2008年7月25日号 2面 社説 

世界経済危機への対処策
示せなかった洞爺湖サミット

米帝国主義こそインフレの元凶

 福田首相が議長として主催した洞爺湖サミット(主要国首脳会議、G8)が、七月七日から開かれた。
 今回サミットは、事実上G8の他、途上国と新興諸国など二十二カ国が参加する大規模な会議となった。これは、そうでなければ何一つとして世界の重大問題の解決が見通せないということで、「中ロを含む世界の多極化」のすう勢が押しとどめ難いこと。より根本的には、米帝国主義を中心とする帝国主義諸国の力が急速に減退し、それに反対する国々の力が前進していることを如実に示すものであった。
 議長を務めた福田が、かねてから鳴り物入りで重視したはずの地球温暖化問題では、米国が自らの責任を逃れようとし、先進国と新興諸国との対立はいっそう深まった。
 さらに、世界経済にとって焦眉の課題として浮上していた原油など資源高騰問題、食糧危機の問題でも、価格高騰をあおる「投機資金の規制」は、米国のかたくなな拒否でまったく踏み込めず、何一つ実効性ある対応策を提示することができなかった。
 福田は、それでも成果を強調し、対朝鮮敵視政策での米欧のリップサービスに小躍りし、大国としての役割を誇ってみせた。政権浮揚を狙う福田としては当然だろう。
 しかし、今回サミットの成果なるものを信じる国民は少ない。

サミットの焦眉の課題は何だったか
 こんにち、世界資本主義経済は戦後かつてなかったほどの危機に直面している。それは、戦後ドル機軸体制の一つの段階を画す危機と言っていい。
 これがサミットで首脳たちが直面した焦眉の課題であった。
 昨年夏以来の米国のサブプライムローン問題に端を発する世界的な金融の動揺は、「過剰消費」で世界中の最終消費を支えてきた米実体経済に波及、不況をいよいよ加速させている。わが国からの対米輸出も急速に減少し、さらに「世界の工場」と言われる中国の対米輸出も減少するなど、世界経済はいまや大波乱となった。
 世界不況の契機となった、金融の「焦げ付き」は、サブプライムローンから他の証券化商品にも広く及び、それを保有している米欧金融機関の不良債権は実態も分からないほど膨れ上がっている。
 また、最近では、民間金融機関にとどまらず、政府系住宅金融公社すら倒産寸前に追い込まれている。米国政府の保証つきで毒まんじゅうのような証券化商品が運用されていた。国家的な詐欺が暴露され、財政と金融の本体に火がついた米国政府は、なりふり構わず血税を投入しての救済に乗りだした。
 当然にも米国経済への不信、不安の拡大で、基軸通貨ドルの信認はいよいよ低下。世界の金持ちは資産のドル離れを加速させ、ドル価値の下落は止まらない。株・証券市場もパニックを起こし、米国はじめ世界で株価暴落も続いている。

投機による世界インフレ
 しかし、こんにちの世界経済の深刻な危機はこれだけにとどまらない。原油、鉄鉱石等々の資源、さらには食糧価格が急速に暴騰していることである。ここ十カ月で二・五倍にも値上がりした原油価格は世界経済に深刻なインフレ圧力となってのしかかっている。
 全世界の投機資金が暴落する米国などの株、債券市場から逃げ出し、原油など商品先物市場へと殺到し、値をつり上げているからである。危機の中でも金持ちども、投機家の貪欲さには限りがない。
 さらに原油高騰の中で、米国が国策で進めるバイオエネルギー生産が食糧価格高騰を加速させている。生産に当てられるトウモロコシの価格が急騰、それは小麦など他の穀物生産を圧迫し、飼料価格も高騰させ、全体としての食糧高騰、食糧危機をつくり出している。
 資源高は世界の諸物価を押し上げ、この面から各国国民生活は厳しいものとなっている。とりわけ、途上国経済は深刻である。新興市場国はインフレに対応し、経済の引き締めに入った。これはさらに消費の落ち込みを経て、世界の景気を冷え込ませる。
 世界の大金持ちども、大銀行などが投機でぼろ儲けを続ける一方、世界の人民、弱小諸国は塗炭の苦しみに追い込まれている。当然にも、食えない人民は怒りを高め、途上国では食糧暴動も頻発している。

