は大いに役割があります。国民運動の発展に貢献する、したがって政治の変革、政治革命に役立つ議員はたくさんほしい。中心は、あくまで国民運動です。
 いま、この選挙で展望もないのに、この現実の危機に対処し闘わないで、失業者や倒産する業者は待つ以外にないのか。闘いが起こっているではありませんか。現実の国民運動こそ、確かな力です。政党と連合をはじめ労働組合が共同して、全国の労働者に呼びかけて、国会を、首相官邸を十重二十重に取り巻く、そんな闘いがいますぐ必要ではないでしょうか。そうすれば政治は確実に変化する、国民が騒げばそれはもっとも確かな力です。

選挙では世の中は変わらない
 選挙で政治が変わるのかという問題は、この危機に直面して、労働者は根本的に考える必要があると思います。
 選挙の仕組みが政治を変革するのにいかに遠いか。たとえば選挙のたびに選挙法が改悪され、やりにくくなっています。選挙に立候補する供託金という制度、立候補するのに総選挙(比例区、小選挙区との重複)は供託金一人六百万円ですね。わが党が最初に総選挙をやった七六年には百万円だったと思います。三十年間で六倍に上がっている。そうやって新しい政治勢力、貧乏人たちの政党、力の弱い政党は選挙に登場できないように、土俵をつくり替えてしまう。
 なぜこの話をしたかというと、今度この供託金を自公政府が下げるというんです。いいことですね(笑)。なぜかというと、共産党が候補者を増やすようにし向けるためです。彼らが今回立候補者を減らしたのもこの供託金が大変だったからですね。だから自公は供託金を下げて、「あなた方、もっと立候補しなさいよ」と。共産党がたくさん立候補すれば誰がいちばん得をするか。小選挙区は事実上自公と民主党が争っているわけで、そこに共産党が立てれば民主党の票が減る、自公が当選する確率はずっと増える。ですから自公は供託金を下げるという。共産党は自公両党に感謝すべきですが、要するに選挙制度というのはこういうものなんです。敵の胸先三寸というか。こんな土俵で争ってどうなりますか。そもそも小選挙区制もそういうものとしてつくられた。
 世界中で選挙で労働者が政権を取った実例は、これは大統領選挙でしたが七〇年に南米のチリでアジェンデ政権ができただけです。この政権は、米CIA(中央情報局)が七三年にクーデターでつぶした。国家権力とはそうしたものです。
 国家、国家権力というのはいわば敵の支配の本質です。そこは軍隊もあり監獄もあり、法律もあり、マスコミなども含めて握っている。
 もう少し実例を挙げれば、先ほど来ずっと申し上げてきた米国の危機の中で、ブッシュは膨大な国の財政を使って銀行や大企業を守る。国家というのはまずそういうものです。貧乏人は守られていない。それだけじゃないんです。もう一つブッシュは、十月一日から連邦政府軍の陸軍実戦部隊を本土に駐留させた。米国という国は、南北戦争以来、国内で争ったという経験からか、実戦部隊を本土に置けないと法律で決められていたにもかかわらずです。
 ですからブッシュ大統領も、オバマになったから米国は変わるだろうとか、そんなふうに日本の連合も共産党も幻想を振りまいているけれども、現実はもっと厳しいものですよ。ブッシュや米国の支配者たちがいちばんよく知っているんです。自分たちがいま何をしているか。誰から恨みを買うか。どういう事態が引き起こされるかもしれないかということについて、米国の支配者たちは知っている。だから、いざという時のために軍隊を配置して準備している。これが国家の姿なんです。
 もちろん今日明日、その軍隊と闘おうという話をしているわけではありません。しかし、国家がそういうものであるとするならば、選挙で世の中が変わるなどという幻想は捨てなくてはならないということなんです。選挙は、議会は利用はしますけれども、それ以上じゃない。
 そもそもブルジョアジーは政権を握るとき、英国もフランスも、日本の明治維新も、いずれも武力で政権、国家権力を打ち立てた。選挙制度、議会制度はその後につくられた、まさに形式民主主義にすぎない。ですから、この国の真の独立をめざす勢力が現存する売国的な、従属国家を打ち倒して何が悪いのか。
 労働運動は、選挙で、鉛筆と投票用紙で世の中が変わるなどという幻想を捨てなくてはならない。この国家についての評価と態度の問題は、政党と労働運動にとってもっとも根本的な問題です。先進的労働者の皆さんに考えていただきたいと思います。

政党問題の解決なしに、政治変革はあり得ない

 最後になりますが、この時代がどうなるか、まだいまは分からないことがあります。それにしても、この始まっている情勢は、大きな激変なしには終わらない。少なくとも事態はこれからますます激化する方向に、緊張が高まる方向に進むと思うんです。その時代に労働運動は備える必要がある。
 とくにわが国では戦後の六十数年間続いた、米国に支配され従属してきた歴史がこれ以上続かないところに来た。労働運動は、この国の独立・自主、アジアの共生の旗をしっかり握る必要がある。そして選挙ではなくて自分たち自身が闘うことによって運命を切り開くという考え方で労働運動が武装する必要がある、こう思います。
 労働者の皆さん方、とりわけ今日お集まりのような先進的な労働者の皆さん方が、そのための政党をつくる問題を真剣に考えていただきたいんです。時代認識や労働者階級の任務について明確な認識を持ち、戦略的展望に裏打ちされた政党を持たなくては、労働者階級は勝利を達成できない。先進的労働者はこの政党問題の重要さを理解し、解決するために全力で立ち向っていただきたい。政党なしには政治を変えることはできません。政党を選んでいただきたいんです。政党を強めていただきたいんです。

 私ども労働党は、この歴史的な危機に際して、光栄ある任務を引き受けたいと、こう願って、いま自分たちの党を強めようと全力をあげております。ぜひともお集まりの労働者の皆さん方が、私どもとともにこの時代を生き、ともに闘っていただきますことを呼びかけて、今日の講演を終わらせていただきます。
 ご清聴ありがとうございました。


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