2008年12月15日号 2面・社説 

WTO閣僚会議が延期に

農業は独立の基礎、
合意は許されない

 世界貿易機関(WTO)の新多角的貿易交渉(ドーハ・ラウンド)について、「合意」をめざす動きが強まっている。十一月の「金融サミット」宣言では、米国が重視する「保護主義への警戒」が盛り込まれた。アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議でも、ドーハ・ラウンドの年内大枠合意が「誓約」された。
 WTOのラミー事務局長は十一月二十三日の主要約三十カ国高官級協議で、十二月中旬に非公式閣僚会合を開く方針を示し、十二月六日には大枠合意に向けた最終案が公表された。
 だが、主要国間の意見は鋭く対立しており、具体的な「合意」は容易ではない。十二月中旬に予定されていた閣僚会議は延期を余儀なくされ、「年内大枠合意」はひとまずとん挫している。
 これまでも、先進国と途上国の対立でWTOは合意できず、各国支配層は自由貿易協定(FTA)や経済連携協定(EPA)によって、個別に自由化交渉を進めざるを得なかった。七月にも米国とインド、中国の対立で決裂し、そしてまた、今回の事態である。
 とはいえ、「合意」に向けた策動は続いており、予断は許せない。わが国の農業・農民の将来にとって重要であるというだけでなく、対米従属政治を転換させる上で重大な情勢である。

日本農業の壊滅につながるラミー案
 十二月はじめに提示されたラミー事務局長案は、以下のようなものである。
 農業分野では、関税が七〇%削減される。その例外となる「重要品目」数は全品目の四%(五十三品目)が原則で、代償措置をつけても最大六%(八十品目)までしか認められない。わが国政府は「八%」を主張したが、最終案に盛り込まれなかった。
 仮に六%で合意されれば、砂糖や乳製品は重要品目とならず、関税の七〇%削減で壊滅的な打撃を受ける。重要品目でも関税は二三%〜四七%も削減され、削減率が低いほど輸入枠の拡大を迫られる。例えば、コメの場合は関税削減率を最低の二三%にすれば、輸入枠が現在のミニマム・アクセス(MA、七六・七万トン)に上積みされて、一一四・二万トンにも拡大される。
 WTO合意がなれば、農産物輸入枠は大幅に拡大され、日本農業が壊滅的な打撃を受けるのである。

米国と多国籍大企業のための自由化
 米国など帝国主義者を中心とする支配層は、米国発の世界同時不況にあわてふためき、「自由貿易体制を堅持せよ」と騒ぎ立てている。麻生首相も、APEC首脳会議で大恐慌から第二次世界大戦に至る歴史を引き合いに出し、「自由貿易を維持することがいちばん肝心」と、自由化に抵抗する農民などを脅かした。
 だが、これはデタラメな言い分である。自国の産業、とりわけ国民の生命に直結する農業を守るのは独立国として当然のことで、どの国も行っていることである。つい近ごろの食料価格高騰の際、数多い食料輸出国が、いっせいにコメや小麦などの輸出規制に走った。このようなときに、自国で食料を生産できない民族の将来はどうなるか。
 そもそも「貿易や投資の自由化」は、米国の要求であると同時に、トヨタなどの多国籍大企業が他国であくなき利潤追求を行うために関税などの貿易障害を撤去させ、その代わりにわが国の市場、とくに農産物を開放するというものである。
 これは、一九九〇年代、WTOの前身であるGATT(関税・貿易一般協定)のウルグアイ・ラウンド合意を機に、コメ自由化当時を受け入れた当時と基本的には変わっていない。結果、MA米の五割は米国からの輸入となっている。
 この売国政治の結果、日本国内の農林漁業には犠牲が押しつけられ、農業経営は成り立たず、耕作放棄地は拡大、国の独立の基礎である食料自給率は低下する一方である。地方経済の疲弊(ひへい)も加速した。また、MA米は「汚染米」のもとにもなり、国民の健康もさんざんに脅かされた。
 自民党の江藤拓衆議院議員は、「米国がトヨタの自動車に五〇%の関税をかけてきたらどうするのか」などと、農産物自由化が自動車輸出のための「税金」であるかのように発言したが、ある意味で真実を突いている。農産物市場開放は米国と多国籍大企業のためのものであり、断じて許せないものである。

野党に幻想は抱けない
 農民はWTO合意を阻止するために、必死の思いで立ち上がっている。十二月八日には三千人の農民が決起集会に立ち上がり、日本農業の崩壊を許すなと怒りの声を上げた。
 自民党、公明党の与党、農林族は相変わらず農民の味方づらをしているが、「年内大枠合意」を主張した麻生政権を支えており、農民の怒りを「ガス抜き」する反動的役割を演じている。
 一方の野党だが、十二月十日には、民主党が主導して、共産党・社民党・国民新党の野党も含めた緊急集会を開いた。鳩山・民主党幹事長は「食料自給率は一〇〇%が目標」などとし、昨年の参議院選挙で掲げた農家への戸別所得補償制度をアピールした。WTOについては「安易に妥協できない」などとも言っている。
 だが、鳩山幹事長が「(自由化は)もっと体力をつけてからにすべき」と口をすべらせたように、民主党も自民党と同様に市場開放推進を前提にしていることは明らかだ。図らずも、衣の下から鎧(よろい)が見えている。鳩山幹事長の下手な芝居も、狙いは、来る総選挙での農民票の獲得なのだ。
 そもそも、民主党は「日米基軸」が外交の基本路線であり、FTA・EPAについても「推進」する立場をとってきた。小沢代表も〇六年九月の民主党代表選挙の立候補の際に提示した「私の基本理念・基本政策」で、同様のことをはっきりと述べている。「米国とFTAを早期に締結し、あらゆる分野で自由化を推進」「WTOにおいて貿易・投資の自由化に関する協議を促す」と。
 自民党も民主党も農民の味方ではない。米国に従属しながら、多国籍大企業の利潤追求に貢献するため、日本の市場を開放して自由化を推進する、多国籍大企業の味方である。この民主党が主導して「政権交代」が行われたとしても、政治は変わらない。今度は民主党が農民をダマすだけである。

労働者は国の進路の課題で闘おう
 各国の意見の対立は激しく、先送りされた閣僚会議の先行きは分からない。確かなことは、それがいつであれ、現在の提案によって合意がなれば、日本農業の崩壊がいっそう進むということである。
 もちろん、政府案の「八%」となったところで、現在の農業危機が打開できるわけでない。対米従属政治と売国農政を転換させなければならない。これは農民だけでなく、全国民の課題である。
 世界同時不況は日を追うごとに深刻になり、大倒産、大失業の時代が始まった。自動車から電機へ、さらに各産業へ、多国籍大企業は情け容赦なく労働者の大量首切りを始めている。農業犠牲と引き替えの米国市場に頼った輸出産業の「繁栄」も、「砂上の楼閣」であることがあらわになった。
 労働者・労働組合は、独立・自主、アジアの共生の旗を高々と掲げ、農民の要求と闘いを断固として支持し、共に闘おう。
 そうしてこそ、労働者の闘い・要求に対する国民的支持も広がり、労働者階級は国民運動の中心部隊としての役割を果たすことができるのである。


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