2008年9月15日号 2面・社説 

米帝国主義は自ら核放棄しない

帝国主義を美化、
中小国に敵対する共産党

 いま、日本の反核平和運動内において、米国の元四高官による二つの共同論文を持ち上げ、積極的に吹聴して回っている勢力がある。日本共産党である。
 共産党の策動は今年に入ってから本格化し、朝鮮の核問題で米国が策動を強める中、さらに強まっている。社民勢力にも、この影響がいくらか及んでいるようである。
 問題の共同論文は、キッシンジャー元国務長官、ペリー元国務長官らが米国紙に寄稿した「核兵器のない世界」(二〇〇七年一月)と、「核のない世界をめざして」(〇八年一月)である。
 「核兵器のない世界」などと銘打ってはいるが、二つの共同論文は、核廃絶運動の発展と核廃絶の実現に結びつくものではない。冷戦時代に米国の核戦略を担ってきたキッシンジャーらが、これまでの圧倒的な核兵器を頂点とする世界支配を「反省」したわけではない。
 この論文を美化することは、米帝国主義を美化し、幻想をあおることで、核廃絶運動を混乱させることである。また、米国をはじめとする帝国主義の支配に抗する中小国・人民の闘いにツバを吐き、大国による核独占を擁護し、帝国主義の支配を助ける反動的なものである。
 共産党の果たしている役割は犯罪的なものであり、打ち破らなければならない。核兵器廃絶運動の発展のためにも、それは避けて通れない課題である。

共同論文をもちあげる日本共産党
 〇七年の論文は、「核兵器は、抑止の手段として、冷戦中は国際安全保障を維持するのに不可欠だったが、冷戦の終結により、米ソの相互抑止ドクトリンは時代遅れとなった」などと言う。
 だが、その理由として論文は、「テロリストが核兵器を手にする可能性が増大」したことや、朝鮮民主主義人民共和国(朝鮮)の核実験とイランの核開発計画を指摘して「核兵器国が増え、新たな核時代に入ることを強いられる」ことをあげている。ゆえに、「核保有国の指導者に、核のない世界を目ざすことを熱心に働きかけることが必要」だというのである。
 今年の論文では、一年前の論文への賛同として、ゴルバチョフ元ソ連大統領、ヘケット英国元外相ら十四人が列記されている。そして、「ミサイル防衛(MD)システムの開発」や「核不拡散条約(NPT)の強化」「世界的核物質の管理体制」などを提案している。
 共産党は、この共同論文を繰り返し、積極的に評価している。「赤旗」では「かつては核戦略を推進した人たちも『核兵器のない世界』のために行動を起こそうという声が繰り返しあがっている」(八月六日付「主張」)などと賛美、また理論誌「前衛」(〇八年八月号)でも、「核兵器をめぐる世界の議論に新たな活力を与えている」などと手放しの評価を与えている。原水協や非核政府の会なども同様の態度である。

核兵器と帝国主義の支配は不可分
 核兵器の歴史にも明らかだが、米帝国主義は体制を異にしたソ連や中国など、また中小国はもちろんのこと、フランスなど他の帝国主義国をも抑え込む目的のため、核兵器を最大限に利用してきた。広島・長崎に核兵器を使用して大量殺りくを行い、戦後も朝鮮やキューバ、ベトナム、イラクなどに核どう喝を繰り返した。また、NPTなどの国際条約によって、大国の核独占が保障された。核兵器は、二十世紀後半の帝国主義政治の他国、他民族への抑圧手段として存在してきた。帝国主義と核兵器は不可分である。
 キッシンジャーは核兵器を利用した世界支配ーー広島・長崎で大量殺りくを行い、また世界を抑圧する手段として行ってきた政策ーーが間違っていた、などとは一言も言っていない。かれらが「核全廃論者」に転向するはずなどないのである。

中小国に核放棄迫るキッシンジャー
 では、この共同論文の狙いは何か。
 最初の論文が出されたのは、その直前、〇六年十月の朝鮮の核実験とイランの核開発計画の動きなしには考えられない。
 それ以前から、イラク戦争を機に国際的孤立を深めていた米国は、イラク占領とアフガニスタン占領の危機、ロシアや中国の台頭、共通通貨ユーロによる米ドルの相対化などで、衰退を早めていた。これに加えて、米国が「悪の枢軸」と呼んで体制転覆を公言し、先制核攻撃の対象にもした朝鮮が核武装に踏み切ったこと、資源大国であるイランが事実上これに続こうとしていたことは、米国の世界支配をいっそう揺さぶるものであった。
 キッシンジャーらが焦りに駆られたのも無理はない。「核廃絶」の旗を掲げて「反核」の国際世論を引きつけ、実際にはその矛先を朝鮮やイランに向けさせることで空洞化する核独占体制のを立て直す、この論文の狙いはそんなところであろう。
 そして昨年夏を機に、米国発の危機が世界をおおい、世界は新たな激動期に入っている。米帝国主義の衰退は決定的なものとなった。今年年頭の論文は、そのような中で発表された。
 この経過から明らかなように、二つの共同論文は、衰退を深める米帝国主義が世界支配を立て直そうとする「悪あがき」の一環なのである。

帝国主義への幻想を振りまく共産党
 米帝国主義がその世界支配維持の不可欠の要素とみなしている核兵器を自ら捨てることはあり得ない。だから帝国主義を追いつめ、打ち破る闘いと結びつける以外に、核廃絶を実現することはできない。
 したがって、共産党が、キッシンジャーらの論文を持ち上げるのは、米国への幻想をふりまき、帝国主義の支配に核を握って抗する中小国の闘いに敵対するものである。
 まして、共同論文をほめたたえる共産党の言い分に従えば、わが国が米主導のMDシステムに参加することに反対できなくなる。共産党は、これをどう説明するのか。
 核をめぐって、共産党が米国への幻想を振りまくのはこれまでにもあった。インド、パキスタンの核実験、また朝鮮の核実験のときも、中小国が核兵器保有を決断するに至った国際政治の現実ーー核独占体制と米国による核どう喝ーーを見ず、あるいは意図的にごまかした。
 共産党は、核実験を行ったインド、パキスタンそして朝鮮だけを非難し、制裁決議にも賛成した。結果として、米帝国主義に対する世界諸国と人民の闘いに敵対する役割を演じているのである。
 共産党は、一九九七年の第二十一回党大会で「保守政党との連立による政権参加」の道を打ち出した。〇四年の第二十三回党大会では、事実上、「世界に帝国主義はなくなった」という立場を取るに至った。
 ゆえに、核問題で米国を美化する共産党の態度は偶然ではない。それは、米帝国主義に恭順の意を示すことで政権入りへのお墨付きを願う、修正主義者の堕落の必然的帰結なのである。

核廃絶は帝国主義との闘いと不可分
 米帝国主義の手先とも言うべき共産党の考え方は有害きわまりない。この連中を影響力を、わが国平和運動から一掃しなければならない。
 核兵器廃絶は、米国など帝国主義の支配する世界を変えて、国家主権が尊重される、すべての国が平等な世界を実現する闘いでもある。だから、核兵器を圧倒的に独占し、中小国を圧迫する米帝国主義への断固たる闘いなしに、核兵器の廃絶は実現できない。
 また、米国の「核の傘」に固執するわが国の対米従属政治を容認しながら「唯一の被爆国」を主張しても、国際的な説得力はあり得ない。
 米帝国主義への断固たる闘いと対米追随の政治を転換する闘いこそ、核兵器廃絶への確実な道である。


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