2008年9月5日号 2面・社説 

政府が「緊急総合対策」を決定

ペテン見抜き、
国民のための対策求め闘おう

 政府・与党は八月二十九日、総合経済対策として「安心実現のための緊急総合対策」(以下「緊急総合対策」)を決定した。福田首相はそのわずか三日後に政権を投げ出したが、後継首相の下でも、この施策は基本的に継承されると思われる。
 こんにち、物価がかつてなく高騰している。元凶は、サブプライムローン問題を契機とする危機に際して大銀行を救済すべく、膨大な資金を投入した米国政府と連邦準備理事会(FRB)、これに追随するわが国売国政府である。これによる物価高は、景気後退と併せ、国民生活をいっそうの危機へと突き落としている。
 これを背景に、燃料費高騰に対する対策を求めた農民、酪農民、漁民、トラック業者、コンテナ業者など、各層の闘いが広がっている。今回、政府が「緊急総合対策」を打ち出さざるを得なかった背景には、このような各層の決起がある。
 「緊急総合対策」は、こうした各層の要求に「配慮」するかのようだが、生活難・経営難に苦しむ国民諸階層への恩恵はごくわずかである。半面、「対策」の名の下に国民諸階層を大企業の新たな収奪にさらすものであり、「財界のための景気対策」の枠を超えるものではない。
 また、この「緊急総合対策」は、何より総選挙を意識した対策でもある。昨年の参議院選挙で大敗しただけに、自民党には農漁民などを自らの支持基盤として維持するための対策が必要だったのだ。また「定額減税」は、独自色を強める公明党を政権に引きとめるためのものでもある。
 ゆえに、「緊急総合対策」は極めて欺まん的なものである。自公政権の「安心実現のための」などというペテンに惑わされず、術策を見抜いて闘うことが求められている。

国民生活にはスズメの涙
 この「緊急総合対策」は総額十一兆七千億円で、生活・雇用対策、医療・年金・介護対策、農林水産業対策、中小企業対策など八項目から成り立っている。
 「輸入小麦の政府売り渡し価格の値上げ幅圧縮」「高速道路料金引き下げ」「定額減税の年度内実施」「老齢福祉年金の受給者などに対して臨時福祉特別給付金を支給」などが並ぶが、マスコミの「バラマキ」などという論調とはうらはらに、「真水」はわずか二兆円に過ぎない。中小企業向け融資保証枠の拡大だけで、約九兆円を占めるからである。
 しかも「緊急総合対策」の実態は、現在の深刻な物価高を追認した上で、いくらかの軽減措置を図る程度のものなのである。
 例えば、「輸入小麦の政府売り渡し価格の値上げ幅圧縮」などと言うが、十月に予定していた二三%の値上げ予定を一〇%に抑えるという程度のことである。そもそも、輸入小麦価格はこの十月の値上げにより、昨年四月来四回目にもなる。この間の値上げにより、めんやパンは軒並み値上がりし、国民は生活を切りつめざるを得なくなっている。中小の製めん・製パン業者には倒産・廃業が続出、長崎県などでは地場産業の危機に直面している。この程度の「対策」では、国民の苦難はなんら解決できないのである。
 また、原油高騰対策にしても、「新しい価格体系への移行を基本に置き」などと、異常な原油高騰の現状を追認している。そして、農業・漁業・運輸などの業界への支援は「省エネ設備・技術の導入」が前提となっているのである。
 やむにやまれず、一斉休漁(ストライキ)や全国一斉行動で闘った農漁民や事業者からすれば、「感謝」に値するほどのものではない。漁業者から「ほとんどの漁業者は受け取れない」との声が上がっている通りなのである。

大企業のもうけを保障するもの
 御手洗・日本経団連会長は「緊急避難的にあらゆる政策手段を結集しなければならない」と、「緊急総合対策」に基本的支持を与えた。
 それもそのはずである。「緊急総合対策」は、多国籍大企業をはじめとする大企業にとって恩恵だからである。
 先に述べた「省エネ対策」は、ハウス園芸用設備や漁船用「省エネ」エンジンを製造・販売する三菱電機などのメーカーにとっては、新たな需要、もうけ口にほかならない。一方、政府が一定の補助をしたところで、農漁民や事業者はこれを買わされることに変わりはなく、残るのは新たな借金である。
 そもそも大企業は、この間の物価高騰でもさほど打撃を受けず、逆に利益を伸ばしているところも多い。
 例えば、製粉最大手の日清製粉は、輸入小麦価格引き上げ分の価格転嫁を積極的に進めて利益を伸ばしている。新日本石油、コスモ石油などの石油元売り大手も、軽油を輸出して荒稼ぎしている。多くの資源権益を持つ大手商社も空前の利益を稼ぎ出している。大企業はあこぎな儲けを得、国民の生活難など「どこ吹く風」なのである。
 「緊急総合対策」という名目で、この連中にさらなる利益を与えようというのであるから、明日の経営にも苦しむ中小事業者からすれば、断じて許し難いことである。この儲けた連中の利益をはき出させてこそ、真の「景気対策」が可能なのである。

与野党には期待できない
 「緊急総合対策」の欺まんを指摘するについては、公明党の役割についてふれなければならない。
 公明党は「定額減税」をこの「緊急総合対策」に盛り込ませたことを、自らの「実績」として最大限吹聴している。
 確かに減税ではあるが、規模や財源も未定であるなど、きわめて不確かなものである。
 しかも、公明党はつい最近、「役割を終えた」と定率減税の廃止を主張、大増税に賛成したばかりである。この反省もなく、舌の根も乾かないうちに減税を「実績」として打ち出すとは、ご都合主義もはなはだしい。
 総選挙と都議選を前に、与党として悪政を推進してきた公明党にとっては、自らの存在意義を示すパフォーマンスが必要であった。支持者に低所得者層が多いとされるこの党にとっては、「定額減税」は格好の集票ネタなのである。
 民主党は、この「緊急総合対策」について「選挙目当て」「場当たり的」と批判している。だが、それだけである。
 財界の党であり、保守二大政党制の一方の装置であるこの党には、「緊急総合対策」が大企業に利益を与えることなど、暴露できるはずもないのである。この党にも、国民大多数のための景気対策は不可能である。

国民運動で要求を勝ち取ろう
 漁民、農民、トラック協会などの直接行動はかつてない規模で広がっている。この直接行動は、政府・与党に態度を迫り、わずかばかり、しかも欺まん的とはいえ「原油高騰対策」等を引き出した。闘いこそが、政治を動かせるのである。
 売国政府は、福田首相が突如退陣を表明するなど、深刻な危機に陥っている。対米追随で、一握りの多国籍大企業のための政治の限界はますます明らかである。本来、国民運動の組織者としての役割を果たすべき労働組合が立ち上がり、行動を起こせば、局面を一気に変えることが可能なのである。
 問題は、労働組合の現状にある。自民党と基本政策が同じ民主党への「政権交代」に労働者の力をねじ曲げる、連合指導部の方針は犯罪的である。高木・連合会長は八月二十六日の連合総決起集会で、「JAとの共闘を」と発言したが、露骨な「選挙目当て」では「共闘」さえおぼつかないだろう。
 労働運動は選挙に頼らず、自らの力で行動し、かつ諸階層の運動と結びついて、売国政治を打破する強大な国民運動を巻き起こそう。それこそが、政局を揺さぶり大きな成果を闘い取るための道である。


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