2008年9月25日号 2面・社説 

激変する国際情勢

対米従属政治は
ますます時代遅れに

 福田首相の突然の政権投げだし、自民党総裁選挙という茶番を経て、麻生政権が誕生した。
 与野党とも総選挙を見越して自党のアピールに懸命だが、安全保障政策など基本政策において根本的な違いのない与野党による「争い」では、深刻化する国民生活と営業を打開することは不可能である。労働者は、近づく総選挙になんら期待することはできない。
 しかも、国際情勢の変化は「百年に一度」と言われるほど、根本的で急激なものである。この茶番の最中にも、米国発の金融不安が一気に拡大、わが国は大きく揺さぶられる事態となっている。
 この変化は、当然にも、以降のわが国政治にも大きな影響を与えずにはおかない。労働者・労働組合を中心とする広範な闘いだけが、事態を動かすことが可能である。
 闘いを前進させるためにも、激変した国際情勢を理解し、見通すことが重要となっている。

米国で始まった本格的金融危機
 九月十五日、米証券会社大手のリーマン・ブラザーズが破たん、保険世界最大手のアメリカン・インターナショナル・グループ(AIG)の危機も表面化し、世界の金融市場はパニック状態となった。昨年夏のサブプライムローン破たんに端を発した金融不安は、米国の住宅担保証券とそれを組み込んださまざまな証券が不良債権化していたことによる危機を一気に加速・深化させている。
 米連邦準備理事会(FRB)は、欧州中央銀行(ECB)や日本銀行などとともに度重なる資金投入を行い、通貨スワップも取り決めるなど、金融市場の動揺を治めようと必死である。米財務省はそのFRBを支援すべく、臨時の財務省債発行にも追い込まれた。ブッシュ政権は、総額七十五兆円以上の血税を投入した不良債権買い取り機構の設立を決めた。AIGは実質国有化されることとなった。
 基軸通貨ドル終えんのテンポはさらに速まり、世界恐慌の可能性もはらみながら、世界経済の重心の移動、再編成は急テンポである。

引き続き深刻な世界的インフレ
 これに先立ち、膨大な不良債権を抱え込んだ欧米金融機関の破たんを回避するため、FRBは低金利で大量のドル資金を注入、資金はその銀行などの手を経て投機に回された結果、世界的インフレが引き起こされている。
 商品先物市場での原油や穀物などの価格高騰は、需給関係の逼迫(ひっぱく)などが原因ではない。米帝国主義は、ドル暴落の危険というジレンマに悩みながらも、金融資本の荒稼ぎを支えたのである。つまり、国際金融資本と帝国主義の延命策、世界収奪政策、その結果にほかならない。
 それにもかかわらず、リーマンの破たんやAIGの危機は防げなかった。
 直近、原油価格は一時ほどではないが、世界的インフレは引き続き深刻である。そしてその犠牲は、世界の貧困層に押しつけられている。
 今後、原油などでの荒稼ぎが一段落し、投機資金が先物商品投機から証券投資に向かうことがあっても、それは一時的なものであろう。また、米国と世界経済が恐慌に陥れば、資源価格などは大暴落となるだろうが、それは別のより深刻な事態となる。
 巨額な過剰流動性を背景とする世界的インフレの終息は、激変なしには見通せないものである。他国と比べても原油や食料など資源を海外に決定的に依存するわが国にはすでに大きな影響が出ているが、今後も長期に深刻な影響が避け難いであろう。
 また、わが国金融機関も世界金融システム危機の例外ではない。すでに銀行の貸し渋りで中小企業の資金繰りが悪化し、中小企業や自営業者は倒産を余儀なくさせられているが、この事態はいっそう悪化することが確実である。

不況を深める実体経済
 世界消費の最後の引き受け手となっていた、米国の実体経済の落ち込みはすでに明白なものとなっている。
 米製造業の象徴ともいえるGMなど、自動車「ビッグ3」がいずれも倒産の危機にあるという事態はその深刻さを物語っている。最大手のGMはトラック部門を日本のいすゞに売却することを決め、資産処分で食いつなぐ事態となっている。ハイテク大手のヒューレット・パッカードが二万人以上の労働者の解雇を発表するなど、失業率は約五年ぶりに六%を突破しさらに増え続けている。
 米国での消費の後退は、米国市場で利益の半分以上を稼ぎ出しているトヨタ自動車や日産など、わが国多国籍企業には大打撃である。
 世界経済をブラジル、ロシア、インド、中国といった新興国消費が支える、との「デカップリング論」の幻想も吹き飛んだ。すでに中国の対米輸出は停滞し、中国政府は利下げなどの対応に追われ始めている。国家財政に一定の余裕がある中国は、差し当たり財政出動で国内危機を緩和、先送りするだろうが、国内総生産(GDP)の三分の一を超える輸出、さらにその約二割を占める対米輸出の減少という事態は容易ならざるものである。わが国の対中輸出も減速している。
 こんにちの通貨や金融システム問題、ドル問題の根源には、米国経済の競争力低下、資本主義諸国間の不均等発展があり、現象的には年間八千億ドルを超える米国の経常赤字と国際的不均衡がある。こんにちの危機は、この不均衡是正の過程が始まっていることの証左であって、米国と世界経済の大きな痛みと変化なしに解決はありえない。
 わが国の「戦後最長」といわれた対米輸出主導の経済成長も止まった。米国市場とドルに依存してきたわが国経済、とりわけ米国市場依存で発展してきた多国籍大企業は、この事態への対応を迫られている。

国際政治の劇的変化が進んでいる
 経済・金融の重心の移動・再編成を背景に、世界政治、国際関係は劇的変化を遂げつつある。
 深刻化する世界経済への対処策を打ち出せなかった北海道・洞爺湖サミット、世界貿易機関(WTO)の交渉決裂、アフガニスタンやイラクでの米軍占領の完全な行き詰まり、グルジア・ロシア紛争、朝鮮民主主義人民共和国の核武装などに象徴されるように、米国を中心とする帝国主義の衰退と「中ロ印などを含む、その他の国々」の力の強まりはますます顕著となっている。まさに、帝国主義間の力の相対化にとどまらない「特殊な多極化」と言うべき状況であり、米帝国主義の世界支配力は地に落ちている。
 資源ナショナリズムの高まりと価格高騰も背景として、エネルギーや鉱物資源の、あるいは金融やサービス、商品市場をめぐる争奪も激化している。また資本の再編・集中など多国籍大企業間、主要国間の争いはいちだんと激しさを増している。各国での保護主義傾向も強まっている。
 東アジアで中国は、世界経済の再編成の中で「世界の工場」から「巨大な市場」として存在感を増してもいるが、深刻な内部矛盾を深めてもいる。
 米国は、原油支配のかかったイラン核問題への対処、成長する東アジア・中国への対処、朝鮮の核問題など、東アジア政策の戦略的調整を余儀なくされているが、力の限界は隠しようがない。
 米国の衰退が著しく、多極化した世界で、有数の多国籍企業が支配勢力の中心をなす対米従属のわが国は、東アジア経済圏構想などのアジア政策、資源争奪への対処、朝鮮問題や強大化する中国への地政学的対処等々、国際的発言権の強化をますます欲している。だが、経済、財政上の困難、政治、外交的な孤立の中で、立ち往生してもいる。
 歴代政権による対米従属政治は完全に時代遅れのものとなっている。わが国の進路の打開は、待ったなしの課題となっている。


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