2008年11月25日号 1面・社説 

金融サミットは何を解決できたか

ドル体制末期の激しい
争奪とわが国の態度

 米国発で全世界をおおう金融危機の連鎖、しかもそれが実体経済にも波及し、世界的で深刻な景気後退が明らかとなった。まさに、「百年に一度」といわれる金融、経済の危機のただ中で、日米欧と中国、インドなど新興国二十カ国・地域(G20)による緊急首脳会合(金融サミット)が開催された。
 二日間にわたった「金融サミット」は、当面の危機対処で、「あらゆる追加的措置をとる」との首脳宣言を採択。さらに金融危機の再発防止策として金融機関や金融商品などへの「規制・監督の強化」などを、「行動計画」として羅列(られつ)した。
 破局の縁に立たされた米欧、日本など帝国主義諸国が、新興国を含む国際協調を演じて、金融市場の動揺を抑え、危機拡大の封じ込めを狙った今回サミットだが、その宣言や行動計画で打ち出された諸課題は、みな実行段階では各国間の矛盾と対立をはらんでいる。実効性はきわめて危ういものである。
 事実、各国首脳が今回サミットの「歴史的意義」を強調する、その一方で、日米などの株価は乱高下を続けており、とりわけシティなど米国大銀行の株価下落が止まらない。新興国の通貨も急落している。
 破滅におびえる世界の投機家たちは、各国政府の対応策、「協調」の限界を見て取り、危機の長期化におびえ、その動揺と恐慌状態をとどめることができない。こうした金融機能の収縮、麻痺(まひ)の中で、米国自動車業界の「ビッグ3」が破たんに直面するなど、実体経済はいっそう深刻化している。大銀行を含む新たなリストラ、首切りの嵐が吹き荒れ、世界の労働者は、塗炭の苦しみに投げ込まれた。

サミットでなにが決まったのか、それは実行可能か
 首脳宣言が述べる、当面の危機対処策、「あらゆる追加的措置」といっても、実際には銀行救済のための資本注入など公的資金、血税の投入であり、内需拡大、景気刺激のための財政政策など、旧来からの対処策を確認したものにすぎない。その実施や規模は、各国の判断である。
 しかもこれとて容易ではない。
 そもそも今回金融危機の発端となった米国の信用力の低い住宅融資(サブプライムローン)や、これを小分けにしたさまざまな証券、さらに債務保証などの関連したさまざまな金融商品は膨大に世界にばら撒かれている。米住宅バブルが崩壊したこんにち、全世界の国内総生産(GDP)を投入しても賄えないほどといわれるその総額は、実態すら定かでない。これが日に日に資産価値を下落させ、不良債権として金融機関や企業にのしかかっている。米国巨大証券会社、リーマン・ブラザーズの破たんなどその走りに過ぎない。
 米国は、「金融安定化法」で、とりあえず銀行への資本注入を行ったものの、危機の根源である不良債権の買取は価格決定などで、当の銀行と折り合わず、具体化されないままである。
 しかも、このような銀行救済策は米国の財政、国民の血税を担保とした国債発行によって賄われるもので、来年度の米国の財政赤字は一兆ドルを超えると目されている。当然にも米国政府の国債乱発、借金増大は、ドルの価値の下落、そして基軸通貨ドルへの不信を増大させる。
 新興国はもちろん、対GDP費での財政赤字の制限を、緊急措置として取り払った欧州連合(EU)にとっても、事態の深刻化は同様である。
 さらに、金融危機の再発防止策などはいっそう無力なもので、金融市場への「規制・監督の強化」など五十近い項目を盛り込んだ「行動計画」も矛盾に満ちたものである。それは金融独占と帝国主義列強の妥協の産物で、来年三月末までに、とりあえずの実行を公約された一部を除いて、ヘッジファンド規制や格付け会社の監督・登録など、より本質的で、しかも米欧を中心とする対立が根深い懸案は、中長期課題として、事実上先送りされている。
 一九九〇年代以降、金融技術と金融グローバル化をテコに世界から資金を集め、それを投機に回してばく大な利益を上げてきた米国は、本質的に金融規制に消極的である。ヘッジファンドなどは、多くが米国を本国とする金融サギ師であって、その背景には資金を出した米国大銀行がいた。このサギ師どもの膨大なもうけで米国は潤い、経済は回ってきた。それを、自らの手で規制することに米国が抵抗するのは当然である。

