2008年12月5日号 2面・社説 

相次ぐ非正規労働者の首切り

「明日はわが身」
労働組合の闘いが急務

 派遣社員、期間工をはじめとする非正規労働者への首切りが激化している。
 来年三月までに解雇、あるいは「雇い止め」となる労働者は四百七十七件、三万六十七人に達し、今後さらに増える見込みとなっている。この約三万人のうち、派遣労働者が約三分の二の一万九千七百七十五人を占め、業種別では製造業が二万八千二百四十五人と九割以上だ(厚生労働省、十一月二十五日現在)。
 とくに自動車産業では、トヨタ七千八百人、いすゞ千四百人、マツダ八百人、スズキ六百人など各社軒並みである。首切りには至らないまでも、操業時間短縮や残業削減などで労働者の賃金が減少、関連や下請企業にも多大な影響が出始めている。
 首切りを決めた企業は、いずれも米国発の金融危機と、世界的な景気後退を理由に挙げている。だが、これまで対米輸出でさんざんもうけたあげく、危機がくるや労働者に犠牲を押しつける多国籍大企業の所行は断じて許し難いものである。
 派遣労働者などの非正規労働者は、多国籍大企業を筆頭とする財界が、国際的な市場争奪戦に勝ち抜くためにコストダウンを求めて、政府に迫って、系統的に導入を進めてきたものである。今回の「大量首切り」を通じて、財界にとっての非正規労働者が、まさに「安価で使い勝手の良い」労働力で、文字通り、雇用の「安全弁」にほかならないことが明らかになっている。
 この深刻な事態に際し、当該組合であるトヨタ労連や日産労連、あるいは単産の自動車総連は、闘おうとしないどころか、この首切りを容認する反動的な態度を取っている。
 非正規労働者にとっては明日をも知れぬ現状であり、正規労働者にとっても「明日はわが身」だ。労働者の雇用と生活を守る闘いを発展させることが、喫緊の課題である。

「年を越せぬ」非正規労働者の悲鳴
 いま、全国は解雇され、生活のあてをなくした非正規労働者の悲鳴であふれている。
 全国一、四千百四人の非正規労働者が解雇される愛知県名古屋市にあるインターネット喫茶は、派遣社員用宿舎を追い出され、リュックを肩に一夜の宿を求める労働者であふれている。契約期間内にもかかわらず宿舎を追い出され、野宿を余儀なくされている労働者も多い。
 そのほか、「このままでは年を越せない」「正月の最中に(派遣社員用の)寮を退去しなければいけない」「こんな人の使い方が合法なんておかしい」「生活保護を受給するにはどうしたらよいのか」という不満や怒りの声が、一部労組に寄せられているのが実態である。
 最近の連合中央委員会でも、この危機的な事態に対して行動を呼びかける声があがった。当然のことで、労働組合の役割が問われている。

配当でなく雇用に回すべき
 トヨタ、日産など大企業による情け無用の首切りを許してはならない。その経営責任、社会的責任は厳しく追及されるべきである。
 自動車を中心とする製造業大企業はこの数年、労働者を搾り取って米国を中心とする世界に輸出、空前の利益をあげてきた。財界は「金融危機で需要が冷え込み云々」などと首切りを合理化するが、たんまりもうけた上でのことである。
 例えば、二〇〇二年一月以降今年四月まで、名目賃金は年率三・二%しか増えていないが、企業の経常利益へ年率一三・三%と約四倍の伸びを示している。一九九六年と〇六年度を比べると、家計の雇用者報酬は約十一兆円も減少している。こうしたことは、改革政治の陣頭指揮を執ってきた、政府の経済財政諮問会議でさえ認めている。
 さらに、大企業は膨大な内部留保(隠し利益)をため込んでいる。
 多国籍大企業の筆頭格であるトヨタ自動車の内部留保は、〇三年度の九兆五千億円から〇七年度の十三兆九千億円へと、一・五倍近くにも増えた。同じく首切りを発表した日産自動車は八千五百五十七億円で、連結内部留保が一兆円を超える企業は二十九社もある。
 これはもちろん、労働者を搾り取り、中小企業に犠牲を転嫁して積み上げたものである。
 また、多国籍大企業は株主への配当金は減らそうとはしていない。〇八年度の配当を維持・増額する上場企業は七五%にものぼっている。ソニーなどは昨年度比で大幅減益となったにもかかわらず、配当金は逆に二倍に増やすというありさまだ。
 配当は、大金持ちの投資家に対する還元であると同時に、親企業への利益還元でもある。例えば、トヨタ自動車本体は株式の約二二%を保有する部品大手のアイシン精機から、今年度約三十九億円もの配当を受け取る。大企業は二重三重の手口でもうけているのである。
 まさに、「労働者には犠牲、投資家には大盤振る舞い」である。「危機」というならば、まず、労働者の生活をこそ守るべきであろう。労働者の雇用を確保し、賃金を保証する資金は十分にあるのである。

非正規労働者を見捨てる自動車総連
 今回の事態に際し、連合は政府に対し、都道府県労働局での対策本部設置、雇用保険の国庫負担堅持などの内容を含む「非正規労働者等の緊急雇用対策に関する要請」を行った。
 だが、政府に頼るだけでは事態は前進しない。麻生・自公政権は、多国籍大企業の手先として、労働市場の規制緩和などの改革政治を進めてきた張本人だからである。
 小沢民主党にも期待できない。小沢民主党は、対米追随で多国籍大企業のための党という点で自民党と同じである。これは、民主党による労働者派遣法改正案が、派遣期間を除くと政府案とほとんど違わないことにも示されている。政府案・民主党案に共通する「日雇い派遣の禁止」程度では、こんにちの雇用危機は打開できない。
 肝心なのは闘いである。連合内外には、非正規労働者の組織化に熱心に取り組み、この事態に際して闘いを始めている単産・単組がある。この闘いを大きく発展させることが求められている。
 闘いの前進のためには、連合にももっとも大きな影響力をもち、今回の「派遣切り」の最大の当事者でありながら闘いを放棄している自動車総連、電機連合などの裏切りを批判しなければならない。
 自動車総連の西原会長(金属労協議長)は、雑誌のインタビューで、大量の雇い止め解雇に対して「何か対応策があるかと問われれば、現実にはないと申し上げざるをえません」などと述べている。
 いま現在、自分たちと同じ職場で働く非正規労働者が続々と解雇されているのを知りつつ、この発言である。「違法でない」という理由で首切りを行う経営者と、まったく同じではないか。これは、自動車総連の組合員も納得させられないものだ。
 企業の社会的責任にさえ言及せず、闘いを放棄し、労働者を見捨てるこのような態度は、徹底的に打ち破らなければならない。

問われる労働組合の役割
 こんにち、世界的な危機はますます深い。たび重なる金融機関への救済策にもかかわらず、不良債権の総額は日々拡大し、金融市場の不安定さは深刻である。各国政府・金融当局は利下げや財政悪化覚悟の財政出動に追い込まれているが、世界同時不況は長期化の様相を呈している。
 「明日はわが身」である。こんにちの非正規労働者への首切りは、今後、正社員を含む労働者全体への犠牲転嫁につながるのであり、これを見逃しては「労働者の団結」など問題にならない。
 労働組合の役割が、ますます真剣に問われている。労働組合は、不当な首切りの即時中止と、すべての非正規労働者の雇用確保を求めて闘いを発展させよう。


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