2008年10月5日号 2面・社説 

米ドル体制は末期

労働者階級の前進にとって
一大好機

 米証券大手リーマン・ブラザーズの破たんを契機に、米国と世界の金融危機は、いっそう深刻さを増している。こんにちの事態は、「ドル世界の末期」が到来したことを示している。
 昨年夏のサブプライムローンの破たん以来、危機に瀕した米金融機関に対して、最初は産油国などの政府系ファンドなどが出資し支援した。米中央銀行・連邦準備理事会(FRB)は金利を相次いで引き下げ、とりわけ昨年末と今年三月の二回にわたり、大量に資金注入したり新たな制度を導入するなどして支援してきた。その資金を元手に、金融機関は原油などの商品投機をあおり、全世界を搾り取って倒産を免れてきた。
 しかし、それも限界で、九月には大金融機関が相次いで破たんに追い込まれたのである。

「最後の貸し手」が危機に
 こんにち、そのFRB自身に危機が及んでいる。民間金融機関へのたび重なる資金注入により、FRB自身の資本内容が急速に劣化している。「最後の貸し手」としての中央銀行、すなわちドルの発券元であるFRBの信任が問われるという、かつてない事態となった。
 慌てた米政府は臨時の財務省債を発行し、中央銀行であるFRBに注入するという異例の「支援」に動きださざるを得なかった。
 一九二九年に始まる大恐慌時どころでない。金融システムの頂点に立つ中央銀行、「最後の貸し手」でもくい止められない事態が、今回の金融危機の深さを物語っている。
 さらに米政府は、総額約七十五兆円の血税投入で不良債権買取機構を設立する「金融安定化法案」の制定にまで追い込まれた。軍事力に守られた国家権力が、国民の税金を担保に金融機関を守らざるを得ないのである。証券大手ゴールドマン・サックス出身の米国財務長官が、金融機関の保有する不良債権買取りや資金支援を日本政府など外国政府に要求しているほどである。
 しかし米国民は、マネーゲームで自国民だけでなく全世界人民を収奪し、暴利をむさぼったあげくに損失を抱えたウォール街のサギ師どもを救済する「金融安定化法案」を拒否している。米下院は九月二十九日、その法案を否決した。階級対立の激化が、議会政治にも反映しているのである。
 ドルへの信任は急速に失墜し、金融パニックは欧州をはじめ世界中に飛び火している。銀行の貸し渋りが広がり、個人消費が落ち込むなど米国の実体経済をはじめ、世界同時不況の様相となっている。まさに「世界恐慌寸前」である。
 世界の資本家、帝国主義者は恐れおののいている。ブッシュ大統領も「緊急事態」と言わざるを得なくなった。
 他方、イランのアフマディネジャド大統領は、「米帝国は道の終わりに到達しつつある」と、国連総会の壇上から喝破した。帝国主義と闘う全世界人民、中小国、何よりも労働運動にとっては、またとない前進の好機である。

ドル体制の崩壊の坂道
 こんにち、米国の覇権を支えたドル体制そのものが崩壊の坂道を転げ落ちている。
 大恐慌から第二次大戦をへた四四年のブレトン・ウッズ協定で、それまでの覇権国・英国のポンドに替わって、米ドルを基軸通貨とする米帝国主義の世界支配、国際金融体制が成立した。しかし、米国の支配力はこの時点が頂点で、その後七一年には金・ドルの交換が停止され、やがて変動相場制に移行した。八五年のプラザ合意では、先進各国の「協調」という名目で各国、とりわけ日本に犠牲を押しつける「ドル安誘導」が図られた。
 九〇年代後半には世界中からドルを米国に還流させる「ドル還流システム」ができあがり、IT(情報技術)バブル、住宅バブルといった手口で、世界中が収奪され、米国の「過剰消費」が続いた。そして、昨年夏のサブプライムローン問題を契機とする危機の顕在化に至っている。
 この戦後の変化や危機を本質的に規定しているのは、五〇年代半ばからの米国経済の相対的な衰退、国際競争力の低下であり、資本主義諸国間の経済発展の不均等性である。昨年には七千三百億ドルを超えた、米国の膨大な経常赤字と累積債務がそれを示している。
 米国の競争力低下、とりわけ製造業の衰退は、繁栄をおう歌したGMなどの経営危機に、端的にあらわれている。
 たとえ基軸通貨ドルでも、ドル紙幣を刷り続けて垂れ流し続ける経常収支の赤字には限界がある。世界経済は、これほどの不均衡は耐えられない。この極端な不均衡は正されねばならないし、正される。その過程では、米国と世界経済に大きな痛みと変化を引き起こさざるを得ない。現在の激動は、この過程にほかならない。
 したがって、こんにちの危機とその深刻化によって、ドル世界は末期となったと見ることができる。この変化は金融面の変化にとどまらず、世界の実体経済の危機、さらには政治の激変として反映しつつある。

すう勢は世界の労働運動の発展に
 すでに、世界の中小国・人民による反米の闘いが大きく前進し、帝国主義を追いつめている。
 帝国主義国以外の中国・ロシアを含む世界の多極化は世界を著しく不安定化させ、世界経済と政治での重心の移動が始まっている。まさに世界は「百年に一度」という激動期である。
 今後、どのように情勢が発展するか、その推移は詳細には定かでない。
 しかし、この世界のすう勢は本質的に、帝国主義に反対する全世界の人民の闘いの前進、とりわけ先進資本主義国での革命党の前進と、それを基礎とした労働運動の革命的前進にかかっている。このことだけは間違いない。

いまこそ対米従属政治の打破へ
 わが国ではどうか。
 独占大企業に支配された歴代売国政府は、対米従属を続けてドル体制を支え、国民の稼ぎ出した富が米財務省債の購入や金融自由化などで搾り取られ続けることを許してきた。最近も、原油高騰や食料・飼料高騰で搾り取られた。また、リーマン破たんで、地方の金融機関まで巨額をむしり取られている。
 日本銀行はこれでも飽きたらず、こともあろうに米金融機関の「最後の貸し手」となってドルを供給し支えている。貸し渋りで中小企業を破たんに追いやっているわが国大金融機関は、三菱UFJや野村證券が米金融機関へ出資を決めるなど、米国に資金を提供し、支えようとしている。
 このような情勢下、労働者と国民諸階層だけでなく、支配層の一部にすら、ドルと米国依存の戦後わが国の体制への不満と怒り、見直し機運の高まりは不可避である。
 米国市場への輸出に大きく依存してきたわが国経済には、すでに深刻な影響が出てきている。中小下請け企業は、原材料高騰や銀行の「貸し渋り・貸しはがし」激化も相まって、経営はまさに危機的である。倒産が増加し、労働者はいっそうの低賃金を押しつけられ、果ては街頭に放り出されている。大企業ですら容易でない。代表的な多国籍大企業、トヨタ自動車でさえ二割もの減産を決定、すでに派遣労働者や期間工などの労働者への切り捨て攻撃が始まっている。
 これは早晩、「体制の安全弁」としての労使協調の連合労働運動指導部の基盤を揺さぶることにもなる。労働運動の階級的革命的発展を望む先進的労働者には、まさに展望ある情勢となった。
 わが国労働者階級は、対米従属政治の打破を通じて政治権力を握るという歴史的任務を自覚し、自らの力で闘うべきときである。


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