2008年8月25日号 2面 社説 

ロシア・グルジア紛争

世界の多極化はますます定着

 八月初旬、コーカサスのグルジアにある南オセチア自治州をめぐり、グルジアとロシアが事実上の戦争状態となった。十六日までに「和平合意」に署名されたものの、いまだ「安定」にはほど遠い状況である。
 今回の武力衝突が、どちらが先に仕掛けたかは本質問題ではない。グルジアの南オセチア州、アブハジア自治共和国などでの武力紛争、あるいはロシアの介入だけであれば、冷戦崩壊直後の一九九〇年代初頭から起こっていることである。
 今回の紛争と一連の経過は、米帝国主義の力の衰退とロシアなど新興国の台頭がますます明らかとなり、世界の多極化が定着し、深まっているということを示している。
 経過を振り返ってみよう。グルジアでは、二〇〇三年十一月に政変が発生、サーカシビリ政権が登場した。サーカシビリ大統領は米国の大学で学び、ニューヨークの法律事務所で働いていた人物であり、この政権が「親欧米」を打ち出したのは当然であった。しかも、米欧マスコミが「バラ革命」などと持ち上げたこの政変は、米国政府や悪名高き投資家、ジョージ・ソロスが率いる「ソロス財団」の直接の支援を受けたものであった。
 このように、グルジアに限らぬ旧ソ連圏、ロシアにとっての周辺国に対しては、ウクライナ(〇三年)、キルギス(〇五年)など、米欧帝国主義の干渉による政権転覆策動が続いていた。
 こうして成立した「親欧米」の旧ソ連圏諸国、グルジア、ウクライナ、アゼルバイジャン、モルドヴァは「GUAM」を結成、二〇〇五年には米国がオブザーバー参加し、その支援の下で、ロシアを経由しない原油や天然ガスのパイプライン建設など、ロシア包囲策を進めてきた。民族問題でも、親ロ的な国内少数民族に対して強硬策をとった。
 また米国は、隣接する旧東欧諸国の北大西洋条約機構(NATO)への取り込みを進め、ポーランドやチェコにはミサイル防衛(MD)システム配備を策動した。さらに、米国は〇一年のアフガン戦争を機に中央アジア諸国への軍駐留を進めたし、無法なイラク戦争の「有志同盟」にも旧東欧・旧ソ連圏諸国のいくつかを動員した。
 ロシア側からすれば、ソ連崩壊で国内が混乱しているスキに、近隣まで米欧帝国主義の手が迫ってきたことになる。ゆえに、ロシア側のこんにちの対応は、基本的には防衛的なものである。
 それにしても、ロシアが今回のように米国を恐れない対応を取ることが可能になったのは、原油価格の高騰を背景とした経済の復興である。これを背景に、ロシアは大国の地位を守るべく、国際政治に影響力を発揮している。すでに、ヨーロッパ通常戦力(CFE)条約の履行停止など、ロシアは米欧の攻勢への反撃を始めてはいたが、今回、軍事力をともなう行動を行ったわけである。
 これに対し、北京オリンピックの開会式に参加し浮かれていた米ブッシュ大統領は冷水を浴びせられ、完全に後手に回った。米国はライス国務長官を急きょグルジアに派遣、「人道支援」を口実に軍隊を送った。ポーランドとの間ではMD配備での合意を急ぎ、ロシアとの軍事協力も凍結するなど、対ロ外交を硬化させている。
 だが、米国はイラク占領が長引き、アフガニスタンでは旧政権勢力・タリバンの攻勢の前に増派に追い込まれている。米国は、対朝鮮、対イラン外交で欧州や中国の力を借りざるを得ず、その力の限界は明白である。経済でも金融システムとドル還流システムが動揺するなど危機が深まっており、まさに内憂外患となっている。
 その上に今回の事態である。中東で孤立し、対イランではロシアの「協力」が不可欠な米国としては、当面、ロシアとの決定的な関係悪化は避けたいところである。ロシアに資源の多くを依存する欧州連合(EU)も、強硬策には躊躇(ちゅうちょ)している。ロシアとしても、現時点では米欧との間で緊張が一気に高まることは避けたいではあろう。しかし客観的に、ロシアの反撃は帝国主義の秩序に打撃を与えた。
 まさに現在の国際情勢は、米帝国主義の歴史的衰退、世界政治・経済の重心の移動という歴史的変動期にある。そして、多極化した世界、しかもロシア・中国などを含む「特殊な多極化」は、きわめて不安定なものとならざるを得ない。ロシア・グルジア紛争は、このことを改めて印象づけるものとなった。
 闘う勢力にとっては、心おどる情勢である。世界の前途は帝国主義との闘いの前進、とりわけ先進諸国での革命党と労働者階級の前進の速度にかかっている。
 わが国労働者、とりわけ、その中核である組織労働者は、世界情勢の変化を見抜き、中小国と連帯して、米国を中心とする帝国主義と闘い、わが国の対米従属政治を転換させる道へと踏み出すことが求められている。


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