諸悪の根源は米帝国主義
 したがって、サミットで新興国や欧州などが主張した「投機資金を規制せよ」は、当然でもあった。しかし、それは投機家の本家、金融技術で世界をリードし、ばくちで大もうけしてきた米国の反対で、宣言に盛り込まれなかった。
 米国が投機資金規制をかたくなに受け入れないには理由がある。それは米国がヘッジファンドなど投機家の拠点というだけではない。インフレは、米国金融機関救済のため米政府と中央銀行が意図してつくり出したものだからである。
 すでに述べたように、昨夏以来の住宅ローン焦げ付きを背景に、巨額の不良債権を抱え込んだ銀行、証券会社らの財務状態が悪化。しかも、民間資金も恐れて債券市場から逃げ出し、資金調達ができずに金融機関は経営危機に陥った。
 米国政府、中央銀行は、まさにこの巨大金融機関らの走狗(そうく)として、その救済に乗り出した。その手法こそ、膨大なドル紙幣を印刷して、低金利で金融機関に注入することであった。
 しかし、こうしただけで銀行経営が好転するわけではない。一方で保有するサムプライムローンは価値を下げ、資産内容を悪化させ続ける。市場に放出すれば暴落となって、金融崩壊からドル暴落へと発展しかねない。だから米政府・中央銀行は、銀行に資金を注入し続け、それを原資として原油や資源など先物市場に投資させ、ここでの儲けをつくり出して、銀行を生き延びさせている。
 ブッシュは、この事実に口をぬぐい、原油価格高騰を中国などの新興市場国の経済発展による原油需要の拡大、それによる「需給関係の逼迫(ひっぱく)」が原因と言ってはばからない。さらに食糧価格の高騰も、食糧生産国の輸出規制にその原因を押し付けようとしている。まさにこれは、恥知らずな強弁である。
 世界的インフレ、原油や資源、食糧の高騰は「需給関係」などの自然現象によって生み出されたものではない。米国金融機関を守るため、米国政府、帝国主義によって意図してつくり出されたものである。
 欧州がこの問題で米国を深追いしなかったのにはそれなりのわけがある。それは欧州の銀行が米国のサムプライムローンの巨大な顧客で、今も巨額の不良債権を保有しているからである。自ら保有し運用する巨額なドル資産がドルの急落によって紙くずとなることも恐れたのである。
 わが国金融機関も、欧米ほどでないにしても、巨額の不良債権を抱え損失を出している。何よりも、金融資本とわが国多国籍大企業は巨額のドル資産を抱え、米国市場に依存している。福田政権が、ブッシュの僕(しもべ)のように振る舞うのは当然過ぎるほどだった。一握りの大銀行・大企業の利益のために、原油高など物価高に苦しむ農民や漁民、中小商工業者、国民生活を省みない福田政権は、まさに売国政権である。
 もうひとつ言わなければならないのは、わが国マスコミも、民主党や共産党など野党も、米帝国主義の犯罪をおおい隠し、インフレの元凶をなんら明らかにしようとしていないことである。売国政治の片棒を担いでいるわけで、これでは国民生活を守ることなどできようはずもない。
 「投機資金の規制」は必要だが、そのためには、元凶である米国の金融独占資本とその手先、帝国主義者を打ち破ることが必要である。
 すでに現代帝国主義は、数々の延命策の果てにそれ自身が死期を早めるものとなり、死の苦悶(くもん)にあえいでいる。米国の超低金利政策、ばく大なドル紙幣の刷り増しはインフレをあおり、ドル下落から暴落の危険を高めている。それでも目前、大銀行・証券会社を守るためには背に腹は代えられない、といった具合だ。これらの事実から、こんにちの世界資本主義の危機の深刻さ、重大な局面を見抜かねばならない。
 わが国国民諸階層の苦難を打開するためにも、行き詰った対米追随外交を打破するためにも、全世界の人民、弱小諸国と連帯し、米国をはじめとする帝国主義を打ち破る闘いを発展させよう。


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