ドル体制の末期と深まる争奪
 今回の世界を巻き込んだ金融、経済危機の本質あるいはその背景は、戦後のいわゆる「ドル体制」が末期を迎え、世界を道連れにあがき苦しんでいることに由来する。
 ドルを基軸通貨とし、米国が支配する戦後世界資本主義の体制、ブレトン・ウッズ体制は、資本主義の不均等発展を背景に、米国の産業競争力弱体化、膨大な貿易、経常赤字の累積で、七一年には早くも金ドル交換停止に追い込まれ、最初の破産に直面した。しかし米国は基軸通貨の特権にあぐらをかき、金の裏づけのない「不換紙幣」のドルを印刷し、垂れ流すことでぜいたくを謳歌(おうか)し、生き延びてきた。それはまた、日欧などの黒字国からすれば、過剰生産の下で生み出される膨大な輸出の受け入れ先であり、また稼ぎ出した黒字、過剰資金の有利な投資先でもあった。九〇年代以降は、冷戦崩壊による市場の拡大と高度な金融技術革新とも結びついて、もっとも有利なバクチ場、その胴元としての米国、金融市場が世界の金持ちの投機の対象となり、資金が米国に流れ込み、米経常赤字を補って余りある利益を米国にもたらしてきた。これがいわゆる「ドル還流システム」であった。
 しかし、それは米国の経常赤字をさらに膨大にし、世界に深刻な不均衡をつくり上げた。また、複雑な投機を重ねる内、実体経済と結びつかない金融資産が肥大化、コントロールできないほどとなって、崩壊したのである。
 今回の米国発のサブプライムローン破たん以来の危機の背景、本質はこういうことで、それは延命を重ねてきた戦後の米国主導のドル体制が、終えんを迎えていることを示すものである。
 さらにそれは、本質的には社会化され高度に発展した生産を制御できない、私的私有という資本主義制度そのもののもつ本質的矛盾をも露呈させ、全世界の労働者階級にその歴史的任務を突きつけるものである。

危機の中、問われるわが国の進路
 サルコジ・フランス大統領は、サミット直前に「米ドルが唯一の通貨の時代は終わった」と発言した。ドル体制後を射程に「第二のブレトン・ウッズ体制」の構築も公然と議論され始めた。
 米国依存で金融投機に踊った欧州も、危機という面では一蓮托生(いちれんたくしょう)で、ドル世界が今すぐに崩壊することは望んでいない。にもかかわらず、次の局面をにらんだ独占資本、帝国主義諸国の争奪はいっそう激化している。
 そもそも、今回サミットは、フランスをはじめ欧州が言い出したもので、米国は開催にすら消極的であった。欧州は今回の危機の中でも、EUと共通通貨・ユーロの支配力拡大を進め、世界経済での米国への対抗を強めている。
 「金融規制強化」はそのための旗印で、そもそも過剰資本があふれる世界で投機やバブルを規制することなどできない。欧州は「米国が胴元のバクチ場は気に入らない」と言っているにすぎないのである。
 サミットの裏側で争われたのは、まさにこういう激しい対立を背景とする世界経済での指導権争いであった。
 しかし重大なことは、このような激しい争奪の世界、米国の弱体化の中で、わが国だけがあくまで米国とドルを支え続けるとの立場を突出して打ち出したことである。麻生首相は、「ドル基軸の維持」を唯一声高に叫んで、窮地の米国を擁護した。国際通貨基金(IMF)への外貨準備からの出資など、国内の経済危機を尻目に大盤振る舞いを申し出た。
 これはまさに、世界から見ればあきれた対応で、世界の流れに逆行する時代錯誤の選択である。
 これは、ドル資産を積み上げ、米国市場に依存する多国籍企業の意図に沿うものだが、国民経済から見れば、末期を迎えた米国、ドル体制とともに、わが国を破滅と崩壊へと導く、きわめて売国的なものである。
 わが国保守層の中からも、ドルと米国への不信は噴出している。
 いわんや、米国依存の多国籍大企業の犠牲とされる、中小・下請け業者からは、また何より、その足下の労働者の怒りは今や沸点を迎えている。闘いこそ局面を変えうる。
 いまこそ、対米追随からの脱却をめざす、広範な国民的戦線構築の好機である。

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