2008年7月15日号 2面 社説 

地方財政危機の真の原因

諸悪の根源は対米従属政治

 橋下新知事の下で大阪の「財政再建」を名目とする、大行革計画・「大阪維新プロジェクト」が、マスコミなどで大きな話題となっている。
 現在七月の臨時府議会では、このプランに沿った初年度の本格予算の審議が行われている。人件費や事業費の大幅カットで、一般会計は〇七年度当初比で一割以上の減と超緊縮型予算となった。しかも法人二税を中心に、当初計画を超える税収落ち込みが明らかとなり、今後さらなる歳出削減が必要としている。
 石油や食品など諸物価の高騰で国民生活が急速に悪化し、地域経済も疲弊(ひへい)している。本来守られるべき府民生活は、後期高齢者医療制度などの国策で福祉が切り捨てられたうえ、府政によってさらに犠牲を押し付けられ、無慈悲に切り捨てられようとしている。
 しかし、「大阪を立て直す」とする「改革派知事」を前に府民生活を守るべき各党、会派の追及はまったく及び腰である。
 一方、財界は橋下に諸手をあげて賛成、日本経団連会長の御手洗は、これを激賞している。財界は、大阪を「小さな政府」をめざす改革政治、そのための自治体大合理化と「究極の構造改革」としての「道州制」に向けた世論操作の突破口と位置づけているのである。橋下もそれを十分意識し、「今の自治体規模ではジリ貧になる」と「道州制」の早期導入論を打ち上げている。
 現在、全国の自治体は大阪を筆頭に、膨れ上がった借金を口実とした、大行革を急いでいる。政府も「地方財政健全化法」を盾に「夕張のように破たんしてもいいのか」と、「財政再建」を迫っている。だから、ことは大阪問題にとどまらない。
 橋下は、府労連などの労働組合との団交の場で「組合は自分たちの雇用や生活のことばかり問題にする」と言い放った。「財政再建」のために「痛みを分かち合え」ということらしいが、これこそ地方行革を合理化する敵の論理の典型である。
 いま、切実に問われているのは、この偽りの財政危機論を徹底的に打ち破り、反撃の力をつくり出すことである。

財政危機の根源、日米構造協議
 国、地方を合わせた長期債務残高は七百七十三兆円(〇七年度末)。その対国内総生産(GDP)比は一四八・一%で先進国中最悪、と政府も財界も危機感をあおり立てる。
 この借金がどのような経過、原因でつくり出されたものなのか、その責任こそがまず問われねばならない。そうでなければ住民負担を求めるなど論外である。
 国、地方の長期債務が急膨張するのは九〇年代以降のことで、GDP比も一九九一年の五八・六%を底に年々伸び続け、九八年にはついに一〇〇%を超えて現在に至った。したがって、いま騒がれている財政危機の原因が九〇年代に膨れ上がった借金、国債や地方債発行にあったことは明らかである。しかし忘れてならないことは、その直接的契機こそ九一年に妥結した「日米構造協議」での公共投資拡大をはじめとする対米公約とそれに基づく「公共投資基本計画」にあったことである。
 日米構造協議は、拡大する対日貿易赤字にいらだった米国が、それまでの個別品目での輸出制限を求める対日圧力に替え「日本市場は閉鎖的」という言いがかりで、構造改革、内需拡大や市場開放を迫ったものである。その中心に、公共投資の大幅増額による内需拡大要求があった。米国は長期計画の策定まで要求、関西新空港、東京湾横断道路、東京臨海部開発などを対象にあげ、実現を迫った。関西新空港周辺部開発での巨大公共投資のツケがこんにちの大阪の財政赤字に重くのしかかっているが、発端はここである。
 また、この構造協議で米国は、大店法改悪、さらに都市・建築関係規制緩和など、今日の改革政治に続く、一連の市場開放、規制緩和策を次々と求めた。
 売国政府は、これら米国の不当な内政干渉に屈服した。八五年の「プラザ合意」以降、円高に対応して多国籍展開し、米国市場を中心に稼いでいたわが国巨大企業もこれを後押しし、米国の思いのままに交渉は妥結した。この対米公約を受けて、海部政権時に当初十年で四百三十兆円、さらに「日米包括経済協議」を経て、村山政権時に六百三十兆円と増額された「公共投資基本計画」が策定され、実施されていった。

