2008年11月5日号 2面・社説 

ドル体制は元には戻らない

いまこそ対米従属政治の転換を

 九月中旬以来の金融危機は、ますます深刻化している。危機は米国にとどまらない世界的広がりを見せており、実体経済の影響も重大である。わが国でも、労働者の首切りなど、犠牲の押しつけが始まった。
 こうした中、欧州諸国はドル体制の「先」を見越した動きを強めている。今月十五日には、米国で二十カ国による金融危機対応のための緊急サミットが開かれる。会議でどのような合意が図られるか不透明だが、「ドル体制の末期」はすでに明らかである。
 これは、第二次世界大戦後成立した、米国を頂点とする世界資本主義の終えん、世界の重心の移動、再編期の始まりを意味する。全世界の労働者階級、とりわけ日本を含む先進諸国の労働者階級が、全世界人民、中小諸国と連合して、米帝国主義を中心とする帝国主義諸国を打ち破る歴史的チャンスである。
 そのための準備を急がなければならない。

対応に追われる米欧、危機は世界に
 帝国主義者は、金融危機への対処に血眼となっている。
 米国は「金融安定化法案」を辛くも成立させ、まずは十二兆円余の血税をシティグループなど九つの大銀行に注入した。企業が発行するコマーシャルペーパー(CP)買い取り制度の創設、金融派生商品(デリバティブ)の清算機関を設立する構想なども浮上、傘下の金融子会社の損失も拡大したGMなどビッグスリー(自動車大手三社)への支援も拡大される見込みだ。まさに、何でもありの「政策総動員」である。
 欧州諸国でも、銀行の国有化や合併、血税投入などが進んでいる。
 加えて、米欧日は協調利下げを実施、毎日のように金融市場に大量の資金を供給し、銀行間取引に対する政府の保証まで与えて、「金づまり」を打開しようと必死である。
 だが、米国の住宅価格は下げ止まりの気配を見せず、金融機関の損失は増え続けている。国際通貨基金(IMF)予測では、損失は全世界で約百四十兆円余とされるが、英イングランド銀行の試算では約二百六十兆円、さらにこれ以上とする試算もある。まさに「底なし」である。
 当然、血税投入がこれで終わる保障はどこにもない。米国では、今年に入って二十近い地方銀行が破たんした。株価も「底なし」の状態で、世界の時価総額はこの一年で三千兆円も吹き飛んだ。
 十月に入って、危機は欧州連合(EU)周辺国や新興国にも及んできた。
 巨額の損失を出した米欧の金融機関が投機資金をいっせいに引き上げたことにより、アイスランドは事実上の国家破たん状態となった。同国をはじめ、ハンガリー、ウクライナ、ベラルーシ、パキスタンなどが次々とIMFから融資を受ける事態に陥っている。ロシアでは、証券市場が停止された。韓国などアジアでも通貨が暴落、オイルマネーに潤っていた中東のクウェートでも、政府が銀行救済に乗り出した。
 まさに、一九九七年のアジア通貨危機当時を超える、全世界的な危機である。

ドル体制はいよいよ末期
 金融危機は、ドル体制が末期症状を呈し、世界を道連れにあがいていることを示している。
 ドル体制は、世界大恐慌から第二次大戦という惨禍(さんか)を経たブレトン・ウッズ協定(一九四四年)で成立、これを前提に、IMFと世界銀行が設立された。さまざまな歴史を経て、九〇年代後半からは、世界の資金が米国に還流するようになった。次々とバブルがあおられ、米国は借金漬けになりながら「過剰消費」をおう歌した。結果、昨夏のサブプライムローン問題を機とした危機の顕在化である。
 この変化を本質的に規定しているのは、五〇年代半ばからの米国経済の相対的な衰退、国際競争力の低下であり、資本主義諸国間の不均等な経済発展である。
 かつて国内総生産の三〇%を占めた米製造業は衰退し、いまや一一%程度を占めるにすぎなくなった。対して、金融・保険・不動産業は二〇%以上と製造業の二倍近い(〇六年)。
 こうした製造業の衰退が、年七千三百億ドルを超える経常収支赤字となってあらわれている。八五年の「プラザ合意」も、背景は米国の赤字と債務国化であった。
 ドルが基軸通貨ではあっても、膨大な経常収支赤字には限界がある。世界経済は、これほどの不均衡は耐えられない。現在は、この不均衡が激しい痛みと変化をともなって正されつつある過程なのである。

結束強める欧州連合
 まさに世界は「百年に一度」という激動期である。この変化は経済面の変化にとどまらず、政治の激変として反映しつつある。
 とくにEUは十月以降、これまで以上に戦略的な動きを強めている。もちろん、金融危機は欧州でも深刻だが、支配層は当面の危機回避に懸命なだけではない。
 欧州首脳会議は十六日、米国基軸の国際金融システムを全面的に改革するよう求める声明を採択した。英国のブラウン首相は「新ブレトンウッズ体制」を提言するなど、欧州主導で新たな金融秩序をつくる意図を隠さない。
 また、フランスのサルコジ大統領は二十一日、各国の経済財政・金融政策を統合する「ユーロ圏財務・経済省」の新設を提言している。EUは、金融機関に対する支援に関する圏内の共通ルールを定めたりもしている。
 こうした中、共通通貨・ユーロを導入していなかった諸国が、次々と参加の動きを見せている。通貨急落に耐えかねたデンマークが導入を表明したのに続き、スウェーデンも同様の構えだ。ポーランドも、二〇一二年のユーロ導入を正式発表した。
 危機を利用する形で、欧州は結束を強める手だてを打っている。
 またEUは、十月二十四日からのアジア欧州会議(ASEM)の場を利用して、「金融危機の再発防止」を旗印に、「IMF改革」などでアジアの支持を取りつけようと動いてもいる。
 米ドル体制は、もはや以前の姿には戻らない。

対米従属政治の打破が急務
 世界のすう勢は、わが国の対米従属政治を転換させることを、いよいよ切実な課題とさせている。
 歴代売国政府は、対米従属でドル体制を支え続けてきたが、今また、中川財務相はIMFを通じた新興国への資金提供を表明、ドル体制を助ける「音頭取り」を演じている。大手金融機関も、三菱UFJがモルガン・スタンレーへの出資を決めるなど、企業としての思惑を持ちつつも、米国を支えようとしている。
 さらに米国は十一月の緊急サミットに向け、わが国に米主導の金融秩序を守るちょうちん持ち役を担わせようとしている。例えば、「影のCIA(中央情報局)」と呼ばれる米国の有力な民間調査機関・ストラトフォーは、「(米国にとって)日本が欧州勢の圧力に対する盾となる」と、わが国に屈服を迫っている。
 沈没しつつあるドル体制を守るために貢献することは、断じて許されない売国的策動である。この道を選べば、日本は世界で孤立するのみならず、国民の汗の結晶である富をさらに収奪されることになる。
 わが国経済には、すでに深刻な影響が出てきている。地方銀行の経営難も相まって、中小下請け企業への「貸し渋り・貸しはがし」は激しさを増し、経営は崖っぷちである。自動車などの輸出企業を中心に、非正規労働者の首切りが始まっている。学生の就職「内定取り消し」も急増、卒業を前に途方に暮れる学生があとを絶たない。
 支配層の一部にさえ、対米従属のわが国政治を見直す機運が高まっている。
 わが国労働者階級は、いまこそ、対米従属政治を打破する広範な国民運動の先頭で闘うことが求められている。


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