国策で動員された地方財政
 しかもこれは、折からのバブル崩壊の中で、景気刺激策としての公共投資とそのための国債発行をいっそう加速させる役割を果たした。
 九一年にバブルが崩壊すると、公共投資と減税を中心に景気刺激策が数次にわたり、百三十兆円余も投入されたが、この過程で中央財政の悪化に直面した政府は、地方財政をこの公共投資に意図的に動員した。
 そこでは、道路整備事業など国の指定する特別事業で地方債の特例枠が認められ、返済は地方交付税を使って優遇されるなど、数々の誘導策で地方単独事業が奨励された。すでにふれた関西新空港関連開発のように国の大型事業の補助事業的な地方の公共投資も急速に拡大されることになる。
 地方の支配層は、この時期、政府の誘導策に積極的に呼応し、ゼネコンなどとも結びついて、野放図な地方債発行に頼った公共事業を積み上げた。これこそ地方財政危機の根源である。

財政危機の真の原因の暴露を
 こんにちの財政危機なるものは、天災など自然現象や、少子高齢化などの社会現象によって、抗しがたく生まれたものではない。
 根源には売国政府による対米追随の政治がある。しかも、この過程で米国に付き従う売国奴どもは、国と地方の財政を食い物にして肥え太ったのである。国債や地方債を受け入れている大銀行にすれば、確実な債務者から手堅く利子が転がり込むわけで、こんな有利な商売はない。
 だから、地域住民や自治体労働者には借金の責任はなく、いわんやその負担を押し付けられる何の根拠もない。これをまず明確にしなければならない。
 財政危機の責任は米帝国主義と売国政府、さらに国を捨てて米国市場と世界で大もうけを続けている財界の主流、多国籍大企業とその頭目どもに負わせなければならない。この連中は同じ時期、景気刺激策で支援され、大幅な金持ち減税や企業減税で優遇されてきたのである。
 この連中こそが、世界的な企業間競争に打ち勝つために、社会保障や税負担の軽減で国内での企業コストを減らそうと、「小さな政府」を叫んで行財政改革、地方行革を推進しようとしている。「道州制」こそその究極目標である。さらに国の誘導に積極的に呼応し、地方財政を食い物にして肥え太った地方の支配層にも、それにふさわしい負担を負わせねばならない。

偽りの「財政危機」論打ち破れ
 橋下行革に対する議会の野党の追及は及び腰と書いたが、改革政治推進で自民党と基本政策が同じ民主党はもちろん、社民党も共産党も財政危機の真の原因、対米追随政治をなんら暴露できない。これでは「痛みを分け合う」などという欺まんを打ち破ることができず、政府、財界の論理と攻撃を受け入れることとなる。経過を知らないはずのないこの諸君の態度は、犯罪と言っていい。

 こんにち、外交であれ内政、経済問題であれ戦後の対米追随政治のツケがわが国に重くのしかかっている。例えば、朝鮮問題はじめアジア外交は完全に行き詰っているし、米国金融と経済の動揺で、それに依存するわが国産業も国民生活も苦難の大波を受けようとしている。
 諸悪の根源としての対米追随政治の打破を掲げることで、市場開放、規制緩和の結果、苦しんでいる農漁民や中小商工業者はじめ広範な国民の力を結集することが可能となる。
 売国政府の対米追随政治と闘う国民的力を結集し、自治体労働者、地方議員や進歩的首長らの連携も強化し、自治体合理化、地方自治破壊の攻撃と闘う、広範な力を作り出さなければならない。


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